「瞳の霊圧が······ッ!?」
「余所見をしている余裕が有るのか?」
「そう、みたいだね」
平子と藍染が衝突した場所から少し離れたこの地点では鳳橋楼十郎、矢胴丸リサが東仙要と対峙していた。引き剥がしてから本格的に戦闘が始まっておよそ1分。二人は仮面を着用して戦っているものの相手は100年以上藍染の副官を務めているだけあって強者、手擦らされる。そして漸く追い詰め始めたところに海渡町瞳が藍染に連れ去られるという事態が発生した。
そして状況は更に変容する。
「ローズ! 後ろや!」
リサからの声に応じ飛び退くと体があった場所に紫色の斬撃が通過する。
「これは!?」
「死神風情が·····下らん小細工を重ねておって······!」
怒りに満ちた声を響かせるのはバラガン。
先の戦いでは仮面の軍勢ほぼ全員分の遠距離攻撃、虚用スタンガンの直撃を受けているため全身が傷だらけの体を引き摺ってはいるものの確かに立っている。
「な、まだ動けるのか!?」
「スターク、もう動けるだろう。立て」
「はいよ」
東仙の呼び掛けに応じて立ち上がる第1十刃。彼も相当な攻撃を受けた筈だがバラガンとの戦いでは無限装弾虚閃しか使っていなかったため消耗が少なかったのだろう。
そうして数分前まで仮面の軍勢優勢だった戦況は一瞬で逆転した。
バラガンの老い、スタークの虚閃、東仙の飛ぶ刀身。そのどれもが強力で単純に数でもこちらが負けている。だからこそ順当に致命的な隙が出来る。
「終わりだ、死神」
そこにバラガンの一撃が振り下ろされた。
が
「逆や」
当たらない、攻撃は景色をすり抜けた。いつの間にか平子の逆撫に嵌められていたのだ。
そしてバラガンの視界の少し上に仮面を着けた平子が虚閃を溜めている姿で出現した。
だがその虚閃は下からの青い虚閃に撃ち落とされる。
「させねぇよ」
「よう見とるやんけ、破面」
憎々しげに平子が声を掛ける青い虚閃の射手はスターク。特にダメージが尾を引いているバラガンの老いによる防御の出力は落ちている。だからこそ最大の慢心のタイミング、止めの一撃の瞬間に生まれる隙を霊圧遮断外套を着て狙ったが読まれていたようだ。
「ふん」
王を自称するバラガンにとって不意を突かれたところを助けられたことは少なくない屈辱を感じさせたが今は死に体、何とか飲み下した。
3対3、数だけは拮抗しているこの状況を見て平子は喋り始める。
「リサ、破面二人をローズと東仙から引き剥がすで」
「ま、この状況やったらそうなるやろな」
「やれるやろ、ローズ」
「勿論さ」
言葉通り逆撫を巧みに駆使して十刃を引き剥がしやって来た1対1。時間的に限界の来た仮面を外したローズに東仙は喋り掛ける。
「わざわざ距離を離させたか」
「ああ、ちょっと事情があってね」
「無差別型の卍解だからか?」
「さて、どうだろうね。何にせよ君はボクに倒されるんだから気にする必要は無いよ」
「卍解以外の手は既に読み切れた。仮面の無い今、お前は卍解を放つ隙すら得ることは出来ない」
「その慢心を粉々に打ち砕こう」
「鈴虫弐式・紅飛蝗」
声と同時に刀を振るうと無数の刀身出現し、ローズ目掛けて殺到する。
その状況を飛んでくる刀身群のど真ん中に金沙羅を走らせ爆発を発生させることで打開するもその瞬間には瞬歩で背後を取っていた東仙の斬撃が襲う。
何とか直撃は避けたが背中を浅く掠めて血が吹き出していた。
「ぐっ·······!」
天秤は完全に東仙側に傾いていた。1合、1合と重ねるごとにローズの傷は増えて、しかし東仙は無傷。
元々の計画ではまだ仮面を維持出来ている予定だったが予想外の虚のしぶとさに時間を使い切らされてしまった。
だがローズも致命的な一手は避け続けている。
市丸ギンには六車拳西、愛川羅武がついており単純に2対1。残りの十刃もかなり消耗している。戦場全体の天秤はまだどちらにも傾き得た。
ローズは防御に手一杯で攻撃自体を潰す余力は無い。
だから、東仙は決定的な一手を放つ決断をした。
始解状態の斬魄刀に出現した小さなリングが巨大化し九つし増加する。
それぞれのリングから黒が噴出し巨大なドームを形成し二人を包む。
これこそが東仙要の卍解。黒い空間内の生物の聴覚、視覚を使用不能にする能力を持つ。
普通、この卍解を能力の知らない相手に直撃させれば混乱や恐怖を呼び動けなくなるのは必定。
発動体勢から攻撃体勢へ移行し踏み込もうとするが視界の先にいる男は
確かに言葉を紡いでいた。
「何!?」
ローズの始解、金沙羅の鞭部分から織り造り上げられ
た幾つもの人型、空に浮かぶ左に指揮棒を持った巨大な両手が出現する。発動者のローズの手にも巨大な手と同じように右手に指揮棒が握られている。
だがそれだけだった。無差別型だと警戒していた東仙は発動と同時に攻撃を受けることを覚悟していただけに梯子を外される様な感覚がする。
今のところローズの卍解が行ったのは頭数を増やすだけ、それではこの卍解には対応出来ない。
だが、ならば何故距離を離した?
その疑問が与えた危機感に応じて最高速でローズの心臓に剣を突き立てんと接近するがそれよりも早く目的の男は指揮棒を振るった。同時に旋律が奏でられる。
「ッ!?」
そして有り得ないことが起こる。
視界に竜巻が映ったのだ。
東仙は盲目で生まれてから常に暗闇だけを見つめていた。その視界に突然、無数の竜巻が侵入した。
未知の情報に脳が混乱状態に陥り動きが止まる。無数の竜巻は巨大な一に収束し直撃して東仙の体を打ち上げる。
「ぐぉ!?」
更に景色が次は無数の雷霆が彼の世界を侵食する。上空からの雷霆の直撃を食らい地面に叩きつけられる。
そして、ニ撃で相当なダメージを負った東仙は残る力を振り絞り何とか顔を上げるが既に視界一面を埋め尽くす氷が回避不可能な程にまで接近していた。
視覚と聴覚が戻ってきたのを確認したローズは最後の一撃により氷漬けになっている東仙に言葉を放つ。
「音楽というのはね、繰り返される研鑽によって産み出される芸術さ」
「だから極めれば音が消えても景色が消えても肉体に刻まれた記憶だけで成立させられる」
「第一の演目『竜巻』、第二の演目『天空の罰則』、第三の演目『氷王の裁定』これが君に送った曲の名前さ」
「もう、聞こえてないだろうけどね」
そう告げて平子達へと加勢しに飛び去った。
一方、黒腔内部では。
「てやぁぁ!」
機動砲台から虚化、斬魄刀を強化し響転を用いて斬りかかるが藍染は難なく受け止める。
「完全虚化か。そして、内なる虚が不相応な程に強力だ」
「あっそ」
藍染の語りを聞き流し光を操り自身の見える位置をズラし、身体強化を最大にして攻撃を与えようとするが回避される。
「虚と自身にそれ程の力量差があるのなら魂魄自殺が起こって然るべきだが、それどころか虚を御している」
虚化は消耗が激しくて長持ちしない。本来なら肉体が弾け飛ぶ程の身体強化を重ねていてもうギリギリだ。だがこの状態の出力は仮面を着けた平子さんを贅力だけなら圧倒出来る程だった。しかも今日は調子が良い前より力が出てる感じがしている。虚化しなければ卍解で皆の始解にボコボコに負ける位なのでほんとに頭おかしい強化倍率だ。だから当たりさえすれば何とかなるかと思ったけど全然当たらない。
「ちょこまかと······! 当たりさえ、すれば!」
剣を振りながら負け惜しみを吐き出す。
「当たりさえすれば? そうか、君にはそう見えるのか」
軽く笑いながら藍染は話す。
「え、違うの? 僕の力が怖いからからそんなにチョロチョロと逃げ回ってるんだと思ってたよ」
その顔にムカついて煽ってやろうと藍染の会話に乗ってしまう。
「鏡花水月が効いていないな。平子真子が私に対応出来たのも君の影響か」
流石にバレるか。でもそれぐらいなら構わないさ。
「そーそー、鏡花水月は意味ないしそっちはパワーで戦うしかないでも僕には色々騙しの手がある。有利はこっちだよ」
「騙しの手、それは滞空しているその鬼道を発動させる装置によってか?」
その一言に困惑する。僕の周辺を滞空しているのは斬魄刀だけ、機動砲台はもう透明化で隠してある。
「え? もしかしてそれ、この斬魄刀のこと?」
「それは斬魄刀では無い。その刀剣の内部構造は先程見た兵器に搭載されていた鬼道を発生させる装置と同じ系統だ。まさか気が付いていなかったのか?」
「なに·····それ····」
驚きと同時に腑に落ちる。
確かにこれは斬魄刀では無いだろうしその理屈なら納得がいくけど、でもそれなら親父は何故それを説明しなかったの?
何か全く別の技術が使われているものだと思っていた。というか親父の文献では鬼道代行装置には一切触れていなかった。親父が僕に嘘を吐いていた······?
いや、そんなわけ無いだろ。だってその必要が無い。こいつが·······嘘を吐いてるんだ。藍染は嘘を高らかに語れる確か親父の文献にもそう書いてあったじゃないか·····!
「ハッ、そんな適当な口車に乗せられるとでも思った?」
「そうか、君は造られたモノか。成る程合点がいったよ。それ程の知識を持つにしては幼すぎると思っていたところだ。君は自らを改造しその姿に至ったのではない。改造され産み出された。君を造った存在は君に本当の事を知らせてはいなかったようだね」
「君の知識はそれからの入れ知恵のようだ。その分だと君から君の知識を聞き出したとしてもその中身は信用出来るものでは無さそうだ」
適当な事をベラベラと·······!
でも
「長々とお喋りありがとう」
藍染の後方から青い弾丸が飛来する。
機動砲台だ。内部に僕の剣を残してそれを利用した遠隔操作を敢行していてタイミングを見計らっていた。完全に見えていない今ならば。
しかしそれでさえ当然のように防がれる。無詠唱で発動された断空は無情に無傷の様相を晒していた。
なんてね。ここからだ。
藍染との距離はさっきから切り合いをしてほぼゼロ。僕が弱いからって油断してるんでしょ。甘いんだよ!
右腕を突き出し虚閃を溜める。この虚閃は僕の残存霊力全てを持っていくけどその分強力だ。でもこれじゃあの断空が抜けるか不安が残る。
だから更に!
僕は戦闘を行う際に常に斬魄刀を見せるように戦っている訳じゃない。あれの復元、または新造方法を知らないからだ。だからいつも光を操り、吸収し何もないように見せ掛ける。今日はその空間に持ってきた物がある。
汎用霊子利用装置。6年程前に一度家に戻った時に残り全てを持ってきている、数は数えきれない位。そして今ここにその全てが隠されている。藍染の喋りの間にチャージは完了された。
その霊子を虚閃に巻き込む·······!
「!」
バギ、バギと発射しようとする肉体が裂け始める。
藍染も気づくがもう遅い!
「グッ! アアアァァ!!!!」
鼓膜が破れそうな轟音が響き渡り一面を僕の虚閃が埋め尽くす。藍染は断空を発動したようだが砕け散る。
そして虚閃が勢いを失くし消えると先には何もない。
「やったの·····?」
血が吹き出し朦朧とし出す意識を奮い起たせ周囲を確認しようとする。
だが
「ガッ!?」
何かが体を袈裟に斬った。
「な·····にが?」
僕の疑問と同時に目の前に男が現れる。
「藍········染!?」
藍染惣右介が傷一つ無い姿で立っていた。
そして、藍染の姿が消えていた理由は鏡花水月ではない。それは僕がずっと使っていた·······
「偏光······何で、お前が」
光を曲げて位置を誤認させる技。
「一目見て構造は理解出来ていた。それなら置き換えられた物を置き換える前に戻すことは易い」
「化け物があぁぁ!」
何とか剣を振るが藍染に指で止められ折られる。
「········やはりか」
「くっ····そぉ」
最早意識が朦朧とし過ぎてまともに思考が出来ない。
「こちらが対策の出来ない一度目という機会を失った以上、仮面の軍勢も君も最早私の脅威では無くなった」
「君の力も把握した。残るは君の製作者だ。千載一遇のこの機会に出てこないということは戦闘能力を有してはいないのだろう。しかしその知識は脅威的だ」
「また会うことになるだろう。その時には自分を理解し製作者の思惑を踏み越え、私の前に立つことを期待するよ」
「破道の九十『黒棺』」
黒が一面を四角く囲みそして、
酷く醜い音と共に骨が、肉が押し潰れ砕ける音がして意識と思考が断絶した。
目を覚ますとそこはただ白い空間であの日見た赤子が僕を見下ろしていた。