君の瞳に映るのは   作:露草ツグミ

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第15話 両親との対話 2(ロックマン視点)

 

「城は随分と暇なようですね。羨ましいかぎりです」

 

 アルウェスは息を吐いて、新しい紅茶に口をつけた。オルキニスは王太子が即位して、女王の後始末に奔走している。各国もその対処と女王を操っていた魔物の探索に追われているはずだ。女王の凶行は内密にされているが、オルキニスで殺された氷型の魔女の遺族には何らかの賠償が必要で、それすらまだ決まっていない。

 

「オルキニスの陰惨な話ばかりで、皆嫌になっているのだろうよ。少しでも楽しい話をしたいのさ。ミスリナ王女は早くお前に帰ってきてほしいと言ってたぞ」

「こればかりは僕の希望ではどうにもなりません」

「貴方がいない夜会はご令嬢たちも足が遠のいてしまうようなの。お茶会はたくさん開かれているのだけれど……」

「若いお嬢さんたちがいないと社交界は盛り上がりに欠ける。そこでゼノン殿下やお前と親しいヘルさんとハーレの女性たちに白羽の矢が立ったようだ。わざわざハーレに仕事を依頼したり、平民に扮して食事に誘う輩もいるらしい」

 

 アルウェスは眉を顰めた。何とも不愉快な話だ。ドーランでは貴族法によって平民との婚姻も、愛妾にすることも禁止されている。

 とはいえ、抜け道がないわけではない。優秀な平民の魔女ならば、貴族の専属の魔術師にして囲い込むこともできるだろう。領地に閉じ込めてしまえばいくらでも誤魔化せる。

 

「ヘルさんは平民だから、貴族が権力を振りかざせば、抗う術はない。我々よりずっと下位の貴族に対してもね。それに、もし他国の貴族や権力者が出てきたらどうする? オルキニスで共に戦った国の騎士たちはお前が変身したヘルさんの姿を目にしているのだろう? 特徴的な外見をしているから、調べればすぐに特定されてしまうよ」

「…………」

「ヘルさんを庇護するなら、ミハエルよりわたくしの方が適任だと思ってるわ。わたくしがヘルさんと親しくしていると広く知らしめれば、国内外の貴族が彼女に強く出ることはできないでしょう。ヘルさんはキャロマインズ侯爵家のマリスさんともお友達と聞いているわ。マリスさんも一緒なら心強いのではないかしら」

「公爵夫人の母上の相手はヘルには無理でしょう。荷が勝ちすぎています」

「でも……」

「ハーレの所長は権力にも上手く対処できる賢い女性ですし、騎士団もハーレによく顔を出してます。貴族に目を光らせる役割ならマリスで充分ですよ。マリスはヘルと仲が良いですから、僕と殿下から頼んでおきましょう」

 

 ハーレの女性陣とヘルを取り巻く貴族への牽制はマリスに頼んでおけば大丈夫だろう。不埒な貴族の男どもの噂など団長のグロウブの耳にはとっくに届いているだろうし、特に今はアルバート・ミロナスの逮捕で騎士団はハーレ周辺を警戒している。ハーレの所長も守りを固めているところだ。

 

「騎士団とキャロマインズ侯爵令嬢に任せればいいと本当に思っているのかい? お前が帰国したのはヘルさんを助け出すためだろう?」

「それは……」

「今回のこともオルキニスと根は同じ……氷の魔女を、そしてヘルさんを狙ったものではないのかね?」

「残念ながら、僕も詳細は知りません。騎士団が調べている最中ですから」

 

 まだ断言はできないが、ヘルを苦しめた悪辣な惚れ薬の黒幕には魔物がいるとアルウェスは推察している。

 オルキニスの女王を操った魔物、シュゼルク城の晩餐会に現れた「シュテーダルのために」動いているという魔物、人間を嘲笑うかのように各国の城を荒らして回る魔物。これらがすべて同一とは思わないが、まったく無関係とは思えない。共通の目的を持つ魔物たちが同時期に大陸中を跋扈(ばっこ)していると考えるほうがしっくりくる。

 

「任務に関わることは無理に話さなくていい。だが、悠長に他国で魔物探しをしている場合なのか?」

「……それは騎士団が判断することです」

 

 国外遠征の目的はシュゼルク城で取り逃がした魔物の探索と退魔だ。可能ならばオルキニスの女王の背後にいた魔物も始末したい。

 もしアルバート・ミロナスの事件の背後に氷の乙女を狙った魔物がいると判明すれば、国外遠征の見直しが必要だろう。合同で調査しているヴェスタヌも説得する必要がある。

 

「隊長の貴方の意見をもっと尊重してもらってもいいのではないかしら?」

「ゼノン殿下はご自身が副団長だから気にしていらっしゃらないが、護衛のお前を殿下から離して、長期間国外の任務に就かせるのはどうかと私も思うね」

「僕はまだまだ若輩ですから、もっと経験を積めと殿下も思っているのでしょう」

 

 アルウェスはニコリと笑った。騎士団も軽々しく方針転換はできない。オルキニスの件は一般国民には知らされておらず、国外調査からして表向きは留学となっている。水面下で調整を行い、各国を混乱させないように立ち回らなければならないのだ。父上にも口は出させない。

 

 父上と母上は顔を見合わせ、「うーむ」と父上は顎に手を当てて唸り、母上は小さくため息を吐いた。

 

 

「そろそろ失礼します。これから騎士団に行かなければなりません」

「まあ、待ちなさい。ここからが本題だよ。ヘルさんの身辺調査の結果なのだけどね、彼女のお母さんについてさらに詳しく調べさせたんだよ」

「……何か問題でも?」

「仮面舞踏会のときは脈なしというか、お前はまったくヘルさんに意識されていなかったから、報告書をさらっと読んだだけで終わらせてしまったんだが、よくよく調べてみると、ヘルさんのお母さんは実に謎の多い女性だ」

 

 色々と聞き捨てならないことを言われた気がするが、深く考えるのはやめておく。

 

 ドーラン国内の氷の乙女を把握する調査のときに、ヘルの家族関係の情報は一通り目を通している。母親の魔法型が不明というのは妙に思っていたが、晩餐会でヘルが母親は魔法型を調べていないと言っていたので、平民ならそういうこともあるのかと一応納得していた。

 

 魔法型は遺伝の要素が大きい。ヘルの父親は火型で、父方の親戚に氷型はいない。ならば必然的に母親が氷型か、氷型の家系出身と考えられる。

 

「魔法型が不明な点ですか?」

「うん? ああ、それもあったね。それだけではなくて──ヘルさんのお母さんは家族や親戚の情報が一切ない。ヘルさんのお父さんと結婚するまでの経歴がさっぱりわからないんだ」

「他国出身ということでしょうか?」

「結婚証明書にはドーランのライヒェポルク出身と書いてある。あそこは中都市で人口も多いから調べるのは少々骨が折れてね。私の伝手を使って魔女祭の記録を当たってもらったのだが、彼女の名前はなかった。魔女祭のときには別の土地に移っていたのか、生まれがドーランで他国で育ったのかもしれない。もしくは名前を変えた可能性もある」

 

 ヘルの両親と面識はないが、馬鹿正直で思ったことがすぐに顔に出るヘルの母親が、経歴や名前を偽って生きているというのはどうにも違和感を覚える。はっきり言って、そぐわない。ヘルだけが何も知らないということは充分にあり得るけれども。

 

 アルウェスが話を聞く姿勢に戻ると、父上は小さく頷いて、ヘルのお母さんに関する話を続けた。

 




しばらくは隔日で更新します。

魔女祭について、国中の十九歳の女性が神殿に集められるのも変な気がしたので、貴族女性と魔法学校に通った平民の女性は一緒に、その他の平民の女性は地域ごとに魔女祭を行うという形にしました。
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