ぼっちの兄もまたぼっち   作:差六

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前回のあらすじ
「山田の所持金は39円です」


第二十八話「人生で一番楽しかった夏休み」

 いざエスカレーターに乗ってみると、思っていたよりも時間がかかった。

歩きと比較してもずっと速いはずなのに、一区間移動するのに数分は必要だった。

これだと僕と喜多さんはともかく、他三人だと厳しいものがあったかも。

少なくとも今みたいに、景色や会話を楽しむ余裕は無くなっていたと思う。

そう考えるとあの時、エスカレーターを見つけてくれたひとりはお手柄だった。

 

「……自分の足で歩けば、もっと景色が綺麗になると思うのになぁ」

 

 それでも喜多さんは、未だに少しむくれている。

せっかく遊びに来ているのだから、そんな顔をしていてはもったいない。

僕は僕なりに彼女の機嫌を取るため、エスカレーターだからこそ出来たものを指差した。

 

「喜多さん、あれを見て」

 

 言われるがまま、喜多さんは僕の指差す方向に視線を向ける。

その先には楽しそうな、壊れかけの山田さんとひとりがいた。

 

「最高の眺めと空気だね!」

「しゃ、写真でも撮ります?」

 

 山田さんは見たことのないほど満面の笑みを浮かべ、なんとひとりは写真の提案までしている。

ありえない光景だ。真夏の階段という絶望から救われたうえに、見慣れない、けれどもいい景色。

日常では起こりえない感情の落差が生み出した、深刻なバグのような状態。

きっとこんなことでもなければ、一生見ることもないだろう。

 

「歩いてたらきっと、あの笑顔は見られなかったよ」

「そう言われると、うーん」

 

 そして写真は写真でも、きっと遺影になっていた。

僕の説得に喜多さんが、一理あるかなどうかな、と悩み始めた。

とりあえず不機嫌そうな顔は引っ込んでくれた。よかった。

 

 僕が安心していると、壊れかけコンビに伊地知さんも加わって、三人で自撮りしていた。

知らない間に伊地知さんも故障していた。喜多さん以外皆暑さに弱い。楽しそうだしいいや。

ひとりも山田さんも笑顔の貴重なタイミングだ。喜多さんにも混ざるように勧めよう。

 

 そう思った瞬間、全員一気にしゅんとなった。何かを吐き捨てるような顔をしている。

原因は多分、彼女たちの横を通り過ぎたカップルだ。

遠目から見てもそのカップルたちは、なんだか辺り一面に幸せオーラを振り撒いている。

あれで正気に戻ったのかもしれない。いや、修理してくれたのだからむしろお礼を言うべきだ。

 

「……あの微妙な顔も、見れなかったよ」

「……そう言われても、うーん」

 

 ちょっと微妙な感じになったけど、喜多さんの機嫌は戻ったから作戦成功。成功だよね?

 

 

 そうして合間合間で参拝したり、お店を覗いたりしていると、展望台に辿り着いた。

早速入場してエレベーターに乗り、最上階へと向かう。

 

「見てください! 展望台からの眺めはもっと絶景ですね!」

 

 展望台からの絶景を見て、喜多さんがはしゃぎ出した。

目に焼き付けとかないと、と言いながら、携帯で写真を撮り始めた。目にじゃないんだ。

それはともかく、喜多さんの言う通り確かにいい景色だ。

今まで歩いてきたところ、これから歩くところ、そして海がよく見える。

写真や動画でも見ることは出来るけど、自分の目で見るとまた少し違った感じがする。

 

 そんな風に景色を楽しんでいると、ふと袖に違和感を覚えた。

いつものようにひとりかと思って振り返ると、今回は山田さんが僕を呼んでいた。

 

「ちょっとお願いしてもいい?」

「いいよ。どうしたの?」

「耳貸して」

 

 ごにょごにょと、山田さんの要望を伝えられる。

日本語としては分かるけど、なんでこんなことをお願いするのかは分からない。

分からないけど、せっかくのお願いだ。断ることでもないから、僕は受け入れた。

 

「あれ、リョウと後藤くんは?」

「さっきまで近くにいたんですけど、もう降りちゃったんでしょうか」

「あっ、えっと、あっちみたいです」

 

 腕を組み、出来るだけ偉そうに展望台の下を、そこにいる人々を見下ろす。

塵芥を見るような、温度の無い目をする僕の隣には、山田さんが執事のように控えていた。

 

「山田さん、ここからの景色どう思う?」

「はっ、愚かな愚民どもがよく見えます!」

「なんかやってるよ」

 

 容赦なくツッコまれる。見られたくないから移動したのに、もう見つかってしまった。

山田さんに続けるかどうか目で窺うも、続行の指示が出た。しょうがない。やりきるしかない。

僕はさっき山田さんに言われた台本を思い出して、口にした。

 

「愚民ね。彼らは彼らで懸命に生きている。そう否定してはいけないよ」

「ですが陛下、奴らは遥か昔神に打ち砕かれたことを忘れ、再びこのような塔を作っております」

「何の設定なの?」

「……その愚かさも、愚直と考えれば美点だ。よくも、悪くもね。導く者でそれは変わる」

「と、ということは、まさか」

「そう。だから僕が、天に立つ」

「ははーっ。魔王様の仰せの通りに」

 

 最後に山田さんがいつも通りに、いつも通りでいいのかな、傅いて終わった。

なんだろうこれ。やってる僕が言うことじゃないけど、なんだろうこれ。

とんでもなく痛々しい、恥ずかしい、くすぐったい。変な震えが起こりそう。

近付いてくるひとり達も、やった僕もひたすら首を傾げていた。

ただ山田さんだけは、満足そうにぱちぱちと拍手をしていた。

 

「ナイス魔王」

「なんか凄い恥ずかしかったんだけど、これ何、何の台本?」

「高いところから愚民を見下ろす魔王を見てみたかった。台本は普段の様子を見て私が作った」

「ぐ、愚民……えっ、お兄ちゃん学校だといつもああなの?」

「そんなことないけど。……そんなことないよね?」

「我ながらかなりの完成度だと思う」

「………………ごめんね、後藤くん」

 

 わざわざ展望台に上ってまで、何故か僕達は魔王ごっこをしていた。

ごっこ遊びなんて、家族以外と初めてした。

恐ろしく恥ずかしかったし、今も鳥肌が立ったままだけど、実はちょっと楽しかった。

そんな感じで楽しく話しながら、僕達は展望台を後にした。

 

「……景色見ましょうよ!!」

 

 

 展望台から降りて、ソフトクリームを買って一休み。

エスカレーターで登りはしたけど、それ以外はこの暑い中よく歩いたり立ったりした。

それに下りは自力だ。休める時に休んでおいた方がいい

 

「陛下、ソフトクリームありがとう」

「いいよ。代わりに今度、ベースのお話し聞かせてね」

「任せて。寝かせないぜ」

 

 山田さんは帰りの電車賃を除けば、もうアイスを買うお金すらなかった。

伊地知さんには、自業自得なんだから放っておきなさいと言われた。

言われたけど、あのうるうるとした目で見られると僕は弱い。妹達を思い出してしまう。

 

 だからついお金を出して、山田さんにアイスを買ってあげてしまった。

まあ、うん。さっきのベース勧誘を受けてちょっと興味出たのは事実だし。

実際弾くことが無くても、知識があって損は無いし。何かの役にたつかもしれないし。

 

「……おー、あれトンビじゃない?」

 

 心中で言い訳していると、伊地知さんは空を指差してそう言った。釣られて皆で空を見上げる。

そこにはトンビの群れがいた。特徴的な鳴き声が数多く耳に届く。

そういえば江ノ島近くは、こんな風にトンビが多いと聞いたことがあるような。

 

「……なんか、こっち狙ってません?」

 

 そしてそのトンビは人の食べ物を狙って、襲い掛かって来ることもあるとか。

その噂は本当のようだ。僕達の持つアイスを狙って、さっきから上空をくるくると回っている。

そこそこ数がいる。群れだ。そんなにいたら、僕達全員から奪っても足りないと思う。

 

「トンビも群れになると、こんなになるんだね。初めて見た」

「たくさんいるね。……はっ、も、もしかして、私より友達が多い!?」

「あれって友達なのかな、家族なのかな。どっちにしても、量より質だよ」

 

 なんてひとりと悠長に構えていると、伊地知さんと喜多さんが僕達の腕を引っ張っていた。

酷く慌てた様子だ。不思議に思ってひとりと顔を見合わせる。ひとりも僕と同じ顔をしていた。

 

「ふ、二人とも、なんでそんなにぼんやりしてるの!?」

「一回避難しましょうよ!」

 

 そうやって二人が僕達を連れて逃げようとするけれど、もう遅い。

彼女達の背後から既に一羽のトンビが、こっちに向かって飛んできている。

ここから逃げ切れるのは、僕達を置いて一人逃走した山田さんくらいだろう。

 

 ただ、そもそも逃げる必要なんてないのだけれど。

 

 僕は帽子とサングラスを外し、飛び込んでくるトンビの方へ視線を向けた。

ちょうど飛んできたトンビと目が合う。すると一瞬体を硬直させ失速し、墜落しそうになる。

よろよろとしてはいたけれど、そのままなんとか地面に、僕の前に着陸した。

そして、その一羽に続こうとしていた他のトンビ達は、Uターンして空に戻って行った。

ここまでは予想通りだ。これでもう大丈夫だとは思うけど、一応こっちも試しておこう。

 

「何か用かな」

 

 子供の頃に読んだ図鑑によると、トンビはカラスと同等、もしくはそれ以上に賢い鳥らしい。

だから言葉は分からなくても、こうして僕が問いかけた理由は察するかもしれない。

現にこのトンビは僕の声にびくりと震えた。まだ逃げる様子はない。もう一言付け加えよう。

 

「未遂だから、今回は許すよ。次は、どうだろうね」

 

 許すも何も無いし、次も特に考えてない。ただ、もう狙わないでねって気持ちが伝わればいい。

気持ちの籠った僕の言葉を聞き届け、トンビは羽を広げて大急ぎで空へと飛び去った。

そして群れに合流すると、ともに僕達の上から姿を消した。ちゃんと言うことを聞いてくれた。

よし。僕が達成感に浸っていると、ひとり以外の三人がドン引きしているのが見えた。

 

「えっ、ちょ、今の何?」

「僕達を狙わないでねってお願いしたら、聞いてくれたみたい」

 

 端的に言うと、僕は動物にも嫌われ、というより恐れられている。

身近なところだと、道端で犬や猫と遭遇すると、野良とか関係なく必ずお腹を見せられる。

動物園では檻越しに目が合うと、ほとんどの動物が丸くなってしまう。

だから僕は、ライオンや虎に勇猛さや格好良さを感じたことはほとんど無い。猫と同じに見える。

ちなみにジミヘンは例外。彼は僕とも仲良くしてくれる。賢くて優しい。いつも頼りにしている。

 

 僕が説明しても、三人ともドン引きしたままだった。むしろより引いていた。

 

「こ、これが魔王……ヤバいですね」

「そう、ヤバい」

 

 何故か山田さんだけは、ちょっと嬉しそうだった。今の光景が面白かったのかもしれない。

自分で言うのもなんだけど、確かに魔王感が強い光景だったと思う。

そんな皆を見て、ひとりが慌てて助け舟を出してくれた。

 

「あっ、あの、お兄ちゃんがゴミを出した日は、カラスがゴミ捨て場に近寄らないんです」

「そうそう。だから今のは、鳥除けみたいなものだから。ほら、案山子みたいな」

「えぇ、いや、えぇ……」

 

 僕もそれに同調させてもらったけど、誰も乗ってくれない。

そうしてしばらく皆引いていたけど、アイスを食べ終わる頃には元に戻っていた。

皆、ひとりだけじゃなくて僕にも慣れ始めていた。結束バンドは順応性が高い。

 

 

「ここでお参りしませんか?」

 

 アイスも食べ終えて下り道を歩く途中、とある社殿の前で喜多さんが提案した。

近くの案内文には、奉安殿と書かれている。ここには妙音弁財天が祀られているそうだ。

音楽、芸能の女神様だ。バンドとしてお参りするのに、これ以上の神はいないだろう。

 

 彼女の勧め通り、皆でお参りすることにした。賽銭箱に小銭を入れ、五人で並び手を合わせる。

合わせてはいるけど、実のところ僕は神様をまったく信じていないから、何も祈っていない。

どれだけ祈ったところで何も変わらない、変えてくれない。

何度かお百度参りをして実感した。祈りは無力だ。

 

 じゃあ手を合わせて何をしているのかというと、感謝をしていた。

ひとりが伊地知さんと出会えたこと。そして結束バンドに入れたこと。

伊地知さんだけじゃない、山田さん、喜多さん、店長さんに廣井さんや、ファンの方々。

ひとりが、僕が、色んな人に出会えてよかったと、ずっと思っていた。

だけどそんなこと、面と向かって言われても、皆困ってしまうだろう。

言いたくて、伝えたくて、でも誰にぶつければいいのか分からないこの感謝。

もやもやとずっと抱えていたから、今日はちょうどサンドバック代わりにさせてもらった。

 

「兄妹揃って、すっごく長くお祈りしてたね」

「えっ、そそ、そうですか?」

 

 お参りも終わって帰り道、伊地知さんが感心したように声をかけてきた。

そういえば、手を合わせるのを止めて目を開いた時に、ひとり以外から見られていた気がする。

皆よりも長くやっていた。そしてひとりは僕よりもさらに長かった。苦悶に満ちた表情だった。

あれは多分、夏休みの延長とかお金とか名誉とか、俗なことをお願いしていた。

妙音弁財天じゃなく、弁財天として考えても、お金以外はきっと管轄外だ。

それにどうせ、どんなお願いでも叶わない。そっとしておこう。

 

 お参りも終わって後は下るだけ。ゆっくりとあちこち歩いていたから、日も暮れてきた。

適当な雑談をしていたところ、夕焼けを見た喜多さんが唐突にテンションを上げた。

目を見開いたと思ったら、いきなり携帯を取り出して何か操作し始めた。

 

「き、喜多さん、どうかしたんですか?」

「後藤さん! この夕日、映えると思わない!?」

「えっ、あっ、はい。き、綺麗ですね」

「ちょうどこの近くに、有名な夕日の撮影スポットがあるらしいの!」

 

 夕日に負けないくらいに目を輝かせて、喜多さんはひとりに詰め寄っていた。

いつも通りひとりはそんな彼女に圧倒されて、首を縦に振る人形になっている。

その二人の様子を見て、やれやれとでも言いたげに、山田さんが呟いた。

 

「郁代は元気だね」

「せっかくだから撮りに行きましょう、後藤さん、リョウ先輩!」

「えっ」

「あっちょっ」

「伊地知先輩も後藤先輩も、早く来てくださいね!」

 

 そう言って、近くにいたひとりと山田さんを引きずりながら、階段を駆け下りて行った。

本当に元気だ。下手に止めると、反動でひとりと山田さんがどこかへ飛んでいきそうだ。

だからそのまま見送った。階段から落ちなければいいけど。

 

「行っちゃった」

「行っちゃったね。後藤くんは行かなくていいの?」

 

 気にはなる。気にはなるけど、僕はここにいた方がいいと思う。

 

「僕は、いいかな。伊地知さんもいいの?」

「私もいいよ。ちょっと疲れちゃって、喜多ちゃんに追いつけなさそうだし」

 

 そう言った伊地知さんの足取りは、本人の言う通り重い。

僕が行けば彼女を一人っきりにすることになる。皆で遊びに来て、それは寂しいと思う。

解決策も、あると言えばあるけれど。一応、念のために提案だけはしておこうか。

 

「おんぶしてもいいなら、僕が連れてくよ」

「えー、恥ずかしいからやだよ」

 

 言ってはみたけれど、緊急時ならともかく、僕も本気でおんぶする気はない。

くすくすと笑う伊地知さんにも、そんな気はなさそうだ。

だから喜多さんのことはあの二人に任せて、伊地知さんのペースで階段を降りていく。

 

「あの、伊地知さん」

「どうしたの?」

 

 そして気づいた。今がチャンスかもしれない。

 

「連絡先、交換してくれないかな」

 

 本当は今朝、打ち明け話の後に聞こうと思ってた。

だけど山田さんがお仕置されて、流れるように江ノ島まで移動したから、タイミングを逃した。

皆の前で改めて聞くのは、なんとなく気恥ずかしい。だから、二人っきりの今ならちょうどいい。

 

「僕、伊地知さんのだけ知らないから」

「そういえばそうだったね」

 

 喜多さんも山田さんも、必要が生じたから向こうから交換してくれた。

でも伊地知さんとはそういう関係にならなかったから、今までそんな機会が無かった。

 

「それでその」

 

 だけど今交換したいのは、必要だからとか、そんな理由じゃない。

 

「その、友達になってください」

 

 僕がそうしたいから、そうなりたいから。

 

「友達になって、もっと仲良くしてください」

「……」

 

 ロインを交換すれば、表記上は友達だ。でもそれだけじゃ、きっと友達とは言えない。

僕は皆を好きになって、皆と友達になりたいと、そう思うようになっていた。

だから勇気を出してそう言った。頭を下げて精一杯お願いする。

 

 だけど返事がいつまでも無かった。

思わず不安になって顔を上げると、彼女は目を丸くして固まっていた。

こんなことを言うのは初めてだから、また何か間違えてしまったかもしれない。

 

「駄目、かな?」

「連絡先はいいよ。でも、今から友達になるのは難しいかも」

 

 耳に入って一瞬はショックを受けた。受けたけど、伊地知さんの顔を見てすぐに消えた。

彼女は笑っていた。いつか見た微笑だ。今もまた、どことなくいたずらっぽさがある。

 

「だって、もう友達でしょ?」

 

 そう言ってもらえて、友達だと認めてもらえて、とても嬉しかった。

嬉しかったけど、その前の、一度下げる言い方はいらなかったと思う。絶対に必要なかった。

だから思わず、伊地知さんに文句を言ってしまう。

 

「……伊地知さんってたまに意地悪だよね」

「そんなことないって。仮にそうでも、それは後藤くんのせいだよ」

「僕のせいって、えっ、何か怒らせることしたかな?」

「ダメ、教えなーい。自分で考えてね!」

 

 僕が不満げに言っても彼女は取り合わない。

そんな風に、喜多さんに遅いと怒られるまで、僕達は二人でゆっくりと歩いていた。

 

 

 

 そうして夕日の中、皆と一緒に電車まで歩いて行って、この日のお出かけは終了した。

僕が参加するなんて思ってなかったし、した後も内心不安で一杯だった。

でも帰り道、幸せそうに笑うひとりを見て、今日のことを思い出して、僕もまた幸せだった。

こうして誰かと遊びに行くことがあるなんて、それが楽しいなんて、想像もしていなかった。

 

 振り返ってみれば、この夏休みはそんなことばかりだった。

他人を好きになれて、その人たちと遊びに行けて、友達にもなれた。

だから、少し照れてしまうけど、胸を張って言える。

今年の夏休みは、今までで一番楽しかった。この楽しいがずっと続けばいいなって。

 

 

 

 

 

 

おまけ 「帰りの電車のとある一幕」

 

「皆寝ちゃったわね」

「あっはい。そうですね」

「後藤さんは眠くないの? 私、起きてるから平気よ?」

「あっはい。行く途中意識がなかったので、全然平気です」

「そうなの? よかった、それじゃまだまだ楽しいが続くわね!」

「ぇへへ、はいっ」

 

「それにしても、後藤先輩まで寝ちゃうとは思わなかったわ」

「……お兄ちゃんも多分、緊張して疲れたんだと思います」

「そうなの? 全然気づかなかった。後藤さん、流石妹ね」

「そ、それほどでも、へへっ」

 

「……その、後藤さん、今日は楽しかった?」

「あっ、はい。た、楽しかったです、凄く。あっ喜多さんは?」

「私も、すっごく楽しかった! でも、二人が楽しめたか心配で」

「えっと、二人って、私とお兄ちゃんのことですか?」

「うん。特に後藤先輩のことは、半ば脅迫みたいに連れてきちゃったから」

「……」

「それにいつものことだけど、先輩今日も表情変わらないから、不安になって」

「…………きっ喜多さん!」

「わっ、ど、どうしたの?」

 

「きょ、今日はありがとうございました!」

「ほんとに急にどうしたの?」

「あの、今日のこと計画してくれて、お兄ちゃんのこと誘ってくれて」

「でもそれは」

「お、お兄ちゃんも、私と同じくらい楽しんでました、絶対」

 

「その、お兄ちゃんは、外じゃ絶対に寝ません」

「え?」

「テスト前とか、どんなに眠くても頑張って起きてます。で、でも今は、熟睡してます」

「そう、ね。そうだけど、それがどうかしたの?」

「えっと、だから、それくらい楽しかったんだと思います」

 

「お兄ちゃんはどんな時でも起きていよう、寝ないようにしようって、いつも意識してて」

「?」

「でも今日はそれを忘れるくらい、思わず体力使い切るくらい、楽しかったんだと思います」

「!」

「こんなお兄ちゃん、見るの初めてで、だから」

「うん」

「だから喜多さん、今日はありがとう」

「……うん!」

 

 

「ふふっ、こんなに喜んでもらえるなら、もっと早くみんなで遊びに行けばよかった!」

「えっ」

「うーん、そうね。後藤さん、冬休みは結束バンドと後藤先輩だけでずっと遊びましょう!」

「えっえっ」

「楽しみだわ~!」

「えっえっえっ」




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