女だから鬼ぃちゃんになれない?なら姉鬼になればいいじゃないか。   作:ほとばしるバナナ

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今回は装備集め回です。ちょっと文量多くなりました。


第6話

 

 

『ーーーシンボリルドルフが今1着でゴールイン!!無敗の冠は未だ傷付かず!有馬に続いて春の盾を見事勝ち取りました!!』

 

大勢の観衆からの喝采が響き渡る。

最高潮まで興奮した彼らの視線はある一点へと集まっており、そこには軍服のような勝負服を着たウマ娘、シンボリルドルフが立っている。

 

「はぁ…はぁ…流石、ルドルフさんは強いや。悔しいけどおめでとう。無敗でここまでの戦績を上げるなんて本当に凄いよ。」

 

彼女と共にレースを走った娘がその背中に話しかける。無敗記録を維持したまま更なるG1 の獲得。本来であれば誰もが誇らしげに、自信を持って掲げるはずの実績なのだが彼女の表情は曇りを見せる。

 

……無敗、か。

…あぁ、すまない。少しボーッとしていた。ありがとう。私も君と闘えたことを誇らしく思うよ。これからもよろしく頼む。」

 

曇りを見せたその表情はすぐに毅然としたものへと変わり、話しかけて来たウマ娘へ笑顔を向ける。しかし、その眼の奥底には彼女の姿など一欠片も存在していなかった。

 

 

 

少し時が経ち、シンボリルドルフがウィニングライブを終えて控え室へと向かっていると大勢の記者が我先にと群がってくる。

 

シンボリルドルフは面倒に思いつつも彼らを順番に相手していき、結構な時間が掛かったが要約最後の記者に辿り着いた。

 

「シンボリルドルフさん!見事今回、この天皇賞春を勝利しました!感想をお願いします!」

 

「えぇ、とても喜ばしく思っています。そしてこれからも甘えを見せず鍛錬に励みたいと思う所存です。」

 

笑顔ながらもあまり感情の籠もっていない表情でシンボリルドルフがマニュアル通りの対応をこなしていく。しかし、記者の次の言葉が彼女の心に火をつけた。

 

「いやぁそれにしても流石の強さですね!これではもう貴方に勝てるウマ娘なんていないんじゃないですかね!流石無敗の皇帝!無敗の3冠ウマ娘!もう向かうとこ敵無しですね!」

 

突如、シンボリルドルフの気配が膨らんだ。先ほどまで柔らかい笑みを浮かべていた端正な顔からは表情が抜け落ち、その麗しい眼にはメラメラと炎が揺らめいている。

 

「…申し訳ありませんが、ここで失礼します。

 

ーーーまだ、私にはやるべきことがあるので。」

 

急激に増した威圧感を辺りに振り撒きながらシンボリルドルフが踵を返して去っていく。今、彼女の瞳には蒼い1人のウマ娘の姿が映し出されている。

そしてその背中に声をかけられる者は誰1人として存在しなかった。

 

 

€€€€€€€€

 

 

 

Side:main

 

 

俺がトレーナー契約を結んでから少しの月日が経過した。

 

相変わらず同級生たちからは避けられ、会長さんからはこっわい笑みをぶつけられてる俺だったが、トレーニングの方は頗る順調であった。

 

トレーナー曰くまじでそろそろ本格的にデビュー出来るらしいからひたすらに自分の体を虐めてるんだけど、やっぱあのトレーナー物分かりのいい人だわ。全然俺のトレーニングに口出ししてこない。やってることと言ったら変な書類と睨めっこしてるかドリンクの補給してくれるとかかな。

 

そんな訳で設備も環境もとんでもなく恵まれた場所で自己研鑽に勤しむ俺なのだが、近頃たった一つだけ厄介な問題抱えてるんだよね。

多分もうそろそろ来るはず。

 

「お師匠〜!!」

 

「…また貴様か。」

 

「今日こそターボを強くして!!」

 

そら来た。

 

この緑のメッシュが入った真っ青のツインテールの子、『ツインターボ』こと通称ターボちゃんになんかすっげえ懐かれてるんだよね。出会った時の第一声が『ターボを弟子にして!!』だったしその時は急すぎて呆けちゃったよ。

 

「チッ…貴様の指導などしないと再三言っているだろう。そもそも、俺は以前に付き纏うなと忠告したはずだ。それを忘れたとは言わせんぞ。」

 

「やだ!ターボもお師匠みたいに走りたいの!お師匠ばっかり気持ちいいなんてずるい!強くしてくれるまでターボここ動かない!」

 

ターボちゃんが可愛らしげなギザ歯を見せながら文句を言ってくる。

うーん困ったな。俺は弟子を取る気も取られる気も無いんだよなぁ。バージル姉鬼は孤高の悪魔だからね。身内なんていらないのよ。

 

「ならばそこで永久に立ち尽くしているがいい。俺に貴様のような有象無象を相手にしている暇は無い。」

 

「いーやーだーー!!ターボもずっと1番で走りたいの!!」

 

ターボちゃんが袖をぐいぐいと引っ張りながら駄々をこねてくる。こういう時鬼ぃちゃんだったら問答無用で斬り捨てるんだろうけど流石にこの世界じゃそんなんできないからなぁ。やったら社会的に死んじゃう。

 

「それに、お師匠のトレーナーからもいいよって言ってもらったもん!!だからおねがい!!」

 

しかもこの子ちゃっかり俺のトレーナーとのパイプも持ってんだよね。外堀から埋めてくるとは中々賢い。

 

「雑用が何を言おうと俺には関係ない。分かったらさっさと失せろ。目障りだ。」

 

「ぐぬぬ〜!あっ!こうなったら最終兵器みせてやる!お師匠、これ見て!」

 

悔しそうな顔をしたターボちゃんが唐突に何かを思いついたようで、持っていたバッグの中から箱のようなものを取り出す。

…あのマークは蹄鉄?

 

「これお師匠にあげようと思って買ってきたの!ターボを特訓してくれたらこれあげる!だからおねがい!」

 

ターボちゃんが箱開けると、予想通りに蹄鉄が一組入っていた。割と高かったんじゃないの?それ。

 

「要らん。そんな物で俺が動くと思ったら見当違いもいいところだ。随分と安く見られたものだな。」

 

「確かにあんまり高くないやつだけど…。でもこれ結構評判いいんだよっ!スッゴイ速く走れるんだよ!

 

ーーー『()()()()()』っていうお店のやつ!」

 

ターボちゃんが放った言葉に俺はトレーニングに戻ろうとしていた足をふと止めた。

…今なんて?

 

「…何?」

 

「ほら!これカッコいいでしょ?お師匠に絶対似合うと思ったんだ!だから特訓して!おねがい!」

 

どうやらターボちゃんが持ってきたのは『ベオウルフ』というブランドの蹄鉄らしい。聞いた感じ超有名!って訳ではないけど評判は良い物らしい。

 

くっ…鬼ぃちゃんにベオウルフと閻魔刀は必需品…!刀は無理だとしてもこんなところでその片割れに出会うとは…!

 

「…チッ。いいだろう、一度だけお前の遊びに付き合ってやる。だが俺はお前を教えもしなければ見ることもしない。来るなら勝手についてくるが良い。」

 

「やったぁ!!だったらお師匠、早く行こ!いくぞー!全力疾走だぁぁぁああ!!」

 

俺が了解の旨を伝えると、ターボちゃんが万歳をしながら喜んでグラウンドを疾走し始めた。

 

…1人で走るなら俺いらないじゃん。

 

 

 

その後、すぐさま彼女を追い抜きつつ自身のトレーニングに戻った俺を見たターボちゃんが負けじと並走を試みてきた。しかし直ぐにバテたようで、少し前に彼女はベンチへとトンボ返りしていった。

 

「ぜぇ…はぁ…。お、お師匠…ターボもうダメ……。」

 

「……何がしたかったんだ貴様は。」

 

割とキリの良い時間になったので俺もトレーニングを切り上げつつベンチで溶けているターボちゃんに話しかける。

 

「…まぁいい。この蹄鉄は貰って行くぞ。条件は果たしたんだ、文句はあるまい。」

 

「うん!今日はありがと!また特訓しに来るからね、お師匠!」

 

「2度と来るな。」

 

俺が蹄鉄の入った箱を持ち、踵を返すとツインターボちゃんがベンチから起き上がって元気に手を振ってくる。どうやらまだ俺のトレーニングに来る気は満々らしい。どうしたもんかね。

 

すると、突然ターボちゃんが『あっ!』という声を上げて俺を静止してくる。

 

「そうだ!お師匠のトレーナーから伝言があるの忘れてた!えっとね、

 

『メイクデビューが決まった』

 

だって!やったねお師匠!ターボも絶対観に行く!!」

 

彼女が手に持っているメモを見せてくると、そこには俺が待ち望んでいたことが書かれていた。

よっしゃ来たぁ!遂にデビューや!ぶちかましたるで!

 

「…面白い。」

 

思わずニヤけると周りにいたターボちゃん以外の生徒から一斉に目を逸らされた。

ふっ…面白くない。

 

 

 

€€€€€€€

 

Side:third

 

 

トレセン学園に所属するトレーナーには、それぞれトレーナー室というものが与えられる。

 

その部屋を使用するのは主に管理者であるトレーナーとその契約ウマ娘であり、ミーティングや脚のケア、その他事務作業などその用途は多岐に渡る。

 

そんな数多く存在するトレーナー室の一角で、アネスパーダとそのトレーナーがミーティングを行なっていた。

 

「…以上がメイクデビューレースの内容だね。距離は2000mの芝、右回り。どう?アネスパーダさん。大丈夫そう?」

 

「誰に物を言っている。以前別のやつにも言ったが、物理的な条件など俺に対しては意味をなさない。どの距離、どのレース場であろうと俺が負ける道理はない。」

 

トレーナーが確認するように言葉をかけるとアネスパーダが冷酷な眼差しで彼のことを見据える。その表情には絶対の自信で満ちており、敗北という未来など存在し得ないという確信が宿っていた。

 

「そも、この談合自体本来ならば不要だ。貴様がどうしてもと言うから来てやったが、まさかこんな些事の為に呼びつけた訳じゃあるまいな。」

 

「些事って…まぁいいや。ちょっと今日は確認したいことが一つあるのと、それとは別にプレゼントがあるから来てもらったんだよね。」

 

トレーナーがワクワクを隠しきれないような笑顔でアネスパーダに向き直る。それに対して彼女は不快感を隠そうともせずに続きを促した。

 

「ならばさっさと話せ。あまり手を煩わせるなよ、雑用。」

 

「オーケーオーケー。じゃあまずはプレゼントからいこうか!これ渡すの楽しみにしてたんだ!」

 

おもむろにトレーナーが自身のバッグの中を漁り始める。その背中からはアネスパーダのリアクションへの期待感がありありと見て取れる。

 

「じゃーん!勝負服!せっかくのデビューなんだから勝負服があった方が締まると思って奮発しちゃいました!結構良い感じじゃない?これ!」

 

彼が取り出した物は青を基調とした生地に黄色の刺繍が入ったローブ、そして黒と青の模様が入りつつもシンプルなデザインで構成されている勝負服であった。その様相はまさに地獄から舞い戻って来た蒼い悪魔を連想させる。

 

「…ほう、雑用にしては中々悪くない。」

 

「でしょ!?アネスパーダさんには青が似合うと思ってたんだよねぇ!ほらこの内側が黄色っていうのもかなりオシャレじゃない?今度レース用のロングブーツもあげるからそれ履いたら完璧だよ!」

 

「黙れ、もういい。褒めはしたが思い上がるんじゃない。醜い痴態を晒すな。」

 

トレーナーが目を輝かせながら早口で説明をするとアネスパーダが彼を睨みつけ黙らせる。その眼はさっさと次の要件を喋れと、口以上に物語っている。

 

「で、もう一つの理由はなんだ。俺に確認したいことがあると言っていたが。」

 

「あぁ、それなんだけどね。僕は今までアネスパーダさんの意思を尊重してトレーニングは見てこなかった。そしてアネスパーダさんはちゃんと無理して故障することなく今日まで来れた。…まぁ、割とギリギリな気がするけど。

とにかく、レースの方はそれでいいんだけどさ…

 

 

ーーーー()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

トレーナーが何気なく発した質問。彼はまたアネスパーダから冷たい視線と己の罵倒が飛んでくると予想したが、意外にも帰ってきたのは首を傾げた彼女による疑問符だった。

 

「…ライブとはなんだ?そういえばシンボリルドルフもそんな事を言っていた気がするが、俺がそんなものに出る訳なかろう。」

 

「え”!?いやいや、レースに出る娘はレースの後のウィニングライブっていうのに出る決まりだからアネスパーダさんも出なきゃいけないよ?」

 

「…なんだと?」

 

アネスパーダの返答にトレーナーが冷や汗をかきつつ驚愕する。

本来、レースとライブがセットというのはウマ娘達の常識であるため彼もアネスパーダがそれを知らないとは考えてすらいなかった。  

 

「とっ、とりあえずまずはウィニングライブがどんな物なのか映像で見てみようか!じゃないと踊れるものも踊れないもんね!

えっとメイクデビューは確か『Make debut!』だから…」

 

ゴソゴソと戸棚を漁り一つのビデオを取り出したトレーナーがモニターで映像を流し始める。

すると煌びやかなステージで多くのウマ娘が個性的な勝負服を纏いながら歌い、踊る姿が映し出される。

 

そこでチラリとトレーナーがアネスパーダの方を覗き見ると、まるでこの世の全ての悪意を一身にかき集めたような絶対零度の眼光でモニターを見つめていた。

 

「おい、なんだこの低俗極まりない下劣な催しは。見ていて不快にしか感じないぞ。

…まさかこれをこの俺にやれとは言うまいな?いくら契約を結んでいる貴様であろうと身の程を弁えろ。」

 

まるで悪夢でも見たかのような表情をしながらアネスパーダがトレーナーを見る。そしてその身体から立ち昇るオーラには拒絶の意思がハッキリと込められており、少しでも触れば切れるナイフのような鋭さを連想させる。

 

「いや、デビューするなら嫌でも出なきゃいけないんだって!じゃないと他のレース、特にG1とかは最悪エントリーすら出来なくなっちゃうかもしれないよ!?

というか、レースで1着をとった娘がセンターを踊る決まりだから多分アネスパーダさんがセンターになるよ?」

 

「チッ…!どこまで俺を愚弄する気だ…!

そこまで言うのなら貴様が出れば良いだろう。俺がレースを走るから貴様がライブとやらに出ろ。雑用は雑用なりに俺の役に立て。」

 

「いや無理だよ!てかそうしたら観客はせっかく推しの娘を観にきたのに知らない男がセンターで踊ってるのを観させられることになるよ!?暴動起きるでしょそれ!」

 

お互いがヒートアップしながら言い合いを続ける。

片や規定を武器に、片や己の矜持を武器に説得という名の争いを続けるがやはりアネスパーダもトゥインクル・シリーズという公式のレースに出走を求める身。次第に劣勢となった彼女は大きく舌を打った。

 

「チィッ…!おい、本当にどうにもならないのか。俺は着飾った女を見て鼻息を荒くしている哀れな豚どもを喜ばせる趣味なんて持っていないぞ。」

 

「ほんと尊敬するぐらいの語彙力だね…。

とにかく!出てくれさえすればいいから!最悪上手く踊れなくても多分ファンの人達はそこも愛嬌だと思ってくれる!だからお願い!出て!」

 

トレーナーが必死に頭を下げながら懇願すると、どうやらアネスパーダも観念したのか大きく溜息を吐き首を縦に振った。だが、その瞳には未だ不愉快という名の憎悪が確かに宿っている。

 

「…良いだろう、出るだけだ。間違っても俺が奴らのように低俗な事をすると考えるんじゃないぞ。

それと一つ言っておく。俺は自身の為にこれを受け入れたのであって貴様の懇願を聞き入れてわけじゃない。そこを履き違えるなよ。」

 

最後にもう一度盛大な舌打ちをぶちかましながらアネスパーダがトレーナー室を後にする。その後ろ姿をボーっと眺めながらトレーナーはふと口にする。

 

「絶対後でたづなさんにドヤされる……」

 

彼の受難はまだまだ続く。

 

 




勝負服はDMC4の鬼ぃちゃんを想像してください。
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