前回のあらすじ
「カメラマン 山田リョウ
アシスタント 喜多郁代
隠し撮り指導 伊地知星歌」
これからしばらく原作沿いです。
「先輩先輩、もう一回カツラ被ってください!」
「いいよ。……どう?」
「うーん、最初は怖かったですけど、これはこれでアリですね。危ない魅力があります」
「危ないって。自分で言うことじゃないけど、普段よりは怖さ減ってない?」
「怖さにも色々あって、普段はぎゃーで、今はきゃーって感じです」
「あー、なるほど」
「えっ、お兄ちゃん今ので分かったの?」
喜多さんのリクエストに応えて、僕はもう一度下北眼鏡キノコマンになった。
どこがいいのか僕にはよく分からないけれど、どうやら彼女のお眼鏡に適ったらしい。
さっきから目をキラキラとさせて、僕の周囲を動き回りながら何度も写真を撮っている。
機敏な動きだ。喜多さん運動神経いいな。
そのままパシャパシャと連射していた喜多さんだったけど、途中何かに気づいたように動きを止めた。
そしていつものように明るい笑みを浮かべて、ひとりの方へ振り返る。
「後藤さん、せっかくだからお兄さんと一緒に撮りましょう!」
「あっ、えっいえ、私は」
「後藤先輩も一緒に撮りたいですよね?」
喜多さんは、今度は僕の方へ向きなおした。ひとりも一緒に、それはいいな。
この子は写真が苦手だから、僕がお願いしてもあんまり撮らせてくれない。
最近山田さんにもらったものが、確か高校生になってから四枚目だ。
これはチャンスだ。喜多さんの言葉に甘えさせてもらおう。
「そうだね、ひとりが嫌じゃなければ撮ってほしいな」
「い、嫌だ」
「……」
「……」
即答だった。
「どうしても、嫌じゃなければ」
「ど、どうしても嫌だ」
「……」
「……」
ひとりが顔を上げた。僕と視線がぶつかり合う。あまり見ない力強い視線だった。
絶対に撮られたくないという意思を感じる。瞬きすらしていない。目乾いちゃうよ。
あと、その強さは明日の朝まで取っておいてもらえると嬉しいな。
「隙ありっ」
僕とひとりが目で戦っていると、喜多さんがその間に躍り出た。
さっきと同じく、シャッターを繰り返し切っている。僕もひとりもあっけに取られた。
我に返って慌てるひとりに、喜多さんが舌を出しながら謝る。今日も喜多さんはあざとい。
「ごめんね、後藤さん。でもほら見て、可愛く撮れたよ!」
「本当だ。ちょうど僕を見上げてたから俯いてない」
「い、いや、私なんてそんな」
「いつも言ってるでしょ。ひとりは可愛いよ」
「そうよ。後藤さんは可愛いの」
僕と喜多さんで囲んで、何度も可愛い可愛いと繰り返すと、ひとりの防御も崩れた。
ちょっとその気になってくれたみたいだ。引き攣っていた表情がでろでろしてきた。
自分が可愛いことは信じられなくても、たくさん褒められて承認欲求が満たされたようだ。
「え、いや、そんな、ぬへっ、ぅぇへへっへ」
「でもその笑い方は可愛くないわね」
「僕は好きだよ。なんか粘着質なところがいいよね」
ひとりの変な笑い方はいくら僕でも、初見はぎょっとすることも多い。
だけど見慣れてくるとそこにしかない、何とも言えない不思議な魅力を感じられる。
評論家のように頷き、ひとりの笑顔を噛み締める僕に喜多さんは引いていた。
「…………後藤先輩って、たまに気持ち悪いですよね」
「あっ、お兄ちゃんはいつもこんな感じです」
「イメージが崩れるような、そうでもないような……」
そんな風に三人で和やかに話していると、後ろの方で骨の軋む音がした。
それは伊地知さんが山田さんを処刑、いやお仕置きしているところから聞こえた。
思わず僕達は目を合わせた。気にしないよう、意識しないようにしてたのに。
「おら山田ッ、早く消せッ!」
「ぎぶ、ぎぶ」
皆で一斉に目を逸らした。近寄りたくない。巻き込まれたくない。
恥ずかしいところを撮られた伊地知さんの怒りは僕たちの、山田さんの想定を超えた。
僕が力で負けるはずはないけれど、それでも今の鬼気迫る彼女には変なプレッシャーを感じる。
動画を撮ったのはほかでもない山田さんだ。頑張って責任を取ってもらおう。
そうして逃げるように二人を意識から外してから、僕は喜多さんにあることを確認した。
「それで今日は、このまま江ノ島へ行くの?」
何を隠そう、実は今日が夏休み最終日、あの約束の日だ。
本当はもっと早く伊地知さんと話がしたかったけど、山田さんが補習になって流れに流れた。
手伝うと言ったのに、完全に忘れていた僕にも責任の一端がある。
だから補習のお手伝いをしに、ここ何日か山田さんと学校に行っていた。
僕を五度見くらいした生徒もいたけど、これに懲りたらちゃんと宿題はやってね。
先生は、負担をかけてごめんなさい。でも大人なんだから気絶はしないでください。
先生の代わりに何回か補習を監督したので、何人も気絶させてしまいました。
これからは大槻さんのあの根性を見習って、頑張って立ち上がり続けてほしいです。
終わったことだし、もういいか。何はともあれ今日は、皆が江ノ島へ遊びに行く日だ。
これまでの人生を振り返っても、長期休み最後の日をこんなに明るく迎えられるのは初めてだ。
例年ならひとりが絶望していて、僕はその励ましに奔走している。
去年は確か部屋に篭り、一日中何か呪詛のような不思議な音を奏でていた。あれはあれで好き。
今年も何もなければ、ひとりは錯乱のあまりサンバでも踊っていたかもしれない。
だけど今年は違う。
ひとりは僕のことを心配しつつ、友達と遊びに行くという未知の予定に浮かれ慌てていた。
僕も伊地知さんのことは気がかりだったけど、そんなひとりを微笑ましく見守っていた。
「はい、伊地知先輩の怒りが鎮まったら行こうかなって」
その伊地知さんの様子を確認する。今は卍固めをしている。
彼女に格闘技が出来る印象はなかったけど、堂々とした立ち回りだ。
そういえば店長さんも廣井さんに対して、鮮やかに技を決めていた。血筋なのかな。
現に山田さんには、タップをする余裕すらないように見える。
「……今日中に行けるかな?」
「だ、大丈夫、だと思うよ?」
「いざとなったら、私たちだけで行きましょうか」
伊地知さんの猛攻を見て不安になった。言葉にはしないけど、二人も同じ気持ちみたいだ。
その時はその時だ。僕も覚悟を決めて、山田さんと道を共にしよう。
「そうなったら僕が伊地知さんを止めるから、二人は楽しんできてね」
僕の言葉に二人はきょとんとした。正反対の二人が、並んで同じような表情をしている。
なんだか不思議な光景だ、なんとなく微笑ましい気持ちになってしまう。
そんな僕へ疑問を口にしたのは、やっぱり喜多さんだった。
「後藤先輩、何言ってるんですか? 先輩も一緒に行くんですよ」
「えっ、だけどほら、約束通りちゃんと、山田さんにも伊地知さんにも話したよ?」
「はい。でもそれはそれ、これはこれです。私は先輩とも一緒に行きたいです!」
両手を握りしめた喜多さんに、元気よく詰め寄られた。
その勢いに思わず一歩後ろに引こうとすると、ひとりに腕を掴まれた。
ひとりの力じゃ僕は止められないから、そのまま体当たりするように突っ込んでくる。
「お兄ちゃんも一緒に来て?」
そう言って僕を見上げるひとりの瞳には、大きな不安が宿っていた。
一度下を向いて、言葉にする時間を、勇気を溜める。
そして顔を上げ何が不安なのか、続けて僕に伝えてくれた。
「き、喜多さんと二人きりだと、多分私はどこかで死にます」
「死!?」
「…………そうだね」
「納得するんですか!?」
恐らく、江ノ島に到着して日を浴びた瞬間に死ぬ。
今日はいい天気だ。八月も終わるけどまだまだ夏日。日差しは強くて明るい。
喜多さんは陽の子だ。今日は皆で遊ぶということもあって、普段よりも光が強くて多い。
このまま行けば、空と地上の太陽に挟み撃ちにされ、ひとりは蒸発してしまうだろう。
ひとりのか弱さに喜多さんが唖然としていると、何かが崩れ落ちる音がした。
振り返ると額の汗を拭いながら、伊地知さんが僕らに近付いてくる。
山田さんは地面に倒れていた。僕は何も見ていない。
「あー、すっきりした。皆、待たせてごめんね」
「お、お疲れ様です!」
「あっ、お、お疲れ様です」
「お疲れ様です、伊地知さん」
「なんで皆して敬語?」
あれを見せられて敬語にならない人はいないと思う。
頭を下げる僕達を、伊地知さんは不思議そうに見ていた。
「そうだ、伊地知先輩も後藤先輩を説得してください!」
それはそれとして、喜多さんが僕の説得に伊地知さんを巻き込もうとしていた。
説得、と彼女は顔に浮かべる不思議をますます深めていく。
喜多さんから話を聞いて、納得した様子の伊地知さんは僕の方を向いた。
「後藤くんもついてきてね」
「気持ちは嬉しいけど、今日のは結束バンドの集まりでしょ? 僕は」
にっこりと笑って、伊地知さんは僕の肩を掴んだ。いい笑顔だ。
いい笑顔だけど、さっきまで山田さんに向けていたようなものと同じ気配がする。
「まだ話の途中だよね。ゆっくり聞かせてね」
「あっはい」
今日の僕に拒否権はない。店長さんにお礼を伝え、ギターとカツラを返却する。
それから、皆と一緒に僕もスターリーを後にした。
「誰も私を心配してくれない……」
「事情を聞いちゃうと、もう後藤くんのこと責められないなぁ」
江ノ島までの道中で、僕は伊地知さんへの説明を再開した。
さっきは途中で山田さんが慰め、いやいたずらに走ったから中途半端になっていた。
僕をどう料理してやろう、という顔をしていた伊地知さんも、いつもの穏やかな様子に戻っている。
「ぼっちちゃんが後藤くんの妹って知ってたら、私話かけられなかったかもしれないし」
「えっ、どうしてですか?」
「いやー、そのー、ね、後藤くん怖がられてたし、実際私もちょっと怖かったし」
「後藤先輩って、そんなに怖がられてるんですか?」
誤魔化すように話す伊地知さんを見て、喜多さんは心底不思議そうにしていた。
その様子を見て、伊地知さんは苦笑いを浮かべながら、ちらりと僕に視線を向けた。
学校でのことを話していいか、躊躇っているんだろう。ろくでもない話ばかりだからね。
だけどどうせ、調べればすぐ分かる噂だ。僕は頷いて続きを促した。
「ここからは、私が解説しよう」
すると電車に乗ってから口を閉じていた山田さんが、僕の解説に名乗りを上げた。
最近少しずつ読めるようになってきた彼女の表情には、どこかワクワクしたものが浮かんでいた。
なんでワクワク、と思っていると、僕の疑問を伊地知さんが察してくれた。
「リョウは後藤くん、というか魔王の噂が好きだったから」
「なんでまた」
「この子変人が好きで憧れてて、それでその」
この二十一世紀に魔王なんて呼ばれ、真剣に恐れおののかれているのは、確かに相当変だ。
伊地知さん曰く山田さんは変人マニアらしいから、興味を抱くのも自然かもしれない。
変人が好き。僕にはよく分からない世界だけど、趣味なんてそういうものだろう。
あなたには凄いものが憑いてます、と絡んでくるような、オカルト系の人にも会ったことがある。
それに比べれば噂の収集くらい、山田さんの趣味くらい可愛いものだ。
「任せて。郁代が引かないくらいにはマイルドにしておく」
サムズアップしながら、自信満々に山田さんは宣言した。不安だ。
曰く、生徒会選挙の応援演説で、現会長以外の候補者を全員気絶させた。
体育祭の騎馬戦に出場し、睨むだけで自軍も含め全選手を退場させて勝利した。
生徒指導の先生に呼び出されたが、逆に反省文を提出させた、等々。
「こんな感じで、学校では恐れられている」
「えっ、あ、あの後藤先輩」
珍しく生き生きとした山田さんが早口で僕の噂を語る。本当に詳しい。
最初はまたまた、なんて言っていた喜多さんも今は戦慄している。
山田さんはこんな馬鹿みたいな噂話を楽しそうに、詳しく解説してくれた。
うん、こんな風に語ってくれた彼女には、ぜひ一言言っておかないと。
「ありがとう、山田さん。大分優しくしてくれたね」
「今ので!?」
山田さんの話には、犯罪系や事実無根の噂話はまったく含まれていなかった。
全部僕にも心当たりがあるものだ。宣言通り、山田さんは気を使って話してくれた。
僕もその誠意に応えて、ちゃんとお礼を返さないと。
「お礼になるか分からないけど、今度の弁当は少し豪華にするよ」
「ははーっ。ありがたき幸せ」
「いやこっちはこっちでなんなの? ……まあ噂は噂だよ。本当の後藤くんはほら、こんな感じ」
伊地知さんには僕と山田さんの関係がよく分からないらしい。僕も分からない。
彼女は僕達に呆れた目を向けていたけれど、同時に喜多さんへのフォローもしてくれた。
その心意気を無駄にはしない。僕も乗っからせてもらおう。
「……がおー」
「きゃー」
「なんで今茶目っ気出した?」
「和ませるタイミングかなって。どうだった?」
「…………後藤くんって、やっぱりぼっちちゃんのお兄ちゃんだね」
「ありがとう」
「褒めてないよ?」
誉めてないらしい彼女は、そのひとりがまったく話に入ってこないのに気づいたみたいだ。
ひとりはさっきから電車の床とにらめっこして、ぶつぶつと何かを呟いている。
「ぼっちちゃんは、えっとあれ何してるの?」
「シミュレーションをしてる」
「シミュレーション?」
伊地知さんがオウム返しすると、他二人も同じように疑問を顔に浮かべていた。
話していいのかな。ひとりの様子を見る。皆のことを見る。
話した方がいいな。皆なら、笑って受け入れてくれるだろう。
「僕もひとりも、こうやって遊びに行くのって初めてだから。どうすればいいのか分からなくて」
「そんなに気負わなくても大丈夫だよ」
「そうかもしれないけど、出来るだけ楽しくしたいし、なってほしいから」
「二人とも変なところで真面目だなー」
くすくすと伊地知さんが、皆が笑う。おかしそうで、暖かい笑みだった。
話してよかった。これならきっと、ひとりが斜め上のことをしても大丈夫だ。
僕が胸を撫で下ろしていると、隣に座っていたひとりが断末魔をあげた。
「ぐふっ」
「ぼっちちゃんが死んだー!?」
遺体の口に耳を寄せると、トロピカルラブフォーエバー、と謎の言葉を繰り返し発していた。
聞いたことのない言葉だ。ひとりの造語かな。それにしても発音がいい。
造語からして何か余計な事、海で遊ぶ陽キャカップルの様子でも想像したんだろう。
首が変な角度でちょっと痛そうだから、僕の肩に乗せるようにする。
あと泡も吹き始めたから、ハンカチで拭い取っておく。これでよし。
適切な対処をする僕を、結束バンドの皆は何とも言えない感じで見ていた。
「手慣れてますね……」
「兄妹だから。そういう皆も見慣れちゃってるね」
「もう数えきれないくらい見ちゃったからね」
目の前で友達が気絶したのに、誰も慌てていない。またか、くらいの反応だ。
伊地知さんも唐突過ぎる断末魔にツッコミを入れたくらいで、もう平然としている。
流石結束バンドだ、頼もしい。
「起こさなくていいの?」
「うん。昨日楽しみであんまり眠れてなかったみたいだから、ちょうどいいかなって」
どうしようどうしよう、と着ていく服にも悩んでいた。全部ピンクジャージだったけど。
残念だけど、僕には何が違うのかさっぱり分からなかった。僕ならどれも着たくない。
だけど服なんて、自分が着たい物を着ればいいと思うから、特に何も言わなかった。
だからひとりは今日もピンクジャージだ。とっておきらしい。違いが分からない。
泡さえ拭いてしまえば、気絶しているというより寝ているようにも見える。
安らかな寝顔だ。つられてつい、あくびをしてしまいそうになる。
慌てて嚙み殺したけれど、伊地知さんにはばっちり目撃されていた。
それからニヤニヤとからかうように、彼女は僕に尋ねてくる。
「あっもしかして後藤くんも、昨日寝付けなかったりした?」
「分かる? 僕も色々考えてたら夜更かししちゃって、十時くらいまで起きてた」
「小学生でももう少し起きてるよ?」
ふたりを寝かしつけていると、僕もそのまま寝てしまうことも多い。
そして三時か四時には起きて、勉強なり家事なりしている。早寝早起きだ。
これ小学生というより、お年寄りの生活リズムのような気がする。
「……な、なつやすみ、あしたもなつやすみ、あさってもなつやすみ……」
しばらく安らかに気絶していたひとりが魘され始めた。夢でも現実逃避している。
可哀想だけど、明日から普通に学校だ。せめていい夢を見れるように、そっと頭を撫でて宥める。
何度も何度も、慰めるように繰り返していると、やっと落ち着いてきた。
そんなひとりの様子を見て、山田さんが喜多さんに質問していた。
「ぼっちって、学校ではどうなの?」
唐突だったけど、気になる山田さんの気持ちは分かる。というより今まで聞いてなかったんだ。
急な質問に喜多さんも驚いていたけれど、すぐに気を取り直して答えてくれた。
クラスが違うので、いつも直接見ているわけじゃないんですけど、と話し始める。
「いじめとか、そういうのはまったくないです。ただ、後藤さん引っ込み思案だから」
「あー、ぼっちちゃん中々喋ってくれないからねー」
「はい。なので皆どう接していいか、いまいち分からないというか」
「もったいない。こんなに面白いのに」
三人で和気あいあいと、ひとりについて話していた。話しながら、ちらちらと僕に目を向ける。
「僕のことは気にせずどうぞ」
「いや無理があるから、気になっちゃうから」
「下手なことを聞いたら学校まで乗り込みそう。そして支配下に置きそう」
「大丈夫ですよ、先輩。そうなっても、私たちは先輩の味方ですから」
かなり好き勝手に言われていた。だけど何も言えない。
だって実際に何かあると言われたら、半信半疑でも潜入調査とかしてしまうかもしれない。
そう考えると、皆よく僕のことを理解してくれているとも言える。前向きに考えよう。
それにしても僕の行動はともかく、本当に僕のことは気にしなくていいのに。
「ひとりから学校の話は聞いてるし、友達がいない以外問題ないのは知ってるよ」
「友達いないのは問題では?」
「それはそうだけど、今は皆がいるから。そこも大した問題じゃないかなって」
四月頃なら学校に友達を求めていたから、そこも問題だった。
だけど今は学校には喜多さん、学外には伊地知さんと山田さんがいる。
ひとりには広く浅くより、狭く深く人間関係を築く方が向いていると思う。
だからもう、学校の中で友達が作れなくても心配はしていない。
「ちなみに先輩その、言いにくい、そういう問題があったらどうしますか?」
おずおずと、喜多さんがとても聞きにくそうに尋ねてきた。
彼女の想像するような問題は、少なくとも小中学の頃は一度も起きたことが無い。
ひとりが僕の妹だって皆知ってたからね。あの子に手を出すことは、僕に喧嘩を売るに等しい。
魔王に喧嘩を売るような人はいなかった。そして僕は、高校でも魔王だ。
だからそんな問題が起きたとしても、最悪僕が前に出れば問題ごとなくなるだろう。
「……その、僕が挨拶しに行けばどうとでもなるから、そこも心配してないよ」
その返答に、三人は揃って目を見合わせる。
そして伊地知さんと山田さんが、労わるように励ますように、優しく喜多さんの肩に手を置いた。
「頑張って喜多ちゃん。いざという時は、喜多ちゃんが高校の平和を守るんだよ」
「勇者郁代、君の肩に皆の青春がかかっている」
「私には荷が重すぎますよ……」
また好き放題だった。これもしょうがないね。
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