マブラヴ·オルタネイティヴ〜蒼穹の彼方〜   作:naomi

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FILE26 懇願

「お疲れ様です白銀少尉。管制ユニット換装作業は一旦終了です。あとは鑑少尉と社少尉の調整が終わり次第の作業になりますので、一旦お休みください」

 

「了解した。与えられてるのは90分だからな………それくらいに戻ってくるよ」

 

「わかりました。ごゆっくりどうぞ」

 

『凄乃皇・四型(スサノオ・ヨンガタ)』の管制ユニット換装作業を終えた『白銀武』は戦術機ハンガーをボーッと彷徨いていた。

 

「白銀〜」

 

「はっ速瀬中尉!」

 

『速瀬水月』が右腕を後ろから『白銀武』の首に絡める。

 

「『凄乃皇』の換装作業もう終わったの?」

 

「えぇ、まぁ。そういう中尉はどうなんです?」

 

「勿論終わったわよ。流石は大尉の…………私達の親の機体よ。全てを高レベルで均等に維持されたバランスのパロメーターだったから。私との誤差修正なんて殆無かったわ」

 

「そうですか…………」

 

「なによ?浮かないわね」

 

「…………お帰りなさい。速瀬中尉」

 

「…………ただいま。………あんたとは色々やり取りした後だからなんだか恥ずかしいけどね」

 

「はい」

 

「てか、なによさっきのブリーディングでのあの顔!笑らわないようにするのが大変だったわよ」

 

「!?そりゃ中尉が生きているなんて思わなかったから」

 

「な〜に〜?白銀、心配してくれてたんだ?」

 

「それは勿論ですよ」

 

「へぇ〜」

 

「なっなんですか?」

 

「私に乗り替える?」

 

「!?馬鹿言わないでください!」

 

「ハハハハハ!冗談よ、冗談。ムキになっちゃって〜」

 

(ったくこの人と来たら、俺の心配を返せって思っちゃうよ)

 

「…………私に言いたいことがあるの?」

 

「!?」

 

「あんた顔に出るからね。わかりやすい」

 

「そっそれは…………」

 

「部隊編成なら気にするな。」

 

「えっ」

 

「『凄乃皇』が索敵や探索、情報処理能力に長けているのは間違いないし、前衛の私より中央配置の白銀が指揮を取るのは間違いじゃない。戦術としては正しい」

 

「……………」

 

「な〜に、少しでも変な指示飛ばしたらぶっ飛ばしてあげるから安心しなさい」

 

「それは安心出来ないですよ」

 

「アハハハ」

 

(中尉…………ありがとう御座います。)

 

「うん?あそこにいるの御剣か」

 

「えっ…………そうですね」

 

「何してるんだあんなところで?」

 

(冥夜の前には紫の『武御雷』…………)

 

「御剣少尉。なにをしているこんなところで?」

 

『武御雷』を見上げる『御剣冥夜』に『月詠真那』が声をかける。

 

「月詠…………中尉。………あれからも救助活動を続けておられたのですか?」

 

「そうだ。この基地には動かせる戦術機が殆無いと聞いているからな。やるべき事はたくさんあるが、機体整備をしなければならなくなり戻ってきた」

 

「皆を代表し感謝致します。」

 

「…………それで、どうされた?こんなところで。楽に出来る時間など無いと思ったのだが。この基地は意外と傷が浅いのか?」

 

「………月詠中尉。折り入ってお願いしたい由があります」

 

「……………」

 

「私に願い?………何か?」

 

「あの機体…………あの『武御雷』を私にご貸与いただけますよう、殿下にお取り次ぎいただきたいのです………!」

 

「御剣!?」

 

(冥夜………お前…………)

 

『御剣冥夜』の願いを聞き驚く『速瀬水月』と『白銀武』。願いを頼まれた本人は眉一つ変えず彼女の目を見続ける。

 

「そして、その専横が叶いますよう、中尉にもお口添え戴きたいのです。」

 

かつて『御剣冥夜』は自身の為に用意された『武御雷』への搭乗を拒んでいた。それは自身の出自は関係なく。その時の自分の立場を弁えた彼女の決意。『月詠真那』からの再三の懇願もその固い意志で跳ね除けていた。

 

(・・・・・今この基地で完全な実戦稼働状態の機体は、あの『武御雷』だけ。しかも全くダメージが無い完璧なコンディション・・・・・俺達にとって最後のチャンスかもしれない『桜花作戦』には、少しでも良い機体が必要だ)

 

「立場もわけまえぬ過分な所望である事は、百も承知しております。」

 

「・・・・・・」

 

「承知の上で尚・・・・・伏してお願い申し上げます。」

 

(人類の未来の為に、冥夜はいつもなら絶対曲げない信念を曲げて・・・・・こんな無理を言ってるんだ)

 

「何卒・・・・・何卒・・・・・!」

 

(まだ『桜花作戦』の事も知らないとしても・・・・月詠中尉なら冥夜の想いを汲み取れるはずだ。将軍家のリストから除名された人間が、将軍専用機を貸せなんてこと・・・・あの冥夜がそんな突拍子もない事を言い出せば、必ず何か感じ取る・・・・・誰よりも冥夜を想っている月詠中尉なら)

 

「あの『武御雷』って確か日本帝国の現・政威大将軍。『煌武院 悠陽(こうぶいん ゆうひ)』様しか乗れないやつじゃなかった?」

 

『速瀬水月』は素直な疑問を抱いていた。

 

「そうですね」

 

「なんで御剣のやつ、月詠中尉のならまだしもあの機体を要求してんのよ」

 

「・・・・・・」

 

「白銀。あんた事情を・・・・・」

 

「・・・・・理由を聞こう」

 

「!?」

 

『月詠真那』が固く閉ざしていた口を開く。

 

「はっ・・・・・」

 

(理由って、この2人に半端な甘えが通用しないのはわかってるけど・・・・2人は本当にそれでいいのか?本音は別なのに、もしかしたら最後の会話になるかもしれないのに・・・・・それでいいのかよ!?)

 

「直接の理由は・・・・私にそれを話す権限がない故、申し上げられません」

 

「ふ・・・・・。こちらには無理難題をふっかけておきながら、機密は守るか」

 

(俺はこの二人の関係に土足で踏み込むべきじゃないってそう言い聞かせてきたけどもう、我慢出来ない・・・・)

 

「おっ、おい白銀」

 

物陰から様子を見ていた『白銀武』の足は自然と彼女達へ向かい進んでいた。

 

(冥夜は俺にとって【尊い】存在だ。そして俺は冥夜にとってそういう存在になれる事を望んでいる。だとすれば、闇雲に相手の事情を尊重することが、必ずしもそいつの為になる訳じゃないはずだ。冥夜が『武御雷』に乗って戦力が上がれば、その分作戦の成功率や皆の生存率も上がる。俺は・・・・・仲間を生き延びさせる為の努力は絶対に先延ばしにしないって決めているんだ・・・・・)

 

「月詠中尉!それは・・・・」

 

「武!?・・・・・少し待っていてくれ」

 

『御剣冥夜』は突然現れた『白銀武』に驚いた表情こそするも、すぐに冷静さを取り戻した。

 

「すまないが、中尉に何か申し上げたいなら、私の用件が終わってからにして欲しい」

 

「冥夜・・・・・わっ、悪りぃ」

 

「中尉、やはり直接的な理由は立場上申し上げられません」

 

「・・・・・」

 

「ですが・・・・・個人的な理由で宜しければお聞かせ致します。それは・・・・・私自身の戦いに赴く為です。」

 

「・・・・・」

 

「そして、苦楽を共にした戦友をこれ以上失わないためにも、大切なものを守る為にも・・・・・より強力で、より完全な戦術機が、今すぐ必要なのです」

 

「・・・・・」

 

「ですが基地はこの有様。ご存知のように、まともに稼働する戦術機は殆どありません。そして今の私には、形振り構う余裕など無いのです。どの様な謗りを受けようとも・・・・将軍殿下の御力に縋るより他にないのです・・・・・」

 

「冥夜・・・・・」

 

「・・・・・私達からもお願いします。中尉」

 

「委員長!?」

 

『月詠真那』に声をかけたのは、『御剣冥夜』の言う苦楽を共にした戦友達であった。

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