【カオ転三次】お前頭ガイアかよぉ! 作:闇の転生者
『ぐえ――!!』
「まっ、たく……騒がしくしてごめんね。やる夫さん、神主さん」
「…………」
「うん。それは良いんだけどお――光理君」
光理君のダンジョンの最深部。
その広間で、やる夫達は光理君とその
だが、普通であればこのダンジョンの主である筈の抑圧されし一面でもある【マーラ】は既に完全に光理君によって制圧されている。
適正と相性の問題か、それとも術師として異界を作り制御しているが故の手練手管か、あるいはその両方か。
同じペルソナ使いとしてその手法が気にならない訳ではない――だが、今重要なのは、そこではない。
変わらず、最深部のMAGは益々濃度が増していき……そのMAGが集まる先こそが、彼の
それは【マーラ】を制圧する為の物……だけでは、決してない。
濃密なMAGを次々取り込んでいる――取り込まされている筈の【マーラ】だが、しかしそのMAGを用いて重圧を跳ね除ける事も出来ない。
それどころか、より苦し気に伏せ呻くのみだ。
突如【マヨナカテレビ】の内に出来、【シャドウ】を誘引するダンジョン。
その中では【シャドウ】達は殺し合いによる蠱毒の術によりMAGを束ね。
それでいて、ダンジョンの核である最下層では自身のペルソナを制圧し、
「これはどういう事か。説明して欲しいお、光理君」
「……当然、そうなるよね」
そんな、今回の異変の
おそらく、ある程度は予想していたが故の事だろう。どちらかと言えば彼、感情豊かな方だし。
「やる夫さんには【血】を借りてたからね。事後承諾で説明するつもりではあったんだけど」
それでも、一見冷静に語る彼の雰囲気はやはり何処かやる夫の知る普段のそれではない。
勿論、他の心の迷宮……この【マヨナカテレビ】でのダンジョンに囚われた人やシャドウのそれとも大きく違う。
やる夫達に対する敵意や悪意、あるいは狂気の様な物はない。
常の彼よりも幾段と硬く鋭い雰囲気は、彼自身が自分の行っている大事への自覚と緊張の現れであり。
――それは、決意。あるいは覚悟と言う物に近いのだと思う。
「これは、
◇
【アメノサギリ】。それは【ガイア連合】の転生者達には概ね周知されている大物
所謂ペルソナ4……即ち、【マヨナカテレビ】の異変の黒幕にしてラスボスである霧と異世界の境界を司る大神である。
原作でどうなっていたか、それはともかくこの世界においてのかの神格と【マヨナカテレビ】においての暴虐は……ある意味で、原作以上だ。
……そして、MAGを奪う。即ち、【シャドウ】を暴走させたり現実に顕現させたりと言った様々な段階を踏んだ上で最終的に殺す、と言う事だ。
そんな無体を許せないのが地元民のガイア連合員であり、正義感溢れるやる夫だ。
戦闘こそ不得手であっても慎重で地道な調査の末に戦闘回避からの
確実に被害を減らしていた物の……当然それで得られる予定であったMAGが得られなくなった【アメノサギリ】が何もしない訳がなく。
――広がったのだ。
当然、地道に時間を掛けて調査・攻略からの救出をしていたやる夫であってもキャパオーバーし、その後暫くはかなり大変であった。
だが、今回重要なのはやる夫達が大変だった所ではない。
重要なのは、暫定・大敵である【アメノサギリ】が神隠しの範囲を、つまりは自身の権能の効果範囲を広げた事……
当神の意識としてはそんなつもりがないのかもしれないが、GPの上昇と言う追い風があっても、自らの邪魔を出来る者は誰も何も居ないという自負の元、急速に影響範囲を増やすのは、隙と言わずして何と言うのか。
範囲を広げれば広げただけ、末端部においての知覚・対応に遅れが出るのは必然と言う物だ。
……とは言え、当神がそんな事をしているのも、真実
彼は、彼こそは霧と異世界の境界を司る神、【アメノサギリ】なり。
【マヨナカテレビ】の奥深く、通常の異界・魔界とはまた位相が異なる認知世界に本体を置く【アメノサギリ】の邪魔が出来る者は殆ど居ないのだから。
それこそ、表の世界で非常に強い実力を持つ霊能力者や神、悪魔であっても、その殆どが干渉する事すら出来ないのだ!
誰にも邪魔されぬ領域で悠々と権能を行使し、影響範囲を広げていっても問題がない、そんな土壌があるが故の【アメノサギリ】の暴虐なのだから!
更にその上で、いや、そんな事が出来るのだから必然ではあるが、当然ながら悪魔としても非常に高位であり素の実力も高い。
一体、そんな【アメノサギリ】を誰が害せると言うのか?
全く、非常に賢いやり方である――
本当に、干渉・攻撃出来る者が居ないのであれば、ならの話だが。
全ての生命の精神が流れ着く集合的無意識。
そこに干渉できる能力、権能と言う物は【アメノサギリ】やその他悪魔の狼藉を見ても分かる通り、非常に稀有だ。
幾千万の顔持つ無貌の魔神であったり、人々が眠りに着き意識を落とす見通せぬ夜闇の顕現たる死と夜の女神であったり、異世界の境界を司る大神であったり。
あるいは、人がそこに干渉するのであれば。
……霊能力者であっても、ペルソナ使いであっても推奨される自己との対話に特化している行為なのだ。然もありなん。
つまり――
「――光理君なら、【アメノサギリ】に攻撃出来る?」
「簡単に出来る事では、無いですけどね!」
何処か自慢気な光理君が言うには、ここまで準備を整えるのにも苦労したそうだ。
いくら相性バッチリな霊能素質があるとは言え、相手も相応に高位の
相応以上のレベルが無ければ仮に奇襲出来たとしても殆ど痛痒を与えられず、只警戒されて次の
【瞑想】の練度も高め極めて、その上で
シャドウによる【蠱毒】の術もそうだ。
【マヨナカテレビ】中のシャドウを誘き寄せて攻撃の為の触媒とすると同時に、心の海より掬い出された無垢なるシャドウ達をその“縁”を伝って標的――【アメノサギリ】へと向かう導線を作る為に。
そして、それらの準備を誰にも告げず、悟らせずに。【アメノサギリ】に気取られる可能性を少しでも減らして……こうして、計画を実行したのだ、という事だ。
「――だから、何も悪い事なんてないんです。僕なら、上手くやれます。任せてください」
光理君はそう締め括り、一歩下がり反応を促す。
僕は模範的なガイア連合員ですからね!と冗談めかしながら。
――やる夫の感覚では、その彼の言葉と気持ちに嘘は見つけられなかった。
彼は真実悪事を企てていた訳ではなく、むしろやる夫から見れば非常に助かる援護攻撃を行おうとしていた、と言うのが真相なのだろう。
「…………」
それは、やる夫の横で無言で目を閉じ思案しながら佇む神主を見れば概ね把握出来る事だ。
恐らく、神主も
そして、光理君の真意と実力も……彼の言う計画の、実現可能性についても、だ。
そんな神主が、この状況においても否を言わず黙っている。
……即ち、彼の言葉は事実であり――その計画で以て、【アメノサギリ】に痛撃を与えられる可能性は十分に高いと言う事に他ならない。
それは、【ガイア連合】において間違いなく吉事であるのだから。
何せ、今回の異変では別に誰か余人に被害や迷惑が掛かった、と言う訳ではないのだ。
新たに出来た異界に吃驚して、そして説明されてなかった光理君のシキガミの反応もあり、こうして出動したものの、被害者は現状誰も居ないのだ。
それどころか、彼の計画が、【アメノサギリ】への奇襲攻撃が成功したらむしろ此処に居る全員に大きなメリットがある事だろう。
痛撃を受けた【アメノサギリ】はその影響範囲も頻度も著しく減じるだろうし、【マヨナカテレビ】全体のシャドウの数も質も大きく減じると思われる。
むしろ、やる夫こそが諸手を上げて光理君の支援をするべきとすらなる状況だ。
他のパーティメンバーも、どうしたら良いのか分からず困惑している。
ならば、パーティリーダーとして、やる夫がしっかり返答しなければならないだろう。
その前に、神主の方を一瞥する。
思案していた神主もその視線に気付き。
……視線の意味に気付き、一瞬の間を空けて苦笑いしながら頷く。
【マヨナカテレビ】の攻略隊長として、判断を任されたのだ。任せて貰えたのだ。
ならば――その判断、返答は、もう決まっている。
「――駄目だお。光理君の計画は認められない」
「……なんだって?」
そう、否を突き付けなければいけないのだ――
◇
「……それは、なんでかな、やる夫さん。何も悪い事ではない、って説明したと思うんですけど?」
「それは見解の相違って奴だお、光理君。それは――“君のペルソナを犠牲にする”計画だおね?」
その言葉に光理君は一瞬言葉を詰まらせて――周囲の視線が彼のペルソナ、今も制圧されているままの【マーラ】に集まる。
彼の計画について話す言葉の中に、彼自身のペルソナの事は欠片も出て来なかった。
しかし、実際に彼のペルソナはこの異界の中で顕現し、此処に【蠱毒】のMAGを注がれ倒れ伏している。
――つまり、そういう事なのだ。
恐らく、彼自身の素の術の攻撃では、様々な大掛かりな準備を経ても尚、高位悪魔である【アメノサギリ】に十分な痛撃を与える事は出来ないのだろう。
それを解決する為に、自身のペルソナを、一種の爆弾の様にして特攻攻撃を行う……そういう手筈なのだ。
……それを、認める訳には行かない。
「……ええ、その通り。だけど、それでも、
知っての通り、自分は基本的に霊能力者として活動しているし、やる夫さんは自分の霊能特性を御存知ですよね?
ペルソナを失っても、別に支障はないんです。
その程度の損失で、【アメノサギリ】に痛打を与え【ガイア連合】の活動に余裕が出来るのであれば、進んでやるべき。そうでしょう?」
「
「……っ」
ペルソナを失う、と言う事はどう足掻いても自らの心の一側面を完全に切り捨てると言う事に他ならない。
それは、神主がこのダンジョンのギミック毎破壊するのを避けた様に、【ガイア連合】においても最早回復する事が出来ない恒久的な喪失だ。
……彼自身の視点では、それは悪い事ではないのだろう。
【瞑想】の特性持つ彼であれば、通常であれば錯乱して発狂しかねないそんな状況でも自分を保つ事が出来るのだろう。
彼自身の目的の為なら……その程度、必要経費だと考えているのだろう。
それでも、ペルソナを切り捨て犠牲にすると言う事は、軽くないのだ。決して。
彼の特性があれば外見は繕えるとしても……その内側は、大きく変容する事となる。
むしろ、彼の場合は外見を繕えるからこそ、その精神の変化はより深刻で致命的になる。
――ここに来て、何故やる夫の霊感があんなに反応していたのか、その訳を自覚する。
瞬間、脳裏に浮かぶのは、彼の計画を看過した先にあるかもしれない、
【アメノサギリ】にダメージを与えて、【マヨナカテレビ】関連のやる夫達の周囲の仕事は非常に楽になった。
だが、それも最早関係ないとばかりに光理君は星霊神社とその修行場に籠る様になる。
心の一部を失い、自らの【瞑想】に縋り、自分の中に残った“たった一つの目標”、それ以外に意識を向けなくなる。向けられなくなる。
――心が盲目になるのだ。
他の人は異常に気付けない。修羅勢であれば似た様な事をしている者も少なくないのだから。
しかし、
“たった一つの目標”に向かう為に邪魔になる物、糧にできる物、全てを順番に擲って。
最後にはガイア連合の柵も、人としての自分もその倫理や感性すらも捨て去る事になる。
ただの可能性だ。
やる夫が自分の脳内で思い描いただけのありえるバッドエンドの一つでしかない。
もしかしたらそこまで悪い事にならず、何とか上手く行く未来もあるかもしれないし、違う可能性は幾らでもある。
それでも、一つだけ、確定的に断言できる事はある。
本来であればやる夫よりも光理君の方が理解できてもおかしくない事の筈の、その事実は――
「光理君。――そんな事をしても、神主さんには近付けないお」
――ビキィイッ!!!!!
何かに、大きく罅が入る音がした。
誰にも、何処にも実際に罅が入っている様には見えない。
しかし、それでも
「…………どういう、事かな」
「光理君は【アメノサギリ】を攻撃してレベルを上げたい、って事だと思うんだけど、
――ピキィッ!!!
実際の所、光理君の計画は慈善事業と言うだけではなく、彼の目的ありきで計画されている。
彼の性格からすれば当然の事だ。それが、彼にとって理があり利になる、そう考えたが為の事。
格上である【アメノサギリ】に対する十分な攻撃、そして【蠱毒】により過剰にMAGを取り込ませた自らのペルソナからも“経験値”を回収出来たならば……間違いなく爆発的にレベルアップ出来るだろう。
20、30、あるいはもっと上がってもおかしくはない。それでいて特に誰に迷惑を掛ける訳ではないのだ。
彼がこの計画を密かに進めようとするのも無理はないだろう。
以前、光理君が雑談の中でこんな事を言っていた事を思い出す。
――外道働きで自分の格を上げるなんてナンセンスだよね。あんなの奇跡的に上手く行ってもレベル換算で数十程度しか上がらないじゃないか、と。
その為に様々な不便や制御の難などのデメリットと秩序側から狙われ続ける事となる多大なリスクを負うのでは釣り合っていない、と。
だからこそ、光理君は今回の様な計画を立てたのだろう。
「――それでも、同じなんだよ、光理君。
その方法じゃ、ただ徒に可能性を減らしているだけ。それは、とても
「そんな事は無い。――無い、筈です!」
空気が変わる。明確に変わっていく。
やる夫達に対して敵意も害意も無かったこの異界の
……しかし、やる夫達に掛かる圧力は、そのMAGに込められた想念に対して酷く弱い。
「いいや、違わないお。光理君も知っている筈だ、それ程に神主さんはチートだと!!」
「……!」
「あれっ。もしかして僕、今Disられてる???」
勿論Disってはいない。ただの事実だからね!!
むしろ、その事はやる夫よりも光理君の方が良く、詳しく理解している筈だ。
その筈――なのに、光理君は今回の事件を起こした。
「
光理君も分かっている筈だお。一人では限界がある。それは光理君も神主さんも同じ事だお。
――だから、本当の最適解は【仲間を頼る】事だって、分かってる筈じゃないのかお!」
「――そんな事、僕には出来ない。出来る筈がない。やり方だって分からないのに!?」
出来ない訳が無い。分からない訳が無い。
今までだって、他の転生者の仲間とも、シキガミや他のガイア連合の悪魔とも、勿論やる夫とだって、本心から仲良く出来ていたのだ。
確かに、ぼっち気質があるとは言え――彼は間違いなく他者を
「そんなに怖いかお! やる夫達に、仲間に迷惑を掛けるのは。光理君の
――そんなに頼りないと思ってるのかお、やる夫達が、光理君の仲間達は!」
「 !」
――轟!
決定的な言葉を突き付ける――決定的な言葉が彼に突き付けられると同時に、彼の
まるで、何かの臨界を迎えたかの様に異界が
そして、圧倒的な圧力が、抽出され凝縮されたMAGが彼の……光理君の元に集い始める。
この【マヨナカテレビ】で、その中で形作られた心の迷宮の中でやる夫達が幾度となく体験した光景――だが、常のそれとは決定的に違う。
彼は確かに、このダンジョンの主だ。だが……【シャドウ】ではない。
著しい精神的衝撃によってその存在にすら大ダメージを負う心の一側面では、ない。彼こそが彼自身、彼本体なのだから。
戦意を失う事も多い【シャドウ】とは、その実ただの被害者であり素人でしかない囚われ人とは、決定的に異なる。
「――――そこまで言うなら、証明して貰わないと、僕だって我慢出来ないよ。やる夫さん」
「……勿論だお。やる夫達だって頼れるという所、見せてあげるお」
相手は未だにこの異界を制御している、世界全体の霊能業界で見ても、相当に高位の霊能力者だ。
全身から迸るMAGが感情の想念によって呪殺の属性を帯び、周囲を穿ち始める。
全く、やる夫一人であれば勝ち目は万に一つもないだろうとんでもない相手だ。
だが、こちらには――
「やる夫さん、悪いけど彼の【ギミック】――瞑想防御は健在だよ。だから、【直接彼を攻撃出来るのは、コミュを紡いでいるやる夫さんしか居ない】。
勿論、僕も援護はするけど、厳しい戦いになると思うよ?」
「……それでも、戦うお!!」
神主の言葉に軽い絶望せざるを得ない――が、それで退く選択肢は存在しない。
光理君に不得手な交流を求めて、やる夫が不得手な戦闘から逃げる訳には行かない。
そうでなくとも、ここで光理君の
これまでも、そしてこれからも、光理君の仲間の一人である為に。
「安心して。後で【リカーム】くらいは出来るからね。綺麗に眠っていて貰うよ。
【マハムドオン】――!!」
そうして、光理君の呪殺の術を皮切りに――ガイア連合の仲間同士の戦いが始まった。