サボりすぎた落第騎士の英雄譚~リメイク~   作:舞耶

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決着、その勝者の名は


落第騎士と天才騎士Ⅲ

魔力を開放したオルフェンとステラの激突は、ステラの優勢で始まった。

元より灼熱の業火を身に纏ったステラに対してオルフェンが持ち得る手段は少ない。ならばこそそのチャンスを待つために逃げの一手に徹しているだけなのだが傍から見ればただの蹂躙劇にしか見えていないだろう。

 

焦土蹂撃(ブロークンアロー)っ!!!」

 

無数の火球がオルフェンに目掛けて放たれ、フィールドを燃やし尽くす。一つ一つ観察することでそれを何とか回避しようとするも火炎と爆発の二段構えの絨毯爆撃をすべて避けきることは難しく、何度か「死覇装」の衣に当たりその部分が削られる。

 

「(っ、魔力攻撃もずば抜けてるな。修復に充てる魔力も馬鹿にならないっていうのに・・・。)」

 

「死覇装」は高度に編まれた魔力の塊だ。それゆえにオルフェン自身の魔力消費量も彼が使用する伐刀絶技(ノウブルアーツ)の中では多い。削れた部分の修復にも魔力は使われる。だからこそ短期決戦で決めたかったのだがそれにも接近して発動させなければ効果も薄いだろう。

勝負を決めるためには接近しなければならない。だがそれをするにはステラのあの伐刀絶技(ノウブルアーツ)が厄介極まりない。

 

妃竜の羽衣・陽日紅焱(エンプレスドレス・グレイテスト・サン)

 

彼女が元々考案していた《妃竜の羽衣》に対してオルフェンがアドバイスをした摂氏三千度という熱量そのものを武器とした「纏う太陽」。それを形とした形態はまさしく竜の怒りそのもの。荒れ狂う魔力の波が炎として放たれているそれは視覚的に捉えられるものよりも攻撃範囲は格段に広い。

 

「そんなんで避けれるわけないでしょう!これで――――――――――っ!?」

 

極大の「妃竜の息吹(ドラゴンブレス)」を放ち、勝ちを確信するステラ。

 

だがそんな考えを砕くようにオルフェンは左腕を前方に向けて埃を払うかのように爆炎を振り払う。笑みを浮かべ余裕かのように振舞う。そんなあり得ないことをやらかした彼を前にステラが呆然とその光景を目にするがその一瞬の隙がこの戦いでは命取りになる。

 

「フッ――――――――――」

 

「なっ!?なんで接近できてるのよっ!?」

 

「そりゃ、「死覇装」を纏っていれば数秒ならこの熱にも耐えれるのさ・・・・・・いくよ?」

 

この痩せ我慢の発言と行動に、不意を憑かれた形となったステラの行動は確かに迅速だった。魔力を込めてデバイスを前方に振るいオルフェンを引き離そうと行動に移すが、オルフェンに対してで言えばその対応は()()と言わざる負えなかった。

オルフェンはこれまでの戦いで《斬魄刀》の発動の瞬間に魔力を開放したが、それ以降は一撃たりとも変化したその大刀を振るっていない。それ自体に違和感を持っていたステラはこの時初めて気づいたのだ。

 

――――――――――魔力をチャージしている。

 

魔力が上手く隠されすぎていて気付かなかったが、明らかに固有霊装に込められる魔力量の限界値を超えている。これがもし指向性を持ち、砲撃として放たれるのなら―――――――――

 

「(っ!やばいっ早く退避しなきゃ!)」

 

彼女の野性的直感で前方の斬撃よりも回避行動に優先順位を移すそしてその数瞬後に放たれた斬撃。魔力と同時に放たれたソレを受けてください炎の衣を纏っていたはずのステラは吹き飛ばされた。確かに間に合わないとは感じたがそれでも伐刀絶技(ノウブルアーツ)を纏って身体能力を強化していた自分をここまで吹き飛ばしたオルフェンの伐刀絶技(ノウブルアーツ)には驚かされた。

 

だが・・・・・。

 

「(昔のころはこんな技を使ってこなかった!これは新技ってわけね・・・・・でもチャージしてた割りには威力はない!相手に距離を取らせることを目的とした伐刀絶技(ノウブルアーツ)ってわけね!)」

 

放たれたものに確かに驚きを覚えた。吹き飛ばされもした。()()()()()()()()()()

警戒はするが今のステラにとってはその程度のものでは足止めにしかならない。随分舐められたものだと感じるが、そういえばそれこそがオルフェンの性格だったなと再認識する。

 

人を傷つけず、苦しませず、安らかに勝負を決める。無傷で済ませられるのであれば例えこちらが負けることになったとしても笑って受け入れる。そんな彼の「真面目」が一体どれほどのものなのかをステラは知らない。だからこそ興味もあったというのに、この程度だったのはやはりどこか悲しいものがあった。

 

「運命って、ほんと残酷よね。この世界で最も魔力量の多いっていう魔導騎士としては文字通り破格の能力を持ってしまったのがこの世界で誰よりも争いを好まないオルさんが持ってしまった。

誰しもが喉から手が出るほど欲しい「才能」があるのに何も動こうとしないオルさんってこの世界じゃ異端も異端よね。」

 

「ボクも、得たくて得たものじゃないんだけどねぇ。

――――――――っと、これは失言だったな。謝るよ。」

 

能力を持っている人間が、自身が持っている能力を否定するのは他の何ものにも勝る侮辱に他ならない。ひけらかすことも、誇示することも良い。ただあるものを「無い」と言い放つのは絶対にしてはならない。それは能力を持たない人間の努力やそれに掛けた時間全てを、「何の意味もない無駄な行為」なのだと言っているようなものなのだから

 

ノブレス・オブリージュという言葉もある。身分の高いものはそれ相応の責任と果たさなければならない義務が生まれるというものだ。ステラ・ヴァーミリオンという少女はまさにこの言葉を体現している人物と言えるだろう。

生まれながらの強者にして、類まれなる才能とそれに付随する思考はまさしくこの戦闘中においては彼女が経験してきた中では最善の一手だったのだろう。

 

・・・・・・彼女に足りていなかったのが、そのただただ純粋な「経験」と相手を見極める「観察」だったというだけで

 

「っ!」

 

正面から放たれた殺気にも似た気配を感じ取ったステラは自身の纏っていた炎を前方のオルフェンに向けて放ち、一気に距離を取る。今のオルフェンが放った気配はなんだ?殺気ではなかった。だが確実にこちらに対しての()()のようなものは感じ取れた。彼が私にそんなものを発するとは到底思えない。

 

だとしたら、一体なんだ・・・・?と思案するステラだったが、そんな彼女の様子を見たオルフェンは「終いかな」と誰にも聞き取れぬ声でそう呟いた。

 

「・・・・・さて、ともう少しだけ付き合ってもらおうかな?ステラちゃん。」

 

「えぇ、喜んで――――って言いたいですけどオルさん相手にこれ以上はジリ貧になっちゃうんで、次で決めますからね。さっきのアレも、そこまで脅威じゃないですし。」

 

「脅威じゃない、かぁ・・・・・・うんいいよ。先手は譲るから遠慮せずにかかっておいで。」

 

オルフェンの言葉に頷きで返すと、ステラは背を向けて自身の後方に歩き始めた。

()()()()()()()()。次の一撃は間違いなく彼女が放てる最高最強の技になるのだろうと誰しもが感じ取れていた。そして、それに対して先手を譲ったということはオルフェンもそれを迎え撃つ気なのだ。

ということは、ここまでの魔力の衝突とは非にならない力の本流がこの場に顕現することになる。

 

 

「―――――――――――蒼天に座せ、煉獄の炎」

 

 

初手はオルフェンの宣言通りにステラから始まった。

ステラの魔力が音を立てて燃え盛り始め、《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》に先ほどまで纏っていた炎を集中し始めたのだ。天に向かってその煌々とした刃を突き出している。その刃先はすでに天井を貫き、周りの生徒はそのもはや熱ではなく光の柱と化したモノを目の当たりした瞬間に一斉に悲鳴を上げながら避難し始めた。

 

『おいおいおい!紅蓮の皇女の奴、本気(マジ)でここ吹き飛ばす気かっ!?』

 

『逃げろぉ!巻き込まれるぞぉ!』

 

『これがステラさんの最強の伐刀絶技(ノウブルアーツ)かぁ・・・・・どうする気なのかなオルは。』

 

だが観客席にいた学生では唯一、黒鉄一輝はこれに動じず、目の前で観察し始める。これまでの伐刀絶技(ノウブルアーツ)も凄まじいものだったが今発動したこの光剣こそが彼女の本来の切り札なのだろう。確かにあの剣を振り回すだけで大抵の魔導騎士は為す術もなく蹂躙されることになると肌で感じてしまう。

 

だが、それを目の当たりにしている自分の親友は不敵に笑ってみせるのだ。今までも彼の目の前の障害は悉く切り裂かれてきた。先ほどの斬撃。ステラ自身はただの吹き飛ばす伐刀絶技(ノウブルアーツ)だと思っているのだろうが、アレは単に大刀を振るった際に生じた剣圧を放っただけであり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――――――――恐怖を捨て、前を見据えろ」

 

対しているオルフェンはあくまで自然体を解かず、何かを誓うかのように祝詞を唱える。

この言葉自体には何の意味も籠っていない。籠っているとすればそれは目の前の障害を確実に撃滅せんと誓うためだけの宣誓なのだから。

 

「――――――――進め。決して立ち止まるな」

 

固有霊装(デバイス)に収められていた魔力が一気に吹き上がる。放たれ、解放された魔力は再度「残夢」に纏われていく。だがそれだけなら良くある伐刀絶技(ノウブルアーツ)と同じなのだが、その様子はどこか違った様相を呈していた。

魔力そのものが固有霊装に呑み込まれ、「喰われて」いく。本来伐刀者が操る「魔力」というものは異能を用いるための精神エネルギーだ。固有霊装もその魔力で編まれたものであり、纏ったりすることはあっても霊装そのものに魔力を喰わせるということはあり得ない。

 

だが、そのあり得ない光景は実際にステラの目の前で起こってしまっていることだ。彼女も自身の切り札とも言える伐刀絶技(ノウブルアーツ)を出した手前、止めることは出来ないがオルフェンが何をしてくるかわからないい以上一瞬でも早くこの一撃を振り下ろすことが最善だ。と結論づける。

 

天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)ァァァァァァ!!!!!」

 

放たれるは陽光の斬撃。魔力がその熱量と斬撃を乗せて放たれる紅焔の一撃はまさにそれこそが最強なのだと物語る様にオルフェンの頭上から迫る。そんな彼にいよいよ焦り始めるのかと思う一輝だったが、オルフェンのその表情を見て安堵の顔を浮かべる。

 

――――――――落ち着いている。目の前に膨大な魔力の塊が迫っているというのにその顔はまるでゆったりとリラックスしているかのように見える。事実今のオルフェンは体の力を抜き()()()()()しているのだ。力を抜き、その一瞬に賭けなければ目の前の障害は取り除けないと感じているからこそだ。

 

「・・・・・退けば老いるぞ。臆せば死ぬぞ。叫べ。―――――――――」

 

そうして、その陽光の斬撃に対して巨大化した残夢を振りかぶる。先ほどの吹き飛ばすためだけの剣圧に魔力が込められて放たれる一撃。斬撃の瞬間にオルフェンの魔力を喰らい、刃先から高密度の()()()()を放出することで斬撃そのものを巨大化して飛ばす。

 

その名が今、叫ばれる――――――――

 

「月ッ牙!天衝ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」

 

黄金色に輝く魔力の本流と紅蓮の炎を纏った陽光の一撃が重なり、一瞬の静寂の瞬間に爆轟が響き渡った。

 

 

 


 

 

 

勝敗は数刻の間拮抗した魔力も徐々に押し返され、決することになった。

お互いに固有霊装を振り抜いた姿勢で体を動かさず、微動だにしない。静謐が包む演習場には決着がついたのだと知った生徒たちが目の前の事象を起こした張本人たちに視線に集めている。

 

「――――――――勝者、オルフェン・イグニール」

 

今まで静かに戦闘を見定めていた黒乃が勝者の名前を口にする。

その瞬間、ステラの身体がグラりと重力に従い地面に向かって倒れていく。それを見たオルフェンは微動だにしなかった体を、先ほど見せた「瞬歩」を用いて正面から彼女を抱きかかえる。

自身の胸の中に倒れ掛かったステラはどうやら気絶しているようで、小さい呼吸音が聞こえてくる。

 

「危ないなぁ、まだ全力出しきれてない助かったよ。そうしないと流石に幻想形態じゃ済まなくなるところだったし。」

 

「イグニール。ヴァーミリオンは?」

 

「少しはボクの心配してくれないかなぁ黒乃さんは。ステラちゃんの方は無事だよ。彼女の伐刀絶技(ノウブルアーツ)とボクの「月牙天衝」の衝撃で気を失っただけっぽいから。」

 

「そうか。お前が皇女を傷物にして国際問題を起こしてしまったのではとヒヤヒヤしたんだ。」

 

「やだなぁ、ボクがステラちゃんを傷つけるわけないじゃないですかぁ~

黒乃さんも冗談が「遺言はそれだけでいいか?」・・・・・何でもないです。」

 

そのままいつもの調子でおふざけを入れようとしてきたオルフェンに黒乃の銃口が向けられて「冗談が通じないんだから、全く」といった表情で両手を上げて降参の意を示す。これが先ほどまで激戦を繰り広げていた男だということに困惑を覚える。

 

オルフェン・イグニール。その二つ名は「堕落トカゲ(フォールン・リザード)

 

地に墜落した竜が国を離れた紅蓮の妃竜を打ち砕いた瞬間だった。




ヒースノーランド様 誤字報告ありがとうございました
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