ゲート~郵便防衛庁 彼の地にて戦えり~ 作:ああああ。
郵便防衛庁という組織を御存知だろうか?
日本郵便省の下部組織。
日本の郵便と郵便インフラを守ることを名目に、戦後GHQが発足させた郵便局の警備組織である。
20✕✕年になった現在も、『戦闘訓練を課しただけの郵便局員であり、軍隊ですらない』というふざけた理由で戦力拡張の一途をたどり、国家自衛の手段ですらないというふざけた理屈で憲法違反にならない――郵便局の内部部局だ。
例え、戦車を持っていても、戦えるだけの郵便局員。郵便物の護送に使うのだから。
例え、戦闘機を持っていても、戦えるだけの郵便局員。え? 航空速達知らないの? マッハで、北は北海道、南は沖縄の島嶼部まで荷物を迅速にお届けするよ。
例え、戦艦があっても――あ? あれね? バカでかい船があれば便利でしょ? 海を走る郵便局、震災時に便利だよね? 海賊とか領海侵犯から郵便物を守るため武装してるよ。
どんなに兵装が充実していても。
どんなに他国から見て軍隊であったとしても。
国内の如何なる現行法を解釈しても、郵便物を警護する日本郵便省の一部門。一国の軍にありながら、トップが内閣総理大臣ではなく郵便大臣な、世界唯一の戦える郵便部門――それがPostal Defence Agency郵便防衛庁なのである。
20✕✕年。東京、銀座。
伊丹耀司二等防衛係長(二等尉官相当)32歳はオタクである。
就活当時、第8次郵便拡張計画の増員公募に応募したら、何と受かちゃて郵便局員になり、郵便局研修の訓練で銃火器の適性を見だされ郵便防衛庁に移動になった異色の経歴を持つも、ありふれたオタクである。
現在は習志野郵便防衛センターに所属。順当に郵便防衛部員街道を駆け上がる、郵便局員に戻りたい郵便軍人(ポスタル・ソルジャー)だ。
今日は同人即売からがあるから、と有休を申請。一度は演習間近ゆえ拒否されるも、郵便省の郵便職員組合に直談判し、トップダウン指令によって有休を獲得。
晴れて、同人即売会に向かっていた。
装備は、ラフなキャラシャツにリュック。スニーカーにジーンズ。
それから『郵便物保護法』で定められた、携帯義務のあるPDW7*1を腰のホルスターに入れて、公務員身分を示す郵便手帳を胸ポケットに入れてはいるが、気合と覚悟は十分。
防衛訓練と配達業務に追われて目の下に隈がくっきり浮かんでいるが、目だけはギラギラ輝いている。
「やっとの休暇。戦車に乗って、チルド便を届けたり、ヘリコプターから重い郵便物を抱えて空挺配達することもない……! まともな、そうまともな休日!」
目を閉じれば、ありえない軍人生活が脳裏を過ぎる。
だが今日だけは、煩わしい郵便から解放され、自由に趣味を謳歌できるのだから。
今日という日を楽しまない手はない。
特殊配達手当*2と海外研修手当*3を握り締めて、耀司はいざ同人即売会に向けて出撃!
したところで、銀座に異変が発生した。
「お、今年はここも出すんだ。このしかも、このサークルまで!? よっしゃあ!」
エスカレーターを登り切った直後、伊丹はあり得ない光景を目にし、そして驚くこととなる。
「へ?」
ファンタジーの産物、ドラゴンに跨った騎士が銀座の民間人を蹂躙する姿。
オーガや馬に跨った騎士が銀座を破壊する姿。
それを見て、伊丹耀司は茫然する。
「う、うそだろ!?
ここに来てまで非常識に俺は付き合わされるのか?」
パラシュートで、軍用ヘリから降下してお手紙をお客様の下に配達する以上に、おかしい光景を目の当たりにする羽目になるとは思わなかった。
伊丹はがっくり崩れ落ちる。――前に、スマホを取りだした。
「あ~、もしもし。おやっさん? 今、おたく*4大混乱中ですよね? 郵便ポストが一つ連中に破壊されたんで写真送ります。これで、郵便省のお偉いさんも軽い腰を振りまくるでしょ? 詳しいことが決まればまた連絡ください。なるべく早く」
目の前に、ぽつりと佇む見るも無残に破壊された由緒正しい円柱ポスト。
防弾性に優れた特殊合金製の真っ赤に塗装された日本の普遍的な郵便ポストがひしゃげて破壊された。
その光景に義憤を覚えると同時に、伊丹はひどく狼狽した。曰く、自分もだいぶ郵便組織に毒されてしまったな、と。
ゲート〜郵便防衛庁 彼の地にて戦えり