「……………」
(あいつ、もう10分以上あのままだ)
2人が立ち寄ったのは、2人が共に過ごしていた壊れた生家。
『鑑純夏』は黙って壊れた生家を見続けていた。
(多分、このイメージ自体は思考をブロックする前の俺から読み取って知ってたはずだ。だけど実物を直接見て受けるものは、それとは全然違う………どんな影響を純夏に与えるか………だけど、それでも俺は純夏をここに連れて来てやりたかった。)
「……………」
(純夏のおじさんとおばさん………【この世界】の俺や俺の家族。人間だった頃の純夏を知る者はもういない。この廃墟が唯一の純夏が【この世界】に生きていた証なんだ)
「……………」
(別の世界から来た俺に【この世界】に生きた証は無い。だけど俺にはあの桜の木がある。あそこに行けば【この世界】で俺が生きた事を知る人達…………先に逝ってしまった人達に会うことが出来るんだ。そして自分の弱音や愚痴を聞いてもらうことも出来る。その人達が懸命に生きてくれたおかげで、今ここに自分がいる。そしてその人達に恥じない生き方をしよう……そんな決意を確認出来る場所なんだ。)
「……………」
(純夏にとってはここがそういう場所なんだと思う。おじさんやおばさんに………『この世界』の俺達に語りかけられる唯一の場所。それがここなんだ。心の中で語りかける事はいつでもできる。だけど人には、どんな形であれ、その対象になるものが必要なんだと思う。『00ユニット』として現れた純夏が、俺にとってのそうであったように…………あいつが『00ユニット』であるのは事実だ。俺はそのことから目を逸らさないしそれを受け入れている。だけど心が人間であるのも事実だ。一生懸命隠してやせ我慢しているが、人間である以上、あいつも弱い部分を持っているはずなんだ)
「・・・・・」
(あいつが俺に負わせないようにしているもの・・・・・そういうものを、置いておける場所が・・・・・今のあいつにはきっと必要なんだ。人としての純夏に・・・・・)
少し離れて様子を見守っていた『白銀武』のもとに『鑑純夏』が戻る。
「純夏・・・・・」
「武ちゃん。もういいよ」
「そうか。」
「なんでここに?」
「お前にも、気持ちの整理を出来る場所が必要かなと思ってさ」
「『00ユニット』の私に?」
「・・・・・例え『00ユニット』だとしても『鑑純夏』にとって大切な場所であることには、変わりないだろ?」
「・・・・・」
「お前は『00ユニット』として割り切ってるつもりかもしれねーけど、俺から見たら『00ユニット』である以前にお前は『鑑純夏』だ。だから『鑑純夏』としての気持ちを尊重するし、『鑑純夏』として残る気持ちに素直に生きて欲しい」
「私の気持ち・・・・・」
「そうだ。」
「武ちゃん。連れてきてくれてありがとう」
「別にいいって」
(悪い影響は出てないみたいだな)
「本当に、ありがとう」
壊れた生家から、校舎裏の丘に移動した2人。腰を下ろし肩を並べる。
「・・・・・で、私は専用の管制ユニットに結合するから、武ちゃんと霞ちゃんとは別の場所にいるんだよ」
(純夏の管制ユニットは最初から脱出艇に設置されているのか。『甲21号作戦』の教訓が生かされてからかな・・・・・)
「そうか~3人乗るのに複座型って、謎だったんだよな~」
「私は【操縦席に座る】って概念じゃないからね~」
「俺と霞で複座って事だったのか・・・・・なるほどなぁ~」
「私を人間と同じ感覚で数えてくれろのは、武ちゃんだけだからだよ~」
「そうかもしれないけどさ、普通、複座って言われたらそう思うって!」
「も~~武ちゃん、相変わらず自己中なんだから~~」
「なにおう!!」
「あはははは~」
「んだよ、勝手にしろっての」
「勝手にするも~~ん」
(無理に明るくしている様子は無い・・・・今の純夏は、とても自然で、まるで【元の世界】の純夏だ。俺達は本当に【普通】に話している。『00ユニット』であることも何もかもが、当たり前のように。この基地の惨状も、明日の作戦の事も・・・・いや、まるで【この世界】にBETAがいないかのように、リラックスした気持ちで、自然と話をしているんだ。結果的に純夏を家に連れてって良かったみたいだな)
「・・・・・どうしたの?急に黙って、もしかして、怒った?」
「別に。俺はそれ程ガキじゃない。大人なんだよ、お・と・な!」
「大人は自分を【大人だ】って言わないとおもうけどな~」
「あっ痛っー--」
『鑑純夏』のおでこにデコピンが炸裂する。
「あははは、久しぶりに聞いたな、その反応」
「量子電導脳が壊れて馬鹿になったらどうするんだよ!」
「それ以上馬鹿になりようがないから安心しろ、お前は人類科学の粋を結集した、最も贅沢な馬鹿だからな!」
「なにを~~~香月先生に謝れ~~~」
「何で夕呼先生だよ?」
「じゃあ、お詫びの印に手を繋げ~~~」
「わけわかんねーよ、その展開・・・・・」
「繋げったら、繋いでよ~~~」
「わかったから、・・・・・ほらよ」
「ぅぅぅぅぅl」
「なんだよ、お前が繋げって言ったんだろ」
「・・・・・」
「こっちまで恥ずかしくなるから、恥ずかしがるのやめろ!」
「しょうがないじゃん、恥ずかしいんだもん・・・・・」
「じゃあ、手繋ぐの・・・・止めるぞ」
「嫌だ」
「じゃあ照れるのやめろ」
「無理」
「・・・・・ったくしょうがねーやつだな」
「ふぅんだ」
人の温もり、触れ合えることの尊さを『白銀武』はふと考える。すると『鑑純夏』は懐からあるものを取り出した。
「おっ、サンタウサギ。持っててくれたのか?」
「うん」
それは『鑑純夏』が『00ユニット』として不完全な状態のときに『白銀武』が送ったプレゼント。
「それ、ずっと持ち歩いているのか?」
「うん、そうだよ」
「それ、強度に不安があるからな」
「わかってるよ」
「あんまり持ち歩いていると壊れるぞ?」
「・・・・・」
「お前が持っていてくれればそれでいいんだし、何も持ち歩かなくてもいいんだぞ?」
「・・・・・」
「俺としては突っ返されなきゃそれで良いんだし」
「ダメだよ」
「えっ」
「だって・・・・・もうずっと一緒にいるって・・・・・決めたんだもん」
「そっ、そうか」
「だから明日も、この子と一緒に出撃するんだよ・・・・・」
「・・・・・・なあ純夏」
「な~に?」
「お前最初は一人で出撃しようとしてたんだってな」
「!?」
「夕呼先生に聞いたよ」
「・・・・・」
「まあ、色んな意味でお前らしいやり方だと思ったけどさ」
「そう・・・・かな・・・・」
「お前怖くないのか?」
「えっ?」
「オリジナルハイヴの最深部に突っ込んで戦うんだぜ?」
「うん・・・・・そうだね・・・・でも平気だよ」
「・・・・・」
「自分で決めた事だから」
「純夏・・・・・」
「自分の為にやることだから・・・・・ね」
「自分の為にか・・・・・」
(俺は・・・・・自分だけが辛いと思い込んで、勝手にもがき苦しんで、色んな人に迷惑をかけて、やっとたどり着いた答え・・・・・お前は俺より酷い目にあったのに・・・・俺よりもシンプルで明快な答えに辿り着いていたのか・・・・・・)
「凄いな・・・・・純夏」
「そんなことないよ。武ちゃんや霞ちゃんや真壁さん・・・・・それに部隊のみんなや、世界中の人達と一緒に戦うんだよ!」
「そうだな」
「だから・・・・私は、自分のやるべき事をやるんだよ」
「そうか」
「私も・・・・ヴァルキリーズの一員だしね」
「あぁ、そうだな。俺も・・・・この戦いを早く終わらせて・・・・・俺を【因果導体】にした原因を排除して・・・・・【あっちの世界】を修復するんだ」
「うん・・・・・」
「・・・・・だから」
「・・・・・・」
(だから【この世界】のお前とは・・・・・)
「すっ純夏!」
『鑑純夏』は力強く『白銀武』を抱きしめる。
「・・・・・いいんだよ」
「純・・・・夏・・・・」
「武ちゃんが悲しむ必要・・・・ないんだよ・・・・」
「仕方がないことなんだよ」
「・・・・・わかってる」
「・・・・ごめん・・・・ね・・・・武ちゃん・・・・・ごめんね・・・・・・」
「馬鹿・・・・なんでお前が謝るんだよ・・・・・」
「うっううぅ・・・・・うわぁぁぁあ~~~」
「純夏・・・・・」
泣きじゃくる『鑑純夏』を『白銀武』は優しく頭を撫で、泣き止むまで隣に居続けた。