吾輩は幼女である。
名前はリル。
どこで生まれたのかはとんと検討がつかず、でも、理由だけははっきりしている。
否。
思い出してきた。
それも、突発的に。
夢を見た。
夢の中の私はデジタルの存在で、幾体ものポケモンを屠ってきた。
私に指示を出すのはカオルという名の人間。
顔は知らない。
デジタルから現実は見れないのだから。
なのに、なのに顔を、知らないはずの顔を、私は知っている。
何故なのだろうか。
と、目を覚ました私は、私のベッドの横で上半身裸で腹筋をする少年を見て思った。
1度正面を向き、ため息を1つ、頭を抱えながらもう一度少年の方を向く。
……今度はスクワットをしていた。
それもこちらを向いて。
「ーーーっ!?ーーっっ!!!」
生き物というのは、驚くと声が出ないらしい。
いっそ大きな叫び声を上げれば誰か助けに来てくれたかもしれないのに。
私にはそれができなかった。
代わりに念力で近くにあった花瓶を少年に思い切りぶつけた。
「はぐっ!?」
と、よく分からない呻き声を上げながら少年はその場に崩れ落ちる。
しまった。
やりすぎたか。
「きかーーーんっっ!!」
と、勢いよく突然起き上がった少年は笑いながら頭を摩る。
いや、血、出てるけど。
「……なにしてるんですか…カオル様」
私は、ついうっかり、少年にそう声をかけてしまった。
言って、はっと気づく、私はなぜ、初めて会うはずのこの少年を、知っているのだろうか。
「……やっぱり、『リル』なんだな」
少年は優しい目をしながら、私の名を呼んだ。
誰がつけたか分からない、私のあるはずのない名前を。
ーーーーーーー。
とりあえず、リルが目を覚ましたのでオーキド博士に報告。
オーキド博士の診断を受けて、特に異常が無いことを確認したリルは、研究所の中庭で大きなため息をついていた。
「どうしたんだよリル」
「いやだいやだ認めたくない、私の主人がこんな変態なんて認めたくない」
そう言われて、自身の格好を確認する。
上半身裸。
あらヤダ恥ずかしい。
それにしても……。
「主人、ね」
はて、なぜリルは俺を主人と認識出来たのか、そして俺はなぜ、この幼女がリルだと判別できたのか。
「異世界転生あるあるの特典、てやつか?」
と、一瞬思考する。
となれば、だ、このカントー地方各地に、俺が実機で使用していたポケモン達が存在する、とみるべきだろうか。
「それでもおかしいんです、私さっきまで普通のラルトスとして生きていたのに、目が覚めたらリルっていう名前と、あなたの存在が頭の中に……」
記憶として、存在していた、そうだ。
なら恐らく、その記憶を呼び起こすトリガーがあるのだろう。
俺が実機で使用していたパーティはみなカントーでは手に入らない、まして全て6Vを育てていたから確実に人間の姿になっているはず。
「トリガーが分かれば仲間にできる、てことか」
「あの、もしかして私と旅に出ようとしてます?」
「え?ダメなの?」
「いや…さすがに変態はちょっと…」
未だに上半身裸の俺を見てリルは引き気味に言う。
なにをいう、筋トレしていたのだから薄着なのは当たり前なのに、この幼女は、可愛がってやろうかな。
事案?
俺も子どもだからいいんだよ。
なんて、そんな、冗談を妄想しながら俺はカバンに入っていた服を着る。
「まぁ、アレだ、リルが目を覚ました時に場を和ませようと思ってな」
「それにしてはガチでやってましたよね筋トレ、それに他に方法があったと思うのですが……」
むぅ、あー言えばこー言う。
さすが素直な性格のリル。
思ったことははっきり言ってしまう子だ。
「頼むよリル、リルなら俺の癖とか、わかるだろ?そういう絆って大事だと思うんだよ俺」
仕方ないから真面目に説得を試みる。
上手くいくかは知らんが。
いや、上手くいかないと俺の中で何かが詰む。
「……はぁ、わかった、わかりました、貴方に従いましょうカオル様」
リルは仕方ないという様子で、俺の説得に応じてくれた。
「従わないと物語的に詰みそうな気もしますしね」
そしてどうやらこの子はこちら側(ボケ)らしい。