【カオ転三次】お前頭ガイアかよぉ! 作:闇の転生者
異界ダンジョンに突入して暫しの時が経った。
外観こそ廃デパートではあれど、此処もれっきとした異界だ。
どの様な異常があるかも分からない為探索は確実に、慎重に行っていく必要がある。
特に、この異界には数多の【シャドウ】が吸い寄せられていたのは間違いない事実なのだ。
それもあの数だ。内部の【シャドウ】との戦いは避けられない。
……その様に考えていたのだが。
「……特に何もないみたいだね?」
「そうみたいだおね……」
――外観から測れるデパートの範囲の部分の探索はそう長くない時間で終わり、デパートの部分には殆ど何もない事だけが分かった。
無数に入っていった筈の【シャドウ】の姿も、内部に居る筈の光理君の姿も、何処にも見つけられない。
ダンジョンの常として空気中MAG濃度が高い事以外の異常はない。
デパートの部分には、だが。
何の仕掛けも不審な点も無い様に見えた廃デパート。
……だが、良く探索すると一つおかしな点を発見できる。
縦にも横にも相応に広い地上五階地下一階の廃デパート。
――その地下一階の、
何らかの仕掛けで隠されている風でもなく普通の階段にしか見えなかった為、意識していなかったら見落としていたかもしれない。
他におかしな所も見つからない為、満場一致でその先……地下深くの階層へ足を進める事となる。
◇
――そして、そこから先。地下よりも尚深く潜る先の階層こそがこのダンジョンの本番だと理解した。
「うわっ……!」
「……これは」
「うへぇ……」
――ギャアアアアアアア!!!
――ウォオオオオオオオ!!!!
――グギュグルルルルルル!!!!!
地下を更に降りた後の扉を開けた先のそこに広がっていたのは、一言で表すならば“地獄のような光景”だった。
明らかに信じられない程に拡張された地下空間は、何もかもが巨大な螺旋階段で更に下へ降りる構造となっている。
モンス○ーハン○ーの塔のフィールドを逆さにし、更に二回りくらい大きくした様な印象だ。
……あまりにも広く大きく、そして深く、地上部とは違い全体に薄靄が掛かっているせいもあり底も見えず。
そして――そこかしこで大量の【シャドウ】が同士討ち……
飛行しているシャドウも、地に足着けるシャドウも。
大きなシャドウも、小さなシャドウも、人間大のシャドウも。
無手のシャドウも、武器持つシャドウも、魔法を使うシャドウも。
皆等しく他のシャドウを狙い、全力で攻撃し、攻撃され、倒れ伏す。
限界の者から順番にMAGへと還り、補充でもされるかの様にまた新たなシャドウが湧き出る。
恐らく、このダンジョンに入ったシャドウで補填される様になっているのかもしれない。
詳しい仕組みはやる夫には分からない。
だが……そこは間違いなく、シャドウにとっての地獄だ、とは何となく理解したのだった。
それと同時に、扉を開いた自分達にも些かの異変が降り掛かる。
自分達のペルソナが顕現、活性化した。……まぁ、神主を除いてだが。
即座に一歩引いて扉を閉める。が、ペルソナの様子に変化はない。
……どうやら、直ちに何らかの不味い事態になる訳では無い様だ。
「これは……どうやら、あのシャドウ達に作用しているのと同じ力だね。
具体的には異常活性化させる事によって暴走を誘発する者――だけど、ペルソナ使いとしてキチンと制御している内はそこまで問題ない感じ、かな?」
「「十分問題ですけど!!??」」
とりあえず即座に問題は起き無さそうで安堵する。
感情を昂らせ過ぎると不味いかもしれないので仲間を宥め……次の方針を話し合う事にする。
そう、恒例(?)の
「……直ぐに突入はしないんだね?」
「ええ、今回は神主さんが居るとはいえ、戦力的に無理は出来ないですし」
確かに、霊感的には急いだほうが良い気がする。凄い勢いで警鐘がなっている気もする。
あの先がどれだけ続いているかも分からないし、早めに進んだ方が良いだろうと言うのは多分間違いない。
だが、あの螺旋階段状の空間を見るに、この先落ち着いて休憩や話し合いが出来るかも怪しい。
自分達は地力が低めである為、少しでも情報を活かし攻略の助けとしなければならないのだ。
そんな事も追加で説明して話し合いに入る。
所で、神主さんが一気に片を付ける方向とかは……あっ、やっぱり無理?
【ギミック】を粉砕して突破できなくもないけど認知世界に強く関係するペルソナ系異界でそれをやるとかなり不味そう?
回復も難しいレベルで光理君に被害が及ぶ可能性が高い?
なら仕方ないね!!!
「でもまぁ、流石に無駄について来ただけになるのもちょっとアレかなって思ったから――
こ う し て、ダンジョン内の構造を解析してみたよ☆」
「おおおっ!?」
そう言いながら神主が出したのは――霊力で作り出した
薄靄で見えなかった所やデパート部分も含めて忠実にこのダンジョンを再現してみせた、今までの地道な情報収集は何だったのかと言いたくなる様な法外な代物だった!
やる夫の実力ではこの立体映像が光や光子を操作して形作っているのか、幻術の亜種なのか、あるいはどちらでもないのかすら判別できない。
まさにチート、まさに神主。我らがガイア連合の首長の名は伊達ではないのだという事をまざまざと実感させてくれる。
え、
……まぁ、そんな称賛はさておき!
「とりあえず、とても助かったお!
だけど、これは……」
「かなり、
――神主が作ってくれた立体映像によると、基本的にこのダンジョンはこの先は殆ど変化らしい変化はない。
薄靄のせいで目視とやる夫達の霊視では分からなかったが、螺旋階段である程度降りて行けば中央部に広い足場状の空間がある。
そして更にそこから降りる螺旋階段も続き、その広い足場を
今までのダンジョンでは経験した事がない程に広く、深い。本当にデパート部分は入り口でしか無かったと言う事だ。
だが、それも仕方ないのかもしれない。
今まで【マヨナカテレビ】で救って来た人は基本的に巻き込まれた一般人の被害者だったのだ。
元々十分以上に高い実力を持つ光理君がこの世界でダンジョンを作ればこうなるのも必然と言えるのかもしれない。
今までの自分達の実績から言えば、かなり無茶な攻略になるだろう。
常であれば探索や情報収集、戦闘回避などに注力しながらとなる為、これよりも一層が狭いダンジョンでさえも十層を攻略するのに数日は掛かっていた。
それを考えれば迅速な全四十層の攻略は非常に難しい物になる様に思う。
情報がそれだけであれば、だが。
「先の事で気になった事があるんですが……あの【シャドウ】達、私達に全く反応してませんでしたよね?」
そう。即ち――あのシャドウ達がどの程度探索の障害となるか、にかなり左右されるからだ。
「かなり近くの個体も居た筈だが、視線や気配もこちらに向いていなかった……筈だ」
「うーん、【混乱】【魅了】【睡眠】辺りに少し指向性を付与した物みたいだけど……まぁ、ペルソナを暴走させなければ大丈夫――とは言い切れないかもしれない?」
「言い切れないんですか!?」
「いや、何事にも例外はあるからね!?
具体的には、彼の術の効きが悪い強くて幸運な【シャドウ】はその限りではない、とか」
「つまり、そこは光理君を信じるしかない、という事だおね」
それなら、彼の霊能適性や性格的にも信頼出来そうだ。
……とは言え、それでも勿論不慮の事故が起きる可能性は幾らでもある。
攻略途中で光理君の気が変わってシャドウ達が無秩序に暴れ出すかもしれない。
あるいは、その気がなくても光理君の方で何らかの異変が起きれば同じ事になるかもしれない。
そうでなくとも、何らかの些細な刺激でこちらが標的にされるかもしれない。
危うい“目”は幾らでもあり得るだろう。
――だが。
「とりあえず、そこは大丈夫だとお祈りして……でも、攻略の方針は変えないお」
「まぁ、そうなりますよね」
そんな危うい場所に、光理君を放置しておく事だって、出来る訳がない。
光理君から貰った腕輪をちらりと見、尚更気合いが入りそう思う。
「それなら、不味そうな時はそちらの、神主さんのヘルプはお願いしても良いんですかね?」
「僕なら
……まぁ、リーダー次第だけども」
話の流れで、こちらに視線が向く。
それは、ただ単に許可を伺う――と言う風の視線ではない。
まぁ神主さんとの関係を考えれば当然ではあるが、
「それで本当に問題がないなら勿論そうしたいんだけど……
神主さん。これって多分、【蠱毒】の亜種だおね?
もしかしなくても、【シャドウ】を倒し過ぎるのも不味いかお?」
「詳細は流石に分からないけど、十中八九以上、そうだろうね」
――【蠱毒】。
それは古くより知られる呪術やその為の用意の一つとして知られる有名で且つ有力な物である。
原点であれば閉鎖空間に毒を持つ様々な小動物を放り込み、互いに潰し合わせる。
その過程を経て残った……
弱肉強食、あらゆるリソースを強者、勝者に集中させるその方法は多くの術式体系で利用される代物だ。
そして、神主から見てもこのダンジョンは十中八九でそれだと言う。
だがそれも当然だ。
態々何らかの術を使ってシャドウを大量に誘き寄せ、
普通にダンジョン内で放置しているだけでもダンジョンの主――基本的にはこれもシャドウなのだが――としては何も問題が無い筈なのだから。
故に、この常とは違うこのダンジョンは
……まぁ、その先の目的とかそれ以外にもあるかもしれない目的とかはともかくだ!
……故に。
「なら、万が一があった時は神主さんには安全に戦闘離脱する為の術をお願いしたいお。
可能な限り余裕を持って、でも本当にヤバそうな時は臨機応変に神主さんの判断で動いて欲しいかなって」
「――了解。それならいちパーティメンバーとして頑張っちゃおうかな!」
とりあえずはそれで方針は決定だ。
まだ入り口から先へ進む段階でしかない。
何か不測の事態があるのかないのか。
どちらであっても、ここで手をこまねいていても何にもならない。
今は早く、急いで先へ進むのが一番だろう――
◇
◇
「(……本当に上手く進めてる……怖いくらいに順調だお)」
「(おい、フラグやめて??)」
――そして、不穏な雰囲気を感じながら開始した光理君のダンジョン攻略。
それは、特に問題が起きる気配もなく進んでいるのだった!
「(流石僕らの傑作。惚れ惚れする性能だよね!)」
「(それに関しては本当に助かってます。ありがとうございます!)」
それと言うのも、このやる夫達にとっても未知の難易度の異界に対して取った手は……いつもと同じ、隠密攻略。
やる夫の専用霊装*1と神主の施した周囲に闇を纏う隠蔽術の合わせ技。
更に螺旋階段の一本道とは言え、道幅は相当に広くパーティで行動しても余裕を持ってシャドウ達から離れての行脚。
元よりやる夫達のPTの得意戦法であった事もあり、シャドウ達を全く刺激せずに一度も意識を向けられる事なく。
それでいて、常であればマッピングから最短ルートを模索する手間も必要だったが、今回は構造や神主の働きもあり全くの不要。
事前に予想されてた不測の事態も起こらず、何も変わらぬダンジョンの攻略に集中出来る状況。
――それらが組み合わさった結果、何時になくハイペースで理想的なダンジョン攻略を行えているのであった!!
「(でも、やる夫先輩の言う事も分かります。順調過ぎる、と言うのがもういつもとは違う状況だからでしょうか?)」
「(はっはっは、それじゃやる夫達の攻略がいつも問題だらけだと言ってるみたいだぞう?)」
「(間違いなくその通りだと思うが……?)」
シャドウ達に注意しながら、小声で軽口を叩き合う余裕すらある。
……とは言うが、実際の所、メンタルを保つ意味でも、軽口の会話が必要だという事もまた事実であった。
確かに、攻略は順調だ。
現実時間で半日も経たずに四十層もあるこのダンジョンの半分以上を攻略して見せている。
素晴らしい成果だ。
だが、
神主と言う心強過ぎる味方が居るとはいえ、周囲で殺し合いを行っている数多のシャドウ達の中にはやる夫達では全く敵わぬ様な格上すら珍しくない。
そんな相手の近くを何も意識を向けられぬ様に刺激せぬ様にこそこそと進むその行為に、神経を擦り減らさない訳がない。
更には異形が、人型が、飽きぬ程に様々な種類のシャドウ達の殺し合いを延々と見せられる事も全く精神に悪い。
こんな所にずっと居ては遠からず精神を病んでしまうと思う。
……【瞑想】が得意な光理君ならば問題ないのだろうか。それでも心配だ。彼は今どうしているだろうか。
そして、そんな風に消耗しながら進むにつれ、新たにダンジョンについて気付く事もあった。
一つ目はニアスが気付いてくれた事だ。
曰く――“心の迷宮であるダンジョンとして、整い過ぎている”。
ペルソナ系異界であるやる夫達が攻略して来たダンジョンと言うのは基本的にはシャドウを親玉として、心の中の抑圧された一面が強調され生まれる世界だ。
悪魔系異界と違い、人が過ごす事も難しい環境は殆ど無いが、随所に様々な
しかし、この光理君のダンジョンには、それがない。
地上部の廃デパート部分は何も変化は無く、この地下螺旋階段空間であっても規則正しく変化もないままに続いている、と言うのは……確かに、珍しい。
ガイア連合謹製の異界作成の術で作られた人工異界だからか、とも思ったが、神主さん曰くこのペルソナ系異界の中で、それも自らのペルソナやシャドウを核に異界を作ったのなら、普通であれば他の心の迷宮と同様に何かしらの歪みがあってもおかしくないらしい。
……これは光理君の【瞑想】の恩恵なのだろうか?
今答えは出せそうにないが、記憶に留めておく必要はあるだろう。
二つ目は神主が気付いた物だ。
少しずつ、少しずつではあるが――周囲で暴れ、殺し合っているシャドウの数・密度が減ってきている、と言う物だ。
不味い事態だ。
勿論、シャドウが減れば攻略が容易になる。それは確かであり喜ばしい事だ。
だが……それは間違いなく、【蠱毒】が確実に、着実に進んでおり、
【コミュ】の繋がりがあるからか、やる夫の霊感が強く反応し、警鐘を鳴らしている。
――仲間を、友を失いたく無ければ止めなければ、と。
気持ちが逸るが、焦って失敗する事は避けなければならない。
「(――よし。もう一息だお。慎重に、でも急いで進んでいくお!)」
「(勿論です。気合いを入れ過ぎて空回りしない様にしてくださいね)」
転生者たるやる夫がそんな初歩ミスはしないのだよ!
……とは、今までの失敗とか他の転生者の仲間達とかの事を考えるとちょっと言い辛い。そんなやる夫であった。
こんな不味い状況を解決してくれる様なチート主人公居ないかな? 居ないか……知ってた。
◇
◆
そして、然したる障害もないままその場所――ダンジョンの最深部に辿り着く。
一際広い足場でありながらその床面に響く足音、感触は上の層と変わらない。
即ち、ここは最下層でありながら、
きっと、彼の精神の中ではこのやる夫達では経験した事のないこの深いダンジョンですら、まだ“浅い”のだ。
より深く、もっと先まで奥まで進み極めなければならない物なのだろう。
しかし、それ以外の何もかもが他の上の層とは違う。
【蠱毒】の術で集めた物か、MAGの濃度は桁違いに高く……そしてその元となっている筈のシャドウは居ない。
否。――1人と、1体だけ。
「……光理君」
「やる夫さん達と――神主さん。……驚いたよ。ここまで誰か来るとは、思ってなかったから」
広場の中央に居るのは知っている姿。
年齢よりも幼い風貌でありながら、今は何時になく鋭い気配と視線を向ける霊能力者にして、秘していたペルソナ使い。
天野 光理。
そして。
『あっはっは! 良いなぁ羨ましいなぁ!
おいおいとんだ人徳じゃないか! ええ!』
「……煩いなぁ」
『何を言うかと思えば――当たり前だろう、何故なら
そして――もう1体。
光理君と相対した異形を併せ持つ人型。
光理君の操るMAGの重圧に圧されながらも余裕の声音を崩さぬ、彼自身の
戦車に這い蹲る人としての姿は、光理君を更に幼くした者。
しかし、その背部から戦車から太く長い触手を幾本も伸ばし抵抗するその姿は、やる夫の知る物とは多少の違いがあれど、間違いなく――
『だけど、
失うのも奪われるのも我慢ならない!!!!
あれも欲しいしこれも欲しい!! みんな欲しい!!!!!』
その触手、触腕は光理君のみならずやる夫達の方にまで伸び――るその前にMAGの重圧に圧され地に伏せる。
「
『ハッ!!! それが出来るだけの立場も、力もあるのに!?!?
煩悩を溜め込んでタダで済むと思うなよ!!!』
やる夫達の事も意に介さず語気を強める異形に、更にMAGの圧力が増す。
しかし、そんな
『我こそは――我と自分こそが!
欲と煩悩の化身!!!!
なればこそ、欲するモノすべてを求め腕を伸ばすことこそが
“自分こそが本当の自分である”と。
欲望の
「遺憾の意を示さざるを得ない……」