星に歌う   作:Rain777

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初めまして、Rain777と申します。
初投稿ですので至らない点も多いと思いますが、どうかあたたかい目で見てください。



本編
#1 There days memory


盛り上がる観客、煌びやかなステージ、爆音で鳴り響くロックンロール。

俺には無縁と思っていたそんな世界で、ステージ上でギターをかき鳴らす先輩はより一層輝いて見えた。

 

「みんな、今日は来てくれてありがとうなーッ!次でラストだ!」

 

先輩のMCで、観客の興奮のボルテージは頂点に達する。

ワァァという歓声が地響きのようにライブハウスを揺らす。

光る汗を迸らせながら楽しそうに歌う、そんな先輩が……。

 

「かっけぇ……」

 

俺は……そんな先輩が、好きだった。

 

 

 

 

 

#1 There days memory

 

 

 

 

 

「くぁっ……」

 

あぁマズい、このままでは事故る。

反射的にそう思った俺は、たまたま見つけたコインパーキングに車を停める。

そして近くの自動販売機であたたかいコーヒーを買い、ボンネットに腰かけながらゆっくりとすする。

 

「はぁ……」

 

思わずため息が出る。

もう5月半ばだというのに、今年はやたらと寒い。

日が落ちる時間も真冬並みに早く、まだ夕方の5時小前だというのに空は赤みがかっている。

缶コーヒーを飲み終え近くのゴミ箱に空き缶を捨てると、次に俺は煙草に火を点ける。

ゆっくりと煙を吸い込み、街灯の光に目掛けて吐き出す。

 

「それにしても、下北沢か……」

 

誰に言うでもなくそう呟いて、周りを見渡す。

狭い路地や密集した建物、シャッターの落書きなど様々なものが懐かしい。

生まれてから大学に入るまでの18年間を過ごしたこの街だったが、最近は稀に車で通るだけで立ち寄ることは全くと言っていい程になかった。

 

「よし、少し探索してみようか」

 

どうせこの後は家に帰って風呂に入り寝るだけだ。

まだ半分も吸っていない煙草の火を携帯灰皿で揉み消し、車の施錠をしてボンネットから立ち上がる。

まずはどこに行こうか、と考えた時、真っ先に思い浮かんだのはかつて両親と住んでいた実家のマンションだった。

もっとも、11年前に両親が立て続けに亡くなり俺がこの街を出てからは住む人間が居なくなり、持っていても仕方ないので売ってしまったのだが。

 

「ふぅ……」

 

細い路地を歩きながら2本目の煙草を吸う。

この街を出てかれこれ10年で、あの頃と比べ街並みも変わっているが意外にも土地勘は失われていないらしい。

 

「……先輩、は、いないよな?」

 

かつての実家に向かう途中、俺の頭にふとそんな懸念が浮かぶ。

昔は所謂幼馴染という関係の先輩が隣に住んでいたが、今はどうなのだろうか。

色々あって顔を合わせ難いのだが……。

 

「ま、大丈夫だよな」

 

そんな懸念を楽観的に流し、例のマンションに到着する。

 

「おぉ、ここだ。変わらねぇなぁ」

 

流石に中に入る訳にはいかないので、下から見上げるだけにとどめておく。

俺が住んでいたのは……あそこだ。窓から見える中の部屋に電気が灯っている辺り、誰か他の人間が住んでいるのだろう。

 

「見たいものも見たし帰るか……って、ん?」

 

なんだかんだ良い時間になってきたので車に戻ろうとすると、女子高生くらいの女の子の集団が楽しそうに喋りながらマンションの地下に続く階段に向かって行く。

こんな所に何の用だ?と俺もついて行くと、そこには何かの店が入っていた。

 

「ここ……何があったっけ」

 

10年前の記憶を頼りに思い出そうとしてみるが、なにぶん古い記憶のせいで映像に靄がかかったようになってしまう。

とりあえず10年前は置いておき、今は何があるのだろう。

 

「えっと……『STARRY』?何だ?洒落たラーメン屋か?」

 

そんな訳はないと思いつつ、久しぶりの好奇心に駆られた俺はそっと扉を開いてみる。

 

「お……」

 

するとそこは、ライブハウスとなっていた。

薄暗い、どこかアンダーグラウンドな雰囲気に、10年前の記憶が一気に蘇ってくる。

 

「あの頃は俺もちょこちょこと来てたなぁ」

 

思えば、大学に入ってからこういう場所には全く来なくなってしまった。

 

「えっと……チケット1枚、いいかな」

 

アラサーのオジサンが浮いてるだろうなと思いつつ、受付の女性から1枚チケットを買う。

その女性は一瞬訝しむような目をこちらに向けたが、俺から金を受け取るとギターピックの形を模したドリンクチケットを差し出す。

なるほど、ワンドリンク制となっているらしい。

 

「ありがとう」

 

「ドリンクコーナーはあっちなので~」

 

ゆったりとした口調でそう言った女性の指示した先を見ると、そこにはドリンクコーナーがあった。

カウンターの下で何か作業をしているのか、ちらちらと金髪が見え隠れしている。

ビール、と言いたいところなのだが、生憎車で来ているのでアルコールは御法度だ。

 

「すいませーん。ええと……じゃあ、コーラください」

 

「はいはい、コーラね……」

 

俺の声に反応した店員がカウンター下から顔を出す。

目が合う。

 

「げっ……せ、先輩……」

 

その顔を忘れるはずもなかった。

今最も会いたくないランキング堂々の1位の顔を見た瞬間、俺はドリンクチケットをカウンターに叩きつけて回れ右をしていた。

 

「あっ、逃げるな!出口塞げ!」

 

先輩からの怒声が飛び、頭にクエスチョンマークを浮かべた受付の女の人が出入り口に立ち塞がる。

女性を無理矢理どかす訳にもいかず、他に脱出口がないかと慌てて周りを見る。

だがそんな俺のスーツの襟首が、後ろからがしっと掴まれる。

 

「よう、久しぶりだな……」

 

身体の芯から震えあがるような底冷えした声に、背筋が凍る。

 

「あ……あの……人違いでは?」

 

苦しい言い訳をすると、先輩の目がスッと細くなる。

 

「へぇ……客に顔を見られただけで逃げ出されるような顔はしてないつもりだけどな」

 

「いや、昔から結構怖かったような……」

 

「昔からって言ってるじゃねぇか!連絡のひとつも寄越さずに今までどこに居たんだ日向!」

 

ガツン!と拳骨が頭に振り下ろされる。

ああ昔もこんな風に殴られたっけ、と思いつつ、因縁の先輩……伊地知星歌先輩と俺は10年ぶりに再会した。

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

「イテテ……どんな力で殴ったんすか」

 

「お前が逃げるのが悪いんだろ」

 

恨みのこもった目線を送るが、星歌先輩はフンと鼻を鳴らしてそっぽを向く。

まさか、28にもなって殴られる日が来るとは思っていなかった。

 

「……怒ってます?」

 

答えがわかりきった質問を投げかけるが、返答ではなくギロリという目線が返ってくる。

怒ってますよね、知ってました、はい。

 

「……怒ってるよ。突然音信不通になって心配してたら、ひょっこり現れたんだ。そりゃあ怒るだろ」

 

「……すいません」

 

普通に怒られてシュンとする。

俺としても顔を合わせられない理由があったのだが、今となってはそれは言い訳でしかない。

 

「今更現れてどういうつもりだい?お前が突然居なくなって、虹夏がどれだけ悲しんだのか知ってるの?」

 

星歌先輩は腕を組んだままこちらを見もせずにそう言う。

『私が』ではなく『虹夏が』というのが、俺の心を抉る。

 

「本当にすいません。あの時は別の大学に行くことを言い出せなくって……」

 

そう言って頭を下げる。

高校卒業後、本当なら俺は星歌先輩と同じ大学に行く予定だった。

ただ、まぁ、色々あって……下北沢ではない、関西の大学に進学したのだった。

表情を暗くしていると、星歌先輩は何度目なのか分からないため息をついて、俺の頬をその両手でつまむ。

 

「こら。うちのライブハウスに来てそんな暗い表情してるんじゃないよ。来てくれた人全員が楽しいってのが、うちのモットーなんだから」

 

「は、はい……」

 

そんなやり取りを交わしているうちに、一組目のバンドの演奏が終わる。

 

「ありがとうございましたー!」

 

やりきったように清々しい表情を浮かべて裾にはけていく彼女達を見ていると、俺はふとひとつの疑問が浮かぶ。

 

「……先輩は演奏しないんですか?」

 

「ん……バンドはもう辞めたんだよ。飽きたから」

 

とても星歌先輩の口から出たとは思えないそんな台詞に、思わず目を丸くする。

星歌先輩はそれだけ言うと、それ以上の追及を避けるようにノートパソコンを開いてカタカタと何か作業を始める。

そうこうしているうちに暗くなったステージ上がゴソゴソと動き、次のバンドが準備を始める。

そして照明がステージ上を照らすと、2人と段ボール箱という何とも奇妙なバンドが照らされた。

 

「……何だアレ」

 

星歌先輩が首を傾げる。

だが、俺は段ボールよりもドラムに座る女の子に目が行った。

 

「あのドラムの子って……」

 

「虹夏だよ」

 

「やっぱり」

 

10年前はまだ小さかった虹夏ちゃんがこうしてバンドをやっているということに俺は、軽く感動を覚える。

確か俺と11歳違いのハズだから、17歳だろうか。

 

「初めまして!結束バンドでーすっ!今日はみんなも多分知ってる曲を何曲かやるので、聴いてくださいっ!」

 

虹夏ちゃんのMCが終わると同時に、流行りの曲のカバーの演奏が始まる。

緊張からか虹夏ちゃんのドラムはガッチガチだし、段ボールのギターはかなり突っ走っている。

昔聴いた星歌先輩のバンドの演奏とは比べ物にならないくらい下手くそな3人の演奏だったけれど、その一生懸命な姿が、10年前を思い出させてくれた。

 

「……へったくそだなぁ」

 

そう呟く星歌先輩の表情は、言葉と反してとても柔らかかった。

こんな表情が出来る先輩が『バンドに飽きた』なんて思っているはずがない。

というかそもそも、バンドに飽きたのならばライブハウスを経営するなんてありえないじゃないか。

 

「星歌先輩は……」

 

「あん?何だよ?」

 

考えるよりも先に零れた言葉。

だが果たして、今の俺に『何でバンド辞めたんですか』なんて訊けるのだろうか。

……いいや、無理だな。

 

「……何でもないっす」

 

俺が目を逸らすと、星歌先輩は不思議そうに眉をひそめた。

 

「変なヤツだな。昔から変わらないけど」

 

そう言う星歌先輩の横顔は、10年前と変わらず綺麗だった。

 

 




試行錯誤しながら書いていきますので、改善点や誤字脱字等があれば是非教えてください。

追記 
サブタイトルを修正しました!
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