昼休み 屋上(本来立ち入り禁止)
翔世「ひっひひひっ.....」
豪「おい、笑うんじゃねぇよ!」
翔世「だ、だってあんなスべる1発芸....よくやるなお前!馬鹿でやんの!!」
豪「うるせぇ!ネットに大ウケ間違いなしって書いてたんだよ!!」
翔世「ネットリテラシー皆無かっての!だーはっはっは!!俺は面白かったと思うぜ!」
入学式を終えた後の初めての昼休み、豪と翔世は屋上で昼飯を食べていた。
豪「ったく....恥ずかしいから教室で飯食えねぇ.....」
翔世「まぁだろうな。周りの目、お前をおかしなやつって言うより、哀れんでお前の事見てたもんな。スベるにしても、失笑とかじゃなくて本気で『あいつ大丈夫....?』だったし。」
豪「こういうのは勢いが大事なはずなんだけどなぁ.....」
ミートボールを箸でつつきながら、自己紹介の醜態を思い出す。お情けでも、失笑でも笑って欲しかったが、どういう訳か哀れまれた。豪の心には恥ずかしさというより、一種の疎外感を覚えた。
翔世「そういやよ、お前そこまでして爪痕残したかったのか?」
豪「悪いかよ。」
翔世「悪くねぇさ。覚えてもらうにはインパクト大事だしな。」
豪「何が聞きてぇんだよ。」
翔世「高校生活に何求めてるんだって話。校門でも叫んでたけど、あれ何がしたかったんだ?」
豪「....青春。」
翔世「青春?」
豪「中学の時はよ、何かと制限が多かったし、行事つっても大人が用意したものをただやるだけだった。」
翔世「中学校なんてどこもそんなもんだろ。」
豪「そりゃそうだけどよ....やっぱ高校ってさ、色々自分たちでやってるじゃんかよ。」
翔世「ん?ま、まぁそうか...?」
翔世はいまいちぱっとしない表情を浮かべる。
豪「だからよ.....こう、思いっきりやりたいんだ。学生だから出来る事を。ま、自己紹介失敗したから元も子もねぇけどな......」
寝転がり、天に拳をかかげ、力強く握りしめる。太陽を掴んではみるものの、光は眩しかった。
翔世「.....お前、ちょっと変わってるけど面白いな。」
豪「あ?馬鹿にするのは大概にしろよ。」
翔世「馬鹿になんかしてねぇよ。なんつーか....やるって決めたら曲げれないタイプだろ?」
豪「そりゃな....」
意図の分からない質問を翔世が繰り返し、豪は眉をひそめながら翔世の顔を見つめる。だが、先程までの嘲笑う顔はしていなかった。真面目な顔をしていた。
豪(こいつ、こんな顔も出来るのか.....身長に似合わず凛々しいな。)
翔世「だったらよ。お前バンドとかやらないか?」
豪「バンド?」
翔世「見てみろよ。」
スマホをスイスイと捲り、とある画面を豪に見せる。『バンド時代到来!!?』という、なんとも胡散臭い記事を見せてきた。
豪「なんだこれ、胡散臭ぇな.....」
翔世「まぁ俺も最初見た時は詐欺の広告かと思ったんだけどよ。俺が普段お世話になってるクラブハウスで、最近ライブをする回数も、客の数も増えてきててよ。」
豪「お前、クラブハウスなんて行ってるのか!!?」
豪は目を輝かせ、翔世ににじり寄る。豪が少し近づくと共に、翔世は少し離れる。
翔世「きもいって、変な近寄り方すんじゃねぇよ!!」
豪「あ、悪ぃ。」
翔世「まぁなんだ。お前が『本気』だって言うなら、俺と組んで、メンバー増やして、やるか?」
豪「......少し考える。」
翔世「ん?なんだノリ悪いな。」
豪「色々あんだよ。.....時間だし、戻る。」
翔世「お、おう。そうだな。」
バンドの話までは食いついてきた、しかし参加の話になった途端、急にしおらしくなって会話を打ち切った。その不気味さに翔世は疑問を覚えた。
翔世(なんだあいつ...変なの。)
スタスタと階段を降りる豪を追って、翔世も屋上の鍵を閉めて後を追った。
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1年4組 教室
翔世(あいつは......)
翔世が教室に戻ると、教室に少し人だかりが出来ていた。しかも女子。囲まれていたのは、白色に近い黄色の髪色をした、眼鏡をかけた大人しそうな男子だった。
女子生徒「へー、白鷺くんって犬飼ってるんだ!」
優希「うん....レオンって言うんだけど....写真見る?」
女子生徒「えー!!超見たい!見せて!!」
翔世は真ん中にいる男を思い出す。名前は白鷺優希(しらさぎゆうき)。自己紹介まで誰とも話さず凄く暗そうだったが、自己紹介の番が回ってくると笑みを浮かべながら爽やかに紹介して、女子からかなり受けが良かった。男子の方も、ただの根暗から静かで優しそうな奴という認識に変わっていた。自己紹介を1番失敗したのが豪なら、1番成功に近い形に終わったのは優希だった。その失敗した豪は、机の上で突っ伏して寝ていた。そして周りの誰も見ていない。
翔世(うーん...なんとも分かりやすい対立構図。)
まだ自己紹介が終わったばっかりなのに、格差が生まれていた。しかし、この状況が翔世にとってはありがたかった。
翔世(これは....この状況ならいけそうだな。)
翔世の作戦はこうだった。誰からも相手にされず落ち込んでいる豪。そこにちょっと優しく出る翔世。気を許す豪。そこを一気に攻めてバンドメンバーとして迎え入れる。妹、たえから貸してもらった漫画にはそう書いてあった。どうやら男という生き物は、弱っているところを慰められてから攻められるとコロッと堕ちるらしい。
翔世「なぁ和奏、気にすんなって。」
豪「....うるせぇよ。」
翔世「悪かったって。さっきは笑ったけどよ、まぁこれからいくらでも挽回できるだろ。」
豪「無理だろ....この状況見ろよ。」
翔世「まぁ、そりゃな....www」
豪「あ!お前笑いやがったな!」
少し笑ってしまった翔世を豪は起き上がり怒る。慰めてたかと思ったらさっきのバカにする流れが戻っていた気がしたからだ。
翔世「そりゃ俺だってここまで浮くなんて思ってねぇけどよ.....お前、このままでいいのかよ。」
豪「失敗しちまったんだ....1年はこんなもんだ。」
翔世「まだ1日目だけどな。.....大丈夫だ、こんな評価、数ヶ月ありゃ変えられる。」
豪「バンドやれってか....無理だ。俺は特にこれといった特技はねぇ。」
翔世「大丈夫だ!俺もギター以外実は得意じゃねぇ!」
豪「俺の話聞いてんのか!!?」
翔世「大丈夫だって。最初は皆似たような事言うけど、1年くらい続けたら基礎中の基礎くらいは出来るようになる!」
豪「いやだからな....」
豪の思った以上の頑なな態度に翔世も頭を悩ませる。雰囲気で流すことは上手くいかなかった。
翔世(押してダメなら引くか.....)
豪「話は終わりだ。とっとと自分の席戻れ。」
翔世「....よし!クラブハウス行くぞ!!」
豪「はぁ!!?話聞けよ!!」
翔世は豪の腕を強引に引っ張り、教室の外に連れていく。
翔世「おい白鷺!俺たち体調不良で早退したって先生に言っといてくれ!じゃあな!!」
豪「てめぇ、俺を巻き込むんじゃねぇ!!!」
優希「え、あ、うん.....」
優希は小さくなっていく破天荒な2人の背中を呆然としながら見ていた。そしてその日、あまりの豪快さから2人の噂はすぐに学年中に広まった。