ゲート~郵便防衛庁 彼の地にて戦えり~   作:ああああ。

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銀座の英雄

「みんな、ドラゴンみたいのを優先的に狙ってくれ。撃つときは複数人同時で撃てよ? 豆鉄砲でも数撃ちゃ有効射になるはずだ。

 

前衛組は斉射で敵正面を面制圧する。狙って撃つ必要はないぞ。64式だ、当たるだけで人サイズはよろける。とにかく敵に撃って撃って撃ちまくれ」

 

 臨監。臨時監督者という制度がある。

 ソマリア事件や、度重なる郵便防衛庁の海外派遣の反省を踏まえ。海上郵便防衛部の護送業務等の最中、不測の事態が起きた際に臨機応変に対応出来るよう考案された、特別な制度。

 緊急且つ急を要する事態下において、郵便防衛規定に従って、係長以上の幹部が臨時の指揮官として作戦を考案し専攻することか出来る。敵の奇襲攻撃等で指揮本部が壊滅した場合などで、その場にいる幹部が指揮下にない部隊指揮を採れるのだ。

 伊丹は、この臨監制度を使い、近隣の郵便局に要請指示を出し、皇居に郵便防衛部のバリケードを構築した。

 

「予定戦闘時間は四〇〇秒。市ヶ谷の援軍がそれまでに来る。俺たちの任務はあくまで敵を引きつけて抑えること。殲滅は援軍がしてくれる。死ぬ気で戦う必要なんかあるわけない。みんな、命最優先に敵を足止めするぞ」

 

 伊丹自身、バリケードの最前線の郵便戦車に身を潜めて銃を構える。

 照準で覗くは、敵が攻めてくると思われる橋の先。

 そして――。

 

「……じゃ、ざっくばらん死なない程度に、初めてのらしい(・・・)戦闘を楽しもうぜ!」 

 

 異世界の軍勢が、橋に差し掛かった瞬間。

 伊丹は迷わずに引き金を引いた。

 

―――――

 

 諸君は「戦艦大和」という船をご存知だろうか?

 

 大艦巨砲主義の絶頂期にあった日本が巨額の費用を投じ建造した、当時世界最大の超弩級戦艦。

 世界最新の技術を、科学の粋を結集させて造られた大和であったが、戦艦としての意義を果たすことなく1945年4月7日、アメリカの手によって撃沈した。

 

 ところで、伊丹耀司は表彰を受けていた。銀座での活躍を讃えられ、郵便省から表彰を受けているのだ。

 では、何処で?

 

「伊丹耀司二等防衛係長」

 

 何処かという問に答えると、伊丹は1945年に沈んだ筈の戦艦大和の甲板の上で表彰を受けていた。

 

 正確に表現すると、日本郵便省が2兆円もの莫大なポストマネーを投じ建造した決戦級イージス郵便戦艦やまとの甲板の上に立って伊丹は表彰を受けていた。

 

 進水式を迎える2009年3月5日までその存在はふせられ、日本郵便省設立60周年を記念して、戦艦大和が沈没した4月7日に郵便防衛庁海上郵便防衛部に就役した――郵便省の財力と日本の造船技術の結晶。

 

 少しずつ復興の兆しを見せつつある大艦巨砲主義を体現したかの様な45口径46cm3連装砲は、かつての戦艦大和の主砲そのもので、それが3基ある。

 副砲は無く、代わりに64セルのミサイル垂直発射システムを12基搭載。

 被弾上等な重装甲は、今もなお日本に根付く大艦巨砲の精神の現れか。戦後を迎えてなお、郵便防衛庁が求む艦は重装甲且つ砲を載せたものなので、世界で失われつつある大艦巨砲技術は日本とアメリカには、いまだ生きていたのだ。だからこそ、郵便戦艦やまとなどという山のように巨大な戦艦を作りあげることが出来た。

 全長263メートルある長大な船体の前。

 第一主砲全面部に、セレモニー会場を作り、世界最大の艦砲には国旗と郵便省のマークを吊るし飾る。

 建造費2兆もの、超高額な船をセレモニーの会場扱いするのは、世界広しといえども日本郵便省だけだろう。

 

「貴殿の銀座における活躍は、多くの郵便局員の命を救っただけでなく、民間人の命までも救った大変勇敢な行いである」

 

 伊丹は、郵便局員の制服を着、郵便帽を被り郵便省式の敬礼を行い直立不動を貫く。

 そんな、伊丹の姿を郵便省の広報が写真を撮りまくる。

 

 機密の塊たるイージス艦。中でも、やまとは郵便省技術研究本部が独自にアレンジしたイージス大和を搭載する、最新鋭艦。

 政府要人の他、海外の賓客迎賓に使われることはあれど、それ以外は郵便省の職員しか搭乗が許されていない。国内で最もスパイが介入出来ず、また機密性が高められるそこは郵便省の聖域である。

 マスコミは立ち入れず、政府要人でなければ政治家すら踏み入ることが叶わない。伊丹の容姿を写し、伊丹の勇姿を世に発信できるのは郵便省広報だけだった。

 

「貴殿の英雄的行動を讃え、ここにやまと最優郵便局員賞を授与するとと共に、貴殿に一等防衛係長への昇進を言い渡す」 

 

 スーツを着た男性。日本郵便省がトップ、郵便大臣東邑倫道が伊丹の右胸と左肩部分に、旭マークとポストを象られた『やまと最優郵便局員賞』、それから〶3つに一本横線が描かれた一等階級章をそれぞれ制服に取り付けた。

 伊丹の右胸には、他にも郵便レンジャー徽章、郵便射撃徽章、格闘徽章、通常空挺徽章、特殊郵便空挺徽章などの仰々たる徽章の略章が、堂々と佩用されている。

 これらはすべて、伊丹が郵便局に戻るために真面目に業務をこなし勝ち取った努力の結晶。郵便防衛部員として評価されてしまった伊丹の涙である。

 

「最後に、日本郵便省令および郵便物保護法に則り、所定の地位に達した貴殿に郵便刀を賞与することとする。以降、公式の場において帯剣すること」

 

 そういって伊丹の前に掲げられたのは、一本の儀礼刀であった。

 一等係長以上の郵便省職員全てに賞与される、郵便省高級幹部である証。鞘は赤く、拵には日本国旗と〶があしらってある。当然ながら、省を代表する大臣東邑の腰にもPEW5ホルスター共に郵便刀の赤い鞘が陽光を受けて煌めいていた。国際上の儀礼として、中央省庁再編を機に復活させ、今では全国の郵便局長皆が郵便刀を帯剣している。郵便局員の誇りであり郵便省の象徴である服飾。

 郵便戦艦やまとの甲板にいる郵便省職員の中で、帯剣していないのは表彰をこうして受ける伊丹たちくらい。

 つまり、伊丹ら以外は高級幹部。もしくは、郵便省の職員であることを示す。

 

 東邑は、一度剣を鞘から抜く。

 鈍い銀色の刀身が伊丹の顔を写す。

 刀身に映された伊丹の表情は、げんなりとしていた。

 

「日本の郵便を司る脚として、日本の郵便を守る盾として。これからも邁進して郵便道を突き進んでくれ。……日本郵便省、郵便大臣東邑倫道」

 

「伊丹一等防衛係長。小官、大臣からの郵便辞令謹んでお拝領します」

 

 卒業証書の如く受け取ると、抜刀して刀身を胸の前に構える。刀剣の礼、だ。

 お偉いさんに言われて、小銃で練習した成果はあった。

 郵便大臣閣下と何度目か分からない握手をしながら、伊丹はしみじみと想う。

 

 同人誌即売会を何が何でも中止させないために頑張ったのに、同人誌即売会は中止になってしまった。

 

 かと思えば、一介の郵便局員でありたいのに、気が付けば郵便戦艦やまとの甲板で勲章と郵便刀という名の軍刀まで授かる始末。

 

 

 

 まったく……。どうしてこうなった?

 

 

 

 やまとの甲板を降りると、またたく間に記者に囲まれた伊丹。

 マスコミやら週刊誌は、伊丹の胸に輝くとても多い徽章を写真に収め、そしてインタビューをする。普段は機密保持のために、佩用する略章は空挺とレンジャーのみだったのだが、ある事件をきっかけに伊丹個人の情報統制は解除された。

 一介の郵便防衛員らしからぬ徽章の多さにインタビューはますます熱を帯びる。

 

 げんなりとした顔で大臣に助けを求めるも、大臣はうっすらと微笑むのみ。

 

 息子の晴れ舞台を見守る、そんな親の顔だ。参加する嘉納太郎まで同じ顔をしてやがる。

 

 この場に伊丹の救世主はいない。

 

 まったく。

 

 ……どうしてこうなったんだ?

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