そうして真鍋くんという生徒を始めとした彼ら五人組が
と考えていたところで向こう側の廊下が騒がしくなっているのが見えた。何故か知らないけどステラちゃんと珠雫ちゃんの魔力も感じるし間違いはないはず・・・・・うん?
「ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!何してんのキミたちぃ!?」
この場から一刻も離れたいらしい人混みの波を掻き分けながらその中心にいるであろう親友の元に急いでいく。目の前で繰り広げられようとしているのはキャットファイトなんて可愛いものじゃない、彼女たちは伐刀者下手に暴走なんてしてみたらお互いだけじゃない。周りにも当然被害が出ることは目に見えてる。
まさに龍虎相搏と言える。
だけどこんなところでやっちゃうと色々と不味いからねぇ!?二人ともぉ!?
ようやく人混みから出ていけた所で二人ともすでに
「(仕方ないかぁ。ここで多少バレても問題ないだろうし。)・・・・・衝っ。」
先ほど真鍋くんたちに構えた通りに人差し指と中指を立てた「矛の形」の指先を二人のちょうど中間地点に衝撃波を与える。今にも斬り掛かりそうになっていた二人は前方に生じた衝撃波のせいで距離を取らざるを得ない。
まぁ、これでどうにか収めて貰えばいいんだけど。
ちょうど空いた隙間にボクが入ることで、ようやく二人はボクの事を意識したようでその顔には驚愕の表情を浮かべていた。ステラちゃんはともかく、珠雫ちゃんは前に見た時と全く変わってない。短い短髪に淡い翡翠色の瞳。全体的に薄い雰囲気の儚げな、それゆえに人を強く引き付けるまさに美少女。だが同じ年齢の女性と比べても明らかに小さい。ステラちゃんの後方にはイッキと加々美ちゃんが。特に彼女の方は何が起こったか理解が追い付いてない様子だ。イッキの方はどうやらボクがやったコレを見せたことあったからそこまで困惑している様子はない。
「「っオル(兄)さんっ!?退いてっソイツ殺せないっ!」」
「おぉっと!?随分とバイオレンスだなぁ!?って殺しちゃダメでしょフツー!それにこんな大勢の居るところで
「「うっ、それは・・・・・。」」
伐刀者という存在は「魔力」という強大な力を持ち、人知を超える異能を振るうことが出来る。それらは今の世界においてはなくてはならない「兵器」としての側面を持つもので個人がそれだけの力を持つ伐刀者は魔力を持たない一般人と比べて何かを犯してしまった際も厳しく罰せられる。
どんな軽い、例えば盗難や性犯罪、暴力ですら等しく伐刀者の能力を封じ込められて世界のとある箇所に存在している監獄に入れられる。
「魔導騎士」という資格を得た伐刀者はそれ相応の責任もその身に課せられることになるのだ。
そして学生騎士というのはその魔導騎士という資格を得るための要は「仮免」みたいなもの。そんな子たちがこうして自身の能力を無造作に使うのは二人の立場的にも危ういものになる。
「確かに二人の性格的に相性が悪いのはわかるけど、どうしてこんな
「あーっいや実はねオル・・・・・。」
そこでようやく黙っていたイッキが口を開いた。どこか申し訳なさそうな居た堪れないような表情を向けてこちらを見ている。加々美ちゃんも苦笑を浮かべてるところを見ると・・・・・・これはもしかしてとんでもなくどうでもいいやつだな?
「「だってこのブス(デブ)がっ!?ってブス(デブ)ってどういう事(ですか)よ!」」
「はいはい仲いいねー二人とも。イッキ詳しく。」
「いや、えーっと・・・・・実は――――――」
そうしてイッキは先ほどまでの事の顛末を話してくれた。
あの後、教室を出た一輝たちは三人で新入生が屯している廊下を進んでいた。この学園は魔導騎士の育成を掲げていることもあり校舎もそれなりに広い。そこから別に待ち合わせもしていない連絡先も知らない相手を探すのは骨が折れる。
『んー、どこにいるんだろう?珠雫・・・・・。』
『そういえばそのシズクってどんな子なの?』
純粋な疑問だった。自身の伐刀者としての一番の師でもあるオルフェンに負けたあの日の後、そんな人が親友とまで言う人の実力に興味が沸いたステラは一輝に対しても模擬戦を申し込んだ。
―――――――結果は敗北。彼の
Fランクと聞いて油断した?そんなわけがない。模擬戦前オルフェンと一輝の対戦記録を聞いていた。
その戦績、265戦133勝130敗2引き分け。
それを聞いて驚いた。自身を圧倒し続けて常に自身の先を進んでいると信じていた師が
そんな彼ら二人の妹でもある珠雫と呼ばれる少女に興味が沸かないわけがない。
『えっ?いやオルは時々黒鉄本家に足を運んでたから知ってるらしいんだけど、僕が対面で会うのは四年ぶりなんだ。まぁだからこそ会うのが楽しみなんだけど・・・・・昔はいっつも僕やオルの後ろをトコトコついてくる可愛い子だったんだよ。』
『へぇ~、因みに先輩、その妹さん「血が繋がってない」とかのおいしい設定ってありますか?』
加々美の言葉に思わず身体を弛緩させるステラ。もしかしたら最も手ごわい恋敵なのかもしれないという焦燥感と一輝を捕られるかもしれない危機感がそうさせたのだろう。
(い、いや別にアタシはイッキの事をそんな風に思ってないし!その妹が血が繋がってないとしても別に関係ないじゃない!)
心の中で誰に聞かせるわけもない言い訳を零すステラだが、その表情には隠す気が更々ないのが見て取れる。逆にこれで意識してないとか何言ってんのこの子???とこの場にオルフェンが居ればそう感想を零すことだろう。
『いやおいしい設定って・・・別に普通の血縁関係だけど。』
『なぁんだ。ちょっと残念です。特ダネの予感だったんですけど・・・。』
『残念ってなにっ!?人の血縁関係に変なスペクタクル求めないで貰えるかなっ!?』
そうして騒いでいるとその場に視線が集まってくるのは当然のことだった。
『・・・・・やっと見つけましたお兄様。』
その声が最初に届いたのは一輝だった。聞き懐かしい声。
こちらの喧騒によって集まっていた人だかりのその一角。一輝自身を「お兄様」と呼ぶのは一人しかいない。歌いうようにこちらに向けて呟かれたその声音は、口調は、眼差しは、自身が知るよりもはるかに大人びてはいるけど、間違えるはずもない。
『・・・・・しずく。珠雫じゃないか!よかったやっと会えた!久しぶりだね元気だった?』
『ふふっ、お久しぶりです。お兄様もお元気そうで何よりです。そういえばオル兄さんはいらっしゃらないんですか?お兄様と一緒に居ると思っていたのですが・・・・・。』
『オルはいま教室の方でやることがあるらしくてね。あとで合流するって言ってたよ。』
一輝のテンションが若干可笑しくなっていた。それもそのはず。四年ぶりに会えた唯一の家族とも言える妹にようやく会えたのだから、口から出た再開の喜びは到底抑えられるものではなかったのだから。そのせいで油断してしまったのも仕方がない事だったのかもしれない。
『そうだ、みんなにも紹介するよ!えーっとこの子がさっき話してた―――――――』
そうして一輝がステラ達に向かって話そうとするのも無理やり引き戻し、珠雫が一輝の袖を引っ張り自身の方に向き直させた。
そして―――――――――――――――――――
『お兄様・・・ずっとお逢いしたかったです・・・・・。』
誰もが認識できなかった。一輝の頬に手を添えてその唇に自身の唇を重ねた。
「・・・・・・と、こういうことがあってね。」
「えーっと、要はイッキを巡っての痴話喧嘩ってこと?うっそだろおい・・・・・。」
イッキに話を聞いたボクは心底呆れ伏していた。え?マジ?そんなことでデバイスまで抜いたのこの子たち・・・?先ほどまで真面目に注意していたのが馬鹿みたいじゃないか。
ボクが話を聞いている内にもいがみ合っているステラちゃんと珠雫ちゃんはこちらのことなんてお構いなしと言いたいのか相手の身体的特徴でひたすらに悪口を言い合っている。子供か。
「「ぐぬぬぬぬぬ・・・・・・。」」
叱られていることを自覚し、冷静になった頭では確かにこれは自分たちが悪いと苦虫を噛みしめる表情を浮かべる二人だが、どうも煮え切らないご様子だ。やれやれ仕方ない。正直あんまりこの手は使いたくはなかったんだけどこの際仕方ないか。
端末を取り出してコールボタンを押す。2~3回の音と共にボクが連絡を取ろうとしていた人物が応答してくれた。
「あ、もしもし?今大丈夫?ちょっと問題が起こっちゃって・・・・・こっちに来てくれない?・・・・・うんそれに関してはもう聞いてるから大丈夫だよ。それじゃ。」
「オル?こんな時に誰に連絡してたの?」
イッキの疑問の声にボクは笑みで返す。彼女のことだから能力を使ってしまえばここにたどり着くのに時間なんてものがかかるわけない。笑みを浮かべた次の瞬間にボクの後ろに人の気配が現れた。その口に煙草を加え長い黒髪はどこか揺らめいで見えるほど呆れと頭の痛そうな表情をこちらに、より正確に言えばステラちゃんと珠雫ちゃんに向けている妙齢の女性。
「「あっ・・・・・・。」」
視線を送られて固まる二人。それを見てようやくボクの後ろに現れた人に気づき始めた周りの生徒たち。うんまぁ驚くよね。こんなところにいきなり彼女が出てきたら大騒ぎものだろう。
「いやぁ、黒乃さんお手数おかけしました。ボクだとどうにも収められそうになかったから。」
「仮にも二人とも貴様の妹分のようなものだろうが、兄貴分ならもう少ししっかりしたらどうだ?」
「あっはっはっ!冗談きついなぁ黒乃さん!ボクが兄貴分としてしっかりするとでもっ?!」
「・・・・・聞いた私が馬鹿だったよ。」
そんな会話をしているうちにも、周りはザワザワと騒ぎ立てている。突如現れたその人物は先ほど全校生徒の前で演説を行った新宮寺黒乃その人なのだから驚くのも無理はない。そして彼女が来たのが確実にさっきまではいがみ合っていた当代の首席、次席入学生に関わっているのは目に見えた明らかだ。
全員がそれを認識した瞬間にボクの事を『この野郎、驚かせやがって』という視線を一心に浴びるが気にしない方向で行こう。
「それで?この騒ぎの原因は説明してもらえるんだろうな?ヴァーミリオンと黒鉄妹?」
死神の鎌に引っ掛かった二人の顔が一斉にボクとイッキの方を見つめてくるが今の黒乃さんを止めるとなると本当に嫌な予感しかしなかった為、イッキは「ごめんね」と呟きながら手を合わせて、ボクはボクであはは~と笑いながら何もする気はしなかった。
今回に関しては完全に彼女たち二人の自業自得なのだから、少しは痛い目を見とくのもいいだろう。
「二人とも、今回は痛い目を見ておいた方がいいんじゃないかな?流石に固有霊装持ち出しての喧嘩はやりすぎだよ。」
と言ったところでボクの携帯端末が振動し始めた。こちらはひと段落したようだし電話に出る。相手はボクの同室の子の友人さんだった。内容としては彼の知り合いの様子を少し見てあげてほしいとのことだった。その知り合いというのが彼と同じ施設の子であり、同じ境遇という事もあって彼と同室の彼女自身も気にかけていたのだけど、最近は自室に籠りっぱなしで何やら動画を見続けているらしい。
多少異性慣れをしていて、同年齢でもあるボクに対して頼むのは問題なのでは・・・・・?と考えていた彼女がじれったくなったらしく彼の方から連絡をして来たらしい。
「まぁ、そういう事ならボクにお任せかな。その人の部屋番号って聞いてもいい?泡沫くん。」
『うん?いいけどいきなり部屋に行くのかい?大胆だなぁオルフェンくんは♪』
「早めに解決したいだけだよ。それに引きこもりなら直接こっちが出向いた方がいいんじゃないかな?お相手の子は女の子なんだし、こっちも慎重に事に及ぶから」
『あははっそれ、日本語おかしいからね?その言い方だと卑猥な事するにしか聞こえないよ?』
冗談冗談と呟き、知り合いの彼女の件を了承する。こういう事を依頼されることはボク自身度々あってボクの良くない(自業自得な)噂を聞いた他の学生に有無を言わせない為に教師や生徒会などの委員会の手伝いを黒乃さんに命じられている。
こういうボランティアをしておかないと黒乃さんもボクの事を処分する方向で動くしかなくなっちゃうからこその苦肉の策としての使いッ走り。学園の「雑用係」というのがボクの役割になっていた。