FILE36 見送る者達
カツカツカツカツカツ
2001年12月31日
国連太平洋方面第11軍横浜基地。
1人の男の軍靴が、空間に木霊する。瓦礫が散乱する中、前だけを見据え、その男は薄く照らされた光に向かい歩みを止めず歩み続ける。光の先には1本マイクが置かれた台が1つ。横浜基地基地司令『パウル・ラダビノッド』は数秒目を閉じ、見開くと言葉を紡いだ。
先のBETA襲撃により、我が横浜基地は致命的とも言える大損害を被ってしまった
奮戦虚しく、多くの命と貴重な装備が失われ、正に精も根も尽き果てんばかりであった
だが・・・・・・見渡してみるがいい
この死せる大地に在っても尚、逞しく花咲かせし正門の桜のごとく、甦りつつある我等が寄る辺を
傍らに立つ戦友を見るがいい。
この危局に際して尚、その眼に激しく燃え立つ気焔を
我等を突き動かすものは何か。
満身創痍の我等が何故再び立つのか――
それは、全身全霊を捧げ絶望に立ち向かう事こそが、生ある者に課せられた責務であり、
人類の勝利に殉じた輩への礼儀であると心得ているからに他ならない
大地に眠る者達の声を聞け
海に果てた者達の声を聞け
空に散った者達の声を聞け
彼らの悲願に報いる刻が来た
そして今、若者達が旅立つ
鬼籍に入った輩と、我等の悲願を一身に背負い、孤立無援の敵地に赴こうとしているのだ
歴史が彼等に脚光を浴びせる事が無くとも
我等は刻みつけよう
名を明かす事すら許されぬ彼等の高潔を、我等の魂に刻み付けるのだ
旅立つ若者たちよ
諸君に戦う術しか教えられなかった我等を許すな
諸君を戦場に送り出す我等の無能を許すな
願わくば、諸君の挺身が、若者を戦場に送る事無き世の礎とならん事を
『パウル・ラダビノッド』の演説をその場にいた者達は音を立てることなく、静かに胸の内に焼き付けた。
戦術機を乗せたシャトルが火を灯す。シャトルの周りに煙が沸き立ちそれを見送る者達が敬礼をする、そこには己の想いを彼等に託した『月詠真那』と『日本帝国斯衛軍第19独立警備小隊』の面々。無事に治療を終え、眼帯と腕に包帯を巻きながらも退院していた『涼宮茜』の姿もあった。
(皆・・・・・無事に帰って来てね)
そして横浜基地副司令『香月夕呼』も人目を忍び、戦友・・・・・否、親友の遺影を身体にに押し当てその様子を見守った。
「・・・・・まりも・・・・・・見てごらんなさい。あんたの子供達が・・・・・いくわ」
6機の戦術機を乗せたシャトルと2機の戦略航空機動要塞は、この星に生きる全ての生命の想いを背に、無限の暗闇が広がる空へと打ちあがった。