女だから鬼ぃちゃんになれない?なら姉鬼になればいいじゃないか。 作:ほとばしるバナナ
急な話になるが、どうやら俺は転生したようである。
普段通りに自宅でベッドに潜り込み床に着いて目覚めたら幼女になっていた。なにそれこわい。
元々アニメやゲームが好きだった俺はこれが所謂異世界転生だと理解し、それはもう舞い上がった。
なぜならバトルものの異世界に飛ばされた凡人が行き着く先は基本「最強な自分」であり、周りの人々の賞賛や羨望の眼差しを受けて「また俺なんかしちゃいましたぁ?」とニヤニヤするのがお決まりだからである。そこで俺も例に違わずこの世界で最強になり、周りからチヤホヤされる決意を幼いながらに固めた…のだが
この世界、びっくりするほど平和なのである。てか俺がいた元の世界とあんま変わらん。唯一違うところとして、前世における「競馬」での主役が馬ではなく、『ウマ娘』と呼ばれる耳と尻尾の生えた身体能力お化けの少女達に変わっているのである。
そしてなによりその耳と尻尾は俺にもついているのだ。
おそらくここはこの『ウマ娘』が主役の世界だ。今なら直感で理解できる。だって転生したら俺もウマ娘だったんだし。
そう、すなわちこれは数多のウマ娘達の中で俺が最強へと上り詰めるシナリオ…!いいだろう、この覇道は誰にも止められない!
そして俺の今世での名前は『アネスパーダ』。
つまり、今回の俺が女の子なことも含めて…
ーーーバージル姉鬼に、俺はなる!!
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Side:others
(…ついにきた。)
今日行われる選抜レースはこれからキャリアを築こうとしているウマ娘達の一つの岐路。このレースで己の実力を示し、これから共に歩むパートナーを見つける、あるいは見つけてもらうまさに運命の分かれ道。
コートの外には新人からベテランまで多くのトレーナー達が才能の原石を掘り出すために集まっている。
(私は今日このレースで今までの努力を見せつけて、優秀なトレーナーにスカウトしてもらうんだ!)
緊張で荒ぶる鼓動を必死に押さえつけながらゲートの中で息を整える。流れる冷や汗とは真逆に己の脚は少しでも早く走り出したいと唸っているのがわかる。
隣を見ると同じく緊張しながらもその瞳に強い野望を宿しているウマ娘達が目に入る。
これからはこの子達が私のライバルなんだ!
ーーーバンッッ!!
ゲートが一斉に開き私を含めた計十八人のウマ娘達がスタートを切る。
(出だしは順調!私の適正は先行だから、あまり突出し過ぎずにラストで攻める!)
バ郡の中で冷静に思考を巡らせこれからの立ち回りを構想する。スタートも練習以上のタイミングで走り出せ、体調も万全。全ては計画通りかつ絶好調のように思えた。
ーーー刹那、私の横を一筋の蒼い稲妻が駆け抜けた。
短く切り揃えられたシルバーの髪に全てを射殺しそうな鋭い目つき。
バ郡の大外からゼッケン18番が他のウマ娘達を強引に抜き去って先頭に躍り出た。
(あの子は”逃げ”か!焦ることはないよ私!コース終盤でスタミナ切れを狙って追い抜く!)
眼前に見える18番のゼッケンはその速度を緩めることなく更に加速していく。
2番手と彼女の距離は5バ身、6バ身…と増え気づけば10バ身以上の差が開いていた。
(それにしても随分大胆な大逃げだね…でもその分スタミナの消耗も激しいだろうから最終コーナーで一気に差を詰めれるはず!)
私にはまだ余裕があった。順調に脚を溜めていたこともありあれくらいの逃げならば終盤に差し返せる。そんな確信があった。
そしてレースは終盤に差し掛かり、前を走る18番が最終コーナーに入りかける。
(よし、こっから私も全力で行くよ!絶対に1着をとって私の実力を認めてもらうんだ!)
溜めていた脚を解放し足の回転数をトップギアまで持っていく。近くにいるウマ娘達を抜き去り最後の標的である18番を捉えるために目を前に向ける。
ーーー瞬間、確かに近づいたはずであるその背中が遠のいた。
(…は?)
困惑する私に目を向けることもなく、前を走る彼女はさらにそのスピードを上げる。
(ちょ…なんで…。なんでまだそんな加速ができるの…?)
そんな私の動揺なんて露知らず。正真正銘全速力で走っているはずの私と彼女の距離はさらに離れ、いつしか序盤の大逃げ以上の間隔が開いていた。
ーーー圧倒的格差。まるで追いかける者全てを嘲笑うかのようなその背中は満足というものを知らないという様子で、速度という名の暴力を振るい続ける。
(ばけ、もの…)
威圧感を放つ18の数字がゴール地点を通過する。
何人たりとも己の横に並ぶことを許さず全てを置き去りにするその姿は、まるで悪魔によって放たれた蒼い弾丸の如く。
彼女が日の目を浴びてその圧倒的な実力が白日の元に晒された時、人々は畏怖と敬意を込めて彼女をこう呼んだという。
ーーーーー『
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Side:third
トレセン学園の中心に位置するグラウンド。現在、普段は穏やかであるはずの芝の上で多くの動揺が起こっていた。
周囲のトレーナー達はヒソヒソと驚愕の表情で同僚と何かを喋る者、または逸材を見つけたことに対する歓喜で声を荒げる者などもいる。
片やウマ娘達は息を大きく切らせ、膝に手をつき肩で呼吸をしながら呆然とある1人のウマ娘のことを注視している。
ーーーそんな興奮と絶望がひしめきあう混乱の中心にいる彼女、『アネスパーダ』は極めて冷静な面持ちをしていた。
ザリッ…とアネスパーダが不意に歩みを進め始め、それに伴い周りの者も活動を再開する。彼女の体は更衣室の方へ向いており、着替えをしに戻る意思が簡単に見て取れる。
しかしその周りを大勢のトレーナーが囲い込んだ。そのトレーナーの中には、新米からG1ウマ娘を育てた実績のある者まで混ざっている
「君!すごい大逃げだったな!俺と契約を組まないか!?君程の才能ならどのG1だって取れるぞ!」
「バ鹿!逃げだったら俺のが適任なんだよ!俺は今まで沢山の逃げウマを育成してきたし、重賞だって何度も勝ち取ってきた!さぁ俺と来るんだ!」
「Gウマ娘を育成した僕なら君をもっと高みまで連れて行ってあげれる…。どうだい、興奮してこないか…?」
彼女を取り囲んだトレーナーが矢継ぎ早に捲し立ててくる。ある者は彼女の才能を褒め、ある者は自身の実績を口にして大勢の大人が彼女を引き入れようと画策する。
「黙れ」
ーーーー空気が死んだ。
およそ年齢に似つかないプレッシャーを放ち、見るもの全てを視線だけで殺してしまえそうな覇気を纏いながら彼女が口を開く。
「俺は誰の指導も受けない。それに、貴様ら程度の実力では俺のレベルを上げることなど出来やしない。」
明らかな侮蔑の言葉。新米トレーナーはまだしも、ある程度の実績を誇り己の実力に自信を持っているベテラントレーナー達は彼女の言葉に憤慨する。
しかし、言い返せない。まるで蛇に睨まれた蛙のように全身を硬直させ、冷や汗を流す。
「貴様らのつまらん児戯に俺を巻き込むな。どれだけ貴様らが速いウマ娘を育てたとて…俺には敵わないのだから。」
彼女はそう言い終わるとまるで壊れた玩具を見るように一切の興味を失くした目で自身を囲むトレーナー達を一瞥した後、歩みを再開させる。
「待ちなさいよ!」
すると、1人のウマ娘がアネスパーダに向かって叫んだ。
「トレーナーの指導を受けないなんて、私達をバ鹿にしてるの!?
それに2位だった私が言えることじゃないけど、あんな無茶な大逃げばかりしてたらあなたいつか壊れるわよ!」
再びアネスパーダが歩みを止め、震えながら叫んでいるウマ娘に向かって言葉を放つ。
「俺は事実を言ったまでだ。貴様らではいくら努力しようが俺は越えられない。その事実を認識できていない時点で結果は見えているがな。」
すかさず反論をしようとする名も知られぬウマ娘だが、やはり彼女もその圧倒的なプレッシャーの前に口を閉じる。アネスパーダに視線を向けられた途端、彼女の全身が大音量で警鐘を鳴らした。
ーーーー奴には勝てないと
「それと、貴様らは一つ勘違いをしているようだからこの際に教えてやろう。俺が行なっているのは”逃げ”などと言う取り柄のない弱者でもできるものではない。俺が貴様らに対して終始押し付けていた物は…
ーーーーー蹂躙だ。」
そう締めくくるとアネスパーダは踵を返し今度こそ学校棟内へと姿を消す。
もはやその脚を止めることができる者は、この場に誰一人として存在しなかった。