ゲート~郵便防衛庁 彼の地にて戦えり~ 作:ああああ。
今回は薄味です
伊丹は、郵便戦艦やまとでの式典を終えてから、ずっと習志野郵便防衛センターに軟禁に近い状態にあった。
実を言うと、銀座事件収束後の検査入院の段階から、大した怪我を負っていないのにもかかわらず、入院させられていた。
それは伊丹の現在の部隊と、伊丹の不運が原因だ。
伊丹は習志野郵便防衛センターに所属する郵便防衛部員である。精鋭が集う、習志野の中でも伊丹は精鋭だ。
なのだが、そんな伊丹が全国区のニュースになってしまった。
何でも、たまたま助けた民間人に海外の記者がいたらしく、伊丹が活躍する一部始終を映像に収めちゃったのである。気が付けば、伊丹の映像は世界に流れて、日本でも特集を組まれる始末。
当初、郵便省も内々的に表彰等を済ませる予定だったのを大幅に変更して、官報で発表しまくったり、戦艦やまとで『やまと表彰』を行うことに踏み切った。ついで、伊丹個人に掛けられた情報統制も幾らか解除された。
伊丹の保有する徽章もそのうちの一つだ。
伊丹は、今習志野郵便防衛センターの中におらざる得なかった。
「伊丹一係じゃないですか?」
「お前は、富田か! 懐かしいなぁ」
「その節は富士でお世話になりました」
富田章。
伊丹と同じく、郵便レンジャー徽章を有する若くして有望な郵便防衛部員である。階級は、二等防衛主任。これぞ戦士の見本! の様な男で、伊丹曰く兵士向きの男。
郵便レンジャーを取得する際の教官が伊丹だったことから二人の交流は始まった。教官としてクソ真面目に教官を演じるが、オフのときは伊丹と富田はよくポスタリー*1トークで盛り上がったものだ。
「俺、異動になったからさぁ。富田たちが最初で最後の教え子なんだよなぁ」
「勉強になったのに、残念です。本能射撃の訓練は特に」
「あぁ、あれね。俺も昔、上官にどやされたんだよ。精密射撃も大事だけど、本能射撃を教えてくれる教官は少ないから教えてみようと思ってやってみた。結構良かった?」
「はい、かなり。むしろ原隊の射撃訓練が物足りなくなりました」
「早撃ちは、もっと磨けよ? 最近きな臭いんだから、出来て損はないぞ」
伊丹が、訳合って海外で実戦を経験する羽目になったが早撃ちにはとても助けられた。だからこそ、富士学校では教え子たちに早撃ちを徹底して叩き込んだのだ。
そして防衛庁内で、レポートに早撃ち教育の有用性をまとめて提出し、それが回り回って郵便省でも評価されて異動になったのである。
それが、今の伊丹耀司の不幸の元凶だった。
――――
伊丹が食堂で飯を食っていると馴染みの顔が声をかけてきた。眼鏡、七三分け。典型的なインテリ男子。
彼は唐揚げ定食の載せられたトレーを持って、伊丹の隣に座った。
彼の名前は、柳田明。伊丹と同期の、郵便省郵合企画課の柳田明だ。
彼らはニヤニヤ笑っていた。
「これはこれは。誰かと思えば銀座の英雄サマじゃねえか」
「げっ、柳田。何でウチに!?」
「げっとは何だ。元バディに向かって。失礼なやつだな」
郵便局員とは、それ即ち日本郵便省に勤務する国家公務員である。それは郵便防衛部員だろうと、郵便本省の人間でも同じこと。
"現場が第一"をモットーに掲げる郵便省は、郵便大学校卒組と、公務員試験にパスしたキャリア組、防衛庁に直接入隊組を等しくどこかの郵便局で実地研修をさせる伝統がある。
伊丹と柳田はたまたま同期でなんと研修先が同じ郵便局だった。バディを組まされ、柳田に盛大に迷惑と心労をかけて、何とか両名とも無事に研修を終えたのは懐かしい思い出だ。
柳田は郵便省本省勤めの道を、伊丹はなんの因果が防衛庁の道を進むハメになったのだが……。
それ以降も二人の仲は良好で、今も酒を飲み互いに愚痴を吐きまくっている。
「伊丹、聞いだぞ。民間人を皇居に誘導して、臨監まで任されて欠員を出さず! やまと表彰されて挙げ句昇進までしたそうじゃないか。防衛部の伊丹は、活躍が違うな」
「やめてくれぇ、柳田まで……」
「ま、何にせよ。これでますます普通郵便局員の道は遠のいたな。お、この唐揚げうまっ」
「いやっ。まだだっ! まだ希望はある!」
「そうは言っても、伊丹。お前、隊長になるらしいじゃないか」
「……は? 俺が? 隊長? どこの?」
「知らないのか? 派遣部隊の偵察部隊隊長に抜擢されたらしいぞ」
「派遣? どこにだよ」
「異世界だよ異世界。だから、全国各地の防衛部員が集まってんだよ。全国合同演習するために招集したんじゃねえ」
「……それってどこ情報?」
「大臣官房だ。諦めろ伊丹。……俺も、早いとこ狭間陸上防衛部長に挨拶しないとな」
「はぁ……。マジかぁ……。ん? 柳田は何でウチの部長に挨拶をば?」
「聞いて驚け。異世界派遣部隊の監督官に任命された。今日付けでお前の上司だ。階級は、特務課長。分かったら敬語を使え伊丹一係」
「はぁ? 何だ、ウチが暴走しないようにか?」
「逆だ」
「へ?」
「甘くしないように、だとよ。
上は、今回の責任者を首根っこを引っ掴んででもテーブルの座に付かせて責任を取らせろっと仰せだ。それが国家権力者であっても然るべき責任は取らす。まったく、やってられんよ。ウチは郵便省、戦争屋じゃないはずなんだとねぇ」
「それってガチ?」
「マシだマジ。金嶋っつう大臣官房の財務部のお偉方が扇動しててな。ソマリア事件のときから郵便省にいる妖怪だ。今回の銀座事件、相当頭に来てるらしく、目にものを見せてやれと仰せだ。外務省からストッパーが派遣されるらしいからそこまで行かないとは思うけど。ま、覚悟するんだな伊丹中隊長」
「あー聞こえないー」
「お前ってやつは努力がとことん変な方向に報われるな。どうでも良いが。……うし、俺は狭間さんに挨拶してくる。皿片付けとけよ、上官命令だ」
「はあぁぁぁぁぁ…………
辞めたい」
「そうため息ばっかしつくとますます不安になるぞ? あ、そうだ。一応テレビ見とけよ。今日、業務要請の中継あるから」
そう言うと柳田は、本当に踵を返したのだ。
――――
『"日本政府から、日本郵便省に通達。内閣は、特別事業要請法に基き郵便省に特別事業を要請する旨を決定した。要請は以下の通りである』
その日。郵便省本庁舎で、とある中継が実施された。
それはありふれた、されど他国から見て異様な中継内容だった。
郵便省に、郵便関連業務以外を要請するための法案。
銀座事件から、さして時間の経っていない。報道陣は、フラッシュを炊きながら、固唾をのんで行く末を見守る中、北条は要請書を読み上げ続ける。
『一、謎の勢力による拉致被害者の捜索及び救助。二、謎の勢力からの日本国の防衛。以上のことを、法令に則り日本郵便省に要請する。内閣総理大臣北条重則"。郵便省の返答をお願いします』
郵便省に、拉致被害者の捜索と日本国の防衛を命じる意味不明な光景。
それを見ていた伊丹は、何故か目眩を感じたというが、それはどうでもよいこと。
荒唐無稽な内閣府の要請に対し、我らが日本郵便省のトップ東邑郵便大臣は、通知書を受け取り軽く目を通すと――踵を揃えて姿勢を正す。
『郵便省から内閣に返答。郵便省は、郵便物等保護法に照らし合わせた結果。今回の要請を受理することを宣言します。つきましては、本省から経理の計上した特別費用を内閣に請求致しますので、お支払いください』
『分かりました。受理に感謝を申し上げます』
そう言って、挨拶を交わす総理大臣と郵便大臣。
……。
伊丹たち郵便防衛部の仕事が増えた瞬間である。
「出向、ですか?」
「あぁ。流石に今の世間のままでは、機密もクソもないから。それに、今回の派兵は一人でも多くのベテランがいる。故に、だ。熱りを冷まし、且つ、ウチからもベテランを送る意味でも、伊丹一係。貴官に異世界派遣郵便部隊、第三中隊の中隊長としての出向を命じる」
「……はぁ」
「向こうでも苦労すると思うが、『S』を代表して先発隊に送ったんだ。くれぐれも看板に泥を塗るなよ」
「了解であります」
「まぁそのなんだ。向こうは郵便の『ゆ』の字もないらしいから休暇だと思って程々に頑張れ」
「出雲隊長」
「なんだ?」
「辞めていいですか?」
「それは困る」