やっとできた彼女についに秘め続けてきた想いを最後になる前に告白しようと、覚悟を決めて呼び出して。何とか捻出した資金を手に買ったそれを鞄に入れて彼女を呼び出した場所へと向かった。
決めていた時間の十分前にたどり着いた約束の場所。彼女はいつものように俺が決めた時間よりも前から俺を待っていた。
それだけならいつものこと。だけど、その日は違った。
スマホ片手に俺を待つ彼女の横に何度も見てきた奴が立っていた。
それに気づき反射的に変身しようとする。だが、彼女に俺が巷でニュースにもなっている異形だとバレるのが怖かったせいでそのままの姿で走り出した。決死の思いでその数十メートルを駆け抜けようとした俺をあざ笑うように奴は異形へと姿を変え、周囲にいたたくさんの人たちを一瞬で物言わぬ存在へと変えた。
衝撃波によって一瞬で血と贓物でまみれた世界に変じたその場所に、驚愕した表情の真っ白な服を着た彼女とそのすぐ横に立つ同じく真っ白な姿の異形。
その余波で吹き飛ばされそうになるのを必死に耐える俺の前で命に代えて守りたかった大事な人を奴は俺のことをあざ笑うかのように高笑いしながら突き貫いた。
異形の腕が胴を貫いてその一点から彼女の真っ白な服を
腕を振りぬくと同時にこちらへと飛ばされてきた彼女の体から
「あ……あ……」
半ば茫然自失となりつつ目の前に糸が切れた操り人形のごとく転がってきた真っ赤に染まった彼女へとゆっくりと近寄る。
必死に貫かれた場所へ手を当てて零れ落ちていく命を少しでも押しとどめようとする。だが止まらない。
「ごめんね」
そして飛び散った血に濡れた顔で、その言葉を遺して彼女の瞳から光が消えた。
「そん…な……」
呆然と力なく当てていた手を地面に落とす。
そんな俺の様子を高笑いし続けている異形はこちらを向いて指差し嗤う。
と
無言で血に染まった手へと
一生暖かくなることがなくなった彼女の手を胸の中央に空いた穴を塞ぐように組ませ、ゆっくりと立ち上がる。
力なく立ち上がったその腰には戦士の証が浮かび上がり、中央にある水晶は眩く光っていた。
淀んだ瞳で敵を見据える。
そして男はゆっくりと、しかし徐々に早くなりながら真っ白な異形へとその姿を黒く染めながら殴り掛かった。
悲痛な悲鳴でのどを震わせながら
文字通り真っ黒なこの姿に転じたのはいつぶりだろうか。
あの時、死にたくない一心で初めて変身したとき以来か。
そう自嘲しながら自分自身の手を握りしめる。
ギュゥっと握りしめた拳から音が漏れる。その音を耳にしながらゆっくりと前を向く。
「な……」
目の前にいる怪人が俺の姿を見て絶句しながら呆然としている。当たり前だろう。この姿はいわゆる異端の姿。
この世界の
いくら力の根源を奪われて弱体化しているとはいえ、彼らから見ればとてつもない異形に見えていてもおかしくはない。
今の俺には何も残っていない。最後の戦いやここにたどり着くまでで護るものも、護ってきたものも、そして引き継いで来たものもすべて奪われた。
元から空っぽだった俺の中身を全て曝け出す姿。
まるで化け物よりも化け物みたいだねだと過去に彼女は俺のこの姿を撮った写真を見て言った。
空っぽであるがゆえに、空虚であるがゆえに、何も持ってないがゆえにそして存在そのものを喪ったために。俺はこの姿の時、
あの時、俺は生き残りたい一心で情けないほど泥臭い戦いを繰り広げてどうにか生き残った。本当に勝てたのかすら怪しいほどだ。だけど
「今は……違う」
そう自分に言い聞かせるように呟いて俺はゆっくりと構え、殴り掛かった。
目の前で傷だらけの謎の男は
パッと見その姿は真っ黒なライダースーツを着て変なヘルメットを着けた姿に見えなくもない。だが、そのヘルメットの目に当たる部分についている水晶のように透き通ったパーツを見てぞっとする。
まるで全てを失った、何もかもを奪われたとでも言いたくなるようなそんな感じを抱かせる違和感。
そして彼は何かを呟いてからゆっくりと腕を上げ、構えた。
「シッ!!」
息を鋭く吐き、そしてフォールハイトへと殴り掛かかる。
<鋼>の宝玉を持つフォールハイトには物理攻撃は効かない。私たちでも<水>の能力を用いて頑強さを上げた攻撃、もしくは<雷>の力を最大限まで引き出した一撃を繰り出してやっと撤退に追い込めるぐらいだ。
「待って!!」
反射的にそう声をかける。異形へと変わった彼が何者なのかは一切わからない。だけど、彼の異形からは敵意を一切感じなかったのだ。
しかしそれを一切耳に入れていないかと思わせるように躊躇もなく、異形は駆けながらため込んだ力を振りぬいた。
「ブラック!!」
それを見ている私の視界をふさぐかのようにホワイトが私の前に立つ。
塞がれる視界の中、ぎりぎりで見えたのは振り絞った拳をぎりぎりで防ごうと腕を動かすフォールハイトの姿だった。
そして私はその激突によって発生した衝撃によってホワイトと共に意識を変身を強制的に解除させられながら意識を失った。
何の特殊能力もないこの空っぽな姿は空っぽであるがゆえにどんな特殊な攻撃も受け入れ、そしてそれを自分の力に変える能力がある。突き詰めれば相手の攻撃を自分の力に変換することや相手の能力を一時的に無効化することもできる。
言うなれば特殊能力に頼って戦うやつからすれば初見殺しであり、そしてそういった能力に頼らず自らの力で戦う武人にとっては相手にとって何ら問題のない相手である。
ならこの目の前にいる変態にとって俺はどういう相性になるのかというと、その自らを鋼のように固くして一切の攻撃をなかったことにして相手の心を折るという能力便りの戦い方。いうなれば相性は最悪だった。そのため何も技も体も鍛えていないが故に最初の一合で能力を無効化してしまえば簡単に拳が通る。蹴りも通る。身を護るすべなどまるで一切その手にしていないかのように。
そして、俺は躊躇なく奴を踏み台にし天へと舞い上がった。
空中で半回転し、エネルギーを右足へと集約させる。
「デリャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
天という下へと引っ張られる空間で構え、放つ。その全力を込めた一撃はいくら弱体化されたその姿と言え、能力だよりで何も鍛えておらず、防御力も事実上なくなった敵を打ち払い、撃破するのに不足はなかった。
撃ち貫いた一撃により変態の胸の中央、胸骨あたりに血で染まったかのような赤いラインで描かれた紋章が浮かび上がる。
紋章を中心に光のヒビが広がっていき、そこから漏れ出るかのように光があふれだす。
「が……ぁ……」
口から言葉にならない言葉を漏らし、
「助け……」
その言葉を最後に変態は爆散した。
「……」
無言で飛んできた灰色の割れた玉の欠片をつかみ取り、それを流れるように腰に浮かび上がる何かの中央にある大きくえぐれた水晶へと叩き込む。
叩き込まれた欠片はそのまま水晶へと吸い込まれ、光のワイヤーラインしか浮かび上がってなかったそれは肉付けされた。
肉付けされたそれは眩く銀色に光るベルトのバックルのようなもので、その中央に未だに大きく傷が目立つ抉れた水晶がはまっていた。
水晶の横には二つ真ん中の水晶より一回り小さい何かがはまっていたかのようなくぼみがあり、そこも無理やり抉り出されたかのように傷跡がついている。
「……まず一つ」
ゆっくりと腰に久しぶりに浮かび上がったそれをなでる。
上も下も右も左もない空間で永遠かと思えるような地獄を一緒に過ごしたので愛着というべきか、俺は俺自身を地獄へと叩き込んだこれに対してよくわからないものを感じていた。
「そして……」
異形からの変身を解除してゆっくりと力を感じる方を向く。
そこには意識を失いながらも相手を庇おうとする制服を着た女子高生の2人が眠っていた。
奪われた力を取り返そうとその腰についているポシェットへと手を伸ばそうとして動きを止める。
ふと脳裏に笑う女性の姿がよぎったからだった。
左手を顔へと当て、頭を振る。けど、一度過ったその姿はなかなか頭から離れてくれない。そうこうしているうちに人が集まってきたのかざわざわと声が集まってきた。
「ちっ……」
舌打ちを一つ。傷まみれの男が気絶している女子高生の前にいる時点でいろんな意味で事案だと冷静な頭の部分が判断し、俺はその場から立ち去った。
また思いついたら書いていこうと思います。(そもそも本連載ほっといて書くなと言われたらその通りですけど)