マブラヴ·オルタネイティヴ〜蒼穹の彼方〜   作:naomi

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FILE82 英雄無き世界で

「失礼します」

 

帝国陸軍技術廠・第壱開発局部長『巌谷 榮二(いわや えいじ)』大佐の執務室のドアから応答を求める声がする。

 

「入れ」

 

「ハッ!」

 

扉が開くと1人の女性が入室した。

 

「ご挨拶に参りました」

 

「そうか…………行くのか」

 

「はい。…………あの機体達を後の世に伝えられるのは、今は私しかいませんから」

 

「『Alvis』解体に伴って接収された技術…………『G(グレイブ)・エネプラナ』とその動力を使用した戦術機『TST-TYPE97X1:八鏡(やたかがみ)』及び『TST-TYPE97X2:草薙(くさなぎ)』の運用方法を確立する事を目的とした国連軍の『 Alles(アレス)計画』だったか。やはり出向要請が来たか?」

 

「そうです」

 

「人類の手に余るあの代物を遺してトンズラとは何考えているんだか『女狐』は」

 

「さぁ、しかしながら国連としてもいきなり彼女を呼び戻す訳にもいきませんし形式上の制裁は必要でしょう。なので失踪を黙認しているのではないかと」

 

「…………いずれ呼び戻す為の束の間の自由か」

 

「はい。」

 

「見事な手際だ。国連のみが接収出来るように仕向け絞り、特定の国家にあのオーバーテクノロジーを渡さない事でパワーバランスの崩壊を阻止、国連主導の対BETA戦への統合を促し、自身とその部下はその見返りに一時的な自由を得た訳か。あの女、端からこうなることを計画して動いていたのか?」

 

「なんとも言えません。ですがそう思わされるだけの周到さを実感しています」

 

「『TST-TYPE97X0:竜騎』はどうするんだ?」

 

「あれは『00ユニット』無しでは動かせませんから。廃棄へと手続きが進んでいます」

 

「…………しかし、わからん」

 

「巌谷大佐?」

 

「何故、香月夕呼はわざわざあのような戦術機を開発したんだ?」

 

「あくまで噂ですが、『00ユニット』とセットで必要な衛士が死亡したとか…………」

 

「『竜騎』専属の衛士がいたのか?」

 

「そのようです…………」

 

「『蒼穹作戦』もよくわからん戦況報告内容だ。あの化物じみた『Mk.Alles(マークアレス)』が謎の発光と共に消失し、それと同時に『Alvis』が降伏を宣言…………状況では圧倒的にあちらが有利だったはずなのだがな」

 

「回収された『竜騎』は複座式なのにパイロットは社特尉だけでしたからね…………」

 

「…………どうした篁大尉?」

 

「いえ…………『Alvis』へ出向したあの時からこの一連の出来事を振り返ると、何かを大切な事を忘れている気がするのです」

 

「大切な事?」

 

「はい…………ただ何を忘れているのか検討がつかず、思い出すたびに引っかかっています」

 

「…………案外それがこの一連の騒動を説明する重要な要素かもしれんな」

 

「……………」

 

「彼には挨拶したのか?」

 

「はい。母上と篁の家を頼んだ所です」

 

「そうか…………ならばいい」

 

「では叔父様…………行ってまいります!」

 

「達者でな」

 

「はい!」

 

こうして『篁唯依』は新たな目標に向けて自身の道を歩み始めた。

 

 

 

「唯依…………行っちゃったね」

 

「……………」

 

空を横切る飛行機を眺める2人の男女。

 

「寂しいね…………ユウヤ」

 

「寂しかねーよ。寧ろ感謝してる」

 

「感謝?」

 

「俺にとって大切なお前と唯依にとって大切なこの家…………両方を護る機会をくれたんだ。」

 

「うん。…………そうだね」

 

(俺は…………今度こそお前との約束を果たしてみせる。唯依!)

 

男はその飛行機をじっと見つめ、決意を新たに前に進んだ。

 

 

 

 

「アルゴス試験小隊及びメビウス試験小隊の合同試験演習を終了します」

 

北米アラスカ州にある『ユーコン基地』。この基地では今日もBETAに対抗する為の戦術機開発が進められていた。

 

本日のスケジュールを終え、沈みゆく太陽を眺める凛とした佇まいの女性が1人……………

 

「御剣!」

 

「…………榊。」

 

駆け足で近づく『榊千鶴』。

 

「どうしたのよ?そんな所で、デブリーフィング始めるわよ」

 

「すまぬ。そうであったな」

 

「…………開発責任者。明日この基地に着任するそうよ」

 

「そうか…………本格的に始動するのだな『 Alles(アレス)計画』が」

 

「そうね」

 

「……………」

 

「浮かない顔ね?」

 

「すまぬ、何故だか最近夕陽を見ると思い出すのだ。【あの者】を」

 

「【あの者】……………ね。私達の戦友だったはずの人物だっけ?」

 

「あぁ」

 

「社の間違いじゃないの?」

 

「……………」

 

「戦友だったら、忘れる訳ないんじゃない?」

 

「そう…………だな」

 

「千鶴さ〜ん!御剣さ〜ん」

 

2人で話していると『珠瀬 壬姫(たませ みき)』、『鎧衣 美琴(よろい みこと)』少尉、『彩峰 慧(あやみね けい)』の3人が様子を見に来た。

 

「ほら、行きましょ。3人が待ってるわ」

 

「…………そうだな」

 

(……………今日の私達があるのは、恐らくその者のお陰…………でなければ私達人類はきっと……………ありがとう。名の解らぬ英雄。そなたのお陰で今の我々があるというのに忘却してしまった私を赦せ。…………そして、達者でな)

 

『御剣冥夜』は一雫の頬をつたう涙を拭うと、仲間のもと歩いて行った。

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