中堅冒険者たちの英雄譚 作:きのこのこのこ元気な子
小鳥のさえずりがまるで目覚まし時計のように響き渡る。
うるさく感じたものの、その直後に発生した頭痛によって俺は嫌でも起きることとなった。
顔を上げて周りを見てみれば俺の部屋。
酔い潰れた後の記憶がねぇ……が、誰かが運んできたのは間違いないらしい。
しかしいつも通り扱いは適当だ。
なんせパンイチにされてベッドにほっとかれているんだからな。
「あー……クソ。頭いてぇ……」
俺はベッドから立ち上がり、頭痛のする頭を押さえながら床に散らばった服を手に取る。
それを適当に着るの鏡の前に立って適当に整えて行く。
かなりしわしわだが戦闘用の服だから問題はない。
「今何時……『時』じゃなかった。『
この世界で時間の読み方が少し違う。
一時間、とかはそのままなのだが、『時』はちょっと違う。
『刻』と呼び、例えば四時ならば『四の刻』と言ったりする。
夜の六時とかだと『十八の刻』とか。
ちなみに『分』は『
転生してきて二十数年、未だ前世のことが身についてしまっている。
こうやって朝寝ぼけていたりすると、どうしても間違えてしまうことが多い。
それを仲間の前で言ってしまうこともちょくちょく。
なんだかんだ忘れられないものだ、前世というものは。
「朝の……十一の刻か。まぁ、いい時間帯だな」
俺は部屋に立てかけられた時計を一瞥してから部屋を出た。
廊下を進み階段を降りると、そこはロビーが広がっている。
ソファーにでも座ろうかと思って見てみれば、うさぎの耳が少し出ていた。
「ヴィレット、あんなのに飲んどいて早起きか?」
「ん……酒入ってないと、どうにも気分悪いけどね」
「朝から飲むつもりなのか、お前……」
ソファー前のテーブルを見てみれば酒瓶がいくつか転がっている。
どうやらあの後、帰った後もお酒を飲み続けていたようだ。
俺は酒瓶を拾いながらソファーの隣に置く。
「で、何してんだ?」
「
「……またギャンブルか? ん?」
「あっ……」
俺はヴィレットの隣に座り、彼女の視線の先にある結晶で出来た板を見る。
そこには結晶の板に映像が映し出されていた。
『魔動板』、この世界におけるテレビのようたもので、魔力と呼ばれる力で動いているらしい。
この世界ではその魔力を扱った力、魔法というものがある。
それはこの世界において基本中の基本、生活の基盤と言っても過言ではない。
使えなければ話にならない。
故にこう言った魔力を扱うものばかりが生まれている。
ちなみにだが今、魔動板に移っているのはお馬さん凛々しい姿だ。
数々の馬が並んで走る、立派な姿がそこには映し出されていた。
まぁ、察せるよな。
俺は立ち上がって、声を荒げる。
「てめっ、ギャンブルやめるってあれだけ約束したろうがッ!!?」
「い、いやっ! ちがっ! これは、そのっ……そう! 見てるだけ! 見てるだけだから!!」
「そのポケットに入ってるものは!?」
「……げっ」
まずいと言わんばかりに声を漏らして、勢いよく着てるコートのポケットに手を突っ込む。
そして一瞬何か光ったかと思うと、すぐに手を出した。
彼女の着ているコートは確か耐火性。
小さな炎程度ならいとも容易く装着者を守ってくれるものだ。
冷や汗を垂らし目線をそらしながらヴィレットは震え声で言った。
「な、なにも入ってない、デスヨ?」
「魔法で証拠隠滅してんじゃねぇよ!!?」
俺が彼女のポケットに手を突っ込んで、中身を出してみると小さな黒炭がポツポツと出てきた。
そして完全には燃え切っていなかったようで、数字の書かれた紙の破片が出てきた。
少し焦げ跡がついて煙が出ているところを見るに、今燃やしたもので間違いない。
俺は座って冷や汗をかいているヴィレットに前に立つ。
「お前さぁ、前に約束したよな?」
「……したね、うん……いや、その、アタシは……」
「お金、返したのか? ミリアに」
「……か、返せてないかなぁ」
「昨日入ったお金は!?」
「そ、その。お酒に……」
ヴィレット、実力は確かだし、仲間内でも頼り甲斐のあるやつなのだが。
このギャンブルとアルコール依存症に陥っているのがどうにもよくない。
たしかに一時期色々あったせいでそうなったのだが、それでもその時期を脱した以上はそろそろ依存症も脱して欲しい。
そう簡単に行かないのはよく分かってるんだがな。
「はぁ……しょうがねえ。今から仕事行くぞ」
「え、マジ?」
「臨時収入でも返せんだろうが、D級のクエストなら……大体一つ二つ受けて、十万。十万ディル。借りた金返せるだろ?」
D級、クエストと呼ばれる民間からの依頼に対する難易度を指す言葉で、EからS、そして例外として特S級が存在する。
D級は冒険者を初めて大体一年ぐらいで受けるようになるクエストだ。
この級はクエスト以外にも、ダンジョンだったり冒険者にも与えられたりする。
ちなみにさっき言ったディルは単価で、円と同じ扱いをされている。
分かりやすい。
「……わかった。行くよ、アタシだってそろそろ返すべきだと思ってたし」
「本当かぁ?」
「ほんと!」
▼▲▼▲▼▲▼
と、言うわけで場所は移って、俺たちの拠点から少し離れた場所に位置する、この街でも特に目立つ施設。
ゲーム内では一番訪れると行っても過言ではない『ギルド』に来ていた。
ファンタジー小説とかによくあるアレと大体同じものだ。
故に説明不要、とまでゲーム内で言いだす始末。
結局説明はされてたが。
民間が依頼するクエストは基本的にここで受ける。
依頼内容、依頼報酬などなどは依頼が出す方が決める。
結構手軽に決められるため、冒険者が依頼を出すことも多かったりする。
今日もギルドはたくさんの冒険者で賑わいを見せていた。
それに対して隣に立つヴィレットはうんざりしたような顔でため息をつく。
「今日は……何の
「
「基本休みなのによく働くねぇ、ここの人たちは」
「俺たちも働きに来てんだぞ」
「わかってる」
付というのは週を指す。
月火水木金土日、基本的に日本とは変わらないが。
元がゲームの世界だからだろうか。
それはそれでありがたいんだけどな。
俺たちは依頼が貼り付けられている掲示板には目もくれず、カウンターの方まで行く。
見知った受付嬢に挨拶をすると、向こうもこちらに気づいて挨拶を返した。
「エリオさんにヴィレットさん! 今日はどうしたんですか? いつもでしたらお休みのはずでは……」
「ちょっと臨時収入が必要になってな、D級のクエストを一つ二つほど受けたくて。クレセアさんならちょうどいいの知ってると思って」
金色の髪を持つ優しげな雰囲気が特徴的な受付嬢。
クレセアさん、ギルドに来て初めてお世話になった人でもある。
なんだかんだでやってこれたのも、今までこの人がいいクエストを紹介してくれたのも大きいだろう。
ちなみにかなり豊かである、どこがとは言わんが。
「お金の方はどのくらいあればいいんですか?」
「十万ほどだな」
「それでしたら一つ、ちょうどいいのがありますよ! 報酬金額はきっかり十万。内容の方は……ダンジョンの奥に落としてきたものを取ってきて欲しいそうです」
「ダンジョンか……」
俺はダンジョンと聞いて少し悩む。
ダンジョンと言うのは件の世界の中心にあるものが現れたと同時に出現したものだ。
数は世界中で発見しているものだけで数万を超え、大体が未開の遺跡だったり洞窟だったりするのだが、どれもモンスターと呼ばれるバケモノが出現する。
だがそれ以上に、ダンジョンに眠る宝物は素晴らしく、ものによっては億万長者になるのは夢ではなかったりする。
とにかく夢や野望がいっぱいな場所だ。
探索で自ら潜るのならいいのだが、こうやってクエストとかで提示されるダンジョンは大抵が罠だ。
もちろんそうじゃない場合もあるのだが、それ以上に罠を仕掛けるにはちょうどいい場所なのだ。
冒険者を狩ったりする人間がいるから。
「冒険者狩りが怖いですよね……民間からの依頼である以上、安全性は確約できませんから。ですがこれは安心していいと思いますよ」
「なんでだ?」
「前金として五万、それで達成報酬として十万が提示されていますから」
「なるほどな……よほど大事なものなのか、それとも……まぁいいか。ヴィレット、これでいいか?」
「ん、任せるよ」
とのことらしく、俺たちは取り敢えずこのクエストを受注することにした。
内容は以下の通り、 俺たちの住む都市メリンディガルから少し離れた場所にある、大樹型ダンジョン。
そこから逃げる時に落としてしまったたペンダントの回収が主な任務。
落としたであろう場所と、落としたものの特徴を確認する。
そして依頼者の特徴は、依頼者側から明かされた情報で言えばE級の冒険者だったそうだ。
「ダンジョンの難易度は?」
「クエスト同様、D級になっていますね」
「ダンジョンは自分と同じランク以上のダンジョンは入れないはずだが……」
「それなら事情は聞いていますよ。ランクアップの試験中だったそうです。ですが、予想外の事態が起きて……それ自体は解消したんですが、その時の怪我が原因で冒険者をやめてしまったそうなんです」
「なるほど、把握した。ダンジョンに入れなくなったから回収だけはお願いしたいってやつね」
その言葉を聞いて俺はクエストの内容に安心感が増す。
こう言ったクエストはよくあることなのだ。
一つの怪我で冒険者をやめるような人は多い。
その時、ダンジョンに残してきたものを回収するよう元冒険者は結構いるのだ。
「大樹型か……いつも通り行きゃいいか。どうせ木しかいねぇし」
「伐採かぁ……」
「そう言うなって。とっとと終わらせて帰りゃいいだろうが」
俺たちはクエストの受付を終え、外へと向かって歩き出そうとしたところで、クレセアさんに止められる。
振り向いてみると少し慌てた様子で、カウンターから身を乗り出して俺の手を掴んできた。
自然と俺の視線が彼女の胸元へと向かう。
無意識でやってるならもはや天性の才能と言っても過言ではないだろう、アレは。
隣から軽蔑の視線が飛んできた気がするが、気にせず話を聞く。
「か、確認が! 今日の確認が終わってないですよ!」
「あ……ああ! そうだった!」
俺たちはもう一度振り向いて、クレセアさんの前に戻る。
そして手のひらを差し出すと彼女は手のひらに触れる、そしてマッサージをするかのように押し始める。
三十秒くらい触れているとボンヤリと文字が浮き出てきた。
「これって毎回する必要ある?」
「
そうかなぁ……と思いながら、クレセアさんは文字を確認する。
一分もしないうちに確認し終えると、次にヴィレットのステータスを確認する。
ステータス、この世界にはそんなものが存在している。
何故そんなものが、と言われると、異世界だからとしか言えることがない。
ただステータスと言ってもゲームのそれとは違う。
表示されるものはこんな感じだ。
▼
エレオ・ヴァンデール
ジョブ:属性騎士Lv.41
【保有スキル】
槍術Lv.10
属性付与Lv.5
近接格闘術Lv.6
上限突破Lv.1
【保有魔法】
付与魔導(属性)Lv.1
▲
と、よくわからないが自身のジョブと呼ばれるもの、そしてスキルと特化した魔法のみが表示される。
別にスキルに関しては、これがあったら使える、と言うわけではなく、相応の知識は当然ながら必要だし、それ相応の身体は必要だ。
スキルはいわゆる補正であり、それがあると対応した行動に対して補正をかけるのだ。
少なくともあった方がいいのは間違いない。
魔法に関しても同じだ。
あるのとないのじゃ結構変わってくる。
ジョブに関してはスキルの習得難易度を変えるだけで、ある施設にて自由に変えられる。
ともかく、これらの要素は補正をかけるだけのものでしかないのだ。
ちなみにジョブのレベル上限は50で、スキルは10だ。
スキルの数は膨大にありすぎて把握していないが、最大レベルが99のものもあるらしい。
なんて思い出していると、ステータス確認を終えたヴィレットが隣に立つ。
「どうだった?」
「変なスキルがまた上がってた。上げるようなことしたかなぁ……? 見る?」
「見る」
ヴィレットは何回か右手をグーパー開いたり閉じたりすると、文字が浮き上がってくる。
▼
ヴィレット・ナルーフ
ジョブ:傭兵Lv.37
【保有スキル】
双剣術Lv.7
宝物感知Lv.4
罠感知Lv.2
サバイバルLv.6
酒乱Lv.5
【保有魔法】
探索魔術Lv.8
▲
と、ヴィレットの保有スキルと魔法はこんな感じだ。
前世でも見たことないがある。
「酒乱のスキルレベルまた上がってないか?」
「飲み過ぎたかなぁ……」
「飲みすぎだろ、どう見ても」
「ちょっと控えよ……」
酒乱、酒を飲むとバフがつき、毒に対して耐性を得るスキル。
強いのだが、保有してるだけで酒飲みだと言われるなんとも言い難いスキル。
気にしない人は普通に獲得を目指す。
酒飲むだけで手に入るし。
「じゃあ行くか?」
「とっとと行こ。休日が終わる前に」
ため息をつくヴィレットとともに、俺はダンジョンへと向かって歩き始めた。
目的は依頼物の回収、納品までだ。
【情報2】
ヴィレット
濃い赤髪にうさ耳の生えている、ウサギの『先祖返り』。
身長は140前後であり、かなり軽い。
童顔であり美少女とはよく言われているが、エレオと同い年である。
三年前、ある事件に巻き込まれてことで酒に溺れる。
が、仲間と色々あった結果、なんとか復帰。
……したのだが、お酒はやめられない模様。