ぼっちの兄もまたぼっち   作:差六

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第六話「クリスマスライブ後」

 スターリークリスマスパーティー兼クリスマスライブ打ち上げ兼星歌さんの誕生日パーティー。

三重におめでたい席で、しかも友達と過ごす初めてのクリスマスパーティー。

ひとりのテンションと緊張が高まるのも当然で、それは見た目にも表れていた。

どこかで見た星形のサングラスによく分からない襷。やる気に満ちていて微笑ましい。

けれどそれらを着用したまま参加するのは、少しだけ問題があるように思えた。

 

「ひとり、サングラス着けたままだと食べにくくない?」

「じ、実はちょっと。暗くて見にくい」

「だよね。襷も汚れちゃうかもしれないから、一緒に外しておこうか」

「あっうん。そうする」

 

 ひとりは緊張すると不器用になるから、視界まで悪いと色々汚してしまうかもしれない。

いそいそと外した物を受け取ってギターケースに入れていると、なんだか熱い視線を感じた。

リョウさんが僕、というより僕の皿の上に残るポテトをじっと見ている。微動だにしない。

今の今まで僕以外が凄い勢いで食べ進めていたから、もう残っているポテトはこれだけだ。

 

 あんなに食べたのにまだお腹空いてるのかな。それとも、もう体力が無いのかな。

新宿から戻る時からそうだったけど、生気を感じなくて酷く疲れているように見える。

あれでリョウさんは結構繊細な方だから、今日のライブはかなり緊張したのかもしれない。

 

「リョウさん眠そうだけど平気? あっちで仮眠取る?」

「大丈夫、今は眠気より食い気。今日は食い溜めの日だから」

「そっか。じゃあたんとお食べ」

「わーい」

 

 残ったポテトを半分渡すと、両手を挙げて喜んだ後その手で食べだした。

今日も気持ちいいくらいの食べっぷりだ。生きるために食う、という決意がとても伝わる。

ほっこりした気分になっていると、大槻さんもまた僕へと鋭い視線をぶつけていた。

 

「大槻さんもまだ食べたいの?」

「いらない。そんなにポテトばっかり食べてられない」

「じゃあピザ食べる?」

「そっちもいい。というかどんだけ食べさせたいの? 貴方親戚のおばちゃんか何か?」

「大槻さん細いから心配になって。もっと一杯食べた方がいいよ」

「親戚のお婆ちゃんか何か? というかそれセクハラだから」

「そうなんだ。ごめんね、次から気を付ける」

「私以外に言ったらビンタよビンタ」

 

 そんなことを言われると気になってしまう。好奇心のまま傍らのひとりに試した。

 

「……ひとり、ピザ食べる? もっと食べて大きくなろうね」

「あっうん。ありがとう」

「リョウさ」

「食べる」

「大槻さん、言ってみたけどビンタされないよ?」

「安心しなさい、今から私がするから」

 

 僕の座るテーブルにはひとりとリョウさん、そして大槻さんが同席している。

最初はこの組み合わせで大丈夫かなと心配していたけれど、今のところ穏やかに過ごせていた。

僕以外とはお互い誰もまったく何も話していないことなんて些細な問題だ。気にしない。

 

「後藤先輩、内田さんが呼んでますよ~」

 

 そうしている間に内田さんからとうとうお呼びがかかった。あの話の時だ。

入念な対策をするために、隣でチキンを食べ進めているひとりに声をかける。

 

「じゃあひとり、ちょっと手伝ってもらってもいい?」

「うん。グレート完熟マンゴーの出番だねっ」

 

 そうして全身をダンボールに包まれていると、喜多さんが白い目で近づいてくる。

呼んでも来ないから直接声をかけに来たらしい。申し訳ないけどまだ準備が出来ていない。

 

「……いや、何してるんですか?」

「見ての通り、グレート完熟マンゴー装着してる」

「いや何してるんですか?」

「ぐ、グレート完熟マンゴーに搭乗してます?」

「言い方の問題じゃないのよ」

 

 彼女が言いたいのは、なんでグレート完熟マンゴーを、ダンボールを着込んでいるかだろう。

他人事なら僕だって馬鹿らしいと思う。だけど僕には切実な理由があった。

 

「いつもの気絶対策だよ。喜多さんにもこの間、記者の人で見せちゃったでしょ?」

「……あれ見た以上もう疑いませんけど、でもサングラスとかで十分なんじゃ」

「今日はちょっと自信が無いから」

 

 これからどうなるか、はっきり言って内田さんとの過去次第だ。

よくない過去であれば僕の心証は大きく下がる。つまり、彼女を気絶させる可能性が高まる。

連鎖的に長谷川さんと本城さんを傷つける可能性もまた、大きく上昇してしまうだろう。

 

 いつまで経っても来ない僕達にしびれを切らしたのか、内田さんもこっちにやって来た。

 

「魔王様どうされたんですか~?」

「待たせてごめんね。念のために気絶対策してるところ」

「あぁでしたら、この子達をお持ちください~」

 

 そう言って彼女が差し出してきたのはあの人形達、ルシファーとベルフェゴールだった。

言われるがまま二人を抱えると、彼女はにっこりと笑みを深めて満足そうにしている。

 

「こうしてだっこしてると、威圧感が減るから平気ってことかな」

「そうではなくて~、この子達の闇パワーで魔王様のアレが和らぐと思います~」

「や、闇パワー……」

 

 ひとりが戦慄したように呟く。どちらかというと、僕のアレ扱いのが引っかかる。

命名されても困るけど、内田さんからしてもアレとしか言いようが無いのか。

 

「なら内田さん、少しの間お借りします」

「いえいえ~、ではよろしくお願いします~」

 

 そう言って彼女は僕の横に腰を降ろした。そしてにこにこと楽しそうな笑顔を向けられる。

この感じだと不安に思わなくてもよさそうだ。暗い過去ならきっとこんな笑みはもらえない。

どうやって切り出そうかなと考えていると、向こうのテーブルからぞろぞろ皆がやって来た。

 

「後藤くんに昔の知り合いなんていたんだねー」

「幽々の知り合いっていうのも中々レアっすから、私らも驚きっす」

「どんな話が出てくるのかなー。楽しみだね、はーちゃん!」

 

 いやなんで? こっちとは違って、向こうのテーブルは真っ当に盛り上がっていた。

わざわざ僕の話なんて聞かなくてもいいはず。むしろ聞いて欲しくない。確実に恥ずべき話だ。

なんとか戻ってもらおうと考える僕の肩を、星歌さんが優しく叩いた。

 

「諦めろ。こういう時の女には逆らわない方がいい」

「というか星歌さんも来るんですね」

「……誕生日会で放って置かれるとな、いつも以上に惨めな気持ちになるんだよ」

「ごめんなさい」

 

 

 

 ライブ終了後に話す予定だった、僕と内田さんとの過去について。

あの時あそこで会ってました。そうなんだ、覚えてなかった。ごめんなさい。

そのくらいで終わると思っていたのに、変に大事のように扱われている。

 

 この感じだと梃子でも動かなそうだ。それに数でも負けてる上に、相手は全員女の子。

僕が口で勝てる道理も無い。だから星歌さんの言う通り観念して、この中で話を進めるほかない。

 

「それで内田さん、僕達ってどこで会ったのかな?」

「これを見れば思い出していただけるかと~」

「……ファイル。中見てもいい?」

「どうぞ~」

 

 ファイルを開くと、中には幾何学的な文字や図形、星図や陣などが書き連ねられていた。

その合間を縫うように、見慣れた筆跡で日本語が書き殴られている。昔の僕の字だ。

思い返して、そうじゃないかなとは考えていた。予想通り、僕が彼女と会ったのは中学生の頃だ。

 

「……そっか。あの頃なら絶対に覚えてないな」

「え、ちょ、ちょっと、もう分かったの? 結局どういう関係?」

「えっと、買い手と売り手かな。これ、僕が作った写本」

「写本っすか?」

 

 日常生活では中々出てこない言葉だからか、長谷川さんが不思議そうにオウム返しをしてくる。

そこの説明からしようか。こうして囲まれた以上、周りにも分かるよう話した方がいい。

 

「前虹夏さんに、占いに興味を持ってた時期があったって話をしたと思うけど」

「あぁうん。文化祭の時の」

「あれ半分しか言ってなくて、本当はオカルト全般について調べてたんだ」

「へー、なんでそんな誤魔化すようなこと?」

 

 こういう時は論より証拠だ。そっと視線をテーブルの反対側へと向けた。

すると釣られて皆の視線も同じように動いていく。そこには興奮を露わにするリョウさんがいた。

 

「ま、魔王の黒魔術……!?」

「こんな反応されるから」

「なるほど。ごめん、続けて?」

 

 無事疑問も解けたようだから、説明を続けよう。

 

「それで色々集めてたんだけど、興味が尽きた頃処分に困っちゃって」

「興味本位なんですけど、どういうものがあったんですか?」

「本当に色々ですね。占い用の水晶とかカードとか、あとは魔導書とか」

「水晶……!」

 

 語っている途中、水晶のあたりから本城さんが興味に目を輝かせた。

あの頃二人で立てた、女の子は大抵占いが好き説は当たっていたのかもしれない。

今のひとりなら自分から話しかけて、友達作りに利用出来るかも。今度提案してみよう。

 

「あっそれを買ってくれたのが」

「私です~」

 

 にこにこと内田さんがファイルを持ってアピールしていた。

 

「おかげでサタン様との繋がりが強くなってもっと力をいただけました~」

「改めて、あの時は怖がらせてしまってごめんなさい」

「いえいえ~、魔王様に地獄へ落とされたのも今ではいい思い出ですから~」

「どんな会話よ」

 

 真っ当極まりない大槻さんのツッコミは無視。今拾うと横道に逸れる。

 

「基本ネットのやり取りで済ませてたんだけど、魔導書の時に一回だけ会って取引したんだ」

「魔導書? 後藤くんがわざわざ会うって、そんなに高いものなの?」

「金額もあるけど、何より古くて貴重品だったから。間に誰かが入ると取り扱いが心配で」

 

 金額も当時価格で数十万は超えていたはず。ちょっとした手違いが大きな問題になりかねない。

だから一番酷い頃の僕でも取引先、内田さんと会うという決断をした記憶がある。

そうして対面で七回気絶させた後、無事に交渉は終わった。無事の意味が分からない。

ちなみにこの時のお金は、全部ギターヒーローの機材代へと消えた。ひとりにはもちろん内緒だ。

 

「よくそんなの持ってたね。どうやって買ったの?」

「買ってないよ。誕生日に道端で知らないお婆さんから、捧げものですって渡された」

「ヤベー奴だ!? えっなんで受け取ってるの、断りなよ!?」

「それが僕に本を差し出した瞬間気絶しちゃって。しかも起きたら起きたで記憶喪失になってて」

「えっ」

「それで警察に保護をお願いしたら、その人数年前に神隠し事件にあった人らしくて」

「えっ」

「ご家族の方は感謝してくれたけど、本とその人がどこから来たのかは分からなかったらしくて」

「えっ」

「家族の方はもちろん、警察も本のことは気味悪がってたから僕が引き取った。いい話だよね」

「どこが!?」

「家族が待っててくれてたあたり? それでそろそろ不味いなと思って、オカルトはやめた」

「もう手遅れでは? えっ大丈夫なの、なんか色々危険じゃない?」

「大丈夫です、魔王様には凄いものが憑いてる、いえもう魔王様が凄いことになってるので~」

「らしいよ。安心だね」

「どこが!?!?」

「…………………………なぁ、私の誕生日会で怖い話するのやめてくれないか?」

 

 他にもこの本に纏わる話はたくさんあるけれど、星歌さんの鶴の一声で中断となった。

夏場にするような内容だ。間違っても誕生日会にするものじゃないから、打ち切りは当然だった。

 

 

 

「え、え~では、そろそろ店長さんへのプレゼントタイムに移りまーす!」

 

 僕が壊してしまった空気を直すかのように、喜多さんがマイク片手に宣言した。

声に釣られて彼女の方を向くとすぐに目が合う。そしてパチリとウインクをくれた。

いつも喜多さんには助けられっぱなしだ。今日のも含めて、いつかまとめてお礼をしよう。

 

 その喜多さんはハーバリウムと花のリップを星歌さんにプレゼントしていた。

トップバッターというハードルを容易かつ見事に突破していた。さすが喜多さんだ。

星歌さんもおしゃれなものをもらって、なんだかんだ言いながら頬を緩めている。

 

「じゃあ次はリョウ先輩、お願いします!」

「……陛下、プレゼントって大事なのは、値段じゃなくて気持ちだよね」

「胸を張ってそう言えるなら、それはその通りだと思う」

「ぐっ、よ、用意してきます……」

 

 良心の呵責に負けたリョウさんが席を立ち、スターリーの外へ飛び出した。

お金も考えも無さそうだけど大丈夫かな。隣のひとりも心配そうに入口を見つめている。

 

「あっリョ、リョウ先輩行っちゃいましたけど、大丈夫でしょうか?」

「平気平気。どうせなんかエピソード付きの雪だるまとか作って持ってくるだけだよ」

「えぇ、やめてよそういうの。可哀想で捨てられなくなるだろ……」

 

 そんな虹夏さんの予想を裏切るように、数分もしない内にリョウさんは戻って来た。

気持ち顔をしかめながら、肩を組んだプレゼントを誇るように星歌さんへ見せつける。

 

「じゃーん、店長の可愛い後輩をプレゼントでーす」

「うええぇぇぇぇぇえ!! やっぱここにいら~! わたひずっとまってたのに~~!!」

「捨ててこい」

 

 にべもなく切り捨てられて、廣井さんは床に転がり駄々をこねた、そしてそのまま寝た。

いったい何しに来たんだろう。分からないけど、とりあえずタオルケットをかけておいた。

なおさっきまで会場にいなかったのは、円滑な進行のため今日は呼ばれなかったから。無情だ。

 

「……あー、じゃあ次後藤くん」

 

 アルコールで再び壊れた雰囲気を戻すため、虹夏さんが司会を続ける。僕の番だ。

 

「虹夏さん、実はひとりと合作のプレゼントだから、二人一緒でもいいかな?」

「合作ってことは、何か手作り? よかったね、お姉ちゃん!」

「……まあ、うん」

 

 星歌さんは自分の毛先をくるくると指に巻いて、机を見ながらそっけなく答えていた。

僕達のプレゼントに期待と喜びを感じてくれているらしい。まだ何も渡していないのに嬉しい。

額面通りに受け取り顔を青くするひとりを促して、二人で星歌さんの前まで歩いた。

 

「星歌さん、誕生日おめでとうございます。そしてありがとうございます」

「お、おめでとうございます。あっありがとうございます」

「あぁこっちこそ、いや待て、ありがとうってなんだ?」

「誕生日って無事に一年過ごせたお祝いと、生まれてきてくれたことへ感謝する日ですよね?」

「後藤家クソ重いな……」

 

 表現の仕方さえ間違えなければ、感謝や親愛はどれだけ大きく重くてもいいと思う。

お礼もプレゼントも誕生日に送って当然だ。今日の表現は何一つ間違えていないはず。

そんな自信に満ち溢れながら、僕はひとりの背中を押した。渡すのは僕じゃなくひとりだ。

頭を下げてプレゼントを掲げている姿は、まるで賞状か何かを手渡すみたいだった。 

 

「ど、どどどど、どうぞ!」

「二人ともありがとうな。開けてもいいか?」

「ど、どどどど、どうぞ!」

「……ぼっちちゃん、大丈夫?」

「ど、どどどど、どうぞ!」

「星歌さんが開ける間に直しておきますね」

「お、おう」

 

 緊張のあまり壊れてしまったひとりのほっぺをぐにぐにと触り、意識を現世に呼び戻す。

抗議の視線を送れるほど復活する頃には、ちょうど星歌さんも中身を机の上に並べ終えていた。

彼女が丁寧に丁寧に置いてくれたのは、僕達が作った動物のあみぐるみ達だ。

 

「これはぬいぐるみ、いやあみぐるみか?」

「はい。こういうのが好きだって以前伺ったので、二人で作りました」

「別に、好きって訳じゃ」

 

 もにょもにょと星歌さんが何かを呟くけれど、目はあみぐるみから離れない。

かなり気に入ってくれたようだ。だからひとりはそんなに怯えなくてもいいよ。

 

 星歌さんは机に手と顎を乗せ、じーっとあみぐるみ達を眺め続ける。

黒いギターを抱える猫背のピンク色の虎。アホ毛が特徴的なドラムの前に座る黄色い兎。

明るい笑顔でマイクスタンドを持つ赤い犬。愛嬌のあるクールな表情でベースを掲げる青い猫。

僕達の作ったそれらをひとしきり観察した後、彼女はその体勢のまま僕を見上げた。

 

「デフォルメ効かせてるけどこれ、結束バンドだよな」

「やっぱり分かりますか? いざ作るとなると迷ってしまって、つい」

「お前が作りそうなものって考えたら、まあ分かる」

 

 もの作りは音楽と同じく、精神の発露の一種だと僕は考えている。

だからそもそも苦手なのもあるけれど、適当に作ればきっととんでもないものになる。

なので僕が好きで大切にしたいもの、そして星歌さんも同じように思っているもの。

共通して大事な結束バンドをモチーフにさせてもらい、今回はあみぐるみをひとりと作った。

 

「はー可愛く出来てるねー。これ私たちなの?」

「うん。この虎がひとりで兎が虹夏さん。喜多さんが犬でリョウさんが猫」

 

 ちなみに誰がどの動物かは、ふたりと一緒に動物図鑑を見ながら決めた。

なお、ひとりだけは僕が選び直した。いくらなんでもダンゴムシは悲しいものがある。

次点はツチノコだった。一応そっちは作ったけれど、あれは今日もふたりの枕元にある。

 

「だからこの間、私たちのこと人形にしていいか聞いてきたんだね」

「正直、お前も蠟人形にしてやろうか、みたいな意味かと思った」

「蠟人形は作ったことないなぁ」

「ツッコむところそこですか?」

「でも興味はあるから、今度リョウさんで試しに作ってみてもいい?」

「しょうがない。陛下のためなら一肌脱ごう。取り分は七三ね」

「売り物じゃないからゼロゼロになるよ」

「ツッコむところそこですか?」

 

 物が物だからか、結束バンドの皆がプレゼントの周りに集まって来た。幸いなことに好評だ。

今も熱心にあみぐるみ達を見つめる星歌さんの上から、興味深そうに覗き込んでいる。

 

「後藤くんはともかく、ぼっちちゃんも編み物出来たんだね」

「あっはい。で、でも、お兄ちゃんにたくさん手伝ってもらったので」

「最初だけだよ。途中からは一人で上手に出来てた。焦らなければひとりは器用な方だから」

「確かにどれをどっちが作ったのか、見ても全然分かりませんね」

「ひとりと虹夏さんは僕が作って、喜多さんとリョウさんはひとりが作ったよ」

「ほほう。ちなみに、その分担の理由は?」

「ひとりが自分を作ると大変なことになるのと、虹夏さんは一番難しいから」

 

 ひとりに任せると虹色の虎が出てくる可能性が高い。もしくは大阪のおばちゃん系の虎。

そして虹夏さんは頭頂部の髪、あの特徴的なアホ毛の再現がやたら難しかった。

謎の躍動感と生命力を表現するのに、おおよそ製作時間の八割は持って行かれた気がする。

 

 ほーとかへーとか、感嘆と喜びを漏らしながら、星歌さんはあみぐるみ達を眺め続けていた。

その様子を見ていると、なんとなくはしゃいでいる時のふたりを思い出す。失礼だからやめよう。

頭を振って自分を誤魔化していると、星歌さんがふと気づいたように声を上げた。

 

「ところで、四人だけか?」

「えっと、練習で作ったギタ男君なら家にありますけど」

「ギタ男君って何? それじゃなくて、ほら、もう一人いないのか?」

 

 ひとりのイマジナリーフレンドです、とはさすがにここでは言えない。

ギタ男君はともかくもう一人。もしかして、自分も人形にして欲しかったんだろうか。

確かに星歌さんあってのスターリーで、スターリーあっての結束バンドだ。

こうなることを予想して、ちょっと大きめの兎を作っておくべきだったかもしれない。

 

「あっあの!」

 

 また作って今度持ってこようか、なんて考えていると、ひとりが星歌さんに声をかけた。

慣れてないから必要以上に大きい。当然注目を集めたけれど、それに負けずに言葉を続けた。

 

「こっ、これも一緒にお願いします!」

 

 そう言ってひとりが出してきたのは、ピンク色の本を抱えた黒い虎だった。

 

「ひとり、それは」

「せっかく作ったならそれも貰っとくよ。ありがとうぼっちちゃん」

 

 僕が何かを言う前に、星歌さんがひとりの手からあみぐるみを受け取る。

そのまま結束バンドのあみぐるみ達が並ぶテーブルへ優しく置いた。意味深な行動だ。

思わず非難の目を向けようとするも、頭の上に手を置かれてしまった。読まれている。

こうなると、苦し紛れの言葉以外何も返せない。それ以外は汚い言葉しか思い浮かばない。

 

「……虎が二体だと、バランス悪くないですか? 一体で十分です」

「こっちの方がしっくりくる。少なくとも、私はそう思ってるよ」

 

 優しくて温かくて、見透すような言い方だった。だから僕は黙るしかなかった。

 

 

 

 僕の内心はともかくプレゼントの時間は無事終わり、再び歓談が始まっていた。

いつまでも引きずっててもしょうがない。今はめでたい席、気持ちを切り替えよう。

 

「そういえば、ライブの方はどうだったんだ?」

「ふふん。ライブはね、みんな大盛り上がりでモッシュにダイブにサークルまで出来てね」

「へーそりゃ凄い。それで一人、どうだった?」

「お姉ちゃん!?」

 

 何の感情も籠っていない相槌を打ってから、星歌さんは僕へと問いかけてくる。

虹夏さんの言葉は一から十まで噓八百だったからしょうがない。星歌さんならそれくらい分かる。

とはいえ聞かれた僕も、正直なところ返事に困る。あまり盛り下げるようなことは言いたくない。

 

「……この間のスターリーでのライブより、またよくなってたと思います」

「あんま甘いこと言うなよ。こいつら本気にするぞ」

「僕も本気です。緊張はありましたけど、それ以上に成長が見えました」

「そうかなぁ。いやぁ、褒めてもらえるとやっぱり嬉しいねー」

「ですです! もっと頑張るぞーってなりますね!」

 

 長々と語る場じゃないから手短に済ませたけれど、それでも喜んでもらえた。

ほっと一息吐いていると、にやりと星歌さんが意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「ほーん。じゃあ点数にすると?」

「えっ」

 

 嫌な聞き方だ。でも言うしかない。

 

「……三十点くらい?」

「赤点!?」

 

 絶対評価と相対評価は大きく違う。ついでに主観と客観はそれ以上に違う。

ファン目線ならともかく、メジャーを目指すというラインで見るなら全然足りない。

僕の採点に虹夏さんは机に突っ伏して、懺悔でもするかのように星歌さんへ打ち明けた。

 

「……………実は普通にアウェーで、いまいち盛り上がりに欠けてました」

「だろうな。まあ、初めての箱ならそんなもんだよ」

 

 慰めるように笑って、星歌さんは虹夏さんの頭を撫でる。僕のフォローをしてくれている。

いや、そもそもあんな聞き方されなければ言わなかったから、これってマッチポンプじゃ。

釈然としないでいると、突然大槻さんが立ち上がって、雪崩もかくやの勢いで口を動かし始めた。

 

「え、演奏の出来とライブの盛り上がりは別だから! リハーサルの時は心配したけど本番は前の時よりずっとよくなってたし! 初めての箱なんて緊張でガタガタになるところもあるのに貴方達はしっかりと実力を発揮出来てたし! それに盛り上がりに欠けてるとか言ってたけど大体どこも最初はそんなものでしかも気づいてなかったみたいだけど意外とノってる観客もちらほらいたしそれだけ出来ればまあ今の貴方達なら上出来だと思うしそこで満足しない向上心はいいんじゃないかしら今回も気になるところはまとめておいてあげたからあとで聞いて直しておけば次のライブはきっともっと」

「長谷川さん、これは?」

「あー魔王さんが楽屋から出て行ったあと、ヨヨコ先輩皆さんの背中押してたんすよ、大丈夫だーいけるーって。んでこれだったんで、責任感じてんじゃないかなと」

「なるほど、勉強になります」

「貴方たちは何を言ってるの!?」

「あっ大槻さん飲み物どうぞ。今日もたくさん話してくれてありがとう」

「貴方私の話いつも聞かないわね! 飲み物ありがとう!!」

「なんでこの人達お礼言い合ってるんすかね?」

「さあ?」

 

 よく分からないけど上手く回っているから、これが僕達なりのコミュニケーションなんだろう。

 

「でも、今日あそこで演奏させてもらえてよかったよ。今の私たちじゃ絶対出来ない経験させてもらえたから。おかげで目標までの道筋が見えたというか、近づけた気がする」

「目標ってなにー?」

「実は未確認ライオットっていうフェスに出場したくて。この間、記者の人が来たんだけど」

 

 それから虹夏さんは、佐藤さんが来た日のことについて語り始めた。

ひとりの、ギターヒーローのことは上手いこと濁してくれている。今日も虹夏さんは優しい。

僕はまだSIDEROSの人達を信用出来ていないから、その心づかいが嬉しかった。

 

「うわぁ失礼な話っすね」

「まぁ図星というか、正論なところもあったから。それにその後後藤くんがボコボコにしてたし」

「ぼ、ボコボコ? や、やっぱり魔王様って呼ばれるだけはあるっすね……」

 

 また一歩引かれた気がする。多分一番距離が近かったのは、新宿の楽屋で挨拶した時だ。

その様子を見た虹夏さんは、慌てて僕のフォローに回ってくれた。その気持ちだけで十分だ。

 

「あっもちろん手は出してないし、悪口とかも言ってなかったよ。ただ、だからこそというか」

「先輩のこと怒らせたくないなって心底思いました」

「あれは心折れる」

「いったい何言ったんすか……?」

「……人の振り見て我が振り直せ?」

 

 一言でまとめるとそうなる。ただやっぱり納得出来ないようで、彼女は首を傾げたままだった。

同時にひとりも同じようにしながら、不思議そうな顔で問いかけてきた。

 

「あっあれ、お兄ちゃん、あの時怒ってたの?」

「……怒るというか、迷惑だし面倒だから、早く帰って欲しいなって思ってた」

「あれでイラつくレベルだったのか……」

 

 ひとりにバレないよう誤魔化したけれど、実際怒りまでは届かなかった覚えがある。

失望や軽蔑、呆れとかの方が恐らく近い。いずれにしても、どれも口にする必要は無い。

汚い、攻撃的な気持ちなんて表に出さない方が絶対にいい。嫌な気持ちになるだけだ。

 

「言い損ねてたけど皆、あの時はごめんね」

 

 だけどこっちは出した方が、いや出さなければいけない気持ちだ。

 

「結束バンドのためにはもっと穏便な対応をすべきだったのに、乱暴にしちゃったから」

「……安心しました。実は私たちガッカリされちゃったのかなーって心配しちゃって」

「ちょっと喜多ちゃん」

「それは無いよ。僕は皆も、皆の音も好きだから。これはきっと、ずっと変わらない」

 

 そこまで言うと、虹夏さんがなんだかニヤニヤしながら近くに寄って来た。

なんだろう。また何かからかってくるのかな? それならカウンターの準備をしておこう。

 

「そ・れ・じゃ・あー、マネージャーも、実はやりたかったり?」

「ひとり、グレート完熟マンゴー片づけるから手伝ってもらってもいい?」

「あっうん」

「無視!?」

 

 その後も音楽だったり学校だったり、何でもない雑談をしている内にクリスマスパーティーは終わった。

 

 

 

 その帰り道のことだ。駅までの道中で、大槻さんがいつものように突然大声を出した。

 

「結束バンド! 私たちも未確認ライオットに出るから!!」

 

 脈絡のない宣言に大槻さん以外がぽかんとしていた。SIDEROSのメンバーもだ。

独断なのかな。後で揉めなければいいけど。こっちも心配だけど、今は目の前のことだ。

誰の反応も無くて顔を赤と青にしている大槻さんのためにも、会話を動かさないと。

 

「よかったね、皆」

「……えっ、な、何が?」

「これでグランプリの条件、分かりやすくなったでしょ?」

 

 今度は僕の言葉に誰も反応してくれなかった。大槻さんも首を傾げて何も言わない。

お返しの助けは期待出来そうにないから、自分で補足の言葉を続けて話した。

 

「これからは大槻さん達を超えればグランプリだよ。ほら、ずっとシンプルになった」

 

 音楽には文字通り影も形も無い。分かりやすい正答も判断基準も無い。

だからグランプリを、一番を取ると言っても、明確な目標が今までは無かった。

だけどSIDEROSが出るとなれば話は別だ。これほど分かりやすい壁も無い。

 

「……今日のライブ見た後なのに、簡単に言ってくれるなぁ」

「元々簡単なことじゃなかったでしょ?」

「それはそうなんだけどさー」

 

 もう一度繰り返し、そうなんだけどさ、と言いながら虹夏さんは僕を小突いてきた。

真似するように喜多さんと山田さんも小突いてくる。コートの中のひとりまでもだ。

じゃれつく僕達を呆れた目で見ながら、大槻さんがいつものように髪を払ってから腕を組んだ。

 

「まあ、そうね。貴方たちがどこまで上がれるか、楽しみに」

「……つーかヨヨコ先輩、何でも勝手に決めるのやめて欲しいって、前も言いませんでした?」

「うっ」

「そういうところですっ! そういうところで皆辞めちゃうんですよ?」

「幽々はいいですけど~、ルシファーとベルフェゴールちゃんはご機嫌斜めですよ~?」

「うっうぅっ、す、すみません。で、出てもよろしいでしょうか……?」

「しょうがないっすねー」

「しょうがないなぁ」

「しょうがないですね~」

「はい、私はしょうがない女です……」

 

 ここが路上じゃなければ、大槻さんは正座でもしていたかもしれない。

そんな大槻さんと愉快な仲間達を眺めながら、虹夏さんがおかしそうに呟いた。

 

「大槻さんのワンマンバンドって噂だったけど、実際は全然違うね。ボコボコだ」

「所詮噂は噂だよ。当てになんてならない」

「……確かにそうですね! ね、伊地知先輩!!」

「そうだね。うん、そうだった。そんなこと、私たちもとっくに知ってたね」

 

 生暖かい視線を喜多さんと虹夏さん、そしてリョウさんからも向けられてしまう。

どこかむずむずするから視線を逸らしても、今度はひとりが気遣うように手を撫でてくる。

そうしてなんとなく居心地の悪さと気恥ずかしさを感じながら、クリスマスの夜は更けていった。




次回「めでたい赤とそうでもない赤」です。
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