伝説のモブウマ娘は失った青春を取り戻したい   作:maple sugar

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労基とココア

 マルゼン先輩にトレセン学園まで送ってもらった後、先輩に言われた通り私は帰国したことの報告をするために理事長室へ向かっているところだ。

 

「理事長かぁ、懐かしいなぁ」

 

 前に日本にいた時の理事長にはお世話になったものだ。あの時、私はトレーナーに魔改造されたためにほとんどのG1をとってしまった。するとあのトレーナーはあろうことか海外レースに挑戦しようとか言い出したのだ。そこで私は理事長室にこのバ鹿を止めてくれと直談判しに行ったのだが……

 

 

 

 

「いいじゃない、海外遠征行ってきなさいな。あなたの戦績なら数年間の海外遠征くらい簡単に受理されますよ」

 

 終わった……もうだめだ。私に味方はいないということが確定してしまった。勢い余った私は理事長室の窓から身を乗り出すが、それをトレーナーが止める

 

「落ち着くんだ、レプリケーション!」

 

「離してトレーナー! 私もう生きていけないよ! 私はちょっと重賞レース勝って地元のみんなやトレーナーさんに自慢できるウマ娘になれればそれで十分だったのにこれじゃあいろんな意味で恥ずかしくて地元帰れないよ。というか、もとはといえば全部トレーナーさんが悪いじゃん。とってよ! 責任取ってよ!」

 

「わかったよ。責任くらいとるから早く降りろよ、あぶねぇだろうが!」

 

「あなたたち、イチャイチャするならよそでなさいな。私は忙しいのですよ」

 

 おいおい、この理事長の目玉は節穴か? 今のどこにイチャイチャの要素があったというのか。理事長はやれやれと大きなため息をつく。

 

「別に海外でレースに出ろとは言っていません。もし引退するにしてもその後のことを考える時間も必要なはずです。ですが民衆がこのような状態ではあなたも気が休まらないでしょう」

 

 そこで理事長は海外留学の資料を手渡す。

 

「海外のトレセン学園に留学という形で数年間活動を停止するということにして、ほとぼりが冷めるのを待つのです。もし、海外であなたがレースに出て活躍したいのなら別ですが……」

 

「いやいやいやいや、勘弁してください。もう、これ以上有名になるのはこりごりです!」

 

 

 

 

 

 

 

 今では代が替わり、前の理事長はこの学園を去ったらしい。今は別の理事長が就任していると聞いている。

 

 日本に帰国する前にトレーナーに新しい理事長のことは聞いていた。なんでも前理事長から跡を継いで歴代最年少で理事長に就任したすごい人なんだとか。しかもその手腕は非常に多くの人たちから認められており、すでにウマ娘界を支える重鎮となっている。性格はとても器の大きな人なんだとか。やり手の若社長みたいなものだろうか? 

 

 そんなことを考えながら理事長室の前に来た。私は緊張しながらドアを叩いた。

 

「どうぞー」

 

 中から女性の声が聞こえる。とても若いが成人した大人って感じの声だ、きっと女性の若社長なのだろう。私は初めて彼女と会うということもあり少し緊張しながらドアを開いた。

 

 そこにいたのは緑色の服を着た成人女性と……

 

 

「邂逅ッ! 初めましてだな、理事長の秋川やよいだ。よろしく頼む」

 

「秘書の駿川たづなです」

 

「ニャー」

 

 

 若社長ではなく幼女だった。それも頭に猫を乗せた幼女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 私は少しの間フリーズしてしまった。

 

 確か日本には労働基準法というものがあったはずだ。満15歳までは労働をすることは法律違反だった。私が日本から離れている間に日本の法律は変わってしまったのだろうか? 

 

 なぜこんな幼女がトレセンのトップをやっているのか? なぜ隣の女性は当たり前みたいに彼女に敬語で普通に秘書をやっているのか? なぜこんな幼女が働いているのにマルゼン先輩は学生なのか? 

 

 私にはわからなかった。しかし理事長はそんな私の疑問など気にするもことなく話を続ける。

 

「まずは無事に帰ってきたことを喜ぼう! そしてー期待ッ! 伝説のウマ娘は次にこのトレセン学園で何を成すのか!」

 

「私は……これ以上何かするつもりはありません。もうあれだけのことしちゃいましたし、残りの学生生活を楽しむことにしますよ」

 

 理事長は、「期待!」と書かれた扇子をたたみ、少し考えた後話し始めた。

 

「前理事長から話は聞いている。君は自分の戦績を誇っていない、自ら何の変哲もないウマ娘だと名乗っていると。……しかし、断じて否! 君は誰から見ても伝説! 決して都市伝説になってよい存在ではない!」

 

「ですが──―」

 

 私の声は理事長の大きな声にかき消される。

 

「君はその背中で後続達に伝説を見せてきた! 当然、その背中にはこれから歴史を作るであろうウマ娘たちは皆憧れる!」

 

 私に憧れたウマ娘? そんな奴いるわけがない。私の戦績を見れば皆ドン引きだろう。皆が憧れるのは夢を追いかけてそれをつかんだウマ娘だ、たとえ才能のあるウマ娘でも夢を追いかければ挫折もするし時の運だってある。しかしその末にたどり着いた場所にこそ皆の憧れる背中があるというものではないだろうか? それがたとえ初めの予定していた夢でなくても関係ない私だったらそんなウマ娘に憧れる。……いやちょっと違う、羨ましいだ。

 

 私にはそれが無い、夢もないのに勝ってしまった……だから私はモブウマ娘なのだ。

 

「心配しているようだがそんなものは……無用! 君は間違いなく憧れるに値するウマ娘、今は君自身が自分自身を認めていないに過ぎない!」

 

「私自身を?」

 

 理事長はさらに言葉を続ける、その扇子は広げるたびに中に書いてある文字が変わる。

 

「その答えは、これからの学園生活で導き出せばよい、夢を追いかけるウマ娘たちと交わればそれは必ず見えてくるだろう。つまり……青春!」

 

 理事長は私自身を認めるための答えは、私が追い求めていた青春にあるという。すると、秘書の……たづなさん? が理事長に次の会議の時間が迫っていることを伝える。

 

「では、そろそろ私は行かねばならない! 君のこれからの成長を期待している!」

 

 理事長に激励? された私は理事長室を後にした。確かにあの理事長はウマ娘を導く手腕を持ってるといわれることはわかる。年齢と見た目は認められないがこのトレセン学園を支えているということは確かなようだ。

 

 しかし私がこれ以上成長してどうしろというのだろうか? これ以上早くなればやがて光になってしまいそうな気がする。私が自身を認めることと何か関係があるのだろうか? 

 

 それから……あのたづなさんという秘書の人はどこかで見たことがあるような気がする。「駿川たづな」とまるで人間のような名前でと呼ぶことに違和感があるのだ。

 

「確かマルゼン先輩達と一緒にいた時に……」

 

 いや、気のせいだろう。私はそう思うことにした、それ以上踏み入ってはいけない気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 以前使っていたトレーナー室はそのまま使っていいということだったため、トレーナー室に行くことにした。トレーナーはすでにトレーナー室に帰ってきており、またここを拠点とするために様々な準備を進めていた。

 

 私はそれを手伝い理事長に言われたこととこれからのことを考えることにした。

 

「私って誰かに憧れられてたりするのかな?」

 

「そりゃあそうだろう。当時のことを直に見たウマ娘はもうほとんどいないけれど強さってやっぱり人を引き付けるからさ」

 

 それは憧れというより、自分より強いやつに会いに行く的な精神だろう。それはとても困る。私はそんなに戦いを求めてはいない。

 

「あ、懐かしい。そのヤカンまだあったんだ」

 

 目についたのは私がまだここに日本にいた頃に使っていたヤカンだった。ストーブの上で温めるお婆ちゃんの様な方式をいまだに使い続けている。

 

 そのヤカンは私がトレーナーと初めて出会った日にはもうトレーナーが使っていたからもう何年使い続けているのだろう? 

 

「ああ、これなぁ。俺たちの次にこのトレーナー室使ってた人達が大事に使ってくれてたいでな。今でもちゃんと使えるようにしてくれたんだ」

 

「そっか」

 

 するとトレーナーは私にココアを持ってきてくれていた。ちょうどいい温度だ、私は猫舌だからトレーナーが配慮してくれて少し冷ましてからココアを入れてくれるのだ。

 

 このココアを飲むとトレーナーと会った時のことを思い出す。

 

 私がこの学園に来たばかりの頃、周りとの才能の差に驚愕し少しでもその差を埋めようと毎日夜遅くまで自主練を行なっていた。しかし、どれだけやっても何をやってもそれは他のウマ娘に近づくための材料にはなり得なかった。

 

 そしてある日自主練をしていた時、涙が溢れて止まらなくなった。自分で泣きたいと思っているわけではなかったが今考えればもう心の何処かで限界を感じていたと思う。

 

 私は止まらない涙を拭いながら私はグラウンドの隅でうずくまってしまっていた。そしてあたりが暗くなってしまった時、当時まだ新人だったトレーナーが私を探しに来てくれた。どうやら門限になっても帰ってこない私の話を聞いたトレーナーが一人で私のことを探してくれていたらしい。

 

 トレーナーは私をトレーナー室に連れてきて汗と夜風で冷えた体を温めるためにココアを入れてくれた。そして寮長に連絡を入れた後私の話を最後まで聞いた後トレーナーは私のトレーニングの面倒を見てくれるといってれた。それから私のデビュー戦勝利を機に正式にトレーナー契約を結んだのだ。

 

 別に特別なことはない、赤ちゃんプレイに走ることも、変な薬を飲むなんてこともなかった。

 

 ただ、何かがおかしいと気づき始めたのは本来脚質的な問題で勝てるはずのない菊花賞で勝利し私が三冠馬になったあたりからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




変かもしれませんが4000文字以内で納めたいのでここで切ります。
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