きっと貴方のことが好き   作:圧倒的雑魚臭

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「お慕いしております。カブラギ様」

 

 白い吐息とともに溢れ出た言葉。

 それはあまりに素直に、感情のまま、まるで普段の他愛ない会話のようでいて、それでいてどこかやっと言えたというような安心感が伴っていた。

 

 だからだろうか、俺はその言葉の意味を咀嚼するのに時間を要した。

 けれどそれがどうあがいても『恋している』という意味であるとしか捉えられないことが分かってくると、俺は胸の心臓の脈打つスピードが速く、強くなっていくのを感じた。

 真冬だというのに額から汗が滲み、呼吸が荒くなるのが分かる。

 

 きっと赤くなっているであろう、その顔を誤魔化すように、また手すりに向かって寄りかかるように体を預けた。そうしなかったら立っていられなかったかもしれない。

 

「………………大人を、からかうもんじゃない」

 

 分かっている。彼女は真剣だということも。

 それでも精一杯の強がりは俺を素直にせず、彼女の誠意に袖を振るような形になってしまった。

 

 俺は冬の冷気に頭が冷えると、一つ(かぶり)をふって言葉を繋げた。

 

「……悪い。真剣……なんだよな」

 

「…………はい。好いております。トレーナーさん」

 

 さっきよりも声が震えていて、緊張しているのが伝わって来た。

 聞こえてくる宴席の笑い声が、俺たち二人だけを別の世界に隔絶したかのような錯覚をさせる。

 

「俺は三十六のおっさんだぞ。愛想もない。女の心なんてまるで分かってない甲斐性なしだ。それに比べてお前は……お前にはもっと…………」

 

 もっとふさわしい相手が……。

 

 口から言葉がでない。喉の奥がカラカラに乾いてヒリつくようだった。

 

 言え……!言え!!

 

 ごくりと唾を飲み込み、うなだれるように雑草生い茂るテラスの庭に視線を落とした。月の光に照らされ、夜露を含んだ草たちが俺のことを笑っているようだった。

 

 どうしても言葉が出てこない。

 いや、言いたくない。

 俺は、俺もグラスのことが……。

 

「トレーナーさんは私のこと、お嫌いなのですか……?」

 

「嫌いなわけ……!」

 

 思わず彼女の方を向いてしまった。

 風にたなびく髪が月夜に照らされ金色に輝いてた。両手を胸の前で組んで祈るようなその手は小刻みに震えていている。眉を顰め、今にも泣きだしそうなほど不安そうな顔を認めると、俺がどれだけグラスの心をもてあそんでしまったのかが分かってしまった。

 

「……嫌いなわけが……」

 

「センパ~イ!何やってんスか~?こっちで飲みましょうよ~。あっと、グラスちゃんもほら~」

 

 見ると、柴崎がガラス戸を開きながらビール片手にこちらに話しかけてきた。その顔は大分飲んでいるのか、赤味を帯びて目の焦点もいささかどこを見ているのかあやしかった。

 

「カブラギさんはトレーナーというお立場ですものね。私、贅沢は申しません。ただこの気持ちを伝えたかった。今は……それで満足でございます」

 

 よくよく考えればこの子はまだ中学生。そんな彼女に気を遣われてしまったことに恥じながら、俺は何も言えずに自分の足元を睨んでいた。

 

「それと、これは優勝とはべつの、クリスマスプレゼントです」

 

 そう声がかかると同時に、次の瞬間、頬に柔らかい何かが触れるのが分かった。

 それが離れた瞬間、彼女の吐息がふっと耳にかかるのが分かると、俺は瞬時にその頬を手で触れる。とっさに顔を上げると彼女の顔が離れていくのが見て取れた。それは赤らんだ顔にいたずらっぽそうな笑顔を乗せて俺を見つめていた。

 

「私、諦めませんから。諦め、悪いんです」

 

「なんの話れすか~?こっち来ておしゃべりしましょうよ~」

 

 柴咲の声に我に返ると、頬を抑えたままそいつの方に目をやる。しかし、扉に寄りかかるのが精いっぱいというようで、どうもこちらの方の事態を分かっていなさそうだった。

 

 ほっと胸を撫で下ろすのと同時にグラスは柴崎の方に向かって歩いていく。

 

「トレーナーさん。中入りましょう?風邪、ひいちゃいますよ?」

 

 扉のところで振り向きざまにそう口にする彼女は小悪魔的なそれであった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

「嫌いなわけ……!」

 

 私の方を向いた彼の顔は、眉間に皺を寄せて心底困ったというような表情を作っていました。

 それがなんだか申し訳ないという思いと同時に、嫌われているわけではないという確信を私に持たせてくれました。

 

「……嫌いなわけが……」

 

「センパ~イ!何やってんスか~?こっちで飲みましょうよ~。あっと、グラスちゃんもほら~」

 

 ガラス戸が開く音。柴崎トレーナーが背中からろれつの回らない口調で声をかけているのが分かりました。

 

「カブラギさんはトレーナーというお立場ですものね。私、贅沢は申しません。ただこの気持ちを伝えたかった。今は……それで満足でございます」

 

 彼は迷っている。迷うほどに私のことを意識して下さっている。

 きっと彼の中は色々な思いでぐちゃぐちゃになってるはず。そんな彼に追い打ちをかけるように、私は柴崎トレーナーという傍観者を利用して少しの賭けをしようという思いになりました。

 

「それと、これは優勝とはべつの、クリスマスプレゼントです」

 

 そう言いながら下をむいたままの彼の頬にそっと口づけする。

 なにが起こったのかと、手で頬を抑えながら私の方に驚いた顔を寄こす。その視線は私とガラス戸の方を行ったり来たりして動揺しているのが明らかでした。

 

「私、諦めませんから。諦め、悪いんです」

 

 グラスの『G』はGameのG。獲物を捕らえて離さない。

 貴方が教えて下さったことです。

 

「なんの話れすか~?こっち来ておしゃべりしましょうよ~」

 

 その呑気な声を確認し、私の賭けはある意味不発に終わったことを自覚する。同時に心臓の鼓動が少し収まるのが分かりました。

 

「トレーナーさん。中入りましょう?風邪、ひいちゃいますよ?」

 

 いまだ呆然としているカブラギさんに声をかけると、私はそそくさと柴崎さんと一緒にまた喧噪の中に入っていきました。

 

 

 




続けられるだけ続けようと思います。
よろしくお願いします。
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