星の記憶   作:夏初零月

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未熟ながら書いたお話です。
暇つぶしにでもどうぞ。


星の記憶1

 ずっと昔。

 空の星に願いをかけた民がありました。

 竜の星に願いをかけ、その加護により暮らしていた民がありました。

 

 その民は“星の民”と呼ばれ独自の文化を築き発展していきました。

 これはそんな星の民として選ばれた者の物語。

 

 

 

 

「巫女様!どこにおられるんですか?」

「巫女様がまた逃げ出したぞ!探せ!」

 王宮の中がにわかに騒がしくなった。

 女中やら警備やらがバタバタと通り過ぎていく。

 だが、そんなことはソールには関係ない。昔から研究一本で他人の行動にそれほど興味はないのだ。集中出来るものがあればそれでいい。

「おーい!ソール!」

「……レオン」

 真っ向からやってきた背の高い男。

 彼はこの王宮の門番でありソールの幼馴染みのレオンだ。

「お前も人捜しか」

「知ってるならお前も手伝えよ」

「嫌だ」

「だよな」

「返答がわかっているなら聞くな」

 昔からの付き合いならわかっているだろうに。そうとわかって言うのだから性格が悪い。

 まあ、人の事は言えないが。

「ま、とりあえず巫女様見つけたら元の場所に戻しとけよ?」

「あの塔にか」

 大きく開けた廊下の吹き抜けから見える高い塔。

 天にも届くようなその塔に一人の少女が半ば幽閉されているのは王宮に居る者なら誰もが知っていることだ。

“竜の巫女”というくだらない立場にあるが為に外にも出れず未来永劫縛られる憐れな皇女。その話しは聞いた事があるがやはりソールは興味が無かった。

「俺は忙しい。その巫女様とやらが怪我でもしたら連れてくるんだな」

「探す気はないって事か」

「愚問だ」

 冷たく返してレオンと別れる。

 この王宮でのソールの役目は薬師だ。怪我や病気が発覚した時にしか役にたたない役目。 ソール自身、武術訓練は受けてはいるが真剣に身を入れてやらなかった。

 それよりもこっちの方が性に合っている。

 必要が無い限り薬草の研究に没頭出来る。

 その意欲で高位の薬師になり、小部屋も与えられている。若造という理由だけで疎まれるのはいささか不愉快だが、役目が滅多に回ってこないのはいいことだ。

今だって呼び止められなければさっさと自室にたどり着けたものを。

 ぶつぶつと低い声で文句を呟きながらソールは自室の扉を開けた。

「おかえりなさい」

「……」

 ソールは一瞬にして言葉を失った。

 当たり前の様にイスに座り、大事な本を白い指がめくる。

 長い赤毛の少女。特に着飾った装飾はないが、明らかに普通とは違う色違いの瞳。

「何をなさってるんですか?巫女様」

 瞬時に誰かを理解したソールは内心、厄介な者に進入されたと思いながらも表の顔を貼り付ける。

「巫女様なんて、呼ばないで」

「しかし、巫女様でしょう?先ほどから家臣の方々が探しておられましたよ」

「あの牢獄に戻すために?」

「牢獄なんて」

 思わす表の顔がはがれそうになった。

 言い得て妙だ。

 牢獄。確かにあそこは彼女にとって牢獄だろう。本当なら出ることも許されない、あそこだけが彼女の世界なのだから。

「戻りましょう。僕で不満なら他の人を呼びます」

「……別に、自分で戻れるもの」

 本を弄くっていた指が膝の方に戻る。

 服を握りしめて顔をうつむかせた。いっこうに動く気配の無い巫女様にソールは出来るだけ優しい声を出した。

「何か、あったのですか?具合が悪いのでしたら薬でも用意しましょう」

「もういいわ。ただ、外に出たくなっただけなの」

 軽い動作でイスから立ち上がる。

 その顔に浮かべた笑顔はソールのものよりも嘘くさかった。

 酷く脆そうな色違いの瞳が揺らいでいたが、やがてそれを振り払うように首を振った。

「勝手に入ってごめんなさい。それじゃ」

「いいえ」

 彼女が通る道を空けるためにわずかに身を引く。

 その瞬間。

「――――っ!」

 左腕に焼けるような痛みが走った。

 しかし、それはすぐ消えて何事も無かったように痛みもおさまる。

「貴方……」

「なにか?」

 巫女様は大きく目を見開いてソールを見ていた。

「ううん。何でもない」

 それだけ慌てた様に言って彼女は部屋を出て行った。

「なんだ。一体」

 さっき痛みの走った左腕を見る。

「これは……?」

 赤く浮かび上がった模様。

 こんなものさっきまで無かったのに。どこかで見たことのあるような紋様にソールは首を傾げたがすぐに興味を無くし、作業に移った。

 

 

「リュヌ!どこに行っていた!!」

 乾いた音が響いた。

 じんわりと頬に痛みと熱が集まってくる。

「ごめんなさい。兄様」

「うるさい!今後勝手にこの塔を出たら鎖でつなぐぞ!」

「………」

 リュヌはそれに答えることも出来ず、床に跪いていた。

 昔は優しかった兄はどこに逝ってしまったのだろう。まだ、兄が星竜王になったばかりの頃は優しかったのに。

 何が兄を変えてしまったのか。

 リュヌはその何かが憎くて仕方がない。

「巫女様」

「……ベリアル」

 兄の側近である家臣・ベリアル。

 わずかに顔を歪めリュヌの手を取った。

「相変わらずですね、王は」

「いいの。私がいけないんだもの」

「それでは体が持たないでしょう。巫女様はとても大切な存在。死なれては困りましょう」

「そうね」

 困る、とは誰がだろうか。

 少なくとも兄は心労が減って困らないだろう。

 誰が困る?リュヌは生まれて来て今ほど自分の存在価値がわからない時は無い。

 神の化身である“赤き竜”の神託を聞くだけの存在。今はその神託すら無いのに。

 いや、本当は小さなものはあった。

 あったが伝えるには小さすぎた。

「では、私はこれで」

 リュヌに軽く頭を下げてベリアルも出て行く。

 いつもの通り、リュヌは一人になった。

 窓から見える星だけがリュヌを慰めてくれる。なのに、その星は今日は見えない。ここ最近雨が続き星が隠れてしまっているからだ。

「……嫌だな」

 星が見えない。

 それだけでリュヌは不安を覚える。胸騒ぎがするのだ。

 何かが起こりそうな予感がする。

 

 もうすぐ、始まる。

 

 そう、大きな戦いが始まる。

 今は隠れている星が、月が。そしてこの体に宿る“赤き竜”の印が叫んでいる。

 

「もうすぐ、世界が壊れる」

 

 それこそが神託であるとリュヌは気付くことも無かった。

 




とりあえず第一話。
ストックはあるものの、最後までは終ってなかったりします。
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