ぼっちの兄もまたぼっち   作:差六

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前回のあらすじ
妹が補習になった。




第六話「そうぞうせいの欠如」

「あのね、結束バンドに今ギターボーカルがいないんだけど」

「うん」

「お兄ちゃんやらない?」

「やらない」

 

 そんな会話の数日後、ひとりからとある報告を受けた。

なんとひとりが自分でギターボーカルを探して勧誘したらしい。凄い。

同じ学校の喜多さんという子だという。聞き覚えがあるけど気のせいだろう。

しかも勧誘は成功して、無事に加入したとのこと。僕はこれから奇跡を信じることにします。

 

「ここ一か月くらいで見違えるほど成長したね」

「えっ、いやそんなこと、えへ、えへへへへ」

 

 全身から褒めて褒めてとあふれ出ていた。

今回は自分でもよくできたと思えたみたいで、承認欲求が爆発している。可愛い。

ひとしきり、十分くらいほめ続けていたら真っ赤になって溶けちゃった。とても可愛い。

でも話の続き聞きたいからさっさと復活させよう。凝固剤どこだっけ。

 

「ん゛ん゛、それで喜多さんは凄い陽キャで、こう、全身からキターンってオーラを出してるの」

「きたーん」

「うん、キターンって」

 

 きたーんって何? 陽キャってオーラ出せるの? 色んな物理法則に喧嘩を売ってる気がする。

でも考えてみたらひとりも陰のオーラをよく出すし、質量保存もよく無視する。

なんだ結構普通のことか。

人類の陽キャも似たようなことができるなら、逆説的にひとりも人類ってことになるな。

僕は理解を放り投げた。

 

「メンバーも揃ったから本格始動だね」

「うん、おれたち結束バンドの冒険はこれからだ!」

「終わっちゃう終わっちゃう」

 

 

 

 そんな風にひとりが輝いていたのが一週間くらい前のこと。

 

「お兄ちゃん、動画編集のやり方教えて」

「いいけど、作詞は?」

「……じゅっ、順調だよ?」

「そっか。じゃ、こっちきて」

 

 妹は現実逃避をしていた。

いつもしてると言えばそうだけど、今回は根が深い。

話はちょうど結束バンドのメンバーがそろった次の日まで遡る。

 

 

 

「お兄ちゃん作詞したことある?」

「……ないよ。創作系は苦手だから」

 

 帰り道、電車の中でひとりに突然聞かれた。

一から何かを作るのは昔から苦手だ。図工とかもずっと模写でやり過ごしてきた。

それにしても、急にこんなこと聞いてくるってことは。

 

「ひとりが作詞担当するの?」

「えっ、うん。作詞担当大臣になりました」

 

 そういうことらしい。ひとりが照れ笑いしている。

でもどこか誇らしげだ。作詞という大役を任せられたのが嬉しいのだろう。

僕もひとりのことが認められたみたいでとても嬉しい。

 

「そっか。図書室に通い続けた成果を発揮する時だね」

「うん! 九年間の積み重ねはこの布石だったんだ」

 

 いつもなら暗く振り返る昔のことも、今日は前向きに受け止めている。

バンドを組めるようになって本当によかった。伊地知さん達には足を向けて寝られない。

下北沢ってうちから見たらどっちだったっけ?

 

「完成したら僕にも見せてね」

「うん!」

 

 そして現在に至る。

ちょちょいのちょいと引き受けたのに、何も生み出せていない。

その現実から目を逸らし、ネットの世界に逃げ込もうとしていた。

でも最近投稿してなかったし、ちょうどいい機会かな。

結束バンドとしての活動も大切だけど、ギターヒーローも大事にしてほしい。

 

「編集って言っても、あんまりやることないんだけどね」

「そうなの?」

「うん。ギターヒーローの動画は、本当に演奏してるのをあげてるだけだから」

 

 精々始まりに曲名等々を付ける、終わりにチャンネル登録を促す。

手をつけるのはそれくらいで、残りは映っちゃいけないものが映ってないか確認するくらい。

一部の投稿者は色んな付加価値を考えて、動画作りを工夫している。

それも含めて一つの作品だし、中には僕でも感嘆させられるようなものもある。

だけど僕は、ギターヒーローの動画にそんな付属品を付けたくない。

ひとりの演奏は、それだけで誰かを感動させられる。僕はそう信じている。

 

「それはそれとして、やり方を知ってると便利かもね」

 

 出来ることが増えるのはいいことだ。

今は現実逃避の手段だけど、いつかどこかでひとりを助けるかもしれない。

なるべく分かりやすく、丁寧に教えるよう心掛けた。

 

「出来た!」

 

 五時間後、完成したのはエフェクト盛り盛り、眩しくてうるさいよくわかんない動画だった。

音はまったく弄ってないのになんかうるさい。

一度音量0にして再生してみる。凄い、何も聞こえないのにとんでもなくうるさい。

うっかりしてた。ひとりは盛れば盛るほどよくなるって考えだった。

 

 しかも動画コメント案がひどい。嘘100%だ。

ロインの友達1000人って。ここも盛るんだ。家族含めて六人くらいでしょ。

リア充っぽくしようとしてるエピソードも嘘くさい。タピオカの登場率がやたら高い。

飲んだこともないだろうに、どうしてここまで信頼してるのか。

僕が投稿関係担当していてよかった。父さんと母さんがこんなの見たら泣いちゃう。

 

「ボツです」

 

 長年温めていた自信作を捨てられたような顔をひとりはした。

というか実際温めていたんだろう。あの虚言を一瞬で考えたのなら、それはそれで心配だ。

僕だって断腸の思い、でもないな。躊躇の欠片もない。

こんなの投稿したらアカウントハックされたって思われる。

 

「息抜きはこの程度にして、作詞どうなってるか聞いてもいい?」

 

 更にもう一段階落ち込みそうだけど、聞くことは聞かないと。

気分は宿題について聞くお母さんだ。ここ数日捗った様子は見ていない。

中学時代の作詞ノート(呪詛)を確認したり、作詞の教材を読んだりはしていた。

 

 あと、思い出したくないけど、この間は部屋で踊り狂っていた。

あれは一体何がしたかったんだろう。どう見ても悪霊に憑りつかれている人だった。

久しぶりに父さん母さんと家族会議をした。

結果、今この部屋には盛り塩とお札がある。事故物件になってしまった。

それでも全然思い浮かばないようで、ノートの前で頭を抱える姿を何回も見ている。

 

「こ、こんな感じです」

 

 成果を見せてくれるらしい。ちょっと予想外。さっきみたいに誤魔化されると思ってた。

早速拝見。ぺらぺらとめくる。ふむふむ。なるほど。大体わかった。

 

「このサイン可愛くていいよね」

「あっお兄ちゃんもそう思う?」

「うん。今度色紙買ってくるから書いてほしいな」

 

 じゃなくて、歌詞読まないと。つい反応しちゃった。

もっとめくって歌詞のページにたどり着いた。たくさんの歌詞が並んでいる

何度何度も書き直した試行錯誤が伺えた。

 

「あれ、思ったより書けてる」

 

 僕の結構酷い感想にひとりは反応しない。

量の問題じゃない。歌詞の中身に納得いかないみたいだ。

よく読むと頑張れ、とか。夢は叶うよ、とか。前向きな言葉が多く散見される。

 

「青春応援ソング?」

「うん、喜多さんが歌うなら、こういう方向のがいいのかなって」

 

 喜多さん。オーラを放つ例の陽キャだ。

会ったことはないけど、想像もつかないほど明るい人らしい。

そんな人に合わせるなら、こういう歌詞になるんだろう。

あ、もしかして。

 

「この間の悪霊騒ぎはこのため?」

「あ、悪霊……うん。喜多さんの真似すれば、明るい気持ちが分かるかなって」

 

 嫌だけどよくよく思い出してみよう。

渋谷行く人とか、イソスタ映えとか、なんだか陽キャっぽいことを言ってた気がする。

てっきり、陽キャの幽霊にどこかで憑りつかれたのかと。

安心した。この部屋は事故物件じゃなかった。後でお札とかは回収しとこう。

 

「日本語も間違ってないし、歌詞としては成立してると思う」

 

 書かれた歌詞を全て読んだ。特に問題ないと思う。

ひとりらしくない歌詞ではある。前向きを言い訳に、明るい言葉を並べただけに見える。

でもこれは結束バンドの歌詞だ、ひとりのじゃない。

だからこの歌詞の良し悪しを、僕は判断できない。

僕の感想を聞いてもひとりの顔は曇ったままだった。

 

「納得してないんだよね」

「うん。む、無責任に頑張れとか書くと、動悸が止まらなくて」

 

 青春コンプレックスだ。バンド活動を始めてもまだ治ってなかった。

祝福、応援系の歌詞なのに、呪いを刻んだ人みたいになってる。

 

「僕は音楽関係のアドバイスなんて出来ないけど」

 

 昔はともかく、今は知識だってひとりの方が深いだろう。

 

「演奏でも作詞でも、ひとりが楽しくやれるのが一番大事だよ」

 

 上手いとか下手とか、いいとか悪いとかは全部どうでもいい。

これを聞いたら結束バンドの人達、ひとり本人だって怒るかもしれない。

それでも僕にとって一番大切なことは、ひとりが楽しんでやれることだ。

 

「だから、ひとりが納得できるまでやればいいと思う」

「お兄ちゃん……」

「あと、伊地知さん達に相談するのもいいんじゃない?」

「うっ、で、でも一週間経っても全然出来てないし」

「皆をガッカリさせたくないんだよね」

「うん、ちょ、ちょちょいのちょいって言っちゃったし……」

 

 本当に言ったんだ。

 

「大丈夫だよ。誰もひとりのこと責めないって。そんな人達じゃないでしょ」

 

 責めるような人ならきっと、もう結束バンドは解散している。

何分か悩んでからひとりは頷いた。相談を決意したみたいだ。

危険物か何かに触れるように、慎重に携帯に手を伸ばす。

まだ触れてすらいない。

それでも、自分から誰かへメッセージを送ろうとするひとりの姿に僕は感動した。

 

 そろそろ指先が届くかな、というところで携帯が突然震えた。着信だ。

メッセージが液晶に浮かぶ。決意に満ちたひとりの表情が凍り付いた。

そこにはこう書かれていた。

 

『明日お昼に下北駅集合だよ!』

 

 伊地知さんからのメッセージだった。

伊地知さんプロフィール画像アホ毛なのか、とどうでもいいことに気づいた。

駅集合ってことはどこかに遊びに行くのかな。

 

 ギギギ、と錆びた音をさせながらひとりが僕を見た。

あっ、また明後日の方向に強く思考を飛ばしてる。被害妄想だ。

 

「こ、これは、未だに歌詞を書きあげられない私を吊るし上げる会……!?」

「駅前でするの?」

 

 そんなことするならもっとそれっぽい場所を選ぶと思う。

一回しか行ってないけど、スターリーもそういう雰囲気あるよね。

だけど自分の妄想でいっぱいいっぱいのひとりは、僕の話を聞いてくれない。

ひとしきり頭を抱えてあわあわ言った後、勢いよく僕にしがみついた。

 

「お、おお、お兄ちゃん。明日ついてきて」

「いいけど」

 

 そういうことになった。

明日は同級生と妹をストーカーする日だ。捕まらなきゃいいな。

 

 

 

「ひとり、それいらない。絶対いらない。どこに隠してたの」

「え、でも、こういうのつけた方が良いんじゃ」

「本気の時でもいらない、むしろ本気の時の方がいらない」

 

 次の日、下北沢駅近くの物陰で僕とひとりはあるものを奪い合っていた。

ひも付きのフリップだ。『私は約束通りに歌詞を書き上げられませんでした。』と書かれている。

いつ作ったのこれ。今日少し眠そうだなって思ったけど、まさかこれのために夜更かししたの。

 

 必死の攻防により。無事没収出来た。改めてまじまじと見る。

本気で怒っている時にこれ付けて来られたら、逆に頭が冷える気がする。

そう考えると逆にありなのか。いや、今回は多分誰も怒ってないだろうけど。

名残惜しそうにフリップを見ているひとりはそっとしておく。これはあげません。

 

「あ、伊地知さん来たよ」

 

 僕たちがどたばたしていると、伊地知さんの姿が見えた。

今日も元気そうで何より、にこにことしていて機嫌もよさそうだ。

 

「ほら、全然怒ってないよ。むしろ楽しそう」

「も、もしかしたら私を吊るすのを楽しみにしてるのかも」

「魔王かな?」

 

 それは僕か。

あれが誰かを糾弾することを楽しみにしている顔なら、僕は二度と人を信じられない。

 

「ひとりももう行ったら?」

「もうちょっと、あと五分だけでも」

 

 集合時間にはまだまだ余裕がある。五分くらい行かなくても早いくらいだ。

ひとりには妙なタイミングで、頑固かつ変に自信を持つところがある。

歌詞について責任を感じているのか、今回の被害妄想は中々強かった。

 

 ひとりとぐだぐだしていると、伊地知さんに誰かが二人近づいた。

山田さんと、なんか見覚えあるな、あれが喜多さんかな。

確かにあの子の周りだけ光量が多く見える。凄いな物理。

 

「あの子が喜多さん?」

「うん、私が誘った、ぅへへ」

 

 この間の栄光が忘れられないのか、ひとりの顔が崩れた。

今壊れられると遅刻するから今日は褒めない。いや軽く頭を撫でるだけにする。

僕が褒めないのに耐えられない。情けない兄で申し訳ない。

 

 合流した三人はそのまま談笑を始めた。いい雰囲気だ。

繰り返しになるけど、こんな雰囲気で誰かを責め立てるようなことはしないだろう。

だから安心して行ってね、と伝えてもひとりは首を縦に振らない。

 

「お、お兄ちゃんなら、皆が何話してるか分かる?」

「うーん。この距離なら一応」

 

 かつて脱ぼっち対策委員会の活動として、読唇術を練習したことがあった。

周囲と話せない僕達が、会話をせずに流行を探るためだ。

最近使ってないけど、今も出来るはずだ。

大変だけどひとりが勇気を出すために必要なら僕も頑張れる。

物陰から三人の会話を覗き見た。これストーカーじゃない?

 

『それで伊地知先輩、今日は何するんですか?』

『ふっふっふー、それはね、っといけない。ぼっちちゃん来てからのお楽しみね』

『えー! 気になります!』

『じゃあヒントだけ! バンドっぽい活動を今日はします』

『バンドっぽい活動……!』

 

 案の定ひとりの懸念は杞憂だった。

吊るし上げではなくて、何かしらのバンドっぽい活動をするらしい。

それにしても山田さんまったく喋ってないな。ぼんやりしてる。というか寝てる。器用だ。

 

 ここまで聞いて腕に微かな力を感じた。見るとひとりが袖を引っ張っている。

会話の中身が気になるんだろう。僕は聞いたままをそのまま伝えた。

 

「バンドっぽい活動……?」

 

 ひとりも特に思い浮かばないみたいだ。

伊地知さんがあれだけ楽しみにしてるんだから、きっと悪いことじゃないだろう。

皆集合してるし、ひとりももう行くべきだ。僕はひとりの背中を押した。

 

「お、お兄ちゃん?」

「大丈夫。きっと今日も楽しいよ」

 

 物陰からひとりを追い出す。

最初こそ抵抗していたけど、最後には観念して押されるままだった。

そのまま伊地知さん達の所へまっすぐ進んでいく。

近づくひとりを見つけたのか、伊地知さん達が手を振ってひとりを呼ぶ。

その表情に険はない。何も心配はいらない。また素敵な思い出がひとりに出来るといいな。

 

 

 

 それはそれとして、実際今日は何をやるんだろう。気になる。

僕は誰に言われるまでもなく、引き続き皆の会話を覗いていた。

言い訳できないほどストーカーだった。

 

『あっ、お、遅れてすみません』

『皆今来たところだから大丈夫よ』

『そうそう、まだまだ時間前だし』

『…………ん、ぼっち。おはよう』

『えっ、お、おはようございます……?』

 

 思えば、こうしてひとりが結束バンドの人達と話しているのを見るのは初めてだ。

スターリーの時、僕は完熟マンゴーだったから見れなかった。

想像以上にちゃんと話せている。

 

『それじゃあ伊地知先輩、今日何するのか教えてください!』

『喜多ちゃんの期待に応えて発表します。……今日はアー写を撮ります!』

『あーしゃ?』

 

 検索するとアーティスト写真と出てきた。

宣材写真のことらしい。確かにこれからバンドとして活動するなら必要だろう。

 

その後はどこで撮ろうとか、前のはどんなのだったとか、明るく話し込んでいた。

これならもう心配いらないだろう。そろそろ離れようかな。

今日は下北沢周辺で撮影場所を探すらしいから、どこか別の地域に行こう。

 

 きっとそれが油断だった。最後の最後、僕は気を抜いた。

視線を切る瞬間に喜多さんという子と目が合った。彼女の目が大きく開く。

 

 そして僕も思い出した。あの忌々しい偽装登校の日、ぶつかってしまった子だ。

大丈夫だとは思ってたけど怪我はしてないようだ、と安心してる場合じゃない。

逃げよう。あの様子だとばっちり僕のことを覚えてる。

そんな、今日の僕はピンクジャージを着てないのに、どうしてバレたんだ?

それにしても、たまたまぶつかった子が妹のバンドメンバーになるなんて。

偶然って恐ろしい。世間って狭い。

 

 なりふり構わず僕は逃げ出した。

幸いなことに皆が一緒だからか、彼女が追いかけてくる様子はなかった。

 

 

 

 




喜多ちゃんは面食いなので見破りました。

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