伝説のモブウマ娘は失った青春を取り戻したい 作:maple sugar
マルゼン先輩は運転しながら話してくる。
「ルドルフがあの学園で何をしようとしてるかは聞いた?」
「はい、自分が絶対的な柱となることでみんなを導いてすべてのウマ娘を幸せにするとかなんとかって……」
「そうそう、ケーちゃんはどう思った?」
「わたしは……あんな風に走ってたらきっとみんな壁を感じてしまいますよ。孤立してしまう気がするんです。急に強くなった私を見てみんな私から離れていきました。あの生徒会長は私以上に周りから見て得体のしれない、自分とは違う世界にいる存在だと思ってしまう筈です」
ここまでのあらゆる面での才能の差があるウマ娘が周りのウマ娘たちの苦悩を理解できるのだろうかと考えてしまう。それは彼女の言うすべてのウマ娘が幸福に暮らせる世界という目標の大きな課題となるはずだ。
「そうよねぇ、私たちとは違って役職柄どうしたっていろんな子たちと関わることになるからよりそれを感じてしまうでしょうね。本人もそれを悩んでいるみたいだけど、でもどうしてほかのウマ娘達は気楽に話しかけたり、相談してくれないのかさっぱりわかってないって感じね」
「やっぱりそうなんですか……」
「それで愛嬌を磨くためにダジャレの勉強を始めたみたい」
「何やってるんですか、あの人」
ズレすぎにもほどがあるでしょ。あの生徒会長の雰囲気の中からおやじギャグなんて飛び出して来たら事情を知らない人なら脳がバグることだろう。
「結構かわいいところあるのよあの子。だから少し変わったウマ娘だけどあなたもルドルフのこと仲良くしてあげてほしいの。ああ見えて寂しがりやだからあなたがたまにおしゃべりでもしに行ってあげればきっと喜ぶわ」
そういうものなのだろうか? 初対面であんな近づきづらい堅苦しい雰囲気出しておいて実はみんなと仲良くしたいとか新手のツンデレかよ。ちょっと違うか?
「そういえば、あの生徒会長ってやっぱりすごい一族の出って聞いたんですけど。もしかして、あの才能だから幼いころから社交場に出てとかそんなことやってたんですかねぇ」
「そうねぇ、メジロの家の人たちみたいに将来を期待されたウマ娘はそういう教育されるのかしらねぇ。なんだか、そういうの寂しくなっちゃうなぁ」
もしかして小さいころから著名な大人の人とかとばっかり交流してきて普通の人間とかウマ娘とかとの交流の仕方わからないんじゃ……。きっと彼女の通うような学校でもそういった経験がないのだろう。だから、仲良くなりたくても大人との交流のような仕方にしかならなくて堅苦しくて距離のある会話になってしまうのではないだろうか? その結果、仲良くなる方法として選んだのがおやじギャグである。
絶対に大人と関わる中におやじギャグ言う人いたんだと思う。なんてことをしてくれたのだろうか。
「あの人何でも出来る完璧超人に見えてそういうところは不器用なんですね」
「そうそう、暇な時でもいいから今どきっぽいことでも教えてあげたら? 熱湯風呂で「押すなよ」とかやったり二人場織でおでん食べさせたりとか」
「トレセンの生徒会長に何やらせようとしてるんですか?芸人じゃないんですよ」
というかそれは今の中高生に通じるのかすら怪しい。とはいえ、シンボリルドルフは生徒会長だから忙しくてあまり私のようなモブウマ娘が遊びに行く暇などないと思う。
そういえば先輩はこうやって話しながら車を走らせているが私の新居となるマンションの場所は知っているのだろうか?
「あら、ケーちゃんのトレーナーから聞いてないの? ケーちゃんの新居私の住んでるマンションと同じところよ」
「え?」
ついた場所は絶対にモブウマ娘の私には似つかわしくない高層マンションだった。
「実はあなたのトレーナーがこのマンションの視察に来てた時に偶然会ったのよ、それで私が住んでるマンションなら安全かもってここにしたらしいの」
「これタワマンってやつじゃないですか! 私が入るのすらおこがましい場所なんですけど!?」
「いいのよ、あなたも数年間隠居してとはいえまだまだ有名ウマ娘なんだし遠慮することなんてないわ。鍵もあずかってるからほら入って入って」
私はマルゼン先輩に促されるままマンションの中に連れ込まれた。
「なにこれ? 一世帯分の住宅じゃん。私の知ってるマンションの広さじゃないんだけど……」
自分の部屋だという場所に案内された私はその広さに驚かされる。玄関に入って左の扉には洗面台とお風呂があったしかも浴槽は足が延ばせるユニットバスだった。
玄関からまっすぐ行けばそのまま寝室で左に行けばキッチンとリビングとダイニングだ。ほとんどの家具はトレーナーが設置しており業務の冷蔵庫までそろえられていた。
確かに当時は結構食べていた気もするが私ってもしかしてトレーナーに結構食べると思われる?
やべぇ、田舎のモブウマ娘がこんな都心のタワマンに住むことになるなんて誰が予想するだろうか。海外での生活の時は寮生活だったしこんな場所で一人暮らしをするなんて考えたこともなかった。
「それじゃあ、今日は疲れたでしょうから私は帰るわね。何もないと思うけど何かあったら連絡しなさい私は一つ上の階にいるからね。それじゃあバイビー」
それだけ言うとマルゼン先輩は帰ってしまった。本当に面倒見のいい先輩である。あんな先輩を持てて幸せだな……走る時は容赦なしだけど。
とりあえずお風呂に入って寝ることにした。よく考えるとこの服で飛行機に乗って乗り換え込みで16時間くらいでそのまま学園行ってシンボリルドルフと走ってとやっていたから相当汚れているはずだ。
私は浴槽にお湯を溜め体を洗ってから浴槽につかる。浴槽につかりながら電話をかける。
「もしもし、トレーナー? フツーのマンションでいいって言ったよね? こんなタワマンに一人暮らしとかセレブじゃないんだからさぁ」
「いやいや、お前もうマルゼンスキーレベルの有名人なんだから。そのくらいのマンションには住んでても誰も文句言わないでしょうに……」
「こんなところ住んでたらほかのウマ娘ドン引きじゃん。普通の青春目指してるのにこんなところに友達連れてきたら一発で素性バレるでしょ!」
「とか言いながら、風呂につかってる音聞こえるぞ。満喫してるじゃん」
「……今日は疲れたの。まあ、いろいろあったからね」
まずい、気持ち良すぎて浴槽で寝てしまいそうになる。
「お前シンボリルドルフと並走しただろ?」
「えっ!?」
一気に目が覚めた、まさかこんなにも早くトレーナーにバレるとは思ってなかったからだ。
「なんで、バレたの?」
「帰りの途中でルドルフと会ったんだ。律儀に俺の所にケーションと並走した事を報告をしに来ようとしていてな、まあ二度とするなって言ってやったけどさ。お前はレース用の調整もずっとしてない状態から突然シンボリルドルフレベルのウマ娘と並走なんてしたらケガするかもしれないっていうのはわかってるよな?」
「……ごめんなさい」
私は素直に謝った。自分でもわかっていたことだが普通そんなことしたら怒られて当然である。
「はぁ、お前さ。正直我慢できる?」
「何を?」
「レースとかはともかくさ。モブウマ娘みたいな青春を送りたいとか言ってるけど、今の学園にはケーションが前いたころの学園にはいなかったような可能性の塊みたいなウマ娘が沢山いるわけさ。そんな中でさ自分だけ走らずにじっとしてられるかって話だよ。今回みたいにさ」
「……無理かも」
正直な話すればルドルフと並走した時、あの最後の直線の時の高揚感は久しく忘れていた。もし、今回みたいに周りに人がいない場面で強めに並走を要求されたら承諾してしまう気がする。あー、やっぱりウマ娘の本能には逆らえないのだろうか?
「そうだよなぁ、海外でもなんだかんだ強そうなウマ娘に絡まれては裏で並走して叩きのめしてただろ?」
「いや、だってあれはなんか舐めた感じで絡んできたからさぁ」
やっぱり日本のウマ娘は体格的にも海外のウマ娘に比べて小さいためこういった競技では不利になりやすい。そういう意味で私も最初はあまり素行の良くないウマ娘から絡まれたがまあ、一度並走したらそういうことはなくなった。海外のレースでは接触やタックルまがいのこともやってくるラフプレーが当たり前だから初めは驚いたがまあ、要はそうなる前に前を走っていればいいだけである。マルゼン先輩の走り方がヒントになった。
まあ、今では体の状態的に無理なやり方だが……
「わかった、とりあえず空いてるときに俺のところ来い」
「何するの?」
「お前がいつ走ることになってもいいように体の状態を調整・維持しておくの。レースするわけじゃないから前やってたようなメニューじゃないけどとりあえずお前がケガだけはしないようにしとかないとな」
「でもトレーナーこれから忙しいんじゃ・・・」
「いいんだよ、人権無視だの人体改造だの色々いわれてきたけどなんだかんだ俺の担当ウマ娘でいてくれたからな。ケーションがやりたいっていうんならサポートするさ」
「……ありがと」
私は一言お礼を言うと「お休み」と言って電話を切った。確かにあの時はいろいろ言ったが今も昔もトレーナーには感謝している。甘えてばっかりじゃだめだよなぁ。
私はお風呂から上がり新品のベッドに横になる。
「あーこれ結構高いやつだ」
こんなベッドに寝かされて明日起きれなかったらどうしようか。まあ、特に予定はないしそのまま惰眠をむさぼってもいいかな
学園ではもう私は高校までの単位は取得済みだから授業に出なくてもよい。つまり自由登校?ってやつだ。練習だけしに来ればよいことになっている。
そんなことを考えているとそのまま私は眠ってしまった。
寝室の照明はつけたままだった。
私生活が忙しく前のように連載することが難しくなってしまいました。
定期的には連載しようと思っているのでご了承ください。