僕が仮面の軍勢で修行を始めてからもう6年が経つ。家で過ごしていた頃よりも時間が過ぎるのが早いように感じる、何故だろう。
今の環境は沢山の戦いのプロがいて、それに師事出来るという最高の状態となっているだけあって汎用霊子利用装置の補助無しに空に立てたりと家での修行が馬鹿らしくなる程には成長出来た。まあ皆にはまだ全然届かないけど。
今日も今日とて練習だ。基礎は固めたから次は戦い方を実践形式で学ぶところになる。
当番は矢胴丸リサさん。この人は隊長じゃなくてその補佐にあたる副隊長だった人。眼鏡を掛けていてでいつもエロ本を読んでいる。本人曰く興味があるだけらしいが、あそこまで行けばもう趣味の範疇になってると思う。
「卍解」
今では発動直後の眩暈も無くなり、単純に体の強度的に使えないものはあれど全能力を自在に操れるようになった。
皆に聞いたところこの卍解の強みは圧倒的な手数だそうで例えば火炎球を放ったとき光系の斬魄刀による視界ズラしを使い視覚と霊覚で捉える景色のズレで相手を一瞬混乱させその内に当てたりと本来単一能力の斬魄刀に比べ鬼道衆の用な多彩な戦いが出来るのだとか。
といっても一つ一つの出力は、斬魄刀の攻撃は霊圧に依存するため昔より上がりはしたが未だ弱く練度も低いので卍解発動時に放った光系の斬魄刀による視界ズラしを乗せの雷撃は始解さえしていない矢胴丸さんの剣撃に全て一太刀で叩き伏せられてしまった。
「ッ!」
瞬間、姿が搔き消えた。
あれは········瞬歩!
僕も使えるは使えるけど唯でさえ霊力利用の多い戦い方をしているからあれまで使えば一瞬でガス欠になる。
かといって体は追い付けない。ならやるべきことは一つだ。
最初の攻撃の際に僕の周りの景色もズラしていたが、更にそこに風系全てを使った風の層を造り上げた。
これなら斬撃は通っても届かないから時間的余裕ができる。対応も──
「破道の三十一『
「!」
鬼道か······! しかも爆発タイプだから風の層で受けても体勢を崩される。その無防備なタイミングに攻撃を喰らえば負ける····! もう飛んできているし! 能力の発動が間に合わ無·····いや。
背中の霊子利用装置は僕自身の霊子利用能力が上がったお陰で霊子を溜めることに集中出来るようになった。だからガス欠を遅らせるために使っていたが今溜まってるのをぶつければ·······!
相手の赤い攻撃には見劣りする青白い光弾が背中から発射され何とか着弾前に直撃し、軽減された爆風は風の層に阻まれる。
よっし····成功。次は距離を取られないようにしないとあんな早さで射撃されたら持たない。僕の面攻撃じゃ足を止めることは出来ない。なら総数を落として火力を引き上げながらギリギリ避けれないよう囲む。瞬歩は高速移動であってテレポートじゃない····! 卍解し続けているだけあって消耗はそれなりに激しい。短期決戦で決める!
火柱、光を収束させた不可視の熱線で六方を囲む。風の層の配分を前方八割後方二割に切り替え前方は巨大な槍のように渦巻かせ、後方は受け皿のように変形させる。
そして、背中側を爆発と前へ引力を発生させ急加速。手に持つ2本の剣の硬度、切れ味、身体の強度を引き上げ突撃する。
六方の攻撃を破壊するならその隙に一撃喰らわせられる。前後には動けるだろうけどどのみち僕と衝突する。今のランスタイプなら刃渡り的に剣撃も層の厚さ的に鬼道だって一発ぐらいは防げるぞ····!
「じゃあ、これはどうや?」
しかし、あの人は不敵に笑って──
斬魄刀と鞘を合わせ回転させるその風圧だけで六方の攻撃をねじ曲げた。
回転が止まった時、手にあったのは巨大な槍。もう避けれる状態なのに彼女は動かない。
真っ正面から受けるつもりか。槍の攻撃範囲なら風の槍ごと僕を叩けるとの考えだろうか。まあどのみち近寄らなければならないし好都合だ。それに槍は一撃は強力だが懐に入れば二撃目は飛んでこない。一撃さえ避ければ····!
来た!
思考の中、神速の一撃が降り落とされる。視覚を、反射神経を自壊寸前まで強化し引き戻せないところまで来たところで
「ぐッ!」
風を自分に横殴りに叩き込む。体は剣撃直下から押し退けられ、さらに逆向きの一撃を喰らい元々あった前進の力を合わせ真横から強襲する。
これなら····!
そう思った瞬間、
「ガッ!?」
鋭い一撃が胸を打ち後方へ吹き飛ぶ。
突然の痛みに混乱しつつ相手をよく見ると、
鞘!?
始解を解除し鞘をこちらへ差し向ける矢胴丸さんの姿が見えた。
「甘いわ」
瞬歩で既に真上に移動していた矢胴丸さんが追撃を放つ。何とか剣を打ち合わせるものの体勢を崩した状態だったのでそのまま叩き落とされ地面に激突する。
「ぐあっ! ······痛た·········ッ····」
何とか起き上がろうとするが、首元には刀が添えられている。
「あたしの勝ちやな」
「はい········今回の戦いどうでした?」
「まだなってへんところはあるけど、とりあえず詰めが甘いわ。自分の能力に意識割きすぎて相手の行動が見えてへんし予測の幅も狭い」
「このままやったら戦い方自体変えてバランス取った方がええんやけど今までの成長速度から考えるんやったら今のままで相手をよく見ることを念頭に置くぐらいええからそこ気ぃつけや」
「はい!」
「あと、そんぐらいまで霊力上がったんやったら虚化の習得ももう始めれるわ。あとちょっとでバイトから他の奴らも帰ってくる頃やし一旦休憩や」
「え? あ、はい」
虚化·······ようやくか······!
そして、大体一時間が過ぎた頃、いつもの建物地下で一同が会していた。
「ほんなら、始めるで」
そう言って平子さんが眼前に掌をつきだすと意識が遠退く。
「わ······ぁ·····」
そして完全に暗転した。
·········ここは。
意識が浮上するとそこは僕の家だった。
ここが僕の心象風景か·····ん? 端っこが仮面の軍勢の建物になってる。さすがにこんなに長くいたら影響も受けるか。
彼らとの生活を思い返し物思いに浸っていると
ドスン、と異音がした。
音源である後ろを見ると真白な異形がそこに佇んでいた。
その異形は人の形を為してはおらず全長5mオーバー僕の140cmが石ころに見える。更に全身の筋肉がバキバキという擬音が聞こえてきそうな程膨れ上がっていたボディビルダー真っ青なぐらいだ。
「お前が内なる虚って奴? よろしくな。いやー僕さ君に力、貸して欲しくてさ。どうかな戦うの危ないしさ。君も痛いの嫌でしょ? 平和が一番! ラブアンドピース! だから戦わずに話し合いで貸すかどうか決めよう。他の皆は内なる虚はガン無視で襲って来るって聞いたけどさ。君はそんなこと無いだろ? ほらその肩っぽいところのトゲトゲも格好良~い!」
無理無理無理ぃ!!!!! 何この化け物デカすぎだろ!! 皆こんなのと戦ってたの?? 凄すぎでしょ超尊敬してますクソッ!!!!
僕の話に乗ってくれ!!! 話し合い最高! 話し合い最高! な!!!!?????
だから────
「んごぶぁ!?」
顔面に超速度の拳が突き刺さり吹き飛ぶ。家の壁、地面、至るところをバウンドし最後には奴の眼前に戻ってきた。
見掛け倒しじゃなくてしっかり強い······! こんな奴どうやったら倒せるの!?
ペタン
僕と内なる化け物虚。そのどちらでもない第三者の足音が静かな空間に大きく響く。
次は何だよ·······!
「ばぶぶぶ、ばぶ」
は?
赤ちゃんがいた。しかも一人二人じゃない辺り
一帯にだ。そして一斉に化け物虚に飛び掛かった。
·········意味分かんない。どうなってんの僕の心象風景。
呆けている内にも目の前の戦線は激化していく。
そして、しばらく放心していると、
「たぁい!!」
赤ちゃんの一人が虚の顔面を踏んづけて空に拳を掲げて叫ぶ。呼応するように周りの子らも拳を掲げて叫び始めた。
そんな光景を見て僕は、
もう····どうでもいいや。
考えるのを諦めた。
あ、意識がまた·····
更に暗転した意識が、いやこれまで心象風景にいたんだから更にではなく最初の浮上か。
周りには結界、中には平子さんがいる。虚化した僕と戦っていたのだろう。
「あの平子さん」
あれ何か声が·····?
虚みたいだ、と思って全身を見ると肌が白い。よく見てみると視界も狭い。
「瞳、意識戻ったんか? やけど····その体」
平子さんの声には困惑の色がある。それはそうだと思った。だって彼らの体験談にはこんな話はなかった。全身の虚化が解け仮面だけが残る。そういう話だったのだ。
取り敢えず警戒を解くためにいつもの調子で話し掛けてみる。
「もしかして僕の体、虚の体に見えてます? 僕の目の錯覚とかじゃなくて?」
「そうや、一体どうなっとるんや?」
「さっぱり分かりません。何でしょうねこれ? でも何か凄い体が軽いです!」
まるで羽毛になったようだ。全能感が全身に満ち満ちている。今なら何でも出来そうだ。
「あの~平子さん。ちょっと戦いませんか? 今の力を確かめてみたいです」
「·····ま、ええわ。動かんことには分からへん。ええで受けて立ったる。ハッチ! 結界はそのままや、まだ突然虚に制御奪われるかも分からん。もうちょい様子みるわ」
「はいデス」
「よーし。行っくぞー!」
思いっきり踏み込む──が。
「のわっ!?」
景色が跳んだ!?
ドカン、と壁の端に衝突する。
「
響転って確か虚が使う小距離転移技だっけ、完全に霊圧が消えるのが特徴·······だったよね。何で踏み込みだけで····? もっかい試すか。
「よいっしょ·····あっ!??」
また壁に激突した。
体が頑丈になってるからか全然痛くないけど怖い。力が制御出来ていないのか·······!?
「大丈夫なんか瞳!?」
「ええ、まあ·········痛みも傷もありませんし····」
「動くのは控えとき·····危なすぎるわ」
「はい·····あ、じゃあ
虚閃とは虚の得意技のビームだ。
「まあ、それはええわ結界の誰もおらんとこにやっとき」
「はーい」
ええっと確か体の中のエネルギーを放出するイメージで拳から·······
「!?」
極光が放たれた。有昭田さんの結界に穴を空けまだ、止まらない·········!
壁に打ち付けられた虚閃の衝撃によって地震かの様に地面が揺れる。
「何や····この威力は······?」
本当に何だこれ·······体から力が······!? いや、抜けるんじゃない、もう抜けている·····!? 今の虚閃で使い尽くしたって言うのか? 僕の力を·····!?
「それは······融通が·······効かなすぎる」
遠退く意識の中に小さく皆の声が聞こえた。
「あれ、ここは」
目を覚ますと僕のベッドの上だった。
「よう、起きたか」
横にいたのは愛川羅武さん。前も言ったように元隊長でジャンプという漫画雑誌をこよなく愛している人だ。昔のやつを見せてもらってから僕もハマったが最新刊をこの人が独占しているので困っている。
「あ、愛川さん。僕どのぐらい寝てたんですか?」
「3日だな」
「え!? 3日も?」
「ああ、ピクリともせずぐっすりだったぜ。ハッチの検診によりゃ急激な霊圧の喪失が原因だとよ」
「ああ、あの虚閃······」
「そうだ。まあ、あれだけの虚閃を撃ちゃあ当然だわな」
でもあの力を使いこなせるようになれば強い武器になる·······新たな可能性が見えてきたぞ。
「あの力········どうやって制御すればいいんでしょうね?」
「俺達の時とは色々違えから模索していくしかねえだろうな」
「ですよねー。あれ? 僕のバイトのシフトってどうなってるんですか?」
僕はもう17歳、身長は全然伸びないがもう働ける年だ。浦原さんに融通を効かせてもらってバイトが出来るようになった。仮面の軍勢の建物には電気も水道も通っていない。だから就寝は早いがその時間からバイトをしている。3日の内にシフトを入れていたのだが一体どうなったのだろう。
「こっちから電話いれといたぜ。風邪拗らせて酷い熱があるってな。かなり直前だったんだ。急なシフト変更になったろうから次、行ったらしっかり謝っとけよ」
「はい」
うーん、申し訳無いことしたな······虚化の訓練をするんだったらいつこうなるのか分からないんだしこれからは予定に余裕を持たせよう。
「あ、ちょっと電話入れてきます。今日は愛川さんが修行当番なんでしょ? 地下、先に行っておいて下さい。後で合流します」
「おう」
突然発生したイレギュラー。不安もあるけど同時に期待もしている。予定よりも皆の役に立てるかもしれない。
しかし、あの赤ちゃんは一体何だったのだろう。あまりに不可思議な存在だった。心当たりは一切ない。
僕は一体何者なのだろう。