この世界において、補助技という概念は存在しないのと同義である。
いや、厳密には存在は、する。
でも知らない。
知ってても効果はないと思い使わない。
それがこの世界のポケモンバトルである。
例えば『なきごえ』。
ゲームプレイヤーの俺からすれば、可愛らしく鳴くことによって相手を油断させ、攻撃力を1段階下げる。
というのは至極普通。
だが、この世界の一般人は、それを知らない。
ただ鳴くだけの行為になんの意味があるのかと、その意味を理解していない。
それこそ、旅立ち初日にリルに瞑想を積ませていた俺だが、周りから見ればリルがただ目を閉じていただけ、という認識だろう。
だからこそ、シオンとリオンは何も対処出来ずに、大きく上昇したリルの特攻を前に手も足も出なかった。
そして、この補助技を中心に使用するポケモン達が存在する。
この世界において、そんなポケモン達はコイキングと同等に扱われることがほとんどだ。
俺は実機時代、そんな補助技のエキスパートの一体を使っていた。
あやしいひかり、置き土産、呪い、影分身等、多彩な補助技を使うゴーストタイプ。
第2世代で初めて登場し、第4世代で進化系を獲得したポケモン。
「…ムウマ……てことは『ムゥ』か」
薄紫を主体とし、毛先はピンク色。
灰色のワンピース、胸には赤い宝石の着いたネックレスを装着したヒトガタのゴーストタイプ。
ムウマ。
「うひひー、そだよー、お兄ちゃんおひさー」
気付けば、さっきまで辺りに広がっていた殺気や冷気は完全に消え去っていた。
と、言うことは、リル同様ムゥも実機の記憶が戻った、ということだろう。
「ってことは、トリガーは物理的に触れること、か?」
確証はないが、その可能性は非常に高い。
いや、それよりも。
「やべぇ、これリル置いてきたパターンじゃん」
と、言った直後。
俺の頬を電気のビームが掠める。
あ、リルさんのチャージビームっすね。
目の前には獲物を狩る目をしたリル。
どうやら混乱は解けているようだ。
「私を置いて他のポケモンとイチャイチャですか、人が混乱状態に陥ってる間に……いい度胸ですね、カオル様」
うん、はい。
死にました。
お父さんお母さんごめんなさい。
リルの念力でおよそ口には出せない様なことをされる俺の断末魔が、屋敷に響き渡った。
ーーーーーー。
「うひひ、おにーちゃん、だいじょーぶ?」
舌っ足らずな喋り方で俺の顔を覗き込むムゥ。
その後ろで腕を組んでそっぽを向くリル。
傷だらけで倒れ込んでる俺。
何故か集まりだしたゴーストタイプのポケモン達。
「って、野生のゴーストポケモン!?」
「うひ?おにーちゃん、つうろくみかえてたのこの子達だよ?ボクはただあのお部屋でまってただけ、まちきれなくてへやのまえまでつなげさせたけど」
あ、やっぱ待ちくたびれた結果だったのねアレ。
それにしたって、こんな急に殺意や冷気が消えたのはほんとどういった原理なんだろうな。
「うひっ、んとね、おにーちゃんがボクのてをひっぱって逃げるときにね、ボクの中にきおく?みたいなのがながれこんできて、このおにーちゃんはごしゅじんさまって思い出したの」
と、なるとだ、やはりトリガーは直接触れる事、か。
……リルと、ムゥ。
うん、なるほど。
リルとムゥだから、比較的簡単にできた、と思うべき。
残りの4人、直接触れる、かぁ、あぁ、絶対無理ゲーだ。
俺は絶望に打ちひしがれた。
「なんて、言ってもしょうがないし、そろそろ行くか」
「カオル様?一言何かないんですか?」
「……ごめんなさい」
「仕方ないですね許しましょう」
許してくれた、意外といい子だった。
そして俺はチョロいらしい。
とりあえず、兎にも角にも、あたらしいお友達を仲間にした俺は森を抜けるべく、屋敷を後にする。
「あ、でも森の出口ってどっちなんだろ」
「うひ、ボクは知らなーい」
俺はやっぱりこの森で生涯を過ごすことになるかもしれない。