星に歌う   作:Rain777

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章管理が上手くいっていなかった上に修正もできなかったため、再度投稿させていただきました。




本編後
#EX1 POISON ROULETTE


有休を取るのに、こんなに苦労したことはない。

有給休暇取得を賭けた編集長との熱いディベートバトルを思い返しため息をつきながら、車の鍵をかける。

『……まぁ認めてやる。ただ、次の日から3倍以上働いてもらうからな』という編集長の脅しが脳裏にこびりついている。

 

「まぁ、10月だしなぁ……」

 

プロ野球の日本シリーズ開幕が目前に迫った今日この頃、俺は結束バンドのライブを観るために有休を取った。

増刊号のため編集部はてんてこ舞いになっている中での話ではあるが、『最近結構調子がいいんだ!絶対に見に来てね!』という新鮮なオレンジが弾けるようなフレッシュさの虹夏ちゃんからのメッセージと、『来い』という地獄の業火を煮詰めたような星歌からのメッセージを前に、俺は断りきることができなかった。

男は、弱い生き物である。

 

「はぁ……」

 

これから楽しい時間のはずなのにため息が出る。

STARRYに入る前に一服しておこうかとポケットから煙草を取り出し、STARRYの出入り口に設置された灰皿の前で火を点ける。

残り3本。昨日の夜に買ったはずだが……。

 

「こんにちはー」

 

「ん、こんにちは」

 

火の点いていない煙草をペン回しのように指で弄んでいると、中学生くらいの女の子がペコリと頭を下げて俺の前を通りSTARRYに入っていく。

ポケットの中でヴヴッとスマホが震えたので何かと思い開くと、ただのロインニュースだった。

現在の時刻は昼の3時半。チケットまではまだ随分と時間があるが、まぁ、俺なら関係者扱いで入れてもらえるだろう。

 

「……ん?」

 

……じゃあ今の子、誰だ?

 

 

 

 

 

#EX1 POISON ROULETTE

 

 

 

 

 

「ばんらぼってバンド批評サイトで記事を書いてる者ですが、結束バンドさんに取材お願いしたく~、あっ、あたしぽいずん♡やみ、14歳で~す☆」

 

何かあってはいけないと慌てて灰皿に煙草を突っ込んでSTARRYに突入した俺の目に入ってきたのは、『混沌』だった。

揃いのパーカーを着た結束バンドの4人、アンプの調整をしているPAさん、帳簿とにらめっこをする星歌、珍妙な名乗りをする例の女の子。

 

「あ、関係者の方ですか?すみませ~ん、邪魔ですよねっ☆」

 

「え、は、はぁ……そりゃどうも……」

 

例の女の子は出入り口で立ち竦む俺を見ると、満面の笑みで俺が通れるように道を開ける。

通りがかりにちらりと顔や骨格を流し見るが、まぁ少なくとも14歳ではないだろう。

 

「え、えぇと……何ですか?あの人」

 

「知るか……私が聞きたい」

 

呆気にとられる星歌の耳元で囁くが、そんな不機嫌そうな答えが返ってくる。

 

「……アポとかとってらっしゃいますか?」

 

シンと静まりかえった店内。

一番最初に正気に戻ったPAさんがにこやかに訊くと、例の女の子は「取ってないですぅ」と自信満々に答えた。

そういえば、バンド批評サイトで記事を書いてるとか言ってたっけ。同業者ってところだろう。

 

「あたし、下北沢で活動中の若手バンドで特集記事を書こうと思ってまして~、ちゃちゃっと終わらせますんで~!」

 

例の女の子……改め、ぽいずんやみは、階段を駆け下りて結束バンドの4人に近づく。

名刺を手渡された虹夏ちゃんは、おおっ、と目を輝かせた。

 

「日向君と同じ記者さん!?てか、私達ってもうそんなに注目されてるの!?」

 

「先輩、凄いですね!」

 

喜ぶ虹夏ちゃんと喜多ちゃんとは反対に、俺は記者としての嫌な予感がビンビンに立っていた。

いったいどこの雑誌か知らないが、おかしな恰好で珍妙な名乗りをして、アポすら取らないとは。

喋った内容をパッチワークのように切り貼りし本人の言葉とは全く違う記事を書かれてしまうという、炎上商法を狙った売名記者もこの業界にはごまんと存在している。

 

「え、あなたも記者さんなんですか?」

 

様子のおかしい記者ちゃんがこちらを向く。

眉根を寄せていた俺は表情を悟られないよう営業スマイルに変えた。

 

「改めて、ぽいずん♡やみですぅ」

 

渡された名刺には『ふりーらいたー ぽいずん♡やみ』という文字と共に本人の似顔絵が書かれていた。

一言断りを入れてから裏面を見ると一応連絡先などが書かれていたものの、これを名刺と呼んでも良いのだろうかという疑問が残る。俺は呼びたくない。

 

「株式会社スポーツ・マガジン社でライターをさせていただいている木村日向と申します。よろしくお願いします」

 

何があっても良いように名刺入れを持ってきて正解だったと胸を撫で下ろしながら名刺を渡す。

 

「げぇっ、超大手……」

 

「何か言われましたか?」

 

「い、いえ!何でもないですぅ☆」

 

俺の名刺を見て顔色を変えるぽいずんやみ。

裏面に書かれていた『ばんらぼ』というサイトを、自分の脳内の辞書で引いてみる。

確か、フリーライターがある程度自由に記事を掲載することができるサイトのはずだ。

閲覧数を稼ぐために、かなり過激なこき下ろしや碌に裏取りしていない信憑性ゼロの記事が闊歩していると聞いたことがある。

雑誌やサイトごとで色があること自体を否定する気はないが……結束バンドがその標的になるとすれば、話は別だ。

 

「じゃ、じゃあ、さっそく取材を……」

 

「私もライターの端くれです。生憎音楽方面には詳しくなく、知見を広げるためにも、取材を見学させていただいてもよろしいでしょうか」

 

俺はにっこりと笑いながら虹夏ちゃんの隣に立つ。

おかしな記事を書くつもりなら、ここで狼狽するだろう。

 

「え、ま、まぁいいですけど……」

 

しかし俺の予想とは裏腹に、ぽいずんやみが浮かべた表情は、「不思議」と言いたげなものだった。

予想が外れ一瞬呆気にとられたものの、俺は手帳を出すふりをしてジャケットの内ポケットに留められたボイスレコーダーを起動させる。

 

「じゃあ気を取り直してしつも~ん!今後の結束バンドの目標は?」

 

「メジャーデビュー!」

「エンドース契約してタダで楽器もらう」

「皆でずっと楽しく続けることかしら」

「あっ世界平和……」

 

4者4様の答えをする結束バンド。

俺はそんな4人の答えをメモする振りをしながら、ぽいずんやみの表情を観察する。

俺の見立てでは、今の質問はただのジャブに過ぎない。おそらく、本来の質問は別だ。

 

「あっ、そういえば、ギターの方って少し前にダイブで話題になってた人ですよね!?」

 

きた。俺の記者としての勘がそう告げる。

当たり障りのない質問が幾つか続いた中、まるで思い出したようにぽいずんやみがそう切り出す。

文化祭の演奏で後藤ちゃんが観客席へダイブしたことが、一時期SNSで少し話題になった。

嫌な言い方になるが高校生の文化祭レベルでの出来事ということですぐに皆の記憶から忘れ去られた出来事ではあるが、ネットというコアなファンもいる世界では、ダイブしたギタリストへの直撃インタビューも良い記事のネタになるのだろう。

 

「……」

 

後藤ちゃんを質問責めにするぽいずんやみと、完全に置いてきぼりになってしまった虹夏ちゃん達。

除け者にされる、というのは案外メンタルにくるものがある。

ライブ前にこんなことをされては、虹夏ちゃん達のパフォーマンスが心配だ。

 

「すみませんぽいずんやみさん。結束バンドの子達は今からライブですので、最後の確認の時間が必要かと思います。今日の所はこのくらいにしておきませんか?」

 

俺はそう言うと、わざと音をたてて手帳を閉じる。

 

「え……は、はぁ、そうですか。まだ質問したいことがありますので、ライブ後でもいいですかぁ?」

 

「私はこの子達の知り合いなのですが、まだ高校生です。ライブ後は時間も遅いですし、疲れもあると思います。次はアポイントメントを取って、また別日でもよろしいのではないでしょうか?名刺もあることですしね」

 

少しの皮肉を混ぜながら言い放つ。

ぽいずんやみにそんな皮肉が通じたようで、くぅと言いながら引き下がる。

 

「記事、楽しみにしていますね」

 

俺は最後にそれだけ言うと、手帳をしまいボイスレコーダーをオフにする。

 

「日向。ちょっとこっちでドリンクサーバーのメンテナンスを手伝ってくれるか?」

 

「あ、はい。今行きますー」

 

虹夏ちゃん達が楽屋へとはけていく行く中、ドリンクサーバーの前で手招きしている星歌のもとへ向かう。

特にメンテナンスの必要がなさそうなドリンクサーバーを適当にいじくりまわしていると、そっと星歌の唇が耳に近づく。

 

「良い印象はなさそうだな」

 

「あるとでも?」

 

「だろうな。お前の見立ては?」

 

「ん……取材自体はまじめにしてたし、アホらしい茶化した記事を書く気はないと思う。ただ、あの珍妙な名前や恰好は一旦置くとしても、アポを取らないことや相手方の事情や気持ちを考えられないことは良くないな」

 

「なるほど、な……」

 

「まぁ軽く脅しはかけといたし、変な記事は書かないだろ。あと14歳は嘘。きくりよりちょっと下くらいだろ」

 

「だろうな」

 

星歌はくっくっくと声を殺して笑う。

 

「……何か面白い要素あったか?」

 

「いや?ちょっと痛快だっただけだよ。虹夏達のことをまもってくれて、ありがとうな」

 

「ん……気づいてた?」

 

「そりゃな。虹夏も気づいてるんじゃないか?」

 

「恥ずかしいな……」

 

俺は深く息を吐くとドリンクサーバーから手を離し、煙草を吸うために表に出る。

 

「ふぃ……疲れた……」

 

こういうことは慣れないな、という独り言を煙草の煙と一緒に吐き出す。

いつの間にかチケット販売の時間になっており、ぱらぱらと人がSTARRYへ吸い込まれていく。

 

「結構入ってるな……って、こんなこと虹夏ちゃんに聞かれたら大目玉だな」

 

台風の日を知っている身からすると、30人近く入っている今の状況は、正直驚きだった。

 

「木村さんも一応チケット買ってくださいね~」

 

「ん、そうですね」

 

PAさんに言われ、500円を支払う。

そして星歌に頼んでコーラをもらうと、適当な椅子に腰掛ける。

ぼーっとしているうちに開演の時間になり、虹夏ちゃんと喜多ちゃんの若干空回り気味なMCから演奏が始まる。

 

「おぉ……」

 

俺は音楽に関してほとんど素人だが、4人の演奏は台風の時よりも明らかにレベルアップしていた。

分かる人が聴けばまだまだなのかもしれないが、俺からすれば、十分に上手な演奏だった。

何よりも、楽しそうな4人の姿にはどこか感情が突き動かされるものがある。

 

「ありがとうございましたー!」

 

30分ほどでライブは終了した。

今日は結束バンドだけということで、客もぞろぞろと帰っていく。

片付けをするPAさんを手伝っていると、ぽかーんと大口を開けて佇んでいるぽいずんやみが目に入る。

 

「何してるんですかね、あの人」

 

「さぁ……?」

 

PAさんと2人して首を傾げる。

 

「あ、あのっ!その……まさか……」

 

出入り口付近でファンサービスをしていた後藤ちゃんに、ぽいずんやみが唐突に声をかける。

 

「まさかとは思ったんですけど……その歌うようなギタービブラートのかけ方、所々に滲み出る演奏のクセ。絶対そう!間違いない!あなた、ギターヒーローさんですよねッ!」

 

何の話だ?

俺の考えていることが伝染したのか、店内がシンと静まる。

 

「なんの話?」

 

「まさかあんた達知らないの!?」

 

口火を切った喜多ちゃんにぽいずんやみが噛みつく。

 

「このギターヒーローさんはねぇ!超凄腕高校生ギタリストでッ!それでいて男女問わず学校中の人気者でロインの友達数は1000人越え彼氏はバスケ部のエースの超リア充女子なのッ!」

 

おおよそ後藤ちゃんとはかけ離れたプロフィールを早口でまくし立てるぽいずんやみ。

 

「人違いじゃないですか?」

 

「即答!?」

 

バッサリと切り捨てる喜多ちゃん。

後藤ちゃんは口から緑色の液体を垂らしながら白目を剥いている。

 

「そっ、そうですよ!その人とこのド陰キャ少女が同一人物に見えますか!?」

 

あのかわいい虹夏ちゃんの口から出たとは思いたくもない暴言が後藤ちゃんを刺し貫き、後藤ちゃんは緑色の血反吐を吐き出す。

ぽいずんやみは一瞬訝しむような目を後藤ちゃんに向けたが、すぐにキラキラした目に戻った。

 

「やっぱりギターヒーローさんですよね!カリスマは一般人とは一味違うしッ!レモンとパプリカが好きでフラミンゴ飼ってますよね!?」

 

何を言ってるんだ、このイカレポンチ激痛女は。

ついに恰好だけでなく頭までおかしくなったかと思いながら後藤ちゃんの方を見ると、ニヤニヤと笑っていた。

 

「あっ……いやぁ……えへへ……ちっ、違いますぅ」

 

「……虹夏ちゃん、ギターヒーローって何かな?」

 

「えぇと……ぼっちちゃんのもうひとつの姿っていうか……」

 

こっそり虹夏ちゃんに尋ねるが、やたらと歯切れが悪い。

何か言い出しにくい事情があるらしい。

そうこうしているうちにぽいずんやみは自分のスマホで何かの動画を流しており、そこには、後藤ちゃんらしき人物が映っていた。

 

「ぼっちが上手いことはなんとなく分かってたけど、言わないから別にどうでもいいかなって」

 

「私も何かあるんだろうなとは薄々思ってたので別に……」

 

山田ちゃんと喜多ちゃんが口々に言う。

 

「なにこれ!もっと驚いてよ!」

 

「いや驚いてますよ。この大量の虚言には……」

 

呆れたような喜多ちゃんの表情。

俺もスマホを覗き込むと、動画の概要欄に、とてもじゃないが後藤ちゃんが送っているとは思えないキラキラ高校生の日常が綴られていた。

正直、怖い。

しばらく騒いでいたぽいずんやみだったが、自分のスマホを喜多ちゃんから取り上げると大股で後藤ちゃんに近づく。

 

「ところでギターヒーローさん。さっきのライブは何であんな酷い演奏を……!?」

 

「わっ、私人見知りで……だからバンドだと上手く合わせられなくて。動画は家で1人で弾いてるから……」

 

後藤ちゃんはそう言って表情に影を落とす。

ぽいずんやみはそんな後藤ちゃんを全肯定しながら背中をポンと叩きギターヒーローの動画を見て目を丸くしているファンの女の子の方を向くと、キャイキャイと騒ぎはじめた。

俺も自分のスマホでギターヒーローを検索すると、すぐに出てきた。

登録者8万人、凄い。

 

「……ってことで、ウチの編集長にかけあって業界の人を紹介してもらえるように言っときます!良い人がいるって!」

 

1人で盛り上がっていたぽいずんやみは、そう言って袖に隠れた拳を振りあげる。

デビューできるかも、と俄かに盛り上がるファンや結束バンド4人。

しかしそんな様子を、ぽいずんやみは困惑したような目で見ていた。

 

「結束バンド?何の話?あたしが言ってるのはギターヒーローさんだけ」

 

凍る空気。

そんな空気に気付いているのか気付いていないのか、ぽいずんやみは言葉を継いでいく。

 

「結束バンドは高校生にしたらレベルは高いと思うけどぉ、でもよく居る下北のバンドって感じだし……っていうか、“ガチ”じゃないですよね」

 

「えっ……」

 

声にならない声を出す虹夏ちゃん。

俺は目を閉じ、イライラを飲み込む。

 

「だって客も常連だけだし宣伝もそんなにやってないみたいだし。本気でプロを目指してるバンドに見えないんだもん。ギターヒーローさんはもうプロとして通用するのでちゃんとしたバンドに入った方がいいですよ!いい話ないか色々探しておきますね!」

 

「あっあの、私は……」

 

「いや~、ゴミ記事取材のつもりが大当たりですっ!今度単独取材書かさせてくださいっ!」

 

「おい」

 

『ゴミ記事取材』

その単語が、俺の琴線に触れた。

 

「ゴミ記事取材って、何のことだ?」

 

「えっ、いや……」

 

「アポも取れない、相手の事情も気持ちも考えない。俺からしたら、あんたはライターとして三流未満だよ。人を貶す権利持ってんのか?」

 

「そ、その……」

 

「ま、一流だからって人を貶していいワケじゃねぇけどな……」

 

俺はため息をつくと、シッシと手で追い払う仕草を取る。

 

「興が削げた。早く帰れよ。えぇと、何サンだっけ?」

 

「……ま、まだ話は終わってないです!」

 

「はぁ……根性だけは買ってやるよ」

 

再びため息をつき、左手をブラブラ揺らしながら立ち上がる。

 

「ひ……」

 

俺の大きな身体は、脅しによく利く。

 

「ちょ、ちょっと日向君……!」

 

「おい日向。そこまでにしとけ。血の掃除は面倒なんだよ」

 

ずっと黙っていた星歌先輩がついに口を開き俺を窘める。

そしてぽいずんやみの方を向くと、スッと目を細めた。

 

「帰れ。閉店時間だ」

 

「帰らないって言うなら、ネットであなたのことを検索しますよぉ~」

 

「お前みたいなアクの強いライターには必ずアンチがいるからな。おいPA」

 

「はぁい。本名が出てきましたよぉ。もう少し調べれば実家の連絡先くらい出てくるんじゃないですかねぇ」

 

「ひ、ひぃ……!」

 

星歌とPAさんの脅しに、ぽいずんやみは慌てて荷物をまとめて逃げ出した。

しかし出入り口でこちらを振り向く。

 

「……こんなところでうだうだやってると、あなたの才能腐っちゃいますよ」

 

「日向。電話」

 

「何番ですか?」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 

俺がスマホを耳にあてるそぶりを見せると、今度こそ風のように逃げ去っていった。

 

「日向がボコボコにしなくて済んだな」

 

「そうですねぇ。超平和的解決ですね」

 

「さすがに殴る気なんてなかったですけどね」

 

どこか晴れ晴れとした星歌とPAの表情。

多分俺も、同じような表情なのだろう。

 

「……お前らもあんな奴の言うことなんか気にするなよ。今日はもう全員上がっていいから」

 

「あっ、ありがとう」

 

「あんなキモイ奴置いてたら店が腐るから追い出しただけで別にお前たちの為とかじゃないし」

 

いちいち一言多い星歌。

虹夏ちゃんは額に青筋を浮かべていたが、結束バンドの4人は足早にSTARRYから出ていった。

 

「はぁ……あいつは出禁だな。日向。お前も帰っていいぞ。今日は大した片付けもないからな」

 

「そうですか。んじゃ、失礼しますね」

 

星歌とPAさん2人での話もあるのだろう。

なんとなくそんな空気を感じ取った俺は鞄を抱え、STARRYを後にした。

 

「ん?虹夏ちゃん?」

 

「あ……日向君。ちょっといいかな」

 

俺がSTARRYを出ると、すぐそばの植え込みに虹夏ちゃんは座っていた。

俺は近くの自動販売機で缶コーヒーを2本買い、片方を虹夏ちゃんに手渡す。

 

「ありがとう」

 

「うん。それで、話って?」

 

「……」

 

黙りこくる虹夏ちゃん。

慎重に。言葉を探すように。

 

「……ガチじゃないって言われた時、何も言い返せなかった。ぼっちちゃんが結束バンドとしてじゃなくてギターヒーローとしてスカウトされた時も」

 

「……悔しい?」

 

「うん」

 

絞り出すような独白。

そんな虹夏ちゃんの姿に、俺はふと、昔の自分を重ねてしまった。

 

「……俺が打たれて負けたことも、俺が打てなくて勝てなかった時もある。俺がもっと上手ければ、って何度思ったっけ」

 

「日向君もあったの?」

 

「そりゃね」

 

遠いことのように感じられる、野球に打ち込んでいた日々。

 

「悔しい、って思うことは誰にでもできる。でも、そこから行動に移せる人は一握りしかいない。虹夏ちゃんはどっち?」

 

にっこりと笑いながら問いかけると、虹夏ちゃんは勢い良く立ち上がった。

 

「そうだよね!ありがとう、日向君!」

 

「解決したならよかった。またね」

 

「うん!またね!次はもっと良い演奏を見せてあげるから!」

 

「楽しみにしてるよ」

 

俺も虹夏ちゃんと同じように立ち上がり、尻に付いた砂を払い落としながら自分の車へと向かう。

 

「眩しいなぁ」

 

今頃同じような悩みを抱えている結束バンドに、心の中でエールを送る。

がんばれ、君たちならきっとできる、と。

 

 




ー評価してくださった方ー
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