天蓋の下で
尸魂界での激戦の最中に起こった謎の現象で虚圏にいた僕。周りには多分同じような境遇で漂着したであろう三人の滅却師の三人のロバート・アキュトロン、バズビー、バンビエッタ・バスターバインが倒れている。
状況を整理してみたけど·········やっぱ何これ。滅却師が巻き込まれたってことは聖十字騎士団のせいじゃないんだろうけど、だったら誰が?
藍染の勢力はまだ崩玉の位置を把握してるとは思えないから死神がいる中で仕掛けられる段階な訳ない········
あと周りはどうなってるんだ? 大きな霊圧がぶつかり合い過ぎて識別出来ない········戦ってるのか? 皆は········
「何だ、お前でさえ心当たりが無いのか」
「────その声は!」
斜め上の方からから僕に喋りかけるのはベレニケ・ガブリエリ。瞬時に臨戦態勢に入りつつ問う。
「何でいるの? というかお前でさえって何」
それを聞いた途端に元々あった薄い笑みを更に深める。勿体ぶるようにゆっくりと口を開いて短く告げる。
「未来の知識」
「··············え?」
あり得ない言葉が聞こえた。
聞き間違い? いや、なら何を聞き間違えた?
「何でいるのかと聞かれれば分からないと答えるしかないけど、近くにいたからという予測は立てている」
頭が真っ白になりかけてガブリエリの喋りが頭に入ってこない。
「何で、知って·····」
「その返答は良くないな、この言葉が正解だと言っているようなものだと思うけどね?」
「ッ!」
その言葉にハッとさせられながらその上で真相が気になった。
「露骨な反応だね、知っていたとはいえ腹芸が苦手にも程がある。僕は確信を持って言葉にしたから意味がなかったけど次からは気を付けた方が良い」
「だから何で知ってるんだよ!」
「ああ·····話していなかったねそういえば、僕の眼はね音が見える」
「音が········見える·······?」
何だそれ、ローズさんみたいな感性の話? それともまさか······
「ああ、まさかの後者さ。物理的に音が見えている」
え········今、声に出てた······?
「微弱な音も研ぎ澄ませば拾い上げられる。聖文字による才能の強制開花に引っ張られてか昔より強力になってね、脳内に響く音から何を考えているか分かる。お前の思考は筒抜けさ」
影からの監視をガブリエリが一度でも担当したことがあったならこれまでの殆どが筒抜けだったってことになるのか········?
「そこは安心して良い。誰にも言ってないからね」
「痛った········どこよここ」
後ろから女性の声が聞こえる。4人いる聖十字騎士団で該当するのはバンビエッタ・バスターバイン。
「虚夜宮だね」
「げ········」
僕との会話を区切ってバスターバインに声をかけるガブリエリ、彼女はその声を聞いた途端に嫌そうに顔を歪めて反応する。
「この事象に心当たりあるかい?」
慣れているのか気にした様子もなく更に言葉を投げ掛ける。
「ってあんたは!」
そんなガブリエリを無視して後ろにいた僕に反応する。
「さっきぶりだね爆裂滅却師」
起きたのか·········ガブリエリを問い詰めたいけど聖十字騎士団と戦えばそれどころじゃなくなる。どうすれば切り抜けられる?
「これ、あんたがやったの?」
「いや違う、そうだったら態々お前たちの前に出てこないから」
「それもそーね」
「じゃあ、あんたを殺してワンちゃん探しに行こーっと」
「!」
素立ちの姿から放たれた神速の斬撃、体をなんとか反射させて光の操作で隠していた刀を出現させ打ち合わせる。
「どこから出したのよそれ」
「企業秘密······あと僕達戦ってる場合じゃないと思うよ」
一撃が······重い! 流石は聖十字騎士団って感じだ。
ミシミシと僕の斬魄刀が悲鳴を上げ、ジリジリと刀身がこちらに迫ってくる。
「命乞い? ダッサ」
「·······外の霊圧を感知して分かったんだけど周囲には破面とか死神で沢山。僕と戦闘している内に囲んで潰されるかもって警告だよ」
「へー、でもそれってあんたを一瞬で殺せば済む話でしょ」
これ無理だ······! 切り抜けられない······!!
「横槍はいけないぞ? バズビー」
「何もしねーよ。思考盗聴野郎」
「だそうですけど、どう思います? アキュトロン師匠」
「バンビエッタ嬢と戦っている彼は仮面の軍勢、加えて彼が持つあの刀、討てばさぞ陛下がお喜びになることだろう。その栄誉を得ようと考えるは当然のこと。思考だけでは判断できまいよ」
「そういうこった。それにあの野郎は随分丈夫らしいしな?」
横からなんか聞こえるんだけど·······師匠って何だよ!? 僕の斬魄刀が何!??
意識が段々逸れていく、だからかいつの間にか飛んで来ていた膝蹴りに対応出来ない。
「ゴァッ!?」
続く一閃を二刀でクロスガードするが吹っ飛ぶ。
「これで終わりね!」
更に僕へと飛来する霊子弾。バンビエッタ・バスターバインの聖文字は“
くそッ·····避けられな──────
だが飛来するそれを紫の極光が搔き消す。
「!」
虚閃か·······!?
体勢を立て直しつつ霊圧の感知を開始し周りから幾つかの虚の霊圧を感じ取り辺りを見回すと6体の破面、そして·······
「久しいな、仮面の軍勢」
「バラガン······ルイゼンバーン······」
空にある骨の玉座に座する白髪の老人、第2十刃がこちらを見下ろしていた。
「フィンドール、ポウ、アビラマ、クールホーン、ヴェガ、ニルゲ······侵入者を討ち、そしてそこの小僧の手足を捥いで儂の前に連れてこい」
「はッ! 陛下の仰せのままに!」
少し遠巻きに僕達を取り囲んでいた6人が近くに降り立つ。
「その剣、お前があの時の········」
「不意打ち根性無し野郎かァ!!!」
僕と対面しているのはジオ=ヴェガとアビラマ・レッダー。両方とも黒髪で金眼だがジオの方が身長が低く牙の長い肉食動物の頭の骨のような被り物をしていてアビラマは筋肉質で上裸、鳥の頭のような形の骨を被っている。
「先日はごめんね··········痛かったでしょアレ、傷とか残ってないよね?」
「ごめんねだァ!!?? ふざけたこと抜かしやがって!」
「敵の心配とか随分と舐められてるんだな」
「舐めてもふざけてもいな········」
僕は襲撃して刺すだけ刺した側で、しかもこれから戦う直前にこの物言いはかなりふざけてないか? またいつか全てが終わった後に場を整えてもっとちゃんとした謝意を示そう。
「やっぱ何でもない。それで戦うんでしょ? 始めようよ」
「言ってる途中でやめるんじゃねえ!! 気になるだろうが! 言えよ!? 煮えきらねえ野郎だな·······だが! そんなお前もこれをすれば熱く······」
「“互いを鼓舞する戦いの儀式”か?」
「ああ、お前もやれよ?」
「一人でやってろよ。その間に俺が手柄を独り占めしておくからさァ!!!」
「あ、おま!? 待ちやがれ!!」
あ、中断しちゃうんだ。やってみたかったのに。
でも、有難くもある。隊長クラスの聖十字騎士団と副隊長クラスの従属官、力の差は歴然で普通に戦ったら殺されかねない。出来るだけ誰も死なせずに終わらせたいし早く自由に動けるようになっておきたい。
ジオが刃先が斜めに折れたような形の斬魄刀を構えて突撃してくる。
それをギリギリでジャンプして避け、下側にいる彼に向かって剣を振り下ろす。難なくそれを避けるジオが放つ振り下ろしの一閃を受け止める。
パワーはこっちが上か······!
鍔競り合いを剣を弾いて打ち切ろうとするが、
「甘いんだよ!」
その勢いを受け流され頭に蹴りを叩き込まれる。
やるな·····流石に、虚化無しじゃキツいか。ここで出し惜しむつもりは無いけど虚化での移動は全て響転になって一歩の移動距離が限定される。良い感じに距離を取らないと、取れたら刀剣解放前なら不意打ちの一撃で何とか出来るは──────
「え?」
突如空間の彩度が落ちる。影だ、巨大な翼を持つ影が地面に投射されている。
「どちらも腹の探り合いかよ。情けねえ」
空を見上げると顕になるアビラマの刀剣解放の全容、顔全面を覆う仮面、全身を覆う赤い体毛、赤い翼や体刻まれる黒い模様に加えて鳥の脚、完全な鳥人へと変身していた。
「一対一の決闘に拘るお前が割り込む気かよ」
「あんなモンが決闘? 笑わせんじゃねえよ」
「見ていられなくて体が勝手に動いちまったぜ」
「ただお前に堪え性が無いだけだろ」
「なあおい仮面の軍勢。お前、名は何だ?」
「海渡町瞳だよ。そっちは?」
藍染や対面した十刃は僕達の情報をどこまで破面達に伝えているのか········取り敢えず名前は聞いておこう。知ってるけど。
「アビラマ・レッダー。バラガン陛下の
「俺様と
「·······二人でかかって来ないんだね?」
「あり得ねえな、無様が過ぎる」
「拘るね········良いよ分かった、
「良い返事だ。こいつも俺様と
「ちッ·······」
響転するには距離が近いな·······露骨に下がれば警戒されるしまずはゼロ距離からの虚化狙いで突っ込む!
アビラマに向かって雷撃を放ちつつ突撃、雷撃は僕がいる方向とは全然違う位置から放たれているため両方の対処には二撃必要だ。
さあどうする。
「
刀剣解放したアビラマの翼を鋼以上の固さを誇り、基本的にそれを放って攻撃を行う。この技は両翼による一斉射撃を行うもの。
その二つを最短で結ぶ直線に垂直になるよう向きを変え限界まで引き絞った両翼を極限まで振り抜く。翼通った軌道上の全てから羽根が翔んだ。
横へ限界まで伸ばして捉える·····か。範囲の分威力は落ちるぞ。
瞬時に羽根の到達予測軌道の真上に大質量の水塊を生成し落とす。その質量で軌道は少し下に逸れる。上に飛び越えるように掻い潜り最短コースを駆け抜け、そのまま接近する。
接近戦に応じるならそこで虚化、吹き飛ばされたらその勢いで響転の一歩範囲へ下がって虚化すれば勝てる。
そう思い剣を振るが剣先が奴の姿を捉えることは無かった。
速い!!? 霊圧の方向は·······上!!
次の攻撃に備え見上げたときには既に数多の羽根が目に、喉に、心臓に突き刺さらんと肉薄していた。
羽根の群れは押し潰すように僕を地面に叩き付け、巻き起こる土煙。
空を舞うアビラマはそれを見て呟く。
「なんだそりゃ、鈍すぎる。あの日の力はこんなモンじゃなかっただろ······!」
一方、土煙の中では全身の修繕を終えた海渡町瞳は思案していた。
真下に落とされたか········後退距離が制限されたからちょい近いな。藍染が僕の修繕能生を誰かに伝えたかは分からないけど取り敢えずこの土煙があればこちらの場所は分からない晴れない内に下がって·······ここだ!
虚化し即座に響転、
「なん──────」
驚くアビラマを余所に膝蹴り、そこから思考を挟まずジオの霊圧方向へ跳ぶ。煙から出る前に距離は既に把握していたがそれによると一歩では届かない。
だからこそ投擲、奴に柄頭がぶつかるように全力で投げる。
浅い·······!
僕の響転は距離を選べない。少しでも相手がズレたらしっかりと当たらない。あの時のアビラマは驚くと同時に少し退いていた。剣で斬るのは過剰火力だと判断し足を使ったもののリーチ不足となり、ジオへの投擲に関しては練度不足で軌道が逸れた。
「く、そ········不意打ちのために温存してやがったのか·····! どこまでも姑息な野郎だ!!!」
胴に描かれた紋章を爪でなぞると噴き出す赤い光、増える翼、変化する仮面の模様。これは
「一撃もらったんだ······もうお前の遊びには付き合わないぞ······! 俺がこいつの手足を捥いでバラガン様に献上してやる······!」
ジオの刀剣解放·······! これはマズイ····怖いけど試してみるか新戦法!
先に狙うのは決闘中のアビラマだ。
全速力での突撃を敢行するアビラマを回避、接近のため響転をしながら左腕の剣で自分の右手、両足、胴を斬り離す。
「ぐッ····!」
響転は特殊だが歩法、前進だ。切り離した分それだけ軽くなり、速くなる。
「!?」
伸ばした左手はアビラマを掴み、土手っ腹に頭突きを叩き込む。
「ごはッ······!!?」
地面に落ちたアビラマは気絶したようで動かない。
後は·····!? 滅却師と戦ってる破面の霊圧が·····! ジオは一旦後回しだ!
響転で最も霊圧の下がった破面へ向かう。
あれは·····ニルゲ・パルドゥックとバンビエッタ・バスターバイン!
ボロボロになって気絶したニルゲに向かって霊子弾が今にも打ち込まれようとしていた。咄嗟に雷撃を放ちそれに直撃させる。
あれは何かに触れたら爆発するタイプ、これなら着弾前に作動してくれる筈·········!
目論み通りに雷撃の直撃で軌道の逸れた霊子弾は爆発、ニルゲはそれによる傷を負っていない、バスターバインにもほとんど当たっていない。二人の間に入りニルゲを連れていこうとするが、
「それなら纏めて消し飛ばしてやろうじゃない!」
自分の爆発を軽く受けたバスターバインは怒り心頭といった様子で更なる霊子弾を差し向ける。
まずい! 僕が殺されて意識が飛べば、ニルゲが·······集中しろ! 誰も死なないことだけを考えて全てを削ぎ落とせ!
右手でニルゲを向こうへ突飛ばし、自分の首を落とす。元々の斬魄刀での再生と虚化による超速再生によって再生速度は跳ね上がっている。爆弾の着弾より先に肉体を再生、首がなくなった肉体を即席の盾とした。
「何よそれ·······」
ニルゲを掴んで跳ぶ。
息を吐くな、次はバズビーとシャルロッテ・クールホーン!
黒い茨が二人を包んでいる。
減っているのはクールホーンの霊圧ということは·······
黒い茨が弾け飛ぶ。内にいたのは無傷のバズビーと火傷まみれのクールホーン。
雷撃、ウォーターカッター、熱線を放つ。虚化時でもあまり出力上昇の恩恵を受けていない斬魄刀の力だが数があれば──────
「バーナーフィンガー2」
炎の線が僕ごとそれらを凪ぎ払う。
「オイオイ、腰を折るなっつってたのはどいつだったよ」
身体は両断された。だが瞬きより速く再生、そのまま突き進む。それを見てバズビーはバーナーフィンガー2の縦一閃を放つが
空を斬る。
「!」
回避をしたわけじゃない。ただ僕の周辺の光を曲げ誤認させた。さっき両断された時は炎の到達速度を調整して見せかけ、自分が両断された姿は描けないので僕は自分の炎系の斬魄刀で身体を二つにタイミング良く割って誤認させた。
バズビーを通り過ぎクールホーンを掴み移動を開始。
次はアキュトロンとポウ。
巨大化の能力を持つポウと武器が霊子銃だけのアキュトロンでは相性が悪いようでアキュトロンが一方的な攻撃を続けているが面積的に穴だらけではあるが何とか無事なようだ。さっきから破面を回収して回ってる僕を見ていて予測が出来ていたようでこちらに銃口を向けるアキュトロン。
しかし、さっきの景色ズラしに加えて景色をバラバラに歪める。ここまで複雑な光の操作はそうそう出来ないためか頭が痛い。だが何とかポウの元に辿り着き二度の蹴りで気絶させると刀剣解放が解除され小さくなったので抱えて移動。
ガブリエリとフィンドール・キャリアス。
「遅かったじゃないか。ほら、彼はお好きにどうぞ」
まるで待っていたかのような口振りでちょうど今倒したフィンドールを手放すガブリエリ。
何だコイツ。いや、考えるのは後だ!
フィンドールを脇に抱えて最後の一人へと向かう。
「何がしたいんだよお前·······まぁ良いさ、俺はバラガン様の望みを果たすだけだ」
「アビラマを倒した強さは認めてやるよ。だけどな本当の力を隠していたのは俺もだ!!!」
ジオの全身の筋肉が膨れ上がる。これは
「両腕も使えない状態で勝てると思うな!!」
「虚閃」
こちらへ迫る赤い光線を蹴り上げる。
「終わりだ!」
その間に接近していたジオが僕の脳天をかち割る。
「お前の弱点は頭なんだろ、脳だけは常に直撃を避けていたのが見え見えなんだよ」
「まあ弱点だけどだからといって殺せるわけじゃないよ」
一瞬の思考の空白を挟んで再生しジオの鳩尾を蹴り抜く。
「ま、だ」
更にもう一発打ち込むとようやくジオは沈黙した。
4人は手で持てたけど後二人はどうする? 足は響転に使うから抱えれない。いや、ならスペースを作れば良い。
一度両脚を落として再生、切り落とした脚の爪先と付け根を背中に剣で刺して固定し、間の空間に二人を引っかけてここにいる滅却師達が正確に把握出来てないであろう地下に潜り込み隠して更に光の操作で視認を不可にする。
「はぁ·······はぁ·········」
そこで集中の糸が切れた。
首は·····手は足は·······繋がってる········
思い返すだけで冷や汗が止まらない。虚化の力をほとんど使いきった影響か身体も震えている。
死なないにしても痛すぎる·······でも、この戦いじゃ誰も死んでない、それなら良い。殺すのは怖い、死が怖い。親父みたいに消えて欲しくない。だから僕の力全て使って死を遠ざける。
次はバラガン対滅却師········持つか? ·····いや、持たせる。
光の操作で自身の位置を誤魔化しつつ地上へと登っていった。