ぼっちの兄もまたぼっち   作:差六

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感想評価、誤字脱字報告、ここすきありがとうございます。

前回のあらすじ
「後藤兄妹はよく寝たが、星歌さんはその夜うなされていた」


第三十四話「店から一歩も出ていない」

「僕、あまりスターリーには来ないようにしようって思ってました」

「その割に最近よく来てるけどな。一応聞くけど、なんでだ?」

「僕が常連になると、スターリーがラストダンジョンとか呼ばれるかもしれないので」

「なんだそれ、言いたい奴には言わせとけ。それに魔王云々って、ある意味ロックで面白いだろ」

「そう言ってもらえると嬉しいです。ありがとうございます」

 

 今日も今日とて僕はスターリーに来ていた。今皆はスタ練中だ。

とある人に呼び出されて待ちぼうけを食らっていた僕に、店長さんは話しかけてくれていた。

暇だからちょっと付き合えと口にしていたけれど、半分くらいは嘘だろう。

この間のゴミ箱の件はどうかと思ったけど、店長さんは今日も優しかった。

 

「それによく考えたら店長さんも魔王ですし、ここって元々魔王城ですよね」

「やっぱりお前二度と来るな」

「ごめんなさい、冗談です」

 

 店長さんに頭を小突かれる。廣井さんに向けるものとは威力が違うから、ただのツッコミだ。

じゃれるようなものだ。こんな風に叩かれるなんて、今まで考えたこともなかった。

ちょっと嬉しくなって頭をさする僕を見ながら、彼女はため息交じりに聞いてきた。

 

「で、廣井からまだ連絡はないの?」

「はい。学校終わったらスターリーに来てねって、メッセージが来てからはまったく」

「あいつ、ひとんち勝手に集合場所にすんなよ」

 

 そう言いながらも店長さんは心配そうに、心配、まったく心配してなさそうだ。

どちらかといえば、いや今舌打ちした、どっちも何もない。完全に忌々しそうにしている。

優しい店長さんにこんな顔をさせるなんて、あの人はどれだけの迷惑をかけてきたんだろう。

そう思いをはせていると、入口が乱暴に開かれる音がした。

 

「やっほー、きくりちゃんが来たよ~!」

 

 噂をすればなんとやら。連絡ではなくて、本人が直接来た。

入口が開いたことで外から風が流れてくる。それは僕達の元までアルコール臭を運ぶ。

今日も廣井さんはお酒臭い。僕と店長さんは鼻をつまんだ。

 

 何とも言えない目で彼女を見ていると、目が合ってしまった。

元々浮かべていた笑顔をさらに深くして、のしのしふらふら階段を降りて近づいてくる。

無事に目の前まで来たと思ったら、そのまま僕の頭にしがみついてきた。お酒臭い。

 

「おっ、ちゃんと来てるね、偉いぞ~」

「こんにちは廣井さん。お酒臭いので離れてください」

「えー、やだー」

「これ多分なんかの犯罪だよな」

 

 相変わらず廣井さんは酔っ払いだ。今日も力ずくで引きはがすと危ないだろう。

だから言葉で伝えたけれど応えてくれない。店長さんも呆れながら見るだけだ。助けてくれない。

それどころか、何故か僕達の様子を撮影している。そして何か違うな、と言って携帯をしまった。

証拠写真でも撮っていてくれたのかな。裁判の時にください。

 

「そんなこと言う子にはね、お仕置だよ! この間の仕返しー!」

「店長さん、どこまでいったら反撃していいと思いますか?」

「一応言っとくと、子供が思ってるよりも酔っ払いはか弱い生き物だぞ」

 

 止めるどころか頭まで撫で始めてきた。廣井さんは妙に楽しそうだ。

この調子だとこのまま放っておけば、どこまでエスカレートするのか分からない。

さっき店長さんの言った通り、何らかの犯罪に発展する可能性もある。

だけど僕が反撃したら死ぬと言外に言われてしまった。どうしよう、どこまで我慢しよう。

 

「ちょ、ちょちょ、ちょっと、廣井さん何してるんですか!?」

 

 顔にまで手を伸ばしてきたらどうにかしよう。そう考えていると、救いの手が差し伸べられた。

伊地知さんの声だ。今は廣井さんで何も見えないけど、スタジオから出てきたらしい。

早足で近づいてきて、その勢いのまま廣井さんを引き剥がした。光が目に届く。

 

 急に明るくなったから眩しい。瞬きを繰り返して目を調整する。

普通に辺りが見えるようになった頃、心配そうな伊地知さんが映った。

 

「後藤くん、大丈夫?」

「ありがとう伊地知さん。なんとか大丈夫」

 

 そうして彼女から安否確認を受けていると、剥がされた廣井さんが不満そうな顔をしていた。

 

「妹ちゃん乱暴すぎだよー。ちょっとしたスキンシップじゃん、お堅いなー」

「いやいや、あれはちょっとを超えてますよ!」

「でも無抵抗だったでしょ。お姉さんにくっつかれて、君もなんだかんだ嬉しかったよね?」

「いえ、離れてくださいって何回か言いましたよ」

「それってあれでしょ、嫌よ嫌よも好きの内ってやつだよね!」

 

 無敵の理屈だ。山田さんも前そんなことを言っていた。ベーシストの間で流行っているのかな。

僕の何とも言えない気持ちと同様に、伊地知さんも半目で廣井さんを見ていた。疑いの眼差しだ。

僕達二人にそう見られても、廣井さんの根拠不明の自信はまったく揺らいでいなかった。

 

「いや後藤くんに限って、そんなことないと思いますけど」

「またまたー、私大人のお姉さんだよ? ほらほら、正直な感想言っていいよ?」

 

 そう言ってから、何故か彼女はしなを作った。伊地知さんは気味の悪いものを見る目をした。

正直な感想か。一番に来るのは当然お酒臭かっただけど、それは駄目だろう。

さっきも言ったけど受け取ってもらえなかった。これ以上言っても無駄な気がする。

 

 そもそも廣井さんはどうしてか、僕が喜んでいる、という意見に確固たる自信を持っている。

こうなると下手に否定するよりも、何か肯定的な感想を伝えた方が丸く収まるかもしれない。

例によって僕の嘘やお世辞が通じないだろうから、小さくてもいいから嬉しかったことを話そう。

 

 今ので嬉しかったこと。実は廣井さんの言う通り、僕は抱き着かれて喜んでいた。

やり方はどうであれ、好意を示してもらえるのはとても嬉しい。

僕の感覚だと抱き着くなんて、よっぽど好きじゃなきゃ出来ないと思う。

廣井さんの感覚にもよるけれど、それほど気を許してもらえている証と考えてもいいはず。

 

 だけどこれを言うのはよくないだろう。廣井さんは一応女の人だ。

さっきも考えた通り廣井さんがどう思ってるかは知らないけど、僕が褒めて味を占めたら大変だ。

あんまり誰彼構わず抱き着くようになれば、いつか危ない目に合ってしまうかもしれない。

 

 じゃあ他に何があるだろう。感覚。臭い。アルコール。駄目だ。お酒臭いしか出てこない。

こうなったら逆転の発想だ。お酒臭いからなんとか別の糸口を探そう。

なにかないかな。お酒、臭い、空気、空気? そうだ、僕は解放された時こう思った。

 

「……空気が美味しい?」

「えっ」

「解放された時の空気が、こう、なんというか美味しかったです」

 

 地下だけど江ノ島の時くらい美味しい。特に、変な臭いがしないところがいい。

正直な感想を伝えると、廣井さんと伊地知さんがずっこけた。

ずっこけたけど、その勢いのまま二人ともすぐに起き上がった。二人とも器用だ。

そして廣井さんは急にお酒を飲みだし、伊地知さんは神妙な顔になっていた。

ずっと黙っていた店長さんも似たような目で僕を見ていた。姉妹だからかそっくりだった。

 

 そんな事情聴取が終わると同時に、ひとり達もスタジオから出てきた。

ちょうど休憩時間か何かになったらしい。ひとりにあんな姿を見られなくてよかった。

三人ともすぐに、僕達のいるところへ近づいてくる。

 

「あっ、お、お姉さん、こんにちは」

「おーぼっちちゃん! 今日もぼっちって感じだねー!」

「えっ、あっ、はい、今日もぼっちです……」

 

 悪気は無いと信じたいけど、悪口にしか聞こえなかった。

事実、廣井さんを見て明るくなったひとりの顔が、また奈落に逆戻りした。

一瞬何でひとりがそうなったのか、廣井さんは気がつかなかったらしい。

だけどすぐに察して、慌ててひとりに駆け寄っていた。

 

「……あっ、ごめんね~ぼっちちゃん! あーよしよし、よしよーし」

「あうあぁぁあ」

 

 そう言ってひとりを抱きしめ、念入りに頭を撫でていた。

僕の時より抱き着き方も撫で方も深い。あれは色々と、相当辛いと思う。

助けようかと迷ったけれど、ひとりも廣井さんのことは慕っている。

本当に嫌だったらもう爆発か溶解しているはずだから、そっとしておいた。

 

 ひとしきり撫でて抱きしめて、廣井さんはひとりを解放した。

ぐるぐると目を回しているひとりを見て、なんだか満足そうにしている。

そうして観察している内に何か思いついたようで、そのままひとりに問いかけた。

 

「ねね、ぼっちちゃん、私に抱き締められたけど嬉しい? 何か感想とかある?」

「えっ………………………………………空気が美味しい、です?」

「分かる。変な臭いがしない、無臭ってところがいいよね」

「うん。あっ、江ノ島の頂上くらい美味しいです」

「そろそろ泣くよ?」

 

 ひとりと意見が合ったことで僕がはしゃいでいる横で、廣井さんが泣きそうになっていた。

そんな彼女に、今まで静観していた山田さんが近づく。珍しくその瞳は輝いていた。

 

「もしかして、SICKHACKの廣井きくりさんですか?」

「うん、そうだけど」

 

 ここまでの状況なんて何一つ気にしていない。山田さんは今日もマイペースだ。

そしてあまり見ない興奮した状態で、廣井さんに話しかけ続けていた。

 

「私、ライブよく行ってました」

「えっ」

「泥酔しながらのライブ、最高でした。顔踏んでもらったのもいい思い出です」

「あっ、うん。ありがとう」

 

 山田さんに、ファンに褒められているのに、廣井さんは釈然としない顔をしていた。

らしくない難しそうな顔で、山田さんの称賛に曖昧な相槌を打ち続けている。

何を悩んでいるのかは知らないけれど、大人しくなってくれたからよしとしよう。

 

 この隙に一つ確かめておきたいことがある。

そのために山田さんと廣井さんを放置して、僕は喜多さんに声をかけた。

 

「喜多さん、ちょっといい?」

「なんですか先輩?」

 

 返事の声色は明るい。笑顔は眩しい。今日も喜多さんは元気なように見える。

だからそのまま、僕は気になることを確認させてもらった。

 

「今日のひとり、集中出来てた?」

「はい、この間と全然違います! もしかして、先輩何かしました?」

「ううん、少し話しただけ。でもそっか、それならよかった」

 

 添い寝した日の翌朝、照れくさそうなひとりを見て大丈夫だとは思っていた。

思っていたけど、こうして喜多さんから報告を受けると安心感が違う。

彼女は僕が何をしたのか気になっているようだけど、言わないようにしよう。

この年になって兄と一緒に寝たなんて、ひとりも恥ずかしくて友達には知られたくないはず。

そうだ、ひとりがもう心配ないなら、喜多さんにも安心してもらわないと。

 

「ひとりはもう大丈夫だよ。だから、喜多さんもあんまり気にしないでね」

「…………えっ?」

 

 喜多さんが目を見開き何かを口にしようとした瞬間、ふいに僕の肩が掴まれた。お酒臭い。

それで分かった。廣井さんがいつの間にか、音も無く背後に立っている。

ぎょっとしている喜多さんを気にもせず、そのまま僕にそっと耳打ちしてきた。

 

「ねぇあの子、この間と反応が違い過ぎない?」

 

 勉強会の時と打って変わって、山田さんからの熱烈な歓迎を受けて混乱したようだ。

前に伊地知さんがしたと思うけど、ちゃんと理解してもらうためにもう一度説明しよう。

 

「試験勉強が終わったので、音楽の記憶を取り戻したらしいです」

「えぇ……」

 

 山田さんの生態に衝撃を受けて、廣井さんがまたお酒を飲み始めた。

このまま放置しておくと泥酔されて、今日呼び出された理由が分からなくなるかもしれない。

というか既に何もかも忘れている可能性もある。まずは話すだけ話してもらわないと。

 

「それで今日は、どんな用事があったんですか?」

 

 僕の言葉に、廣井さんは今思い出したとでも言わんばかりの顔をした。

本当に忘れていた。言ってよかった。酔っ払いに呼ばれるだけ呼ばれて終わるところだった。

 

「あっ、そうそう! この間皆の勉強邪魔しちゃったでしょ。そのお詫びに来たよ!」

「自覚あったんですね」

 

 伊地知さんの鋭いツッコミも気にせず、廣井さんは懐に手を突っ込んだ。

そこから五枚、何かチケットのようなものを取り出し、高く掲げた。

とても自慢げで誇らしそうな、明るい顔をしている。顔は赤い。今日もまだ黄色じゃない。

廣井さんがあれだけ嬉しそうにしている、ということはビール券か何かかな。

 

「お詫びとして、じゃーん! 私たちのライブのチケット、あげるよ!!」

「わぁ、ありがとうございます。これ、いつ開催ですか?」

「今日!」

「急ですね!?」

 

 ライブのチケットだった。僕も忘れていた。廣井さんはお酒の人じゃなくて、音楽の人だ。

それにしても喜多さんの言う通り急な話だ。あれ、今日? 今日なのに廣井さんここにいるの?

もらったチケットを見る。彼女の言った通り、今夜開催予定だ。ライブ直前って忙しいんじゃ。

 

「これからライブなのに、今ここにいても大丈夫ですか? 打合せとか、色々」

「……リハーサル、もう始まっちゃってるねー」

「……ライブハウス着いたら、謝りに行きましょうね」

 

 僕達にチケットをプレゼントするために、廣井さんはリハーサルに参加出来なかった。

そういうことにしておこう。酔いとかど忘れとか、そんな訳ないよ、きっと。

 

「えっと、いくらですか?」

「いいよいいよ! お詫びなのにお金取るって変でしょ?」

「でも、廣井さんからタダでもらうのは申し訳ないですし」

「え゛っ」

 

 普段辛辣な伊地知さんに優しく声を掛けられ、廣井さんは動揺していた。

財布を取り出す伊地知さんと喜多さんを止めることも出来ず、ただ慌てている。

そしてその気持ちをそのまま僕にぶつけてきた。

 

「ね、ね、私って、そんなに貧乏に見える?」

「事実貧乏ですよね。この間焼肉行った時、お金持ってなかったし」

 

 あの時は驚いた。何を思って僕の事を誘ったのか。今でも理解が追い付かない。

僕がお金を持ってなかったらどうするつもりだったんだろう。

そういえば大槻さんはあの時、廣井さんが金欠でも特に反応していなかった。

あれを思うと廣井さんが万年素寒貧なのは、新宿的には常識なのかもしれない。

 

「は? お前あの時こいつにたかったのか?」

「…………子供の金で酒を飲む。それもまた、ロックですよね」

「黙れクズ」

 

 しみじみと、大人として最低なことを廣井さんは言っていた。

それを見る店長さんの視線は、氷よりもはるかに冷たい。

振り返って僕を見る。その目は反対に暖かいものに変わっていた。そのまま頭を下げられる。

あの日廣井さんを頼んだことを申し訳なく思っているのだろう。

その姿は山田さんのことで謝る伊地知さんを彷彿とさせた。姉妹だなと思った。

こんなところで血のつながりを感じたくなかった。

 

「で、他になんかある?」

 

 気を取り直して、腰に手を当てた店長さんがその場の全員を見渡した。

ここでお金の沙汰を下してくれるみたいだ。さすが店長さん、頼りになる。

お金のこと、何かあったかな。記憶を掘り下げるのと同時に、ひとりがおずおずと手を挙げた。

顔は青く、手は震えている。それでも勇気を出して話してくれた。

 

「え、えっと、路上ライブの日、お兄ちゃんが電車賃、貸してました」

 

 しかも僕の事だった。僕のために頑張ってくれた。お金とかどうでもよくなるくらい嬉しい。

それにしても電車賃か。そういえばそんなこともあった。確か、ライブの日に返すと言っていた。

ライブ前は気にする余裕なんか無かったし、終わった後も大槻さんと廣井さんで手が一杯だった。

今思い返すとお金を返すって言った日に返さずに、そのまままた奢られようとしていたのか。

恐ろしいほど図太い根性だ。何も考えてないのかもしれないけど、ここまで来ると尊敬する。

 

 僕が廣井さんの性根に恐れ入っていると、伊地知さんが小さく声をあげた。

何か思い出したらしい。そして山田さんが目を逸らした。山田さんの借金のことらしい。

 

「そういえばリョウ、エスカー代は?」

「……それは今度奢るよ」

「あっ、あと、カレー代……」

「………………………………」

「山田さん?」

「ごめんなさい」

 

 山田さんはどこかでひとりにも借金をしていたようだ。そんな気はしてた。

借金を重ねているベーシスト二人を見て、店長さんが深く深く、重いため息を吐いた。

そして床を冷たく指差し、呆れ果てた目で債務者達に告げる。

 

「おらクズども、ちょっとここに並べ」

 

 こうして店長さんの計らいもあって、めでたく借金は清算された。

 

 

 

 廣井さんのライブのために新宿FOLTへ行く。

他人ばかりの、行ったことのない場所へ行く。なんの対策もなしに行けば大惨事になるだろう。

となるとまた何か変装をしないと。今日はどうしよう。どんな変装がいいのかな。

僕が考え始めると同時に、伊地知さんが同じ話題を振ってきた。

 

「後藤くん今日も変装するんでしょ? この間みたいに、帽子とサングラスにする?」

「あれ喜多さんのだったし、僕も持ってきてないんだよね」

「持ってますよ!」

「えっ」

 

 にこやかに喜多さんは、どこからともなく帽子とサングラスを取り出した。

なんで、どこに、疑問は多く浮かぶけど口に出せない。喜多さんも時々分からない。

だけど彼女はああでもと続け、誤魔化すように苦笑いしてから、それらをまたどこかへしまった。

 

「夜だとサングラスは危ないですね」

「あっじゃあお兄ちゃん、またカツラと眼鏡にする?」

 

 そう言ってひとりが変装セットを手渡してくれた。

キノコ眼鏡下北マン。今のところ誰も気絶させていない変装だ。

結束バンドの時もなんとかなったし、これが一番無難かもしれない。

 

「おぉ、魔王ナイトフォーム」

「何だその名前」

 

 そうして皆で僕の変装方法について話し合い始めた。いつも迷惑をかけて申し訳ない。

ただ一人、ぽつんと置いてかれた廣井さんが不思議そうに僕達を見ていた。

 

「えっと、君たち何してるの?」

「あっ、お兄ちゃんの変装をどうするか決めてます」

「変装? あー、そういえばこの間もそんなことしてたね」

 

 キノコキノコと思い出したように、楽しそうに呟く。

そして突然、僕からカツラと眼鏡を剥ぎ取った。変装が解かれてしまった。

これじゃただの魔王だ。このままだときっと被害者が出る。何をするんだろう。

僕の抗議の視線を感じ取ってなお、廣井さんは笑顔のままだった。

 

「大丈夫だよー、皆君のことなんて見ないって!」

「いや、でも」

「平気平気、ライブ中は絶対大丈夫! お姉さんたちのこと、信用してね!」

 

 そう言って笑う廣井さんの目には、一点の曇りも無い自信が浮かんでいた。




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