「そう、厳罰は覚悟の上での事でしょうね」
『白銀武』は『香月夕呼』に『武御雷』の件を報告した。
「月詠中尉。俺達が成功しなければ銃殺ものだって言ってましたよ」
「あんた達が失敗すれば、一士官の軍事裁判なんかやってる状況じゃなくなるわ。私が言っているのは成功した場合の事よ」
「まさか御剣がそのような案を考えていたとは」
「まぁある意味御剣にしか出来ない提案だけどね。何はともあれ…………彼女の申し出こっちとしてはとても有り難いわ」
「あの部隊の『武御雷』が、現在『XM3』搭載機の中で最良のコンディションですからね」
「全く………そんなうまい話を見逃していたなんて、あたしも相当追い詰められているわね。最初から接収するって手もあったのに」
「副司令…………」
「えっ、斯衛軍所属機だから、帝国に気兼ねして提供の申し出をしなかった訳じゃないんですか?」
「そんな眠たいことをやってる余裕は無いわ、完全に忘れてただけよ。元々戦術機になんて興味無いし、あたしに取っては、『XM3』も交渉材料のひとつに過ぎないからね」
(そういえば、前もそんなこと言ってたな…………)
「とにかく、機体性能の差で7割くらいしか反映出来なかった彼女達の実戦データもこれで無駄なく生かせるわね」
「そうですね」
「この件、作戦が成功するという未来を引き寄せる要因としては、決して少なくないプラスよ。御剣にしろ榊にしろさすが素体候補者だけの事はあるわね」
(素体候補者?)
「特に御剣の適正は素晴らしいわ。ここに来て認証データが削除されていなかったなんて、その最たるものよ」
「副司令。素体候補者とは?」
「でっでも先生!紫の『武御雷』に『XM3』を換装する作業、間に合うんですか?」
『伊隅みちる』の質問を『白銀武』は遮る。
「それね、2日前に換装済みなのよ」
「そうだったんですか!?」
「帝国軍と斯衛軍のお偉い方は、『甲21号作戦』でのあんた達の活躍と、月詠中尉達のデータに豪く関心したみたいでね。将軍専用機は警備小隊の撤収と同時に搬出するから、それまでに換装作業を済ませてくれってせがまれたのよ」
「なるほど」
「そうじゃなくても、あの機体を使っていいなら突貫で換装させたでしょうけど・・・・・ワンオフに近いチューニングを施された特別仕様機よ。その価値は十分あるわ」
「まあ、そうでしょうね」
「これはある意味、あの子達が引き寄せた結果かも知れないわね、もしかしたら彼女達も適性が・・・・・」
「ッツ!?でも結局、機体の慣熟は必要ですよね?」
(本人達の前で不用意に『00ユニット』素体候補だなんて口を滑らさないでくれよ先生!?)
「残念ながらその余裕はないわ。御剣にはぶっつけ本番でやってもらうしかない」
「只でさえハイチューニングされて機体ですからね。やれてとしても1日ぐらいじゃ機動特性の角が取れる時間はないでしょうね」
「それでも、月詠中尉達の蓄積データがあるんだから、榊達が初めて『XM3』搭乗機に乗った時よりは、遥にマシなはずよ」
「まあ、そうですね。ところでもう一ついいですか?」
「なに?そろそろ『凄乃皇』の作業に戻りたいから手短にね」
「すみません。純夏が作戦立案に絡んだって聞いて少し気になって」
「絡んだってレベルじゃないわ。突入後の展開は鑑のベースプランほぼそのままだしね」
「えっ」
『白銀武』は一瞬眠った『鑑純夏』を見る。
「ただし、『A-01』を直援につけることはあたしが決定したの。最初は彼女、単独で出撃しようとしてたからね」
「純夏・・・・・お前・・・・・」
(委員長達を巻き込みたくなかったんだな・・・・・)
「国連部隊も米軍も全部囮にしようとしたら、それも駄目って聞かなくてね。まあ、私が100%立案したんだったらあんな人道的な作戦にはならない事は確かね」
「純夏にそこまでの発言権が?」
「人類側で最もBETAに精通しているのは彼女だからね。作戦立案に大きな発言権を持つのは当然でしょ?」
(だとしたら、純夏はなぜあんなにも急いでいるんだ?)
「先生、BETAへの情報漏洩で状況が切迫している事は理解できるんですが・・・・純夏は何を焦っているんですか?」
「・・・・・焦る?」
「『桜花作戦』が絶対に失敗できないものなら、開始時間を延ばしてでももっとマシな状態で出撃すべきじゃないですか?」
「・・・・・」
「各国の出撃準備にしろ1日2日あればもっとまともになるんじゃないですか?せめて1日延ばせば成功率も上がって『トライデント作戦』だって・・・・・」
「ご高説もっともだけどね。『トライデント作戦』は確かに最悪よ。だけど人類が滅亡するよりは遥にマシよね?」
「そりゃあそうですけど・・・・それは極論ですよ」
「あのね・・・・・BETAに漏洩したのは、『XG-70』や『オルタナティブ計画』の情報だけじゃないのよ?」
「えっ!?」
「人類の戦術戦略や兵器、あらゆる対BETA計画に到るまで、その全てが知られてしまった可能性があるのよ?ここ数日で対策が講じられてしまう可能性があるのは『G弾』も同じ。『G弾』の集中運用が環境に致命的な損害を与えるとしても、地球からBETAを駆逐出来る高い可能性を秘めた手段である事は認めざるを得ない」
「その部分だけを考えれば、確かに事実です・・・・・」
「昨日まで米国が見せていた余裕は、その最後の手段が有効だったからなのよ」
「昨日まで?」
「『オルタナティブⅣ』に協力的だった議会勢力さえ、今は『G弾』の早期運用を容認し始めているわ」
「米国はBETAへの情報漏洩の可能性を知ってるんですか?」
「当たり前でしょ。ここは国連の基地なのよ?」
「でも、その情報は純夏が・・・・・」
「随分見下してくれたものね」
「えっ」
「このあたしが、自分のミスを隠したりエゴを通すために、人類の命運を左右しかねない情報を握り潰すとでも思ったの?」
「そういうわけじゃねいですけど・・・・・」
「仮にも人類を救済するための国際計画を任されている身よ?そこまで腐っちゃいないわよ」
「わかっています」
「まあいいわ、話を戻すわよ。とにかく、確実に有効な手段だと思っていた『G弾』が無力化されてしまう事を、米国はとても恐れ、焦り始めているのよ」
「そうか、作戦開始を急いでいる理由はBETAの事だけでなく、米国の独断行を抑える意味もあるんですね!」
「あんた・・・・・直視したくない事実から目を逸らそうとしてるんじゃないでしょうね?」
「えっ」
「『G元素』をベースにした技術やシステムが全く通用しなくなる可能性・・・・・考えてないの?」
「!?」
「しっかりして頂戴よ。あんたはそれを想像出来るだけの情報は渡しているのよ?」
「すみません。繋がってませんでした」
「じゃあ、前にBETAが『G元素』を兵器に転用しないのはおかしいって話したの、憶えているわよね?」
「はい・・・・・隠し持っている可能性があるって話でした」
「鑑のリーディングによると、現在彼等は、その手の兵器をどこにも配備していないのよ」
「はっ!?それって少なくとも地球上にってことですか?」
「それどころか、そもそもその手の兵器自体を持っていないそうよ。人類はある意味幸運だったわ」
「本当ですか?それじゃあ・・・・・」
「だけどその幸運も、もうあてに出来ない」
「えっ」
「漏洩情報を切っ掛けに、彼らが『G元素』の兵器転用という概念を知った可能性が高いでしょ?BETAが人類以上の『G弾』兵器を作ってしまう可能性が、今や現実のものとなりつつあるのよ」
「ッツ!!」
「・・・・・急ぐ理由。わかった?」
「はい。」
「だったら、鑑を起こしてさっさと『XG-70d』の機動制御訓練に行きなさい。私達は『XG-70b改』の整備状況の確認や機体制御状態の確認でそっちはあまり見れないから。伊隅、涼宮、速瀬、真壁一騎、社。行くわよ」
(えっ霞も!?霞はこっちじゃないのか?)
「そういうことだ。あとでな白銀」
「頑張ってね、白銀少尉」
「へますんじゃないわよ白銀」
「・・・・・また後で」
「・・・・・バイバイ」
「あっ、あぁまたな霞・・・・・・」
唐突に2人きりとなった『白銀武』は戸惑った。