伝説のモブウマ娘は失った青春を取り戻したい 作:maple sugar
ルドルフはとうとうデビューして無敗でジュニア級を終えた。当然次の三冠ウマ娘の期待も高まっていることだろう。
雑誌やテレビ番組にも引っ張りだこだ、取材もすべて受けているという。私と連絡を交換したもののたまに生徒会室で話す程度に落ち着き、その内容も学園やレースの話ばかりだった。
というか、ルドルフは働きすぎだ。いくら夢のためとはいえなぜ学生のうちからこんな緻密なスケジュールで生徒会の仕事と授業とトレーニングをやっているのかわからない。
彼女も今しか青春を楽しめる時は今しかないのだからウマ娘として青春を楽しめばいいのに……
そうはいっても無理なものは無理なのである。そうわかっていてもやっぱり、彼女の多忙ぶりは心配せざるを得ない状態になっていた。
だから私は久しぶりに顔を出すついでにおめでとうの一言でも行ってやろうと思い生徒会室にやって来た。
するとドア越しから声が聞こえてきた。ウマ娘は耳がいいためドア越しからでもその声は聞こえてくる。
「な、何でも無いです! ごめんなさい!!」
聞き耳を立てていた私はその声が聞こえた後ものすごい駆け足でこちらに向かってくる足跡が聞こえた。
ん? と、いうことは? やばいと思ってドアから離れようとしたが遅かった。
バン!! という大きな音とともにドアが開かれ私の頭にクリティカルヒットした。
しかし、ドアを開けた当の本人は私には全く気付かずに立ち去ってしまった。
「いてて……」
「む、レプリケーションか!? ケガはないか?」
「アーワタシハドコ? ココハダレ?」
「……平気なようだな」
うう、痛い……これ絶対たんこぶになってるよ。
生徒会室から逃げて来たウマ娘は屋上でうずくまっていた。
「どうしよう……私、逃げてきちゃった。もう戻れないよ」
「み~つけた!」
「きゃぁぁあぁぁああ!!」
事件性のある悲鳴が屋上に響き渡る。彼女を追いかけてきた私は屋上で彼女を見つけたのだが驚かせてしまったようだ。
「ちょっと、いくら何でも驚きすぎでしょ?」
「あ、ああ、ご、ごめんなさい。あの、何か私に用でしょうか?」
「ああ、そうだった。ほら見てここたんこぶが出来てるでしょ? どうしてだと思う?」
私はおでこにできたたんこぶを指さす。今もヒリヒリとしていて少し痛い
「どっ、どうしてですか?」
「さっきあなたが勢い良く開けたドアにぶつかったからだよ」
彼女はみるみると青ざめていく。
「ごめんなさい! 私、一刻も早くあの場から逃げ出したくてそれで……」
とんでもない早口で謝罪をする彼女を私はなだめる。おかしいなぁ、私そんなに怖いかなぁ、ルドルフやマルゼン先輩じゃあるまいし。
「ああいいのいいの、別に怒ってるんじゃないからさ。ただほらウマ娘って耳がいいんだよねだから部屋の中での会話聞こえちゃってね、心配だったからこうして追いかけてきたわけ。よかったらお話聞かせてもらえない?」
「あ、それは……その……」
うーん、そもそも彼女自身がまず落ち着くべきだろう。
私は彼女を連れてカフェテリアへ向かった。
「わ、私、中等部のフィーリングステラって言います。生徒会の庶務を務めています」
「ふーん、庶務ねぇ」
えーと? 庶務ってなんだ? 私は学園に入学してから生徒会に関わったことが一度もない。日本へ帰って来た時にやっとシンボリルドルフもとい生徒会長に関わったのが初めてだった。
私の経験で言えば生徒会は漫画の中でしか見たことのない架空の組織だ。大抵学園を武力で支配しなぜか風紀委員と血で血を洗う戦いを繰り広げている。えーと、確か……生徒会長をはじめ副会長、会計、書記……あー、思い出してみれば庶務っていた気がするなぁ。
正直何をする役職なのかはわからない。後で調べてみると備品の確認や部室調査、書類作りや予算のなどの書類整理が彼女の役職らしい。
「それで? どうして生徒会室から逃げてきたの?」
「実は私……生徒会を辞めようと思ってるんです」
生徒会役員というのは基本的に志願制なのだがシンボリルドルフが生徒会長となってからすべての役員は彼女から直接接触してきてルドルフ本人から誘われるらしい。
つまり、彼女はルドルフに生徒会にスカウトされた優秀なウマ娘なのだろう。ただ足が速いだけの私とは違うというわけだ。勉強はあまり好きではなかったし……
そんな彼女だがいざ入ってみて感じたことは周りとの差異による劣等感だった。彼女の周りにいるウマ娘達はエアグルーヴやナリタブライアンといったこの学園に来てから日も間もない私ですら耳にしたことがあるウマ娘だった。
そんな彼女たちはルドルフの右腕、左腕として申し分ない活躍をしていた。彼女たちはレースの成績もよくデビューすればトゥインクルシリーズでも確実に活躍できるといわれている。
そんなウマ娘たちの中で一緒に仕事をしていれば嫌でも自分の仕事のスピードや正確さ、果てはレースの成績なんかも比べてしまう。
彼女はお世辞にも仕事が速いとは言えず自分の仕事が滞っているせいで全体の仕事がストップしたということもあったらしい。その時には周りが手伝ってくれたらしいが、そんなことが続いていると自分は本当にこの生徒会に必要なのかと思ってしまったらしく。生徒会から抜けることを考えたらしい。
それをエアグルーヴに相談すると、
「考え直すことは出来んのか? そんなことを考えるには些か性急すぎだとは思わんか?」
「そ、それは……その……ごめんなさい!!」
「ん? どうしたんだ?」
「あっ会長! あ、あの……」
「どうしたんだ? エアグルーヴ、何かただならない相談をしていたようだが?」
「実は……」「な、何でも無いです! ごめんなさい!!」
そういって彼女は生徒会室から飛び出してきたようだ。できればもう少し優しく飛び出してくれれば私のおでこは無事だったのだが……
「生徒会役員の皆はとても優秀なんです、レースでもよい成績を残してて、仕事も出来て、他の生徒たちの模範になるような生徒でないといけないんです。それに比べて私は……私は……ワタシハ……」
どんどんと声が小さくなり俯いてしまう。しかし私としては彼女に言いたいことがあった。
「ねぇ、ステラちゃん。それさ……」
「……はい」
「すっっっっごく、わかるー‼」
それはまさにかつてのトレーナーに出会う前の私であった。
周りが優秀でどんどん次のステージへ上がる中自分だけが取り残されている感覚はものすごくよくわかる。努力したとしても誰からもそんなこと言われていないのにまるでその努力そのものが無駄なのだといわれている気分になるのだ。はっきり言って被害妄想なのだが、本当に追いつめられて味方がいないとどんどん自分で自分を追い込んでしまうのだ。
これは良くない。これではたとえ彼女が生徒会を辞めたとしても彼女は自分で自分を許すことが出来ず長い間禍根や後悔として残り続けるかもしれない。確実に生徒会メンバーにはもう二度と近づけなくなるだろう。
それでは根本的な解決にならない。となれば……
「よし、今日はもう生徒会は休みにしなさい。代わりに私に付き合うこと、いい?」
「え? でもそんなことしたら……」
私はルドルフに電話をかける。
「ああ、ルドルフ? ごめんだけどさっきの子ちょっと借りていくから今日はもう休みにしといて」
それだけ言うと私は電話を切った。そもそもさっきの時点でエアグルーヴから彼女には緊急の仕事は無いことは聞いている。だからそもそも休んだとしても問題ないのだ。
「はいこれで心配しなくて大丈夫でしょ? お腹すいたから外に食べに行きましょ」
私とフィーリングステラはまだ夕方になる前のトレセン学園を抜け出し町へ向かったのだった。