きっと貴方のことが好き   作:圧倒的雑魚臭

37 / 59
きっと貴方のことが好き

 

 

 

 ──私は多分貴方のことが好き。

 

 ──ううん。……きっと、絶対貴方のことが好き。

 

 

 

 やっと分かった。

 確信した。

 夕日に照らされた彼を見た瞬間。

 怒りも憂いも怨嗟も全てを吹き飛ばすぐらい、貴方のことがたまらなく、好き。

 

 茜色に輝くその瞳。

 ぶっきらぼうなその声色。

 でも心配そうなその表情。

 風に揺れる前髪。

 いつものTシャツ。黒のズボン。

 

 溢れ出す。洪水みたいに。

 止まらない。この躍動。

 胸の奥を満たしていくこの激情。

 

 

 ──ああ、私……恋してる。

 

 

 

 夕日を浴びて川面がキラキラと眩しく踊る。

 河川敷を埋め尽くすススキの穂が風になびいてクスクス笑った。

 

 いつまでも返事をしない私を怪訝そうな顔でトレーナーさんが近づいてきた。

 私の心臓は爆発するんじゃないかと思えるほど暴れている。

 ドクンドクンと。

 今までしてきたどんなレースでも経験したことがない。早く、激しく、心臓が脈打つ。

 

 彼が何かを問いかけた。私は答えられない。

 拍動する心臓の音で愛しい彼の声が聞こえない。

 

 ……ごめんなさい。バ鹿!大っ嫌い!!ずっと会いたかった……。なんで今さら私を追いかけてきたの!?あの時来てくれなかったじゃない!!……もう離さないで……。貴方も苦しかったの?どうしてあの時…………。なんで……?なんで…………。

 

 頭の中で文字になって消えていく。それでも口からでるのは、う……。とか、あ……。とか。声にならない声。

 答えられずにいると、トレーナーさんが私に近づき、そっと手を伸ばす。

 ビクッと体を震わせ、思わず目をつむった。

 すくめた肩と小刻みに震える皮膚の先から、彼が伸ばした腕を一瞬躊躇するのが分かった。

 

 次の瞬間、私は暖かい何かに包まれた。

 嗅ぎ慣れたあの香りが鼻をつく。

 彼の腕は私のうなじと肩を抱いて、逃すまいときつく締める。

 でも苦しくはない。顔に当たる男の人の厚い胸板がそれを柔らかく受け止めてくれた。

 

 目が熱い!頬が熱い!

 

 気付けば私は泣いていた。目の奥が焼けるような感覚。我慢しても我慢してもとめどなく涙が溢れてくる。

 

「トレーナーさ……。わたし……」

 

 嗚咽交じりに思わず声が飛び出した。

 何を言おうとしたのだろう……。頭の中は真っ白で、言葉なんか出てくるはずも無かったのに……。

 

「……すまない」

 

 激しい心臓の音に紛れてこの言葉だけが聞こえてきた。

 相変わらずぶっきらぼう。でも声色は少し震えていて、いつも飄々としている彼でも動揺しているのが伝わった。

 

 言わないで。貴方だけが悪者になってしまう。

 私が、弱い私が悪かったの……。

 

 今なら分かる。

 どうして私があそこまで心をかき乱されたのか。

 私は貴方に担当ウマ娘以上の扱いを求めてしまっていた。

 担当とトレーナーという形を超えて私は貴方の『特別』になりたかった。

 

 今まで抑え込んできた激情が、洪水のようになだれ込んで私を突き動かす。

 楚々として、半歩引いて今まで押し殺してきた、自分でも気づかなかった身勝手な想い。それはきっと伏しておくべき。

 でも……!

 

 今、言わなければ、きっと一生言葉に出来ない──!!

 

 

 

 ──決まってたんだ。私が次に出すべき言葉。

 

 

 

 私は彼の胸をそっと押しのけた。

 彼は一歩後ずさり、抱擁を解く。

 彼の胸に着けたトレーナーバッヂがキラリと私を睨んできた。

 

 ごめんなさい。

 それでも私は止まらない。

 止められない。

 この気持ちだけは。

 

 俯いた顔を上げ、吸い込まれるような彼の瞳を覗き込んだ。

 

 すうっと大きく息を吸い、私の胸に押し込められてた思いが声になって溢れていった。

 

 

「トレーナーさん!わたし────!!」

 

 ゴウと一陣の風が音を立てて二人のそばを通り過ぎた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。