映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!オラと世界の歌姫   作:新参者の海兵

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投稿が遅くなってすいません!FILM REDが公開終了する前に投稿したかったのですが、遅筆なので見事に間に合いませんでした。しかも思ったより量が多くなったので、本来の予定の半分くらいしか書けませんでした
基本執筆速度が低いので、今後も月に一回か二回更新するのが手一杯になると思います

ちなみにFILM REDは最終日の奴を見ようとしたのですが、例の大寒波のせいで道路封鎖されたせいで映画館に行けませんでした……
所詮俺は近くに映画館が無く、雪が降ればどこにも出かけられない田舎者の敗北者じゃけぇ…………

それではどうぞ


第一話 世界の歌姫と出会ったゾ

偉大なる航路のとある海域に一つの島があった

 この島は“エレジア”と呼ばれておりかつては音楽の都として栄えており優秀な歌い手が多数在籍していた

 しかし今から十二年前にとある惨劇が起きた事でエレジアは一夜にして壊滅し、二名の生存者を残してその他の住民は全滅してしまった

 

そんなエレジアにあるボロボロな城の中でつぎはぎが残る突き出た頭をし、サングラスとヘッドホンをした男が歩いていた

 彼の名はゴードンと言いエレジア壊滅時に生き残った生存者の片割れであり、エレジアが壊滅する前は国王であった人物である

 

そんな彼は何か悩んだような表情をするものの意を決して目の前の部屋をノックした。すると部屋の中から「何か用?」と返事が聞こえたのでゴードンは扉を開けた

 部屋の中に入るとそこには紅白の髪を真ん中で分けた乙姫ヘアーの少女が立っていた

 

「失礼するよ“ウタ”。少し話を聞いてほしいのだが」

 

「何ゴードン?私これからやらなきゃいけないことがあるんだけど?」

 

そう言うとウタと呼ばれた少女は不機嫌な様子を見せていた

 彼女がエレジア壊滅時に生き残ったもう一人の生存者であり、現在は“特殊な電伝虫”を利用した配信で歌手活動を行なっておりそこで“世界の歌姫”や“プリンセスUTA”と呼ばれていた歌手である

 

「時間を取らせてしまいすまない。君が“初のライブステージ”を行うために色々と準備を進めているのも知っているよ」

 

「だったら今忙しいのも分かるでしょ?ライブのパフォーマンスを考えたり衣装や会場の準備だってしなくちゃいけないんだから、あまり時間を無駄にしたくないの」

 

ウタは苛ついた声でそう言い放つとゴードンを追い払おうとしていた

 

「待ってくれウタ!話というのはそのライブに関する事なんだ。ウタ、ライブの宣伝を兼ねてある場所でサプライズライブを行ってみないかい?」

 

ゴードンの言葉にウタは驚くものの少し考えた後反論を始めた

 

「なんで今更そんな事しないといけないの?ライブの準備をしなくちゃいけないのにそんな事で時間を取りたくないの!」

 

「君の言うこともよく分かる。だが今回の事はライブの宣伝だけが目的じゃないんだ!そのとある場所にいる私の友人達に協力を要請しに行くのが一番の目的だ!!」

 

ゴードンの言葉に驚きながらウタは複雑な表情をしながら問いかけた

 

「……ゴードンって他の島に友達が居たんだ?」

 

「彼らとは私が国王だった時からの友人でね。正確には彼らはその島とは別の島の住民だったのだが、一人は例の島に移り住んで、もう一人も一時期はその島に住んだ後にまた別の島に行ってしまったがね」

 

「それで、どうしてその人達の力を借りなくちゃいけないの?そんな人達の力を借りなくたって、私だけでも上手くやっていけるよ!」

 

「ウタ、確かに君の才能は素晴らしい。君一人だけでも、一ヶ月後もあればライブの準備くらいはできるかもしれない。だが一人でやるにも限度というものがあるだろ?君一人だけで、私を入れたとしてもこの大量の瓦礫の処理は難しいだろう」

 

「そ、それは……」

 

「私の友人の一人はとある財閥を持つ一族の一人でね。彼の力を借りれば人の手を借りられるから、瓦礫の処理やステージ設営等を手伝ってくれるはずだ」

 

ゴードンの言う事にも一理あると感じたのかウタは渋々納得しながらもう一つの疑問を聞いた

 

「それでもう一人友達がいるって言ってたけど、その人には何をお願いするつもりなの?」

 

「彼は研究者で“夢”についての研究を行っているんだ。ウタ、君はライブのパフォーマンスで“ウタワールド”を使うつもりなんだろう?彼の研究分野ならウタワールドに関するアドバイスを貰えるはずだ」

 

「そう。…………分かったよ。今回はゴードンの言う事を聞いておくよ。私も初めてのライブを絶対に成功させたいしね!」

 

ウタが完全に納得するとふと新たに疑問が湧いてきた。肝心のサプライズライブを行う場所を聞いていなかったのだ

 

「ところでゴードン。サプライズライブやゴードンの友達達に会うのってどこの島でやるつもりなの?」

 

「おお、すまない。私としたことが場所を伝え忘れてたよ。その島はカスカベ島と言って少し特殊な場所でね。明日エレジアにやって来る商船の船長がカスカベ島まで連れて行ってくれる手筈になっている。私はこれから友人達と連絡をしたりサプライズライブの打ち合わせをしておくから、ウタも明日の準備をしてもらえるかな?」

 

「カスカベ島……聞いたことのない名前だ。どういうところかは明日見てみればいいか。じゃあ打ち合わせはゴードンに任せるから私は明日の準備をしておくね」

 

ウタが明日の準備をし始めたのを見たゴードンはそのまま部屋を出ていき、ウタのいる部屋から遠く離れた場所まで歩き自身の持ってる電伝虫を作動させ友人の一人と連絡を取った

 

プルプルプル プルプルプル

 

「誰かと思ったらゴードンか。用件は例の事か?」

 

「突然すまない。先日話した件なのだがウタからの了承を得ることができたよ。予定通り明日カスカベ島に向けて出航する事になった」

 

「そうか……。しかし何故急にサプライズライブを開こうと思ったんだ?わざわざそんな事しなくても、こうして私に直接連絡してくれれば協力は惜しまなかったぞ」

 

「君と()()の協力を頼むのも目的の一つだが、もう一つの目的としてウタに外の世界の事を知ってもらいたかったんだ。君や夢彦もカスカベ島はいい島だと言っていただろ?」

 

「そうだな。私も娘の頼みがきっかけで、カスカベ島を訪れそして永住する事になったが、少し苦労はするがここはとてもいい場所だと思ってるよ」

 

「だからこそウタにもカスカベ島の住民達と交流して、そこから外の世界について色々と知ってもらおうと思うんだ」

 

「そうか。しかしゴードン、君がウタ君と暮らし始めたのはもう十年以上前だろ?それなら、もっと早くから外の世界に連れ出すだったのではないかね?」

 

「……君の言う通りだな。昔はそんな事を考える余裕が無くて、そのせいで色々な事を引きずってしまった。私がもっと早く勇気を出して、早い段階から外の世界に触れさせるべきだったんだ!そうすれば今頃…………」

 

ゴードンの落ち込んだ声を聞いた友人は、彼とウタの間に何かが起きた事を瞬時に悟った

 しかしそれを今掘り返しても無駄だろうと考えた彼は、ゴードンに直接会った時に改めてその辺りの事情を聞いておこうと決意した

 すると彼は頭の中に浮かんだ疑問をゴードンに聞いた

 

「今更だがウタ君をカスカベ島に連れて行って大丈夫なのかね?彼女は海賊嫌いで有名だから、かつて白ひげのナワバリだったここへ連れて行くのは問題があるとしか思えないのだが……」

 

ウタは世界の歌姫として有名であるが、同時に大の海賊嫌いである事でも有名である。そのため彼女のファンには海賊の被害に遭い、海賊嫌いになった層が多くを占めている

 だからこそ、かつて白ひげのナワバリであったカスカベ島に連れて行くのは危険ではないか、と考えるのは当然の事であった

 

「ああ分かっている。そこで無茶な頼みとは思ってるのだが、君の家の力でカスカベ島の代表と話をさせてもらえないだろうか?カスカベ島の代表に事情を聞いてもらって、カスカベ島が元々白ひげのナワバリだった事を内密にしてもらえるように説得したいんだ。それに元々ライブの打ち合わせもしたかったからね」

 

「確かに父を通じれば、カスカベ島の市長に話を通してもらえるかもしれないな。分かったよ。父には私から説明しておくから、市長への説得は君がしっかり果たせよゴードン」

 

問題解決の糸口を見つけてホッとしたゴードンは、その後カスカベ島にやって来た後の行動について尋ねた

 

「迷惑をかけてばかりですまないな。それで当日は私達はどうすればいいんだ?」

 

「当日までにクレヨン海域の別の島にいる夢彦を迎えに行くから、それが済み次第私もカスカベ島に帰る予定だ。だからカスカベ港で待ち合わせをしよう。カスカベ港に着きそうになったら電伝虫で連絡を入れるから、それまでは好きにカスカベ島を観光するとよい」

 

「そうか分かった。何から何まですまないな()()()

 

「まずはこれから父に話をして、カスカベ島の市長と話をしてもらえるように頼んでおくよ。準備ができたらまた連絡するよ」

 

「ありがとう酢乙女。娘の“あいちゃん”にもよろしく伝えておいてくれ」

 

プツ

 

酢乙女との連絡を終えたゴードンは、これからの事に頭を悩ませながら、明日の準備を進めるのであった

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 

カスカベ島の公園でしんのすけらいつもの五人は、ベンチの前で風間を司会としたある会議を行なっていた

 

「これより“かすかべ防衛隊”の会議を行う」

 

「今日の会議は何をするつもりなの?」

 

「松坂先生は安月給なのに、どうしてブランド品をたくさん購入できるかについて議論するゾ」

 

「そんなもの議論するつもりはないぞ!!だいたい、そういうのに興味あるのはしんのすけくらいだろ!!」

 

「今日もなかなか会議始まらないね」

 

「ボー。いつも通りのこと」

 

かすかべ防衛隊とは、しんのすけら五人で結成されたカスカベ島の愛と平和を守る事を目的とした防衛組織である

 だが普段はあまり大した活動は行なっておらず、いつもは彼らの担任である吉永(現在は石坂)みどりの家を勝手に本拠地にしてそれっぽい会議をしたりする有様であった

 そんな彼らは、現在カスカベ島を守るための会議を行なってるはずなのだが、なかなか議題が決まらず話は平行線を辿っていた

 

「こんなんじゃ、いつまで経っても話が進まないじゃないか!僕達かすかべ防衛隊の使命はカスカベ島の愛と平和を守ることなんだから、カスカベ島全体に関わる話をするべきだよ!」

 

「カスカベ島に関する事なら、今朝市長が言っていた“箝口令”に関する事について話し合いましょうよ」

 

「かんこーれー?おお!色々な島を遊び回ればいいってこと?」

 

「それは観光の方だろ!第一、この大海賊時代にそんな事おいそれとできないだろ!!市長が言っていたのは箝口令!ある出来事や事柄に関する事を話してはいけないと禁止する命令のことだよ」

 

「で、でもネネちゃん。箝口令に関する事を話して平気なの?僕達捕まったりしないかな?」

 

「市長が言っていたことを喋らなければ、箝口令に関する事自体は話してても別に問題はないでしょ?」

 

「流石ネネちゃん。ずる賢い」

 

「流石ネネちゃん。こう言う時は頭回りますな」

 

「何か言った二人とも?」

 

突然ネネの放ったプレッシャーを前に、しんのすけとボーちゃんは慌てて首を左右に振らして否定するのであった

 

実はカスカベ島では、今朝この島の代表である市長によって、ある箝口令が敷かれていたのである。この箝口令は電伝虫を通じた放送によって島中に伝わり、住民達は疑問に思ったものの、市長の必死な様子が伝わったのか皆箝口令を律儀に守っているのであった

 ちなみに箝口令の内容は主に二つである

 

・カスカベ島がかつて白ひげのナワバリであった事実を言ってはいけない

・白ひげ及び白ひげ海賊団との関わりや、彼らに関する事を一切表に出してはならない

 

「でも今更あの事を隠せなんてどう言う事なんだろう?」

 

「偉大なる航路からやって来る海賊達や、クレヨン海域付近の他の島の人達にとっては既に周知の事実でしょ?なのになんで今更箝口令なんか出すのよ!!」

 

「ヒッ!!?分かんないよネネちゃん!」

 

「ボー……。普通に考えるなら、どこか遠くからそう言うのが嫌いな人がやって来るからだと思う」

 

「でもそうだとしても、その人はとっくにカスカベ島とあの事の繋がりを知ってるんじゃないのかな?」

 

「おー。案外その人が、何も知らない世間知らずだったりして」

 

「僕からしたら、お前の方がよっぽど世間知らずだと思うけどな」

 

「いやー、それほどでも〜」

 

「褒めてない!!!」

 

しんのすけと風間がいつものやり取りをしてると、ふとしんのすけはある解決策を思いついた

 

「そうだ!かすかべ防衛隊の臨時隊員の“あいちゃん”に聞いてみればいいゾ!」

 

あいちゃんとは五人の同級生である酢乙女あいの事であり、彼女はかすかべ防衛隊の臨時隊員の一人である。彼女はクレヨン海域の別の島からこのカスカベ島にやって来た移住者で、生粋のお嬢様なのだ

 彼女の力を借りれば、市長が箝口令を出した理由が分かると意気込むも、他のメンバーは浮かない顔をしていた

 

「しんちゃん、朝に幼稚園で吉永先生が言ってたでしょ?あいちゃんは家の都合で数日間カスカベ島を離れるって」

 

「おっ、そうだった!こってりしてたゾ」

 

「それを言うならうっかり」

 

「おお、そうとも言う〜」

 

「しっかりしろよしんのすけ。全く、お前ってほんとに人の話を聞かないな」

 

四人が会話を続けてる横で、ネネは全身を震わせながら怒気を漂わせていた

 

「せっかく珍しく役に立つと思ったのに、肝心な時にいないなんて、あいの奴ムカつくーー!!」

 

「ね、ネネちゃん落ち着いて」

 

「そうだよ。怒ってもしょうがないじゃない」

 

「あんた達は黙ってなさい!!!」

 

「「は、はい!!」

 

ネネのあまりの気迫に、風間とマサオは思わず尻込みをした

 そんな二人を横目にしんのすけとボーはやれやれと言った感じに首を振っていた

 

「やれやれ。ネネちゃんには困りましたな」

 

「ボー。仕方ない」

 

「あんた達、何か失礼な事考えてない?」

 

急に自分達に怒りの矛先が移り、しんのすけとボーは慌てて首を横に振るしかなかった

 風間とマサオはネネの怒りを鎮めようとするも、いいアイディアが重い浮かず途方に暮れていた

 するとマサオは何かを思い出し、ポケットの中からあるものを取り出した

 

「そうだ皆んな、ボクお小遣いを貯めていいものを買ったんだ!」

 

「いきなり何?自慢話がしたかったら、もっと空気読めおにぎり頭!!」

 

「ヒーー!!?ち、違うよ!このままじゃいつまで経っても会議ができないから、場の雰囲気を変えようと思っただけだよ!!ほら、楽曲入りの音貝(トーンダイアル)を買ったから、この曲を聞いて皆んな落ち着こうよ」

 

「……まあ、そこまで言うなら聞いてあげるわよ」

 

「ほっほーい。何が流れるか楽しみだゾ」

 

「音貝か。どんな曲が入ってるんだろう?」

 

「ボー。楽しみ」

 

周りの反応を見てマサオが安堵すると、音貝を起動させて中から女性の歌声が聞こえてきた

 

『新時代はこの未来だ 世界中全部 変えてしまえば〜 変えてしまえば〜〜』

 

「この声って、もしかしてプリンセスUTA!!?」

 

「ブタ?ぶりぶりざえもんの話でもしてるの?」

 

「ブタじゃなくてUTAって言ってるだろ!!ってしんのすけ、お前世界の歌姫の事も知らないなんてどうかしてるんじゃないか?」

 

「プリンセスUTAは、世界中で有名な歌姫の一人。特殊な映像電伝虫による配信で有名」

 

「ボーちゃんの言う通りだよ。ボク必死にお小遣い貯めて、やっと買うことができたんだ!」

 

歌姫UTAの曲を聞いた五人は、その高い歌唱力の前に聴き入ってしまい、お陰でネネはすっかり機嫌を戻したのであった

 

「やっぱりUTAの曲はいいわー。私、一度くらい本物のUTAに会ってみたいわ!」

 

「ボー。それは難しい」

 

「何よボーちゃん!少しくらい夢を見たって構わないでしょ!!せっかくいい気分になれたのに!!」

 

「ネネちゃんも知ってるだろ?UTAが大の海賊嫌いだって話。だから僕達がUTAに会いに行ったり、逆にUTAの方がカスカベ島にやって来るのは正直厳しいと思うよ」

 

「ボクもUTAの配信を見る時は、こちらからは映像や音声が届かないようにわざわざ設定してるからね。正直UTAに会うのはほとんど無理だと思うけど」

 

「そんな〜……」

 

ネネが落ち込んでる横で、しんのすけはUTAの曲を聞きながら、腕を組みつつ何かを考えていた

 

「おっ!もしかしてこのUTAという人が来るから、箝口令を出したんじゃない?」

 

「えっ!?どう言う事しんちゃん?」

 

「UTAって人は海賊が大嫌いなんでしょ?だから箝口令を出す事で、カスカベ島にやって来ても大丈夫なようにしたんじゃないの?」

 

「もしその推測が本当なら、プリンセスUTAに会えるかもしれないのね!!」

 

「ボー。可能性としては十分あり得る」

 

しんのすけの立てた推測に皆んなが喜ぶ中、風間だけは苦い顔をしながらその意見を批判した

 

「それはないんじゃないかな?確かにUTAはウタ日記の中でも、少し天然な発言をしたり世間知らずな感じは出していたけど、いくらなんでもカスカベ島の事を知らないなんて事は無いと思うな」

 

風間の言った意見を聞いて皆んな落胆する中、しんのすけだけは怪訝な表情を風間に向けていた

 

「な、なんだよしんのすけその目は」

 

「風間君UTAの事に詳しいけど、もしかしてUTAのファンなの?」

 

「(ギクっ!?)な、ななな、何言ってんだよしんのすけ。UTAは世界中で人気な有名人なんだから、僕が知っているのも当然だろ」

 

「そう言えば風間君、ウタ日記の事を話してたわよね」

 

「ウタ日記はUTAの配信の中でやってる事だから、それを知ってるって事は普段からUTAの配信を聴いてるって事なのかな?」

 

「ボー。ファンの鑑」

 

「や、やだなー皆んな。偶然電伝虫を使ってたら、たまたまUTAの配信をやっていて、そこでウタ日記を見てたから知ってるだけだよ」

 

風間は早口でそう言いながら、ファンである事を否定した。彼は歌姫にうつつを抜かすような人間ではないのだ

 

嘘である

 

風間はUTAの隠れ大ファンで、UTAの配信は欠かさず見ており、小遣いを集めてUTAの曲入りの音貝を全て集めている程であった

 風間はこれ以上UTAの話を続けてボロが出るのを恐れ、慌てて話題を変えるのであった

 

「そ、それよりもさ、箝口令についてもう少し考えないと」

 

「風間君、急に話題を変えてなんか怪しいゾ」

 

「あ、あははは、何言ってんだよしんのすけ。別におかしくはないさ」

 

しんのすけや他三人の痛い視線を受けながらも、風間はなんとか話題を変える事に成功したのであった

 その後会議を続けるも、結局纏まった意見は出ずそのまま解散することとなった

 彼らが箝口令が敷かれた本当の理由に気づくのは、それから数日経った頃であった

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 

その日カスカベ港に一隻の商船が辿り着いた

 この商船は、いつもカスカベ島に食料や様々な生活用品を運んでいるのだが、今回は荷物と共に黒いローブで身を隠した男とフード付きのスカジャンで顔を隠してる女の二人組がカスカベ港に降り立ったのであった

 ローブの男が商船の船長に向かって挨拶をした

 

「船長、今日まで世話になったな。ここまで連れて来てくれてありがとう」

 

「お安い御用だ。カスカベ島は意外と危ないから、あんた達も気をつけなよ!」

 

船長がそう言うと、荷物を運び終えた商船は偉大なる航路の別の島に向けて出航していくのであった

 二人は商船を見送ると、スカジャンの女は周りの光景を見て目に焼き付けていた

 

「ここがカスカベ島……。思ったよりは発展してるところなんだね。ゴードン、まずはどこへ行こうか?」

 

「そうだな、まずはこの近辺にある店を見て回ろうか。それとゴードンと呼んではいけないよ、今の私はエドワードだ。これからは気をつけるんだよウt、失礼アド」

 

この二人の正体は、エレジアからカスカベ島までやって来たゴードンとウタであった

 二人は顔と名前が知られているため、今回のサプライズライブが始まるまで顔と身分を隠しているのであった。現在ゴードンはエドワード、ウタはアドという偽名を名乗っている

 ウタは「ごめん」と言って軽く謝罪した後、ゴードンと共に付近の店を見て回っていた。すると八百屋をやってる男性に二人は声をかけられた

 

「らっしゃい!らっしゃい!そこのお二人さんは旅の方かい?ウチの野菜はどれも新鮮だよー!買った!!買った!!」

 

「本当だ!どの野菜も新鮮で美味しそう」

 

「うむ、せっかくだし買っておこうか。後で友人の家に行った時に、この野菜を使って料理を作ろう」

 

二人はベリーを支払って野菜を購入していると、店の奥から八百屋の主人の奥さんが現れた

 奥さんは二人の事をジッと見ながら不思議そうな顔をしていた

 

「あんた達旅の人かい?それにしてもローブやフードで顔を隠して、何かやましい事でもあるのかい?」

 

「これは失礼した。私の顔は不審者に間違われやすい上、昔旅の途中で傷がついてそれを隠すためにローブを着てるんだ。それとこの子は人見知りでね、あまり人に顔を見せたくないんだ」

 

「それは悪いことを聞いたね。機嫌を悪くしちゃったかね?」

 

「いえ、大丈夫です!私達のことを心配してくれてありがとうございます」

 

「あんたらいつまでいるのか分からないけど、もしまだカスカベ島に残るんなら、またウチで野菜を買っててくれよ!!」

 

八百屋の夫婦に見送られた二人は、その後も他の店を回り続け、時々色々な商品を購入していた

 気づけばかなりの大荷物になり、ウタもゴードンも荷物を抱え込みながら土手を歩いていた

 

「流石に少し買いすぎたかも。ごめんゴーd、エドワード」

 

「そんなに気にしないでくれ。今までずっとエレジアに居た君にとっては、何もかもが新鮮なものに見えるからね。これくらいはお安い御用さ」

 

「ずっと荷物を持っていて疲れたでしょ?あの河原の辺りで一回休もう」

 

二人は河原の側まで行くと、荷物を下ろして座り込んだ

 するとウタはふとある事を思い出した

 

「そう言えば、なかなかエドワードの友達から連絡が来ないね。そろそろ来てもおかしくないんだけどな」

 

「確かに、ここまで連絡が来ないのはおかしいな。何かトラブルでも起こったのだろうか?」

 

なかなか連絡が来ないことを不審に思ったゴードンは、一旦カスカベ港まで戻って様子を見て行こうかと考える。しかしウタを一人で置いていくことを危惧し、なかなか行動に移すことができなくなっていた

 するとそれを察したのか、ウタはゴードンを促した

 

「エドワード、心配なら様子を見に行ってもいいんだよ?荷物は私が見ておいておくから」

 

「しかし、君を一人にしておくのは……」

 

「大丈夫、もし何かあったら“ウタウタ”の能力でどうとでもできるから、気にせずに行きなよ」

 

「すまない……。できるだけすぐに戻るから、無茶はしないでくれ」

 

そう言うとゴードンはカスカベ港に向けて走り出した

 ウタは荷物を見ながら河原の光景をジッと見つめていた

 

「(平和な光景。こうしていると、“フーシャ村”で過ごした日々の事を思い出すな……)」

 

思い出すのは、子供の頃一年間過ごしたフーシャ村での日々だった。かつて家族だった者達、フーシャ村の優しい人達、そしてあの村で出会った年下の大切な幼馴染み、彼らとの思い出を噛み締めながら、ウタはある歌を歌おうとしていた

 

「(今ならあの歌を歌えるかも……)」

 

そしてウタは歌を口ずさむのだった

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 

その日しんのすけは幼稚園から帰った後、みさえに頼まれて渋々ながらシロの散歩を行っていた

 

「オラの母ちゃんケツでかい〜。父ちゃん足臭い〜♪」

 

自身の両親の駄目なところを歌のように口ずさみながら歩いていると、ふと河原の方から何か聞こえてきた。気になったしんのすけがシロと共に河原の方へ行くと、フード付きのジャケットで顔を隠した女性が歌を口ずさんでいた

 

「この風〜は どこから〜きたのと 問いかけても 空は何も言わない」

 

女性の歌を聞いたしんのすけは、シロと一緒にその場に立ち竦んでしまった

 やがて女性の歌ってる歌がサビに入ろうとした瞬間、急に女性は歌うのをやめてしまった。それを見たしんのすけは不満な顔をしながら女性に話しかけた

 

「んもー、おねいさん!なんで歌うのやめちゃったの!?せっかくいいところだったのに、途中でやめてつまんないゾ!」

 

「!!?いつの間に人が来てたの!!?ごめんね。あの歌は私が昔歌っていた歌で、色々あってもう歌わなくなってたの。今ならまた歌えるんじゃないかと思ったけど、やっぱりまだ歌えないからもうあの続きは聞けないの」

 

「え〜。せっかくのいい曲だから、最後まで聞いてみたかったゾ」

 

しんのすけはそう言うと、ふと先程までの歌声に奇妙な既視感を覚え始めた

 

「(そう言えば、あの歌声最近どこかで聞いたことがあるような。うーん……)」

 

しんのすけが記憶を振り返っていると、ふと二日前にマサオが聞かせた音貝の事を思い出した

 

「そうだ、思い出したゾ!!さっきの歌声、マサオ君が聞かせたプリンセスBUTAの歌声にそっくりだったゾ!!ひょっとしておねいさんがプリンセスBUTA?」

 

「プリンセスBUTAって何よ!!プリンセスUTAよ!世界の歌姫と言われたプリンセスUTAは私の事だよ!!!」

 

女性ことウタは自分の名前を間違えられたことで、思わず大声で自分がプリンセスUTAであると叫んでしまう。その事に気づいたウタはハッとするも、すでに手遅れであった

 

「やっぱりおねいさんがあの世界の歌姫だったのかー。こんなところで何してんの?」

 

「そ、その事なんだけど、私サプライズでここに来たから、できれば私がプリンセスUTAだって事は皆んなに内緒にしてくれないかな?幸いここには君とそのワンちゃん以外誰も居ないし、君が黙ってくれればなんとかなるから」

 

ウタにそう言われるとしんのすけは「ほーい」と返事を返した

 しかしウタは完全に安心できなかったのか、しんのすけに一つテストをした

 

「じゃあ一つテストするね。君はお家に帰った後、両親になんて言うかな?」

 

「河原で散歩をしてたら、プリンセスUTAのおねいさんに出会ったゾ!」

 

しんのすけの返答を聞いたウタは思わず顔をガックリとさせ、その後しんのすけに向かって怒り始めた

 

「全然分かってないじゃない!!他の人には言わないでって頼んだじゃん!!」

 

「んもー、軽いジョークだったのに、そんなにカリカリしないでよ。それとさっきから君としか言ってないけど、ちゃんと名前で呼んでよ」

 

「だって私、まだ君の名前聞いてないよ」

 

「おー、こってりしてたゾ。オラ野原しんのすけ!カスカベ島に住む五歳児だゾ。こっちはペットのシロ。好きなタイプは大人の綺麗なお・ね・い・さ・ん。フードで見えにくいけど、よく見るとウタおねいさんも綺麗だゾ。どう?この後オラと一緒にカスカベの夜景でも見ない?」

 

「アンアン!アン!」

 

「しんちゃんって言うんだね。それとカスカベの夜景を見るのは遠慮しようかな。この後連れと一緒に連れの友人の家に行かなきゃだから」

 

ウタがしんのすけのナンパをなんとか躱していると、遠くからこちらに戻ってきたゴードンを見つけた

 

「アド!遅くなってすまない。……ところでそこの少年は誰なんだい?」

 

「オラ野原しんのすけ!おじさんがウタおねいさんが言ってた連れの人なの?」

 

「なっ!!?なぜ君がウタの事を知っているんだ!!?」

 

「ごめんゴードン!しんちゃんに私の事バレちゃったの。でも幸いしんちゃん以外の人にはバレてないから、そこは安心して」

 

ゴードンはウタの存在がバレた事に頭を抱えてしまった。その直後ゴードンは本来の目的を思い出し、ウタに再度話しかけた

 

「そうだった!先程の件は後で話そう。それより、大変だウタ!!私の友人が急に来られなくなったんだ」

 

「えっ!?どう言う事!!?」

 

その後ゴードンは今まで起きた事を順番に話した

 あの後ゴードンはカスカベ港に様子を見に行ったものの、残念な事にまだ友人の酢乙女は帰ってなかったのであった。途方に暮れていると、ゴードンの持っていた電伝虫に連絡が入ったのであった

 

プルプルプル プルプルプル

 

『ゴードン急ですまない』

 

『酢乙女!今までどうしたんだ?私の方は先にカスカベ島に着いて、観光を楽しませてもらったよ。なかなか来ないから心配していたが、君の方は大丈夫なのかい?』

 

『その事なんだが、すまない!今日のところは私達はカスカベ島に帰れないんだ』

 

『なっ!!?どう言う事なんだ!?』

 

その後酢乙女は事情を説明した

 本来の予定通り、クレヨン海域の別の島にいる夢彦と彼の()を無事に迎えに来て、後はカスカベ島に帰るだけになっていた

 しかしここで酢乙女グループの乗っていた船が突然故障し、彼らはカスカベ島に帰る事ができなくなったのだ

 

『船の修理には少し時間がかかる。だからすまないが、今後泊まるところは君の方でなんとかしてほしい。私もすぐに戻れるよう尽力するよ』

 

『それは災難だったな……。分かった、こちらの事はこちらでなんとかする。君も気をつけてくれ』

 

『せっかく私を頼ってくれたのに、力になれずすまなかった。そちらも頑張ってくれたまえ』

 

プツ

 

こうして酢乙女と連絡を終えたゴードンは、急いでウタが待っている河原へと戻っていったのであった

 

「これが今まであった出来事だ。そう言うわけだから、これからなんとか私達が泊まれるところを見つけなければいけない」

 

「そんなことが。ゴードンの友達も災難だったね。でもどうしようか……」

 

二人が今後の事に頭を悩ませていると、傍で話を聞き続けていたしんのすけがある提案をした

 

「二人とも泊まるところがないの?だったらオラん家に来れば?」

 

「いいのしんちゃん!!?でも、勝手に行って大丈夫なの?」

 

「流石に父ちゃんと母ちゃんから許可をもらわないとだけど、二人とも困ってるみたいだしオラからもなんとか頼んでみるゾ」

 

「すまないしんのすけ君!本当にありがとう」

 

「そうと決まれば早速、出発進行ーー!!ナスのおしんこ〜〜!!」

 

「アンアン!」

 

しんのすけがそう言うとシロと共に自宅に向けて走り出し、ゴードンとウタの二人も慌ててしんのすけの後を追いかけて行った

 

嵐を呼ぶ五歳児の野原しんのすけと世界の歌姫ウタの出会い────この出会いが本来起こるはずだった悲しい運命を変える大きな一歩となるのだが、その事を知る者は誰もいないのであった

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