女だから鬼ぃちゃんになれない?なら姉鬼になればいいじゃないか。 作:ほとばしるバナナ
Side:third
「この男と契約を結ぶ。これで文句はあるまい。」
秋川やよいは心底驚いていた。
彼女は先ほど、トレーナーなど必要ないと言い放ちあまつさえ単身でトゥインクル・シリーズに出ようとした生徒を門前払いしたところである。
そんな前代未聞の要求をしてくる生徒にNoを叩きつけ、正しい道へと導いてやったと彼女は誇らしげな顔で書類作業をしていた。
ーーーそうしていたら、ものの数分で件の生徒が男を引き摺りながら戻ってきた。
「驚愕ッ!何をしているんだ君は!?」
「だからこの男と契約を結ぶと言っているだろう。一度で理解する脳を持て。」
愕然とした表情で尋ねると女生徒ーーアネスパーダが煩わしそうな様子で答える。
「というかそっちの君は今日からトレーナーになる新人くんじゃないか!君も君で何をしているんだ!」
「いや、それはこっちが聞きたいですよ!急に話しかけられたと思ったら無理やり引き摺られて気づいたらここですよ!」
やよいが頭を抱える。
どうやら新人の方も状況を理解していないようで、アネスパーダが強引に連れて来たことがよくわかる。引き摺っている時点で疑う余地もないのかもしれないが。
「説明ッ!いいか、トレーナー契約というものはお互いの信頼があって初めて成り立つものだ!その様子を見るに、君と新人くんは出会って数分もたっていないだろう!というか、新人くんもしっかり断らなきゃダメだぞ!」
やよいがアネスパーダに対して説教を始める。そこでポケーっとしている新人に対しても軽い小言を聞かせるが、不意に彼がキョトンとした表情をする。
「ん?あぁいえ、秋川学園長。僕はこの娘のトレーナーになっても良いと思っていますよ。」
ピタリとやよいの動きが止まる。そしてその向かいにいるアネスパーダも「ほう…?」と意外そうな目を彼に向けていた。
「僕は昔からトレーナー業に憧れてきました。そして、早速その仕事が出来るのならば僕としては願ってもないです。」
彼は微笑みながら優しく言葉を紡ぐ。
「それに、彼女が僕と契約を結ぶと言ってくれた時実はちょっと嬉しかったんですよ。まぁ彼女からしたら誰でもよかったのかもしれませんけど。
だから、僕はこの娘の力になりたい。」
あはは、と彼は笑いながら言っているがその言葉からは嘘の気配が微塵もしなく、その表情にやよいは言葉を詰まらせる。
「…だそうだ。いいから貴様はさっさと許可を出せ。まさかこの期に及んで渋るつもりじゃないだろうな。」
「ぐぅ…。苦渋ッ!分かった!いまいち納得はしてないが許可は出すから少し待ってくれ!許可が降りたからと言ってそんなすぐにデビューできる訳じゃないんだ!いろいろ手続きがあるのだ!」
やよいが苦虫を噛み潰したような顔でそう言い放つ。すると、用は済んだとばかりにアネスパーダが踵を返してドアへと向かう。
そんな彼女の背中にトレーナーが話しかけた。
「これからよろしくね!新人だけど精一杯君のサポートするから一緒に頑張ろうね!」
何の変哲もない普通の言葉が蒼い背中にかけられる。
するとアネスパーダがおもむろに振り返り、凍えるような冷たい眼で彼を見据えた。
「…あまり図に載るんじゃないぞ。貴様程度に俺のサポートなど出来はしない。俺が貴様に求めているのは価値のない愚民でも出来る雑用だ。」
トレーナーがピシリと固まる。唐突に猛毒を吐かれたことに脳が追いついていないようだった。
そしてついでにやよいも後ろで頭を抱えて突っ伏していた。
「それともう一つ言っておくが、まさか俺が貴様を信頼しているとでも思っているわけではないだろうな?単に都合がいいから手駒として利用してやるに過ぎん。そう胸に刻んでおくんだな、雑用。」
そう言い放つとアネスパーダは扉を開けて出ていく。その姿をトレーナーはポカンと見つめているだけであり、やよいは『不安ッ!本当に大丈夫なのかあれ!?』と叫んでいる。
「あのー……もしかして僕最初からマックス難易度の娘引いちゃいました?」
「……頑張りたまえ。」
2人の間を乾いた風が通り抜けた。
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Side:main
はい!とりあえずトレーナーを確保することに成功し、レースに出れないという最悪の結末は逃れることができました!
とりあえずあの人にはレースの申し込みとか事務作業、そんで買い出しとかもやってもらう予定だね。トレーニング見てもらうつもりないし。
しかもさっきトレーナーに聞いたんけど手続きがあるとか言ってた割には結構早くデビュー出来るらしくて準備が整い次第連絡くれるらしい。だからその間は自由に過ごしてていいってよ。
…結構話のわかる人だよなあの人。よし、これからはもっとこき使おう。
そんなことを考えながら廊下を歩いていると前から見知った顔が近づいてきた。
「やぁ、アネスパーダ。あれから調子はどうだい?」
「…何の用だ。」
会長さんじゃないですか!おっすおっす!
「いやなに、君がトレーナー契約を結んだと小耳に挟んでね。トレーナーなど必要ないと公言した割には随分と早く見つけるもんだと思い様子を見に来たんだ。」
どうやら俺が契約を結んだことを聞いて来てくれたらしい。まぁ一回闘った仲だしどんなトレーナーを選んだのか気になったのかな?
でもすまん、あの人雑用なんだ。
「レースを走る為にはヤツの存在が必要なだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。もとより、あの雑用には俺の闘いに関して一切口出しをさせないと言っておいたからな。トレーナーなど永遠に俺の眼中に無い。」
俺がそう言うとまるでわかっていたかのように会長さんがクツクツと喉を鳴らして笑った。
「あぁ、分かっているとも。君はトレーナー(そんなもの)に影響されるほど常識の中で生きてはいない。それに、仮にも私を打ち負かしたお前が1人の男に絆されるなんてこと、あってはならないからな。」
会長さんが鋭い目で見つめてくる。それは暗に勝手に腑抜けて失望させるなと俺に言い聞かせているようだった。
任せとけ誰を目指してると思ってんだ。
「戯言を。用が済んだならさっさと失せろ。煩わしい。」
「まぁ待て、私はもう一つ君に言いたいことがあって来たんだ。自分の中で決意するのは勝手だが、相手に伝えることで退路を無くせるからな。これは私なりのケジメだ。」
俺が頭の中でハテナを浮かべていると彼女が先ほどとは比にならないほど獰猛な笑みを浮かべた。その眼はさながら獲物を視界に捉えた猛禽類のようである。
「ーーー私はお前を倒す。今はまだ及ばないがいずれ必ず雪辱を晴らしてやる。2年後、首を洗って待っているがいい。その傲岸不遜な頭の中にシンボリルドルフの名を刻み込んでやる。」
彼女の瞳の中でメラメラと復讐の炎が燃えているのが視える。
…なんかすっごいライバル意識されてるんですけど。あんたあと一年でトゥインクル・シリーズ終わりでしょうに。
俺が何も返さずに無言で彼女を見つめていると、どうやら満足したのかその闘気は鳴りを潜め先ほどの毅然とした態度に戻った。
「では私はこれで失礼するよ。君もこれからデビューするのなら色々と準備をしておくんだな。レースに関しては問題無いだろうが備えあれば憂いなしだ。
…あぁそれと、余談だが私は君のライブを結構楽しみにしているんだ。メイクデビューは是非とも1着を取ってくれ。」
そう言い残して会長さんは去っていった。
確かに俺ももう直ぐデビューするんだからより一層トレーニングに励まないとな。バージル姉鬼の顔に泥を塗るわけにはいかないからな。
よっしゃ!この後直ぐにラントレや!あたいの本気、見せちゃるで〜!
…にしてもライブって言ってたけど何だったんだ?学園祭とかかな。俺はそんなの出ないぞ。
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Side:third
茜色の太陽が辺りを照らす夕暮れの空の下。グラウンドを1人のウマ娘が疾走している。
凄まじい速度で風に叩きつけられているシルバーの髪は大きく靡き、その表情は決して満たされることのない飢えた獣を彷彿とさせる。
そして多くの生徒が下校や友人と共に街中へと繰り出してす為に校門へと向かう中、それを見つめる一つの影があった。
「…すっごい!」
彼女はまるで宝物を発見したかのような眼差しでグラウンドを見つめる。
長い左右に分かれた髪の毛が揺れ、その興奮振りが表立って見て取れる。
「あれ絶対にずっと気持ちいい!あれならずっと1番でいられる!G1も取れる!
ーーーターボもああやって走りたい!!」
青き2対の旋風が目を輝かせた。