実家を出て移り変わる景色を見ながら、ふと思うことがある。
もしあのままの時間を過ごしていたらと。兄と離れて、尊敬できるあの人と離れてそれに知らんぷりをして家の方針のままに生きる。
きっとそれは、あの家からしたら正しい事なのだろう。
だけど、あたしは知ってしまった。
兄がどんな劣悪な環境でも諦めずに足掻いて努力をし、今も自身の夢のためにその手に剣を握っているという事を
あの人が兄のために陰ながら手を回し、その身に余るほどの汚名を被ってもなお、
それを知っていて見て見ぬふりを出来るほど私は器用じゃなかったのだ。
だから努力した。兄に認めてもらいたいために。あの人に頭を撫でてもらうために。
・・・・・兄はともかく、あの人はそんなことはしないだろうとわかってはいても、ついつい望んでしまう。
・・・・・あの人達が、私を見てくれますようにと。
そうしてあの騒動から一週間の時が過ぎた。あの後ステラちゃんはボクの予想通りイッキに対して勝負を挑み、それをイッキは快諾。部屋のルールを掛けていたはずの試合は何故か知らないけど「負けた方が勝った方に一生服従」という思春期男子にはたまらない条件を提示したステラちゃんがまさかの敗北を喫し、イッキの下僕と化したのであった・・・・。
えっ、待ってどうしてそうなった?????
ま、まぁイッキの性格上勝ったとはいえ「ルームメイトになってよ」という聞いたらそんなんでいいの?と問いただしたくなりそうなことで済ませたというのが本当にボクの親友らしい。べ、別に羨ましいなぁ・・・勿体ないなぁとか思ってないんだからねッ!
というお気持ち悪い心の声をスルーして、ボクが何故こうして語っているのかというと・・・・・
―――――――――――――――ボク、その現場見てないんだよねぇ、一切。
ステラちゃんに背後から奇襲・・・因果応報の一撃を食らったことで数日の間、気を失っていた。そこでちょうどよくボクの同室の子が帰ってきてくれたことで何とか部屋で休むことが出来たのだが。
せめてボクの部屋までは運んでほしかったなぁ・・・・・なんで放置しちゃったかなぁ・・・・・。
同室でもある
そして一週間たった今、ボクとイッキはボク達の中で日課になっているランニングを行っていた。
急激な加速と急速な減速を繰り返すことで、身体に負荷をかけるこのランニングは体の基礎を作り終えていたはずのボク達ですら正直言ってかなりキツイと感じた。最初期のやり始めたころなんてほんとヤバかった。いやマジでヤバかった。
ボクもイッキもあの時は「何してんだろう僕ら」と思ったことに違いない。ちなみにボクは思っていた。
だが人間、慣れという者府が存在していて半年も行っていたら息が凄い切れるぐらいになっていった。
さて、冒頭で触れたとおりイッキのルームメイトとして友好を深めているはずのステラちゃんも当然このランニングにも参加していた。だがボク達がこうしてここまでやってやり込めるようになったものにいきなり付き合おうとすればどうなるかなんて目に見えて明らかだろう。
「ごふっ、がはっ。ひゅーひゅ・・・・・・・」
ステラちゃんが初めて三日目。今日初めて走り切ったのだが・・・・・うん!もう死に体って言葉がよく似合う姿だね。一日目はボクが走っている中で隣から消えたと思って振り向いたら倒れ伏していた。
二日目はイッキがペースを合わせて走っているところで嘔吐。そして今日三日目にしてステラちゃんは凡そ二十キロの変則短距離マラソンを完走したのであった。
ボクとしては完走にはもう数日かかるかと思っていたんだけど、その類まれな魔力の才能に胡坐をかかず鍛錬を続けてきた証拠なんだろう。
「ステラちゃん、お疲れ様。三日目にして完走できたね。おめでとう。」
「お、オルさん・・・・・なんでそんなに平気な顔しているんですか・・・・・。」
「まぁ、ボクもオルもこんな生活を二、三年くらい続けてるからね。負荷を掛けてるとはいえ始めて一週間も経ってないステラさんとは、ね?」
「・・・・・・呼び捨てでいいって言ってるでしょ?いい加減慣れてちょうだい?」
「あぁ、ごめん。えっと・・・ステラ。」
イッキとステラちゃんの間に謎の信頼感というか・・・あま~い空気が流れて凄い場違い感を感じるなぁ。話し始めた瞬間に気配消しといてよかった。そうしないと完全にお邪魔虫扱いされるところだった。
・・・・・・まぁこの状況じゃどう頑張ってもお邪魔虫なんだろうけど。
「あー、良い雰囲気なところごめんね二人とも?今日はボク達も参加しないといけない行事あるんだからそろそろ準備に行きたいんだけど・・・・・・。」
「「あっ!?いやっ、別にいい雰囲気ってわけじゃっ!?」」
良きぴったりだなぁと思いながら周りを見る。桜が咲き誇り、春の風が少し強く吹くこの季節。ボクとイッキに関してはこの時期は少し感慨深いものだ。
去年の一年。イッキは過酷だといえるものだった。ボク達が入学する前には存在しなかったはずの「授業を受ける際の最低限の能力値」という明らかにイッキを意識した黒鉄家からの圧により学園の教育変更変化で授業を一切受けられなくなった。
―――――――――――――――そしてもう一つ。ボクに対しても学園側は圧力をかけてきた。
その最もたるものは「連盟による特別招集の依頼」だった。連盟所属ではないボクにとって特別招集の依頼には強制力はない。だが依頼された場所はどれも戦争が長続きしている紛争地帯だ。非難も間に合わず、難民も多く取り残されている。
・・・・・・そんな人たちを、ボクはどうしても見捨てられなかった。
強制力はないといったが、それはこちらが招集に応じれば話も変わってくる。その扱いは他の招集に参加した学生騎士と同じ扱いになり、命令系統もそちらに一時的に既得されてしまう。ボクはその招集を引き受けたことで
その間に、イッキを迫害する環境が整ってしまったんだけど・・・・・ほんと厳氏もとんでもないことをしてくれたと思ったよ。この特別招集でボク自身の能力は伸びたと感じたが、そんなものは傷つけてしまったものの大きさに比べたらまるで意味のない物に思えて仕方ない。
そうして、ボクとイッキの一年間は何のチャンスもなくただ時間だけが過ぎていった。
だけど、今年は違う。
今のイッキにはボクだけじゃない。ステラちゃんもいる。仮に
「春、春だよ。イッキ。始まったんだよ。また一年が。」
「そうだね。ようやく始業式も始まるし、ここからまたやり直していこう。」
「それに、今年は会いたい人にも会えるからねぇ、元気かなぁ珠雫ちゃん。」
ピクッとボクが女性の名前を口にしたことで明らかに過剰反応するステラちゃん。いやほんっとにわかりやすいのにどうして気づかないのかねぇ我が親友は。こんな顔を見逃しちゃうのが惜しいところだよなぁ。
ひと段落したところで《残夢》を取り出し、魔力を込め「斬魄刀」状態を維持し始める。もともと残夢の能力は「経験」の概念干渉系の能力で、「斬魄刀」や「死覇装」、「月牙天衝」といった
だから、それゆえに魔力消費がとんでもなく大きく、習得して数か月・・・・・ちょうどステラちゃんと初めて出会ったときなんて馬鹿にならない魔力消費で実戦で使えるまでにどれだけ時間がかかったことか。
「お、オルさん・・・・・?その「珠雫ちゃん」っていったい誰なの???」
「そっか、ステラは知らなかったけ?珠雫っていうのはボクの実の妹でオルのまぁ妹分みたいな子なんだよね。ボク達っていうかオルは特別招集で黒鉄本家に出頭させられてたから会ってるとは思うけど、ボクは四年前に家を出てから会ってないんだよね。」
そんなことを話しているイッキとステラちゃんにちらっと視線を送り、不思議そうに顔を傾けるイッキと目があってしまって思わず逸らしてしまう。あの可愛らしかった子がああも変わっていると知ってしまったらイッキはどんな反応をするんだろうか・・・・・・面白そうだから黙っておくことにしよう。
一度《残夢》の魔力を霧散させて再度「斬魄刀」を形成していく。それを繰り返してくたびに魔力をより効率よく最適化していく。
これでもまだまだ、全然
「(少しでも効率化を早めなきゃなぁ。
理事長が変わって黒乃さんが就いてからはこの学園は内部から急速に変化していった。その一つが先ほど思っていた「選抜戦」だ。コレのおかげでイッキは七星剣武祭のチケットを手に入れられるチャンスが与えられる。
「・・・・・・まぁ、ようやくこうしてスタートラインに立てたんだ。やれることはしっかりしないとね。」
イッキの言葉に強く頷いたステラ自身も留学を決めた理由は「ヴァーミリオン皇国では上を目指せなくなる」からであり強さを求める彼女も七星剣武祭は自身を鍛えるためには最も都合のいい場所だった。
そして、イッキとの決闘でその生い立ちを知ったからこそステラはイッキに対して想いを寄せたのだから。
そしてそんな二人の事を微笑みながらボクは見つめてしまう。彼と彼女ならお互いが
各々の戦いの日々がこうして幕を開けたのだった
「みなさーん!入学おめでとうございまーす!これから一年間一年一組のみなさんの担任をすることになりました「折木 有里」でーすっ!担任を持つのが初めての新米教師だから気軽に「ユリちゃん」って友達感覚で呼んでねぇ~!」
式が終わって戦いの日々の始まりを告げるにしては気の抜ける声が、教室に響く。
無事といっていいのか、ボクもイッキもステラちゃんも同じクラスになることが出来てホッとしたのも束の間、ユリちゃんの独走気味な軽いテンションに素を知ってるボクとイッキ以外は地味に引いちゃっている。
「・・・・・・なんか疲れる先生ね。」
「いやぁ、普段は良い先生なんだけどね・・・・・・。」
「ありゃ、テンションあがっちゃってるなぁ。相当嬉しいんだろうけど、あのままのテンションだとやばいんじゃないかなぁ・・・・・。」
「あれ?二人はあの先生のこと知ってるの?」
「うん、前にちょっとね―――――。」
ユリちゃんはイッキにとってこの学園に入ることが出来た恩人とも言える人物だ。もしも彼女以外がイッキの試験官を務めていたらその時点で何もかもが終わっていたところだったのだろう。
でもここまで元気だと本当に心配になってくるなぁ・・・・・大丈夫かな?
「今日は初日という事で授業はありませんっ!でもでも、一つだけみんなに伝えなきゃいけないことがあるの。みんな、生徒手帳を出してもらえるかな?」
言われたとおりに生徒手帳を出して電源を入れる。魔導騎士育成を掲げる学園の生徒手帳はどの学校も電子手帳となっていてその中には身分証明、携帯電話、インターネット等々様々な用途で使える万能なものでこの中にお金を入れておくことで決済もすることも出来る。
学生の身分で居る限り使えるものではあるがこれほど便利なものもない。
おかげで女の子の連絡先を聞くのにも楽だから本当に助かるんだよねぇ。スッと手帳を出して「ボクが払うよ(キリッ)」っていうのが出来るから話しかけるときもカッコつけやすいんだよなぁ。
・・・・・・まぁ、そんな上手くいったこと一度もないんだけどネ!
「えーっと、みんなさっきの理事長先生の言葉は覚えてるかな?」
始業式で黒乃さんが言った話はこうだ。
『例年、我が破軍学園は「
だが、今年からはその「能力値選抜」を廃止し、「全校生徒参加の実戦的な選抜」という方式に変化させる。
君たちの生徒手帳に選抜戦実行委員会からメールが送られ、そこに対戦日時と対戦相手が送られてくるから忘れずに確認するように。』
前年度までの破軍学園は学園の上層部によって魔導騎士のランクの高い人物を選んで七星剣武祭に参加させていた。もちろん魔導騎士の強さがそのランクの高さが全てではないのは一部の実力者は知っている。だがそんなことをしらない上層部はそうして破軍学園の連敗記録を伸ばしていったのだ。
そんな現状を打破することこそが黒乃さんが破軍の学園長に就任した最も重要な目的でもある。
「ということで、全校生徒が選抜戦で戦ってその中で成績上位の六名だけが七星剣武祭の本選に出場することが出来ますっ!だからちゃぁんとメールを確認して選抜戦に臨んでねぇ~。ちなみに、対戦時刻になっても会場に到着してなかったら不戦敗になっちゃうから気を付けてね。」
一人十試合以上することがその口から語られたことで、教室がざわつきはじめる。「遊びにいけねぇじゃん」や「めんどくせぇ」と不満が聞こえる。七星剣武祭というものは一種のお祭りのようなイベントでしかない。もともと参加意欲がない生徒たちからしたら別にどうだっていいと思われていて、イッキみたいに興味があるわけではないのだ。
「それって、棄権とか負けたりしたら何かあるんですか?」
一人の男子生徒が質問を続けた。どこか聞いたことのある声で少し驚いたが、まぁ聞き間違いだろうなぁとスルーして居眠りでもしようかなぁと顔を下げたら、イッキとステラちゃんに両脇からド突かれた。
痛いよ、二人とも・・・・・・。
「ううん。特に罰則はないよ?勝敗で成績が左右されることもね。
でも先生は皆には是非頑張ってもらいたいと思っているわ。だって誰しもが平等に一番の大舞台のチャンスが与えられてるの。それって、すごーく素晴らしいことだと思うの。だから出来ればみんな参加して「七星剣王」を目指してほしいの。その経験はきっと人生の中で耐え難い経験になると思うから。」
・・・・・本当にこの人は。どれだけ歳をとってもこの人には頭が上がりそうもない。彼女が教師としてこの破軍学園に残ってくれて本当に良かった。黒乃さんもその辺りはしっかりと理解してくれてたのだろう。さて、そんな彼女なんだけどそろそろ不味くなってきちゃったんじゃないかなぁ・・・・・・。
「よぉ~し、じゃあみんな、この一年凄~く楽しく素敵に、全力全開で頑張ろぉ~!
みんないくよ?せーの!えい、えい、おゔふぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
――――――――ユリちゃんは先生としては本当に尊敬できるんだけど、この超病弱体質とも言えるのがなければね・・・・・・。
「「「ゆ、ユリちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!?!?!?!?!?!?」」」
教室に悲鳴が響いたのは、当然のことだった。