あの後、ステラを医療設備が整っている破軍学園の保健室に運んだオルフェンは自身の親友でもある一輝の前で見事な土下座をかましていた。そんなオルフェンを冷たい目で見つめる一輝ははぁーっとため息をつき呆れたような言葉を紡いだ。
「あのねぇ、確かにあの魔力量を見せられてちょっとだけ面白くなっちゃったんだとは思うけど、そもそもこれはオルフェンが起こしたステラさんへの迷惑行為のせいなんだからね?そこのところ分かってる?」
「はい・・・・・その通りでございます・・・・・。」
「それなのに、気絶させるまでやるかいフツー?」
「はい・・・・・ホント申し訳ないと思ってます・・・・・。」
そんなことをもう彼是数分も続けていれば、その場にいるもう一人の人物も流石に呆れてくる。ここは病室でありそのベッドの上には寝息を立てている。この馬鹿ども達をどうしてくれようかともう一人の人物・・・・・黒乃は土下座を繰り出しているオルフェン・・・
「黒鉄、とりあえずそこまでだ。言いたいことはいろいろとあるのはわかったが、病室という事を忘れるなよ?」
「り、理事長先生っ!?きゅ、急に襟を掴まないでくださいっ!って引っ張らないでくださいよ?!」
ジタバタと理事長から逃れようとする一輝だったが、その行為も虚しく保健室から強制的に出されてしまった。室内にはオルフェンとステラの二人のみ。夕日が沈もうとしている黄昏時。証明はついておらず二人っきり。中々にロマンチックな絵だ。それを自分たちが理解できるほどの美しさ。
「んっ・・・・・。」
寝息を立てるステラにオルフェンは思わずそちらを見てしまう。穏やかな顔で規則正しく肩を揺らす彼女。そんな姿にオルフェン自身ははぁーっとため息を付く。この場の雰囲気に吞まれてしまいそうになる自分に嫌気がさすのと同時にその整った顔に惹かれていく。
「・・・・・・ホント、強くなったんだなぁステラちゃん。」
思い出すのは彼女と初めて出会ったときの事
まだ彼女が自分の身長の半分もない頃。自身の能力の幅を増やすために山に長期休みを利用して海外を転々としていた時だった。木々が生い茂る森の奥深くで剣を振るう音が響いており、そちらに歩みを進めたら彼女がデバイスを展開していたのだ。
太刀風はまるで吹いておらず、その大剣に振り回される彼女を見て興味が沸いたのが最初だった。
『っ!誰っ!?』
『うわっ!ちょっあぶなっ!?いきなり人に向けてデバイス振るとかどんな教育受けたのさっ!?』
そうして彼女との剣戟が始まったが、当時の彼女はまるで自分の魔力を使いこなせているとはいえず、炎をばら撒くだけばら撒いて制御がまるで出来ていなかった。
『(しかも、辺り森だしなぁ。この子の魔術は炎みたいだし、長期戦はマズいかなぁ。)』
『考え事しながらなんて、随分余裕じゃないのっ!』
熱波と共に振るわれる剣を「残夢」で受け流していく。受け流していく内に彼女の剣の中に型のようなものが混じっているのを感じた。
「残夢」の能力は「経験」の概念。交えた相手の経験、能力、そして伐刀絶技すらも一人限定で模倣することが出来る。ボクはこの能力を一輝に対して使っているため、今のボクは一輝の剣技でもある「
そして読み取った剣技の見覚えがあったのだ。いやもしかしたら最初から気づいていたのかもしれない。
対面している彼女の燃えるような赤い髪。そして既視感のあるこの剣技は間違いなくヴァーミリオン皇国に存在している「
これが示すところは即ち――――――――――――――――――――――――
『も、もしかして、ヴァーミリオン皇国の皇女さま・・・・・?』
『えっ、いや、そうだけど・・・・・なに?気づいてなかったの?』
その言葉を聞いて瞬間のボクの行動は、迅速だった。
即座にデバイスを解いて、そのまま一回転して土下座を決め込んだ。あの時の土下座こそがこの数年で最も華麗に決まった土下座だと自負している。
『えっ、いやあの・・・・・えっ?』
『ほんっと、すんませんでしたァァァァァァァァ!』
突然殺し合っていた男が急に自分に頭を下げた光景に困惑し始める彼女。ボクはそんなことも露知らずに頭を地面に擦り付けて謝罪を続ける。
『ごめんなさいごめんなさい!ちゃうんです!森を歩いていたら剣を振る音が聞こえたから気になっただけであって、別に他意があったわけではないんすよ!』
『森を歩いていた・・・・・?もしかしてアナタこの森に迷ったの?』
『あー、いや、ボクも魔導騎士でね。修行を積もうかと祖国から出てきたんだよね・・・・・。』
そこからボクは彼女に事情を説明し始めた。話し始めると「そういう事だったのね」と理解してくれたようであった。実際に先ほど剣を交えたことでこちらの事をある程度信用できる土台が出来上がっていたらしい。
少し安心した。
『それで、えっとステラちゃんだっけ?どうしてこんな森の奥で剣を振ってたの?ヴァーミリオンの皇女さまなら優秀な剣術指南役も居ただろうに。』
ボクがそう口にすると彼女の表情が少し曇り始めた。あーこれは地雷を踏んだなと後悔の念が積み上がってくる。今思えばこれは当時の周りの環境に押し込められていたことによることだったのだろう。
『みんなが、アタシの事を大事に想ってくれてるのはわかってるんです・・・・・でもヴァーミリオンを守るためにはもっともっと力を付けなきゃいけなくて・・・・・。』
ステラちゃんは目に涙をためながら悔しそうに自分の服の裾を掴むと、そのまま言葉を吐露し始めた。彼女のソレはきっと"不安"だ。彼女の力は一度剣を交えただけでもわかるほど強大だ。むしろこの年齢でここまで出来ているのは十分とも言える。
だが、強大過ぎる力は、時に身を滅ぼす。
第二次世界大戦の最中、島国であった日本が戦勝国として名を馳せたのも、「サムライ・リョーマ」を始めとした強力な魔導騎士の存在が大きかったからだ。この事実は例えどんな小国でも強力な
ヴァーミリオンは、世界的に見ても小国だ。だからこそステラちゃんは感じていたのだろう。
―――――――――――――――――――ワタシが強くならなきゃいけない
例えどんな障壁が目の前にあろうとも、どんな強大な敵がいようとも。自身のこの炎が祖国に対する害意のすべて燃やし尽くして破壊する。
それを為すために力を付けなければならない。
『でも、今のステラちゃんでは力に振り回されるばかりか、その力に牙を剥かれてしまっている。
・・・・・なるほど、確かにこれは周りが制止するわけだ。』
よく彼女観察してみると所々に痛々しい火傷の痕が幾つも包帯に隠れているのがわかった。彼女の才能は簡単に使いこなせるほど生易しいものではなかったのだ。
『・・・・・ねぇ、アナタはどうしてそんなに強いの?』
『えっ?いやぁ・・・・・ボクは』
『勘違いしないでちょうだい。確かに今のワタシに実力が無いとしても皇族として見る目はあると思うわ。―――――――――――――――――アナタ、アタシと同じランクの魔導騎士でしょ?』
当時の彼女の洞察力にはボクも思わず息を飲んだのを覚えている。彼女は小さいながらもその血統を正当に受け継いだ皇族だ。子供ながらにその洞察力は当時からでも相当なものだったのだろう。
そしてこの質問を受けてしまったことでボクはこの時、自分の正体を明かすかどうかについて悩まなくてはいけなくなった。当時のボクは今よりも立場があり自由が許されない立ち位置だった。
彼女は皇国の皇女。ボクが組している組織の名前を出せば自ずとボクの正体に気づいてしまうと思ったからだ。
それは
そうして悩んでいると、ステラちゃんが何かを察したように「まぁいいわ」と口にしてくれた。
『・・・・・助かるよ。ちょっとボクの方も色々あってね。おいそれと素性を晒すわけにはいかないんだよねぇ。』
『あのねぇ、もうそんなの「自分は素性を明かせない怪しい人ですよ~」って言ってるのと同義じゃない・・・・・。もう少し考えてから話しなさいよ。』
『あっ――――――・・・は、ははっ、えっと・・・
――――――――すみません聞かなかったことにしてくださいお願いします。』
そうして他愛のない会話をボクとステラちゃんは続けた。自分の好きなものはなんだとか、苦手なものはなんだとか、ほんとに他愛のないことを。話しているうちにボクは思った。
彼女は良い子だ。家族想いで、国民想いで、誰よりも他人のために力を付けようと努力している。
だけど、良い子過ぎる。
それが彼女の能力を狭めているのだとわかった。だが現状の彼女にそんなことを教えてもより強大となった力に呑み込まれてしまうかもしれない。気づかせない方がいいだろう。
『・・・・・うんそうだなぁ。簡単に言えばステラちゃんの才能を教えられるほどの人が周りにいないんだよね?・・・・・色々黙ってもらうお礼になるのかどうかわからないけど、僕でよければ色々教えられると思うけど、どうかな?』
ボクの提案に、幼かったステラちゃんは思ったよりも簡単に頷いてくれた。
懐かしい記憶を思い出しながら寝ているステラちゃんの髪を撫でる。規則正しい寝息を立てる彼女に対して特に劣情を掻き立てられることもなく、ベッドの横の椅子に座って様子を見る。
あの後も実は大変で、危うくヴァーミリオン皇国に連れていかれそうになり本気で焦った。まぁ結局そのあと連れていかれて色々と一悶着あったんだけども・・・・・・。
「・・・・・さて、本当にどうしたものかなぁ。謝って許してもらえるかなぁ。」
元はと言えばボクの突発的な行動のせいで起こった模擬戦だ。こちらが勝ってしまったとはいえ謝るべきことではあるだろう。
・・・・・うまく和解できるといいなぁ。
「んっ―――――ここは・・・・・・。」
「あっ、ステラちゃん気が付いた?おはよう。」
「・・・・・オルさん。・・・・・・あぁそっか負けちゃったのねアタシ。」
頭を押さえながらベッドから半身を起こすステラちゃん。幻想形態で斬られ殺傷された場合、肉体は極度の疲労状態に陥る。それは魔力による現象であるため当然ボクが最後に放った「月牙天衝」も当然その性質は帯びていた。
だが魔力による物理攻撃はともかく、そこから生じる衝撃などはさすがにどうにもならないため彼女の様子を見てひとまずどこも怪我してないようで安心した。
「・・・・・・もしかして、ずっとここに居たんですか?」
「あー、いやほらね?ボクが起こしちゃった件だし最後まで面倒見ないと筋じゃないだろう?」
コップに水を注ぎつつ、そう答える。正直平常を装っているものの何も言ってこない彼女に対してハラハラしっぱなしだ。えっ?なんで声のトーンそんな低いの?もしかしてまだ怒ってましたか・・・・・?
ここはすぐに部屋を出て何とかうやむやにするしかっ!
「目も覚ましたことだし!ボクはそろそろ出ていくよ!ほら、男が傍に居るとゆっくり休めないだろうからネ!それじゃあ失礼しt「ちょっと待ってください」・・・・・・はい。」
プラン失敗!くそう!ダメかっ!
これはもう逃げることもできないかと思い、正座を組んで下を向く。
何を言われるのか、本当に不安すぎる・・・・・・。正直彼女の日本知識であれば「ハラキリで勘弁してあげるわ」とか言い出しそう。
・・・・・・そして多分ボク、ノータイムで斬っちゃうんだろうな、お腹。
「・・・・・・オルさん。」
「はいっっっっっっっ!何でしょうか、ステラさんっ!!!!!」
彼女の言葉に敏感に反応をしてしまうボク。うーん弱ったなぁ・・・・・。
ステラちゃんはベットから起き上がりボクの前に立つと、無言でこちらを見つめてくるばかりで何もしてこない。
――――――――お兄さん。思春期の女の子の考えることがわっかんないよぉ・・・・・。
「あのぉ・・・・・ステラちゃん・・・・・?」
「・・・・・・変態。」
「ごふっ!?」
「もしかしてずっとこんなことしてたんですか?ほんっと女癖悪いですね・・・・・。」
「いや・・・・あの・・・・・・」
「―――――――――――――アタシの胸を、あんなに揉みしだくなんて・・・・・。」
「ほんっっっっっっっっっっっっとすみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ボクは今日二度目にて、あの時よりも、過去のどの土下座よりも完成度の高いものを披露したのだった。
ボクの土下座、本当にやっすいなぁ・・・・・・。
そうしてボクはそこから小一時間ステラちゃんへの説教を受け始めた。
やれオルさんは―――――だ。やほらオルさんは―――――だ。などとてもとても耳が痛い。確かに自分で楽しんでやってたとはいえ聞いててうわぁ・・・・と自分で頭を抱えそうになってしまうのが酷い。ボク自身の能力と、黒乃ちゃんが渋々動いてくれたからこそこうして留年という形で学園に留まることが出来たのだが本来だったら退学処分受けてもおかしくは無いんだろうし
・・・・・マジで黒乃ちゃんには感謝してもしきれない。
「・・・・・って聞いてるのっ?!オルさん!」
「あー、ごめんごめんっ!聞いてるよ。」
「だとしたら、諭すみたいに声をかけてこないでくれませんか・・・・・?」
呆れた口調で言われ、ぐうの音も出ず「すみません」と口にする。
何故こうも男性というのは女性に弱いんだろうか・・・・・・昔の人は「女は自然が最高の完成を保全するために工夫したものであり、男は自然の命令をいちばん経済的に果たすために女の工夫したものだ。」と言ったらしいけど・・・・・
(あながち、嘘とは言えそうにないなぁ・・・。)
「あのー、それでですね、ステラちゃん・・・・・そろそろ正座を解いてもよろしいでしょうか・・・・・・ボクぅ、そろそろ限界っていうかぁ・・・・・」
「・・・・・つまり、アタシの胸を揉んでおいてこの程度で許されると「はいすみません、大人しくしてます」・・・・・そういえば姉さまにもセクハラしてましたよね。まぁした後にボッコボコにされてお父様にもボッコボコにされてたけど。」
あ、あれはイヤぁな思い出でしたねホントに・・・・・。いやもう本当に思い出したくもない。なんでボクをボコボコにしたヴァーミリオン国王と一緒に牢に入れられたのかマジで理解できなかった。あの国なんであんなに国王の扱い方が雑なのか・・・・・あの国の女性を怒らせることは絶対にしないと心に誓った瞬間でもあった。
「そ、そういえばイッキとの話し合いはどうなったんだい!?同じルームメイトなんだろう?!色々あるかもしれないじゃないかっ!?」
「あぁ、それに関してはオルさんを斬った後で話すつもりでしたよ。部屋のルールも決めたいものね・・・・・。オルさんみたいに剣を交えてみるのもいいかもしれませんし。」
「そういうことならステラちゃんも油断しないで勝負しないとね。
・・・・・・イッキは強いよ。本当に。」
「―――――――彼、Fランクなんですよね?アタシが負けると思ってるんですか?」
それは正常な考えだ。ランクというものはその魔導騎士の
現に平均の三十倍の総魔力量を誇るステラちゃんや全世界の魔導騎士の誰よりも総魔力量が多いボクも「
魔導騎士のランクというものはその差だけ力の差があると一般的には思われているのだから、ステラちゃんのこの考えは正直間違いじゃない。
だが、それが通用しない相手というものも、この世には存在しているのだ。
「うん、多分今のステラちゃんよりは強いと思うよ。」
「・・・・・へぇ、それは楽しみですね。」
よっしゃっ!プランB「イッキに戦意を向けさせて乗り切ろう大作戦」成功っ!
すまんなっ!イッキぃ!ボクのために是非ともステラちゃんと戦ってくれたまえ!そのうちにこの件のほとぼりも覚めることでしょう!我ながらかんっぺきな作戦っ!
さぁって、ボクもいつも通り女の子と遊びに行くぞぉ~!なぜか誰も誘いに乗ってくれないけど!
「じゃっ!ボクはここら辺で!ステラちゃんもイッキのところに行って話し合いとかした方がいいんじゃないかなぁ~!それじゃっ!」
―――――――――と、そこまで言ってボクの意識はプツリと切れた。
次に目覚めたときは何故か保健室のベッドの上で、凄い疲労感と共に首が痛かったため「あ、これはやられたなぁ」と思ったのであった。やっぱ許してくれてなかったのね・・・・・・。