女だから鬼ぃちゃんになれない?なら姉鬼になればいいじゃないか。   作:ほとばしるバナナ

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第2話

 

幼い俺がバージル姉鬼になることを決意してから数年が経過し、ついに俺は名門トレセン学園に入学することになった。

 

いやぁ、長いようで早かったね。来る日も来る日も走り続けて早数年、姉鬼の名に恥じないよう努力を続けてきた甲斐があったわ。

 

そして先程、選抜レースを終わらせてきました!

結果は上々、まだ本格的なトレーニングを積んでいない相手とは言えかなりの大差で勝利することができて一安心。こんなとこで負けてたらバージル姉鬼じゃなくなっちゃうもんね。

 

それで選抜レースの後に着替えて今は教室に戻ってきたわけなんだけど、クラスのみんなが友人と和気藹々と喋っている中俺は…

 

「あれが噂の子だって…。」

「うわぁ…目つき怖いね。何でもスカウトに来たトレーナーさん達を睨んでその上暴言を吐いたらしいよ。」

「そうそう!しかも一緒にレースを走った子の中にも酷いこと言われて泣いちゃった子もいるらしいし!」

「流石に怖くて挨拶行けないよねぇ〜」

 

はい!見事にボッチ街道を突き進んでいます! いや、確かにバージル鬼ぃちゃんに友達なんていなかったし唯一の奥さんも殺されちゃったけどね。

どうやらレース後に取り囲んできたトレーナー達に言った言葉のせいでビビられてるらしい。

 

…でもトレーナーに言った言葉は後悔してない。あいつら俺を、ていうか俺の目指すバージル姉鬼を舐めすぎ。俺を使って自分の評価を上げようって気持ちがダダ漏れだったもん。

 

「あの…アネスパーダさん。ちょっといいかな…?」

 

俺が孤独を紛らわせるために小難し気な本を読んでいるふりをしていると一人の女生徒が話しかけてきた。多分一人でいる俺を憐れんで来てくれたのだろうがそれでも俺は嬉しいぞ!

 

「今朝のレース凄かったね。普段どんなトレーニングしてるのか聞いてみてもいいかな…?あ!嫌だったら全然いいんだけどね!」

 

遠慮しながらも彼女が俺に話題を提供してくる。

 

うーん、別に教えるのは構わないんだけど多分参考にならないんだよなぁ。俺がやってることなんて限界まで筋トレして限界まで走り込んでるだけだしな。力こそパワーなんよ結局。

 

「…教えるかは別として、恐らく貴様では満足な結果を得られまい。そもそも俺と貴様では闘い方が違うだろう。」

 

さっきの理由と繋がってるけどこの子の体幹や重心、筋肉のつき方とかを見た感じ差し適正だと思うんだよね。だから俺の戦法に合わせたトレーニングをすると逆効果になりかねない。

 

ちなみに俺は蹂躙、または制圧適正だけどね!死んでもバージル姉鬼に逃げなんて言葉は使えないよ。

 

「あはは…確かに私は差しをメインにしてるから大逃げのトレーニングする意味は少ないかもね。というか、よく分かったね私が逃げ適正じゃないって。」

 

「簡単なことだ。貴様程度、体のバランスや下半身の筋肉を見れば大体の想像はつく。」

 

「ほぇ〜凄いね。とりあえずこれから1年間よろしくね。」

 

「…フン。」

 

ヒラヒラと俺を向かって手を振りながら彼女が自分の席に戻っていく。

 

ふむ、あんな話をするとトレーニング欲が湧いてきてしまうな。正直今でもかなりの実力はあると思うけどバージル姉鬼を目指すものとしてはまだまだ足りない。それこそ万が一にでも負けるなんてことがあったらアネスパーダの名前捨てることになっちまうよ。

 

よし、授業終わったら特訓や!あたいのラントレ、見さらせや〜!

 

「フッ…」

 

昂る向上心に俺は目を細め口角を少し吊り上げる。

そしたらなんか俺のこと見てたクラスメイト達が揃って肩を跳ねさせた。

 

…そんなに怖がらなくてもいいじゃん。

 

 

€€€€€

 

 

Side:S.R

 

まだ太陽が眩しい放課後。私はある一人の生徒を探しに外へ出ていた。

 

今日のトレセン学園はやけに騒がしかった。

下級生だけでなく同級生までもがなにやら熱心に噂話をしており、学園内のそこかしこである一つの話題が熱狂の渦を呼んでいる。

 

そしてその噂話はすぐに、私たち生徒会の耳にも入ることになった。

 

ーーーーーとんでもない新入生が現れた。

 

どうやら今朝の選抜レースにて異常な強さを見せつけたウマ娘が出てきたらしい。なんでも初めから一緒に走った娘を置き去りにし、ただの大逃げかと思えば最終コーナーからまるで追い込みかのような加速を見せ独走したまま勝利したと言う。

 

確かにそれが事実ならばとてつもない才能を持っている生徒だ。生徒達も新たな強敵の出現でさぞ浮き足立っているのだろう、と私は思っていた。

 

しかし、件の生徒に関する噂は少し毛色が違っていた。

 

ーーーー彼女と走った娘を泣かせたらしい。

ーーーートレーナーに暴言を吐いたらしい。

ーーーー物凄く恐ろしい形相で睨まれた。

 

彼女に関する話はネガティブな物が大半を占めていた。

 

人の陰口を話の種にしているのを放置することは生徒達の上に立つ者として如何なものかと思ったが、火のないところに煙は立たないと言う。 

 

(それに、もしも自身の才能に溺れて思い上がっているだけの小物ならば少しお灸を添えてやるのもいいだろう。)

 

そんなわけで現在私は噂のウマ娘、アネスパーダを探しにグラウンドへ来ていた。

 

少し周りを見渡すとコートの周りに多少人が集まっており、件の生徒はすぐに見つかることとなった。

 

(ほう…。)

 

短いながら風に靡くシルバーの髪。見る者全てを萎縮させる鋭い眼光。

 

圧倒的な風格をその身に纏ったアネスパーダが汗一つかかずにグラウンドを駆け抜けていた。

 

(なるほど、確かに速い。彼女は逃げを得意としていることから見るに、スタミナのトレーニングをしているのだろう。)

 

トップスピードを維持している時間の関係上、逃げウマには先行や差し、そして追い込みよりも多くのスピードとスタミナが要求される。

今行っているのは恐らくスタミナを強化するトレーニングだと私は見当をつける。

 

(…しかしかなりのスピードが出ているな。あれが噂の大逃げの所以なのだろうが、マイルならまだしも中距離、ましてや長距離なんて走りきれるはずがないだろう。)

 

深い思考に陥りそうになった私はハッと意識を戻し、軽く自嘲する。

なんにせよ、こんな所であれこれ考えていても今回の目的であるアネスパーダへの接触は果たせない。

 

そう考えた私はグラウンドへと歩みを進めた。

 

 

€€€€€

 

 

 

Side:third

 

 

「やぁ、少しいいかな。」

 

噂に釣られてやってきたウマ娘やトレーナーたちの視線を浴びながらトレーニングをするアネスパーダに一つの声が掛かる。

 

「…何の用だ。」

 

トレーニングを邪魔されたことに対する不快感を隠すことなくアネスパーダが声がした方向を睨むと、一人のウマ娘が毅然とした態度で立っていた。

 

「邪魔をしてすまない、だからそんなに睨まないでくれ。私の名はシンボリルドルフ。この学園の生徒会長をしている者だ。」

 

アネスパーダの視線を軽くいなしながらシンボリルドルフが言葉を放つ。

 

「貴様が誰かなど聞いていない。トレーニングを遮ってまで俺に声をかけた理由を話せと言ったんだ。」

 

「まぁまぁ落ち着いてくれ。君が今学園中で噂になってるのは知っているだろう?そこで生徒達を纏める者として一目君を見ておこうと思ってね。」

 

さらに不快感を露わにしながらアネスパーダが訪ねるが、シンボリルドルフは柳に風といった様子で話し続ける。

 

「…くだらん理由で俺のトレーニングの邪魔をするな。貴様が俺に興味を持とうが、俺の眼中には貴様の入る空間など存在していない。さっさと戻って有象無象の世話でもしてるんだな。」

 

アネスパーダがぶっきらぼうに吐き捨てる。

そんな彼女の言葉に生徒会長として、そしてなにより無敗の三冠ウマ娘であるシンボリルドルフのプライドが刺激された。

 

「ほう…。一応私はこれでも無敗の三冠ウマ娘と言われていてね。ことレースに関しては少し自信があるんだが。」

 

冷静に、しかしその中で対抗心を熱く燃やしながらシンボリルドルフがアネスパーダを挑発する。

 

「実力の誇示に過去の栄光を引き合いに出してくる時点で貴様の敗北は決定している。そもそも、生徒会長などと言う何の得にもならない役職(もの)にうつつを抜かしている貴様では話にもならないだろうがな。」

 

アネスパーダは未だに一切の興味を持たない眼を向ける。そんな彼女の様子にシンボリルドルフはますますヒートアップしていく。

 

「言ってくれるじゃないか。練習を少し見させてもらったが、確かに君のスピードは眼を見張る物がある。今まで君はさしたる苦戦をせずに勝利を収めてきたのだろう。

 

…だが、少し慢心が過ぎるのではないか?」

 

シンボリルドルフの存在感が膨れ上がり、その皇帝たる威圧感に周りの生徒が気圧される。

だがそんな物、アネスパーダには意味をなさない。

 

「安い挑発だ。そんなあからさまな物言いに気を取られるのは弱者のみだ。

ハッキリ言っておく。貴様が持ちかけている勝負は何の意味も持たない。なぜなら…

 

貴様は俺に勝てないのだから。

 

今度こそ話は終わりだというようにアネスパーダが踵を返しトレーニングに戻ろうと歩みを始めようとする。

そんな時、シンボリルドルフは自身が持つ最後のカードを切った。

 

「なぁ、アネスパーダ。なぜ私がこの学園で生徒会長を務めているか分かるか?…知らないようなら教えてあげよう。

それは…

 

ーーーー()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

大胆不敵な笑みを貼り付けながらシンボリルドルフが口角を吊り上げ言い放つ。

その姿はまさしく皇帝。見るものを全てを跪かせるような覇気がその体から放たれていた。

 

 

 

「ーーーほう?

 

 

 

ーーーー悪魔が撃鉄を起こした。

 

先程とはまるで別人を相手にしているが如く、その瞳の中心にシンボリルドルフを捉えたアネスパーダがゆっくりと振り返った。

 

「…なるほど、つまり貴様を下せば名実共に俺はこの学園の頂点に君臨することになるわけだ。」

 

「あぁ、確かにそうなるな。最も、()()()()()()()()()()()()という部分だけが悲しいところだがな。」

 

お互い一歩足りとも引けを取らずに互いを睨み合い、闘志の火花を大きく散らす。

その様子を見ていた周りの者たちは両者の圧倒的な威圧感に体を震わせる。

 

「いいだろう、貴様の安い挑発を買ってやる。過去の栄光に照らされて根拠もなしに勝てると信じているその淡い幻想を俺が捻じ伏せてやろう。せいぜい今から負けた時の言い訳でも考えておくんだな。」

 

「望む所だ。自身の才能に溺れ、あまつさえ私に勝利するというその過信。私が粉々に打ち砕いてあげよう。なに、これも社会勉強だ。君には今日、油断大敵という言葉を知ってもらうこととするよ。」

 

 

無敗の皇帝(シンボリルドルフ)蒼い悪魔(アネスパーダ)ーーー。

 

対を為す絶対的強者が今ここに対峙した。

 

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