ゲート~郵便防衛庁 彼の地にて戦えり~ 作:ああああ。
「うおおお、間に合え俺の足!」
伊丹は走る。銃声の聞こえる方へ伊丹は走る。
伊丹は走る。PDW7を抱えて伊丹はとにかく走った。
一人でも多くの犠牲者を救うために。
すべては、同人誌即売会のため。
そんな中、伊丹がポケットに入れたスマホから着信音がなる。
その着信音は郵便関連のもの。無視するわけにはいかない。
「誰だよこんなときに」
伊丹は悪態を付きながら、スマホを取り出す。
一通のメール。送信主は『長官閣下』とある。
「おやっさんか!?」
そして、内容を読み伊丹は歓声をあげる。
「なになに――よし! やってくれたぜおやっさん」
『第二級防衛命令』
簡潔すぎるメールは時間を惜しんでのことだろう。だがらこの簡潔な文こそ伊丹が欲していた文言である。
道路の先に、警察官を見つける。
手には銃を構えて、地面に伏す騎士を見て呆然としている。大方、初めての発砲にショックを覚えたのだろう。
だが立ち止まることは悪手だ。付近には、同じく呆然としている守るべき市民がいるし、何より。
「まだ生きてる!!」
起き上がり警察官に斬りかかろうとした騎士に、伊丹は銃弾を撃ち込んだ。
セミオート、フルオート、3点バーストに切り替えられる郵便仕様のPDW9。引き金を振り絞ると、銃口から連続して鉛玉が射出、騎士風の男が着る鎧を貫通し騎士の命をあっけなく奪う。
銃弾をくらい倒れ込む騎士。
伊丹は、颯爽と立ちすくむ警察官に駆け寄って。
踵を揃え、敬礼する。被った郵便帽子のつばを右手で握る様な郵便省式敬礼。
「日本郵便省内部局郵便防衛庁所属、伊丹耀司二等防衛係長だ! 救助に来た」
伊丹がそう、身分を名乗ると同時に、真っ赤な戦車が何両も曲がり角の向こう側より現れた。
片面五輪の無限軌道を持ち、TOW対戦車ミサイル2門ととエリコンKA20mm機関砲で武装され、後部に積載を持つ異色の戦車。
時速85キロで公道を爆走する車体には、デカデカと『〶郵便省』と描かれている。
郵便省が全国の郵便局に1台は配備する、90式水陸両用特殊郵便郵送車両「90式郵便戦車
真っ赤な戦車?が隊列を組み、爆走しながら急行する。
その様子を目の当たりにした警察官は今度こそ安心して、崩れ落ちた。
「伊丹二係は、何をしてるんですか?」
公道を爆走する戦車内部で、伊丹は同じ郵便局防衛部員と話していた。
90式郵便戦車は戦車としての能力よりも、郵便物の輸送効率を優先した特殊車両で、内部空間は広くそして快適だ。
郵便積載室に取り付けられたエアコンで空調は効いているし、郵便物を揺らさないよう耐振性に優れた車体は安定そのもの。
伊丹の話し相手の防衛部員は、まるっきり私服の伊丹と異なり、真っ赤な防衛部員用の戦闘服を着ている。
胸元に輝く〶の描かれた徽章は、郵便局員であることを。その下の〒の上に横線一本の階級章は男が三等防衛係長であることを示す。
どうやら、伊丹より階級が下で、だから先程から敬語なのだ。
「ん、あぁ。市ヶ谷のお偉いさん方にアドバイスを送ってる。大口径または、大火力の兵装が望ましい、って。対人装備じゃ埒が明かない」
「市ヶ谷に、ですか」
「そそ。市ヶ谷のお偉いさんも麻布台のお偉いさんも揃ってお怒りで。だから、援軍は市ヶ谷の虎の子、航空警備隊も出るっぽい」
薬がきき過ぎちゃったかなぁ〜、伊丹は後頭部を掻いた。
と、そこで伊丹は思い出した。
「ね、予備の武器、借りて良い? 弾薬尽きそうだし火力足りなくてさ」
郵便戦車には、予備として89式郵便小銃*1が1丁、64式郵便小銃が1丁常備されることになっている。
64式は害獣排除用、89式を対人用として現在郵便省は運用していて、郵便業務時の不測の事態に備えて配備するように、と規定に定めている。普通郵便局員*2が所持出来る銃火器はPDWシリーズのみなので、防衛部員の装備である。
どちらも正式採用された銃で、郵便省の潤沢な予算のもと、どちらとも郵便防衛庁に10万丁ずつ配備されている。
「構いませんが……。どうするおつもりで?」
「どうってそりゃあ」
壁に立て掛けてある64式郵便小銃を手にとって、弾倉を装填すると伊丹は不敵に嗤う。
「日頃の憂さ晴らしに決まってんでしょ。(戦闘員っぽいことするに決まってんでしょ)」
あ、やべ。
本音と建前、間違えた。
「それよか、上に意見具申したいことあんだよね。無線機借りるよ」
「意見具申ですか?」
「そうそう、意見具申。たまにはしたくない? 戦闘員っぽいこと」
―――――
伊丹はPEW5を腰のホルスターに仕舞い、借りた64式郵便小銃を手に持ち、銀座を走り抜けていた。
あちこちから聞こえる発砲音は、伊丹と同じ郵便防衛部員が戦闘を繰り広げる証だ。
「うおっ!?」
物陰から飛び出してきたゴブリンに、銃弾を浴びせる。
64式郵便小銃は7.62mm口径の小銃で、7.62mm弾を使用する。小柄な日本人でも扱いやすいように軽量化小型化されたソレは、89式が正式採用された今も対害獣用として運用される程、威力と集弾性に定評がある。
北では、対羆(ヒグマ)に猛威を振るう弾丸が当たったゴブリンは一瞬で胴を貫かれ悶絶し、矮小な体躯ごと吹き飛んだ。
きちんと狙わず、
そんなこんな。
道中の敵を排除しつつ伊丹は目的地に着く。
人混みを掻き分け、伊丹が怒鳴りこんだ場所は――。
「皇居に民間人を避難させる! 今直ぐに門を開けてくれ。これは郵便省の認可を受けた緊急要請だ!」
皇居前の警察署に伊丹は突撃したのだ。
ごった返す人混みは、皆皇居に庇護を求める者。
郵便省要請と言い張る伊丹の服装は、私服に銃を構えるだけの郵便防衛部員らしならぬ服装。
郵便手帳を提示するから関係者であることは間違いない。ただし、郵便省要請と言い張る内容が皇居に避難とは……。
「はぁ!? 何を馬鹿なことをー―!」
「警部補、これを!」
声を荒げる警部補は、部下から渡された受話器に出るや対応を変えることになる。
「はっ! さ、左様でありますか!? わ、わかりました」
警部補は呆然となしながら、ただ一言。
「開門するぞ」
と、だけ言った。
門が開けば、当然逃げ場のない市民たちはこぞって門の中に押し入ろうとする。
そして、我先に皇居の中に逃げ込む民間人の後に続いたのは、真っ赤な戦車の行列だった。
デカデカと『〶郵便省』とロゴを見せつける様に、90式郵便戦車は隊列を組み皇居に押し寄せる。
先頭の車両は、車体横に「銀座四郵便局」と描かれていた。伊丹が先程乗っていた郵便戦車だ。
「伊丹二係! 逃げ遅れた民間人を全員回収しました!」
「うし、民間人を載せた車両は一旦、民間人を降ろしてから集合! 郵便戦車でバリケード作って、異世界の連中を歓迎するぞ」
臨監として、伊丹は集まった郵便防衛部員に指示を出す。
集結した郵便戦車は6両。しかも、銀座近隣の郵便局からの増援の郵便戦車が次々にやって来るので、どんどん数は増える一方だ。
そして更には、
「お、弾薬の補給便も来た。時間ぴったり」
後部に、弾薬箱を括り付けた野戦仕様の郵便バイク集団まで応援に駆け付けて来たではないか。
郵便戦車の巨大で頑丈な車体を活かし、橋に何重ものバリケードを構築。
郵便戦車の上や、隙間。内部の銃座に、防衛部員らは待機し、いつでも発砲出来るように神経を落ち着かせている。
なんとその上、後方では近隣からかき集めた弾薬を分配し、途切れることなく潤滑に補給出来るよう補給網まで出来上がりつつある。
銀座事件から20分も経っていない。
が――。
逃げ遅れた多くの民間人を拾い、皇居に誘導するだけでは飽き足らずものの数分でバリケードを作る機敏さ。
近隣から瞬時に集結する機動力。
即席の命令網でも混乱することなく、命令を実行する団結力。
本来応援に駆け付けるつもりだった皇宮警察、機動隊が出鼻を挫かれ待機になったのは無理もない。
たまたま事件に巻き込まれ海外記者は、後方からその様子を見学していて、後にその光景をこう書き記す。
「郵便防衛庁は世界一物騒で機敏な郵便組織」と。
銀座に勤務する郵便防衛部総勢123名。
うち99名が集結し、陣形を築き上げたのだ。