え?全部ロケット団のせいでしょ?
広く優雅なド田舎な町。
マサラタウン。
マサラは真っ白なんて言葉があるように、ほんとにこの町には何も無いと、幼少の俺はそう思った。
まぁ、中身は27のおっさんだけど。
うん、なにこれ、転生?
アニメや漫画でよくあるやつ?
最近流行りの?
なぜ、と聞くのは野暮なことなのだろうか。
27歳の俺は仕事の帰り、道路で車に轢かれそうな子猫を助け、目が覚めたら……。
体が縮んでしまっていた。!?
程度で済むならまだいい。
目が覚めると知らない天井。
外に出てみれば知らない田舎町。
鏡を見れば知らない少年(推定10歳ほど)。
町にある看板には〔マサラタウン〕。
……嘘だろおい。
歴代ポケモンのゲームをしてきた俺にとって、マサラタウンは魔境である。
いや、どの地方に行ってもめんどくさい事に変わりはないのだが、カントー地方はずば抜けている。
天変地異を起こす神と崇められるポケモンが居るホウエン地方。
時と空間を司るポケモンが居るシンオウ地方。
ポケモン解放を願う集団が居るイッシュ地方。
世界の終わりと始まりを司るポケモンがいるカロス地方。
異世界からポケモンが現れるアローラ地方。
1部を除いて、ほとんどがポケモンによりもたらされる厄災が多い中、カントー地方で最も脅威となる存在はロケット団と呼ばれるポケモンマフィアだ。
コイツらは、人やポケモンを殺す。
ポケモンがやるなら対処のしようはある。
だが、人間相手というのは、やりにくい。
故に、ポケモン史上最も強敵の組織。
ましてや他の地方から、それぞれの野望を果たした悪の組織のリーダー達を連れてくるような組織だ。
これをめんどくさいと言わずになんと言うのか。
「まじかよ、嘘だろ…」
もし神様と言う存在がいるのならぶん殴ってやりたい。
なにせ……。
「カントー地方マジキタコレーっ!!!」
俺はそんな魔境であるカントー地方が大好きなのだから。
え?ならなぜ殴るかって?
愛情表現だよ馬鹿野郎。
「それにしても……」
死んだ時の記憶がはっきりしている。
それとは別にこの体。
この少年の記憶も俺の中にある。
ふたつの記憶が同時にあると言うのは、なんともまぁ気持ちが悪い。
「そのおかげで、前世のポケモン知識のままこの世界で生きていけるのは有難い……て思えたら、ほんとによかったんだけどな」
というのも、この世界、俺がよく知っているポケモンの世界とは色々と違う。
「カオルぅ、ご飯できましたぁ」
声のした方を振り向いて見れば、黒髪のショートカットに上下ピエロの様な服を着た少女がいた。
「ありがとクラウンピース」
クラウンピースと呼ばれた少女はニコニコ笑いながら部屋を出ていく。
服装から勝手にそう名付けたが…知ってる人が聞いたら怒りそうな名前の彼女は実はバリヤード。
そう、人間と遜色ない姿をしているはずの彼女は、実はポケモンなのだ。
そのことから最初は改造ROMである萌えもんの世界線を疑ったが、俺たちのよく知る姿のポケモンもいることからその可能性は無くなってしまった。
だとすれば、だ。
何かしらの条件を満たしているポケモンが人間と同じ姿になって産まれる。
そう、考えるのが定石か。
そして、その条件は考えるまでもなく、ただテレビ中継を観ただけで理解してしまった。
『決まったぁぁああぁぁあ!!!勝者は!チャンピオンワタルです!!』
テレビの向こうで行われているポケモンバトル。
一般のポケモントレーナーに対するはカントー地方のリーグチャンピオンワタル。
ポケモンファンならみんなが知っている人間に向かって破壊光線を放つサイコパスチャンピオンだ。
そして、そのワタルの傍らにいる目つきの鋭い少女。
黄色のオーバーサイズのパーカーに身を包む少女は、恐らくワタルの相棒カイリュー。
このカイリューがそうだとしたら。
いや、間違いなくそうなのだ。
カイリューを使役するトレーナーは他にもいたが、ワタルのカイリューは全てにおいて規格外だった。
技の威力、耐久力、持久力、スピード、そのどれもが他のカイリューとは桁外れに能力が高い。
つまるところ、
「6V……だよなアレ」
前世の実機には隠れステータスというものが存在する。
初心者でもわかりやすいもので言えば命中率だ。
それ以外にも、個体値、種族値、努力値と呼ばれる隠れステータスが存在しており、この中の個体値のどれかが通常より高いポケモンに付けられるマークがV。
そして6Vと呼ばれるポケモンは、その全ての個体値が通常のポケモンより高い個体の総称である。
「てことはクラウンピースは6Vか」
「6Vってなんですかぁ?」
横に座ってベーグルサンドを頬張っているクラウンピースが首を傾げながら聞いてきた。
可愛い。
「いや、こっちの話」
そう言うと、クラウンピースは何も無かったかのように再度朝食を、食べ始める。
クラウンピース。
種族名バリヤード。
名付け親は俺だが、実際の主人は俺の母だ。
何せ、俺はまだポケモントレーナーになれないからな。
この世界では公式の通り、10歳になってからでないとポケモントレーナーになることができないと、法律で定められている。
故に、俺はまだトレーナーになる資格がないのだ。
というのも昨日までの話。
俺は今日、ついに念願の10歳になった。
今日から、トレーナーになる資格を手に入れたのだ。
当然、トレーナーになってカントー地方を旅する。
そのための準備も、昨日の内に済ませておいた。
待ってろよ魔境。