「ふっ副司令!?」
「本当ですかそれ!?」
(速瀬中尉や伊隅大尉すら知らなかったのかよ!?)
緩めきった表情で示された『香月夕呼』の発言に、一同は唖然とした。
「米軍はともかく、国連も騙しているんですか!?」
『涼宮遥』も思わず尋ねる。
「そうよ。本当の『桜花作戦』は『オルタネイティブⅣ』が独自の目標と目的を以って決行するわ。『あ号標的』の破壊という最優先事項は同じ、作戦自体も大筋殆変わらない。変わるのは、あなた達がSW115に突入した後よ。下準備として、米軍と国連軍に提供したオリジナルハイヴのマップデータに細工をしておいたわ」
「細工ですか…………?」
「これは、最終的に突入部隊を地表に誘導する為のものよ、親切にBETAの出現率が低いルートを常に選びながらね」
「偽造データ………ですか?」
『鎧衣美琴』が直感を述べてみる。
「マップデータ自体は本物。『あ号標的』や『い号標的』の位置は衛生データの解析でもわかっているから、すぐ見破られてしまうわ。………そのデータにはある種こコンピューターウイルスが組み込まれているのよ」
「コンピューターウイルス…………」
「戦術機の管制コンピューターに侵入して全ての機体や衛士、司令部さえも『い号標的』に向かっていると信じさせるものよ」
「衛士までですか?」
『榊千鶴』が疑問を尋ねる。
「フィードバッグプログラムを細工して、実際には登っているのに、下っているように知覚させるの」
(なるほど…………数値情報から視覚や感覚まで、何から何まで錯覚させて、良いように誘導するのか。戦術機の揺れも感覚的に相殺できるんだ、やろうと思えばそれくらい訳ないか…………)
「シュミレーターと…………同じ様なものですか?」
「そうね、それのもっと高級豪華版ってところかしら。なにしろ国連軍や米軍の司令部まで騙すんだからね、彼らの正確な位置マーカーを見ることが出来るのは、この地球上であたし達だけになるのよ」
「すごい・・・・・」
『珠瀬壬姫』の口から心の声が漏れる。
(確かに凄いけど・・・・いくら近々計画されていた作戦とはいえ、そんなプログラムが都合よく前倒しで準備出来るわけが無い)
「副指令・・・・・いつから準備してたんですか?」
「いつからだと思う?」
『伊隅みちる』の問いに『香月夕呼』は不敵な笑みで返す。
あの娘はあんたをどうやってここに連れてきた?本来ならセキュリティーに引っかかるはずね?
なんか、端末に手をかざしてました。本人はどうしてそんなことが出来るか分からないって言ってましたけど
理由は簡単。ゲートの端末から基地のメインコンピューターへ侵入して、セキュリティコードを書き換えたのよ
えっ、純夏がハッカーみたいな事をしたって言うんですか!?コンピューターの知識も無いのにどうやって?
知識は関係ないの、彼女は論理的情報や技術的情報に基づいて『書き換え』という行為をした訳じゃないから・・・・例えば『白銀と一緒に通りたい』・・・・・そういう抽象的な思考だけで、高度なハッキングを難なくやってしまったって事なの
・・・・・
あの娘は『00ユニット』なのよ?量子電導脳の性能を甘く見ないで欲しいわね
(!?これは純夏だ・・・・・あいつが『凄乃皇』のデータリンクから人類の全システムに侵入して情報を擬装するんだ・・・・!)
『香月夕呼』との過去の会話を思い出し『鑑純夏』に視線を向ける『白銀武』、『鑑純夏』は少しだけ彼の視線を見つめると顔を赤らめた。
「じゃあ、ここからは突入後の流れに沿って説明していくわ。その方がわかりやすいはずよ」
スクリーンモニターがオリジナルハイヴの地下構造を概略した地図に切り替わる。
「これがオリジナルハイヴの断面概略図。赤いのが最も敵出現率の低い初期設定ルート。全て直径400m以上の『縦坑(シャフト)』と『横坑(ドリフト)』が選ばれているわ。さすがフェイズ6となるとスケールが違うわね、繰り返しになるけど、『XG-70』の一撃を確実なものにするためには、可能な限り戦闘を回避する必要があるわ、だけど、時間の経過に従ってBETAは『ムアコック·レヒテ機関』目がけて殺到するはずよ。当然状況によって安全なルートが表示されるけど、比較的マシって程度だから安心しないで、最短ルートさえ少なく見積もった初期配置で20万体はいるはずだから」
「20・・・・万体」
「だから重要なのはスピードよ。ハイヴ突入のセオリーだけど、全ての個体を相手にしていたら絶対に失敗するわ。最低限かつ最大効率の戦闘と的確なルート選択。そして、敵増援の集結を上回る速度で移動し続け、『あ号標的』に到達する事・・・・・これがあたし達に残された唯一の戦術。だから、国連軍部隊は正直足手纏いってわけ」
「副指令・・・・・」
思わず出た本音に『伊隅みちる』が口を挟もうとするが口をつぐんだ。
「軍上層部のお偉い方は、人類の命運を懸けた作戦の決戦部隊がたった8機ってのが不満らしくてね、随伴は作戦協力の条件だったから渋々了解したけど、軍人って、数が揃ってないと安心出来ない生き物なのかしらね?スピードが最も重視されているのに、役に立つかわからない大部隊引き連れて行くなんて、あり得ないわよね?」
(まあ、俺達はその突入部隊の実態を把握してるから、ある程度消化出来てはいるけど、全く得体の知れない部隊に人類の命運を託すなんて言われたら・・・・・流石に不安だよな)
「というわけで、米軍同様、彼等にも早々にお引き取り願うのよ」
(頭数が多い方が安心出来るってのは理解出来るし、実際に突入する立場からしても心強い。けどそれはただの依頼心だ。ゼロで無いにしろ、作戦成功率に大きく影響する程の数を集められているわけじゃない。つまりこの作戦、国連軍は俺達の囮であり弾除けだってことだろ?特に、随伴部隊の連中は生還を考えていないはずだ・・・・『XM-3』も装備していないんじゃあ、どんなベテランだって『A-01』以上の戦果は期待出来ない。そういう意味では、結果として多くの衛士を救う事になるのは確かだけど、足手纏いだから地表に誘導する・・・・ある意味合理的な考え方だけど、どこか先生らしさには欠けてる気がする・・・・たとえ0.1%でも成功率が上がるなら国連部隊だろうと利用し、邪魔な場合は切り捨てる。いつもなら、そのくらいのシビアさがあるのに)
「さて、スッキリと身軽になった貴方達は、スピード重視で進撃して行くわけだけど、『あ号標的』の手前で、絶対に避けることの出来ない最大の難関に行き当たる。『あ号標的』の四方に配置された、容積約90億立方mの『主広間(メインホール)』。どのルートを選んでも、このいずれかを通過しなければ、『あ号標的』には侵入出来ないわ。だから当然ここも一気に突破したいtころだけど、『主広間(メインホール)』の出口と『あ号標的』の直前に大型隔壁が、存在するのよ。厄介なのが、2つの隔壁が初期状態で閉鎖されてるってこと・・・・つまり隔壁を開放して『XG-70』が通過するまでの間、嫌でも万単位のBETAと戦わざるおえないってわけ、しかもこまったことにここでは通信に重大な障害が発生するのよ」
「えっ!?」
「それ自体が絶対不可能って訳じゃないわ、近距離なら何ら問題ないレベルで、データリンクも交信出来る。だけど、壁を構成している物質が、ある種の電磁波を吸収してしまうらしく、距離に比例して通信が困難になるのよ、これはBETAのエネルギー交換方法に関係ある現象らしいんだけど、詳細は不明よ。対策としては、中継器で電波をブーストするとか有線接続するとか・・・・いずれも、この基地の反応炉でその有効性が実証されているわ」
(そうか、あそこにも小規模ながらBETAの補給設備があったのに、中尉と何の障害も無く交信出来たのはあのブロック自体の中継器が破壊されていなかったからか・・・・・)
「だけど、共に大がかりで手間がかかる上、戦闘耐久性も低い。数十万のBETAがひしめくオリジナルハイヴでの実用性なんて、話にならないレベルね」
「・・・・・」
「そこでこの最大の難関を克服する為の手順から、『あ号標的』の破壊の流れを説明するわ。まず、『主広間(メインホール)』手前の『横坑(ドリフト)』で『ムアコック·レヒテ機関』を臨界運転し主砲発射態勢に移行。となるとBETAは当然『ムアコック·レヒテ機関』に反応して『主広間(メインホール)』入口へ殺到。そのタイミングで硬隔貫通誘導弾頭弾(バンカーバスター)は含まないから注意して、BETAを効率よく吹き飛ばしたら、『ラザフォード場(フィールド)』を前面展開して『主広間(メインホール)』へ突入。一気に奥まで進み、直援部隊は隔離開放作業にかかる。理想はa小隊が行ってb小隊の『XG-70d』が『あ号標的』撃破の為のエネルギーをチャージして欲しいけど、そこは臨機応変に任せるわ。それでこの隔壁、新種のBETAであることが判明しているわ」
「えッッツ!?」
(あんな巨大な隔壁が生き物だって言うのか!?)
「と言っても攻撃力や思考力は皆無のどちらかといえば生体組織に近い生命体らしいわ、この隔壁の『脳』にあたる部位が、異なった電気パルスの刺激を受ける事で2種類の化学物質を分泌し、開閉運動を行うのよ。作業は難しくないわ。まず『脳』と隔壁を繋ぐ補給導管に、開放を促す化学物質を注入し強制開放。次に、『脳』に『S-11』を仕掛けて待機。起爆タイマーは新型に換装するから安心して。第一隔壁を開放したらa小隊は『横坑(ドリフト)』にそのまま先行して突入し第二隔壁開放作業にかかる。b小隊は『XG-70d』を直援しつつ、『S-11』を設置、第一隔壁閉鎖準備にかかる。この間『XG-70d』は作業部隊を支援。臨界運転中は当然、戦闘出力の『ラザフォード場(フィールド)』を展開出来るから防御は万全というわけ」
「えっ!?」
『白銀武』が少し不安げな反応をする。
「安心しなさい。どのみち出力不足を補うために、『あ号標的』の手前から主砲発射態勢に入らざるおえない所だから。機関の臨界運転が必要になるのは大気圏突入と主砲発射直前の2回。これが許容ギリギリ、今までの話と矛盾するけど、この段階なら干渉負荷による多少のロスは目を瞑るわ。この『主広間(メインホール)』を突破出来なければ、全てがパーだからね」
「・・・・・・」
「第二隔壁開放作業は『XG-70b改』を起爆剤として使うわ」
「!?」
「a小隊の直援部隊が開放物質を注入している間『XG-70b改』は起爆タイマーをセットしパージ。パージされた『吹雪』が『XG-70b改』の衛士2名を回収。『XG-70d』へ機体ごと収容。もし『XG-70b改』が使えない時は『S-11』を作業部隊が設置する。」
「『XG-70b改』は何故破壊してしまうのですか?」
『御剣冥夜』が尋ねる。
「再建造出来る技術が無いのが1点。元々『XG-70』は米国で開発中止となった機体を譲渡してもらったからね。あとはこの後の説明にも関連するんだけど脱出機能を装備出来ない点。そして投機するにしても『XG-70』の情報流出を極力阻止したいってところかしらね」
「なるほど、具申失礼致しました」
「いいわよそんな畏まらなくて。話を戻すわね。小隊の準備が完了したら『XG-70d』は『横坑(ドリフト)』に進入。『ラザフォード場(フィールド)』を隔壁付近まで展開し、BETAの侵入を防ぐ。b小隊は閉鎖物質を注入し、『S-11』のタイマーをを起動。隔壁閉鎖前に『横坑(ドリフト)』へ進入。BETAが進入した場合。b小隊がこれを排除。恐らくこの辺りで第一隔壁の『S-11』が爆発し『脳』を吹っ飛ばす。それにより第一隔壁は暫く開放不能となり、その間『横坑(ドリフト)』内の安全は確保される。ここで『XG-70d』は臨界運転を継続し、砲撃準備の完了を待つ。直援部隊は作業注入機を残し機体を放棄。『XG-70d』は衛士を収容。砲撃準備完了を合図に、開放物質注入開始。衛士は即時機体を放棄し『XG-70d』に退避。第二隔壁が開放され次第、『XG-70d』は『あ号標的』ブロックへ進入。発射態勢のまま砲撃開始地点まで前進。どういう訳かここにはBETA群が初期配置されていないわ。段取りよく行けば、戦力は後方に集中出来る筈よ、仮に配備されていたとしても近づく前に主砲の砲撃で木っ端微塵でしょうけど、砲撃と同時に硬隔貫通誘導弾頭弾(バンカーバスター)を斉射。『あ号標的』ブロック天井の最も薄い部分を破壊して、『主縦坑(メインシャフト)』への退避ルートを確保。『あ号標的』の破壊を確認した後、退避ルートを通り、『主縦坑(メインシャフト)』から『孔(ベント)』を抜けオリジナルハイヴを離脱。ここで『あ号標的』の破壊に失敗した場合。第二隔壁の『S-11』を遠隔起爆。次の攻略に備えて開放状態を固定する。『XG-70d』での離脱が困難な場合、『ムアコック·レヒテ機関』の減速材を全て投棄し、管制ブロックに格納された装甲連絡艇を使いなさい。ただし、『あ号標的』ブロックに着く前に、任務達成が不可能と判断した場合は・・・・・わかっているわね」
「はい!」
「『XG-70b改』の作戦コードはA-02、『XG-70d』はA-04よ。いいわね?」
「了解!」
「作戦の説明は以上よ。何か質問はある?」
「・・・・・・」
「そういえば白銀。あんた何か聞こうとしてなかった?」
「いえ、説明を聞いて解決しました。」
「そう。まあ出撃までにもう2~3回顔を合わせることがある筈だから、なにかあったらその時にね」
「了解」
「じゃ、出撃前の大まかなスケジュールを伝えておくわ」
これまで黙って『香月夕呼』の隣にいた『イリーナ・ピアティフ』中尉が説明を始める。
「ブリーフィング終了後、直ちにハンガーにて、作戦機への管制ユニット換装作業を開始。換装作業が終了次第、90分の休息。食事を用意させるので、各自このタイミングに済ませる事。休息終了後は終日シュミレーターによる攻略演習と作戦の確認とする。尚、伊隅大尉、涼宮中尉、真壁特尉は『XG-70b改』の白銀少尉は『XG-70d』の着座調整と操縦ブリーフィングを優先せよ」
「了解」
「明けて12月31日6:00に部隊点呼。作戦機の突入殻(リエントリーシェル)格納作業が終了次第、シュミレーター演習を再開。この際のシュミレーター演習は、各作戦機のコックピットを有線接続して行うものとする。尚、点呼から格納作業終了までに、数時間のマージンが取ってある。恐らくこれが食事と睡眠以外に費やす最後の休息となるはずだ、出撃に際しての事前準備は全て完了すること」
「了解」
「明けて2002年1月1日2:00最終ブリーフィング開始。3:30に『A-01』部隊は作戦機へ搭乗し、準出撃態勢のまま待機せよ・・・・以上」
「了解」
「鑑と社は作業が詰まってるからほとんど顔を合わせることが無いかもしれないけど、交流は全然問題ないから好きに絡んで頂戴」
「・・・・・・」
「最後に部隊人事を伝えておくわ」
「伊夷みちる大尉」
「はい!」
「貴官は『A-01』部隊長兼涼宮遥中尉、真壁一騎特尉を配下に第一分隊を指揮」
「了解!」
「速瀬水月中尉」
「はい!」
「『A-01』部隊部隊長補佐兼御剣冥夜少尉、彩峰慧少尉を配下に第二分隊を指揮」
「了解!」
「榊千鶴少尉」
「はい!」
「珠瀬壬姫少尉、鎧美琴少尉を配下に第三分隊を指揮」
「りょ了解!」
「白銀武少尉」
「ハッ!」
「鑑純夏少尉、社霞臨時少尉を配下に第四分隊を指揮」
「了解!」
「極秘裏に独自プランを遂行する以上、軌道降下以降は全軍の指揮系統から外れ独立して動いてもらうことになるわ実戦で培ったあんた達のスタンドアローン能力・・・・遺憾なく発揮して頂戴」
「はい!」
「今日のブリーフィングは以上よ、早速管制ユニットの換装作業に入りなさい」
「了解!」
人類の命運を懸けた『桜花作戦』のブリーフィングが終わり各々が作業に取り掛かった。
『桜花作戦』にて『伊隅みちる』、『速瀬水月』、『涼宮遥』の生死は?
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生存
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死亡