【カオ転三次】お前頭ガイアかよぉ! 作:闇の転生者
どうしてこうなった――
異界の最奥部、緊迫した戦場で【ガイア連合】党首である神主はそう思わずにいられなかった。
今、彼の眼前では同じ【ガイア連合】の仲間二人が互いの
見届け人の様でありながら、それでも
(占術には自信があったんだけどねぇ……もっと詳しく視ておくべきだったかなぁ)
当然ながら【ガイア連合】党首にして最大最強の術師である彼は常日頃から自分の、
勿論、占術は全く完璧ではない。彼程の実力を有していて尚、無限の可能性がある未来は広大であり、その総てに対応出来るとは流石の彼とて言えはしない。
きっと“取り零し”も“見逃し”も幾らでもあるし、占術が多少得意とは言っても【全知】等とはとても言えない代物だ。
それでも、出来る限り良い未来を、良い可能性を模索して運気を高め、凶事を祓い続けて来たのだが――
その神主の占術を以てしても、今眼前で行われている戦いの結果、そのどちらがより
どちらが勝利する結果になったとしても、此処に神主本人が居る以上、死者が出たり
その程度のフォローは彼らの長として当然請け負うつもりだ。
むしろ、神主が居なかった場合問題が起き得る可能性が占術で見えたのだから、こうして此処に居ると言っても過言ではない。
故に、悩むのはその後。今現在では見通せない程に遠い遥か未来。
片方は、この決闘で光理君が勝利する可能性の未来。
神主の見立てでは、やる夫さんと言う唯一の懸念が無ければ……十中八九彼の計画は成功するだろうと考えられた。
【アメノサギリ】へのダメージは致命と言える程では無くとも、その活動を縮小させるに十分。
そうなればやる夫さんと現地人を多く含むその周囲の負担は大きく和らぎ、その分のリソースを他の事に充てられると考えればその恩恵は非常に大きい。
……そして、その分のリスクもまた然りだ。やる夫さんの言の通り、自身の【ペルソナ】を捧げると言う事は決して軽くはない。
むしろ、即座に暴走してもおかしくない程の暴挙だ。それを抑えられるのは彼自身の才覚と努力、実力の表れではあるが……将来に大きな不発弾を残す結果にもなるのもまた事実だ。
もう片方は、やる夫さん達が勝利する可能性の未来。
死者が出る事も将来の不安も小さく、先の物と比較すればリスクもリターンも少ないと言えるが、それも遠い未来の可能性を鑑みれば難しい問題だ。
何しろ、現在進行形で【ガイア連合】は……いや、世界全体が激動の未来に向けて確実に進行しているのだから。
【終末】は近い未来に必ず起きる。その前提で考えると、特に危ういのはペルソナ関係周りなのもまた事実。
世に悪魔が現れ地獄の様相となる未来では集合的無意識と深い関係がある認知世界、ペルソナ系異界の問題は直結していると言っても過言ではない。
戦力の育成が概ね上手く行っている通常の霊能力者の仲間達よりも問題は深刻だ。あるいは、【アメノサギリ】へのダメージとペルソナ周りのリソース周りの余裕の多寡は、今後の彼らの未来を左右する分水嶺となる可能性もある。
そのどちらの可能性も、未だに潰えていない。
戦力としては
――
むしろ、このダンジョンの入り口に触れた時の様に弾かれる可能性の方が高そうだ。
何故なら、神主と光理君は余りにも
神主としては苦笑せざるを得ない。出来れば対等に扱って貰いたい物だとは思うが……恐らく、彼は
神主自身としては何とも言い難い物だ。面映ゆくもあり、残念に思う事もあり、嬉しく思う事もあり――
……まぁ、彼以外にも神主自身に強い尊敬や敬愛の情念を向けてくる
…………もしかしたら彼以外の他の面々も今回の事件の予備軍になるかもしれないとかはとりあえず今は考えないでおこう。
多分そんな事は無い筈だ。ウチの子は皆大体良い子だしね??まぁ、光理君も悪い子という訳では無いが――
ともあれ、だ。
――可能な限り彼らが仲間達が尾を引かぬ結末になる様に、彼らの長として、尊敬の念を受けるに相応しき者として、力を尽くそう。
彼個人として、より良い可能性の未来に辿り着く為に。
◇
「【マハムドオン】――!!」
「させ、ないお――ッ!」
そんな思いを知ってか知らずか、魔法が飛び交う決戦は一進一退の攻防が続いていた。
互いが顔見知りの既知の相手であり、その為ある程度の実力も把握しており、凸凹なその実力差があれば勝負は直ぐに終わりそうな物ではある。
しかし、数分と続いたこの戦いは双方の疲弊はあれど、未だに拮抗している。
その理由は……互いが背負っているハンディキャップにあった。
光理の方は純粋に、一人である事、即ち手数が足らない事が非常に大きく響いている。
原作の女神転生シリーズでもそうだし、現実でも変わらない事だが……戦闘において人数差、手数の差と言うのは早々覆せる物ではない。
手数、選択肢、思考リソース――様々な物を切り詰めながら、自らの勝利条件を満たす為に全力で足掻いているのだ。
対して、やる夫の方は勝利条件・敗北条件……即ち、光理が異界に課した【ギミック】が何よりも重いハンディとして圧し掛かってくる。
光理に対して攻撃や直接的な妨害を行えるのが
やる夫が倒れたらその時点で敗北が確定と言っても過言ではないし、他のメンバーはやる夫を
……そして、神主を含む補助が最大まで掛かった上で、まだ戦闘力と言う観点では光理よりも遥かに下なのだ。そこまで援護しても彼が持つ霊剣*1によるダメージはバランス型のステータスを持つ光理には大して入らないのだ。
その上で、補助魔法が最大まで掛かる前で既に一度、攻勢を強めようとした際に迎撃で更に一度光理から
「まだまだ、【マハムドオン】――!」
「【テトラジャ】だ。だが、
「ああ、分かってるお!」
その状況に対する双方の策は当然、相手の強味を潰すか、もしくは自陣の強味を活かすか。そのどちらかに限られる。
光理が選択したのは――
【
それに対して【
ゲームであれば、【女神転生シリーズ】であれば相殺出来る一手だ。最善手だ。それを選べる程の実力差が光理と神主の間にはある。
だが――ここは現実。
単体攻撃であってもごく近くに居れば当然効果が波及し、工場のライン一帯に列効果が及ぶ現実において、敵全体・味方全体の範囲は非常にあやふやだ。
当然ながら実力、練度において神主は光理を大きく上回っている。
――だが、光理は
その彼がその異界の中で行う
勿論、それでも相手はあの神主だ。その殆どが無効化され防がれる。
特に後衛として補助魔法と回復魔法に専念している不知火と未来には全くと言って良い程被害は無い。
被害があるのは――
「ニアスっ!」
「くっ……大丈夫だ、このくらい!」
やる夫と光理と同様に、戦場を縦横無尽に移動しているもう一人の仲間――半シキガミ人間、ニアスだ。
彼女も神主と不知火の補助魔法を最大限受け、レベルこそ大きく差があってもその
そんな彼女はこの中で最も激しい呪殺の弾幕の雨に晒されており……現状はまだ【即死】こそしていないが、それは運が味方していただけだ。
この流れが続けば遠くない内に【即死】するのは、誰の目から見ても明らかだった。
……勿論、彼女は光理と【コミュ】を結んでいる訳では無い。【ギミック】を貫通して攻撃が出来る訳でも無い。
だが、それは決して相手を警戒から外す理由にはなりはしない。光理はそう考えている。
攻撃や術は勿論無効化される。……だが、例えばシキガミと補助魔法の掛かった身体能力で組み付かれたら?
何らかの
ここはゲームではない。データの羅列ではない。あらゆる可能性を考慮なんて出来はしない。
ならばまずはその可能性を
神主の行動を【テトラジャ】に固定するのも重要だ。術の高速発動、【
「ほい、疑似【分身】の術」
――そんな驕りは、当然の実力差によって簡単に覆された。
神主が発動した術が効果を発揮する……直後、戦場を駆けるニアスが――
【幻惑】の状態異常――否。立体映像の類か――否。それぞれ、4人全てが床を蹴り自由に動き、確かなMAGをも感じられる。
【分身】。それは【オンギョウキ】が使用する
……なんと単純で、それでいて凶悪なスキルか。先の通り女神転生シリーズでは手数が非常に重要となる。それをこんなポンと増やす物がそうあってはならないだろう。
当然ながらゲームでは【オンギョウキ】の専用スキルだが――現実であるこの世界において、そんな縛りは存在しない。
だが、だからと言って……これは普通はあり得ない事だ。
適正も高等な実力も何もかもが必要なその術を再現し、更にそれを他者付与する、いわばオリジナルの
【オンギョウキ】と契約しているからか、理外の知識と技術を有しているからか、圧倒的な実力の為せる業か――その答えは、当然
それが出来るからこその、隔絶した力を持つのが、光理の憧れた、目指している、我らが神主なのだ。
……勿論、実際は神主とて
やる夫に【念話】で作戦を提案され、
あるいは、幾度となく分身シキガミを作って来た経験からか、もしくはその身体の殆どがシキガミ体で分身体として構成し易かったニアスだからか。
だが、その荒業をこうして成功させた要因はやはり神主自身の力――そして、その時間を必死に喰らい付いて稼ぎ切ったやる夫達の根性の為せる物だろう。
――分身のスペックこそ高い物の、【ギミック】を突破出来ない事は変わりはない。
――その
その戦術に対して、光理がそう判断するのも……判断してしまうのも、仕方のない事だった。
ただでさえ不安要素であるニアス一人にも内心焦って攻撃していたのだ。それが4倍になれば……最早、その対処に手数と思考リソースを割く余裕はない。
【喝破】からの全体魔法で牽制を続けながらもその意識は、やる夫一人に集約される。
「――【
「それは、読めてる――」
分身体のニアスの接近をフェイントにしたやる夫の渾身の一撃。
――その胸部に逆撃の掌撃が突き刺さり、あり得ない程の衝撃と共に
車に追突されたと見紛う程の衝撃に十数mも吹き飛ぶやる夫だが、その
「ぐっ、ゲホッ……光理君、格闘術もやれるんだおね……!」
「勿論。魔法を封じる悪魔や魔法が効かない悪魔だって居るんでしょう。ならば、備えない訳がないですよ」
軽口の様に当然の様に言うが、普通はそんな訳が無い。
そもそも彼自身は近接戦闘センス自体はそこまで高い方ではなく、術式の方に才能やセンスが偏っている筈だ。
他の転生者達であればそんな才能であれば近接戦闘用の【専用シキガミ】で戦術の穴を埋める。
その筈なのだが――
「今のは【疾風撃】か【風龍撃】の類……かな?」
「ええ、徒手格闘部の【物理反射】対策と言う奴です」
煩雑な雑務などはシキガミに頼り任せられても、より重要な場面では……戦闘では、シキガミ達に依存しない、依存出来ない、頼り切りに出来ない。
彼の適性、ビルドで二人も【専用シキガミ】を作って、その二人共が基本運用から前衛で無いなんて、しかも普段は自分自身が前衛をするなんて普通はあり得ない。
――
「オールラウンダーと言えば聞こえは良いけど、それはとても無茶で強欲だと思うお!?」
「それでも僕はやってみせます。【マハ、ラギ】――!」
だが、その強情を否定するやる夫はもう攻撃を回避する余力も……ない。
トドメと言わんばかりに吹き飛ばされたやる夫に放たれたのは拡散する火炎の術。
【分身】のニアスが庇いに行こうとするが、しかし距離が、タイミングが悪く間に合わ――
『――いや全く!
ボジュウッ!!
――直撃する、その寸前。僅かな音と光と熱と煙を残して
あり得ない事だ。誰も防げる道理はなく、そもそもかの火炎の術は防がれた訳では、無い。
まるで術式に失敗し、瞬間的に暴発したかの様な挙動だ。だが、【瞑想】の適性持つ光理が術式に失敗する事なんて無い。……筈だ。
あり得ない声だ。その声は自分の後ろでしっかりと抑圧の力で動けない様にしていた筈だ。
物理的だけでなく、霊能的にも。……その筈なのにその者は、その姿はMAGの薄靄と煙の向こうに、姿を現した。
『そもそも、『火炎』は苦手な属性。我の力を引き出していたに過ぎないのだから、当然だろう?――我の本体よ』
「……まさか、そう来るとは、ね。やられたよ」
――分身したニアスに救出され、拘束を脱していた、【
その時を以て……この決戦の勝敗は片方に大きく傾かんとしていた。
◇
◆
◇
『我の本体は異界の維持制御に【瞑想】の思考リソースを大分使っているぞ。今こそ攻め時なのだー!』
「僕の一部の癖に随分と勝手な事を言う……!」
恐らく、あの疑似【分身】の術を使われた時点で趨勢は大きく傾いていたのだろう。
攻防を続けながら、そう光理は考える。
あの【分身】は光理の物理・思考の処理能力を圧迫するだけでなく、動き回っていたニアスに合わせて戦闘の流れに紛れ、ペルソナを運搬救出する為の物だったのだろう。
――自分自身の一部であり、この異界の核でもある事から【ギミック】が効かない自分のペルソナ、【マーラ】を、だ。
やる夫の戦闘力の低さをより理解していたのはやる夫達自身であった、という事か。
だから、
【マーラ】――自分のペルソナは確かに自分の一部であるし、向いている向きも同じだ。
自分の煩悩、欲求の為に力を尽くすその性質は間違いなく自分であると言える。
……だが、自分はその【マーラ】を強く
【
だからこそ、【マーラ】はやる夫さん達の味方をするのだろう。
――皆と、やる夫さん達と仲良くしたいと想ったから。
とてもしてやられた気分だ。やる夫さん達と神主どちらが発案の策かは分からないが自分の戦闘センスや戦闘的思考の至らなさに恥じ入る他ない。
素直に称賛を送りたい気持ちもある――が、だからと言って……まだ自分は、負けたつもりはない。
まだ“勝ち”の目はある。
【マーラ】の火炎魔法や突撃からの物理攻撃を何とか捌きながらその為の
確かに、【マーラ】はやる夫さんと比べて非常に強力な相手だ。
――だが、それはそれとして、【マーラ】が自分のペルソナであると言うのも、幾度となく抑圧してきた相手だと言う事もまた事実だ。
一度直撃をまともに与えられれば集めたMAGで再び拘束する事は難しい事ではない。
勿論、【分身】が妨害や救出に動くだろうが再び【マハムドオン】の連打によって削って行けば良い。数が増えた分だけ防御から漏れるのは多くなるだろう。
それに――
意識を向けるのは、【マーラ】でも神主でもニアスでも無く……最も脅威度が低い、低い筈である、やる夫だった。
戦闘の最中であっても、戦闘に集中しようと思っていても、その胸中には様々な感情が渦巻いていく。
驚嘆、称賛、心配、感謝、憤懣……羨望、嫉妬。他にも、他にも。
目標に、指針にしている神主ではなくやる夫を意識せざるを得ないのは……きっと、最大戦力は神主であっても、この戦いを決めたその意思はやる夫の物だったからだ。
おそらく、神主さん単独であれば多少の物言いはあっても、この計画を止めはしない。そう思っていた。
幾度となく星霊神社での、ガイア連合での神主を視ていた限りでは、そう思っていたのだ。
実際にどうなのかは、分からない。自分の想像に過ぎないかもしれない。この感情も実の所ただの八つ当たりなのかもしれない。
だが、それでもやはり、強く思うのだ。
この戦いは、自分とやる夫さんの戦いなのだと。やる夫さんに負けたくないのだ、と。
その意思が強く発露するのは、当然やる夫との再びの激突の時だった。
挟撃の形で【マーラ】と連携攻撃をせんとやる夫が迫って来る。
【マーラ】が戦線に出た時点でやる夫が危険を冒す理由はとても低くなった、その筈なのに……余りにも弱いその実力で
……その行動に思ってしまう事があるから。意識せざるを得ないから。
だから、まずは元の勝敗条件を片付け状況を優位に進める為に――やる夫の方へ向かう。
クロスカウンターの様な形だ。背を向ける事になる【マーラ】の攻撃は甘んじて受ける事になるだろう。
だが、それはバランス型のステータスを持つ自分には致命的ではない。
回復魔法も使える自分ならば、十分受けられる攻撃だ。
目まぐるしく変わる戦況と自分の思考で説明できない感情のままやる夫さんに繰り出した攻撃は――そんな状況だからこそか、本来の自らの最も得意とする
【瞑想】だ。
防ぐ事が難しい万能属性の攻撃。やる夫さんを斃すに十分な威力があるその攻撃が激突する。
そう、自らの【ペルソナ】と向き合うのに最適な技能の結集したスキルである【瞑想】が。
――精神の深層の深層、最奥より
より集合的無意識に近いこのペルソナ系異界であれば、その威力は現世や魔界で使用した時と比べて遥かに高い特大の威力になるであろう、その攻撃が。
やる夫に華麗に直撃し――逆に、光理がダメージを受けた。
何故。まるで理解できない。
その衝撃、感触を全く形容出来ないまま、自身の霊体と身体に反動を受ける。
最もそれらしく表現するなら、
だが、それ以上を思考する余裕は、時間はない。
カウンターによる逆撃に盛大に失敗したのだ。【マーラ】の痛撃が後ろ脇腹に突き刺さる。
そして――
「――やる夫達の勝ちだお」
「――うん。僕の負けだ」
やる夫さんの霊剣が、僕に最後の一撃を与えた。
勝負が決着したのだった――
決着です。
【瞑想】がああいう仕様なのは「なんで【瞑想】であんな効果が……?」と言う疑問から捻りだした独自解釈です。
【エナジードレイン】とほぼ同等の【瞑想】とは一体……