中堅冒険者たちの英雄譚 作:きのこのこのこ元気な子
さて、あれから一度戻って準備をしたのち、都市から歩くこと数時間……ではなく、数刻。
さっきは十一の刻のだったから昼時だったが、それなりに時間が経っていた。
やはり馬車かなんかの乗り物で来るべきだったと後悔している。
「それなりに人がいるな……」
大樹型ダンジョンは、メリンディガルから少し離れたところの森の中。
そこの最奥に存在している。
太さは大体目視で五メートルくらいなのだが、中に入れば不思議なことに、とんでもなく広い空間が広がっている。
壁は完全に木で出来ているのだが、攻撃で破壊することは不可能で、燃やすこともできない。
D級に上がったばかりの初心者はパニクって、急いで逃げようとして挙句、壁を燃やそうとして逃げれず……ってことはよくあるらしい。
俺もやったことある。
で、その大樹型ダンジョンの前にいるのだが。
結構な人が集まっていた。
D級のダンジョンにしては簡単な上に、モンスターの素材剥ぎによる稼ぎどころも多い場所だからだろうか。
中堅の俺たちもそれなりに行くぐらいには稼ぎやすい。
「人多いなぁ〜……受付したって結構待つよ? これ」
「待つに決まってんだろ」
「えー……」
文句有り気な目線を送ってくるが、それならまずは借金を返してからにしてほしい。
俺は人が集まっているところを掻き分けて、ダンジョン前に建てられた建物の中にあるカウンター前に立つ。
カウンターには受付の人が何人か立っており、冒険者達とやりとりを交わしている。
ダンジョンに入るためにはまず、この受付を済まさなければならない。
受付をする理由だが、ダンジョンの難易度を上げないようにするためである。
ダンジョンと言うのは中に入っている人数量が一定数越えると、突然難易度が爆上がりするのだ。
具体的に言えば、ランクが二つぐらい上がる。
ここならばDからB級になる。
難易度が一つ上がるだけでも、生存率が大きく変動すると言うのに、二つも変わるのだ。
D級の冒険者など一瞬でお陀仏だろう。
と言うわけで、各ダンジョンから最も身近にあるギルドが、ダンジョンを管理している。
ここならばメリンディガルのギルドだったり。
と、言うわけで、俺はダンジョンに入るための許可を取るべく受付をする。
本来ならちゃんと事前に予約しておくべきなのだが、クエストとなると話は別だ。
ギルドがそれ用の枠で予約してくれているので、その枠内ならばいつでもいける。
「すいません、クエストでダンジョンに入りたいんですが……」
「申し訳ありません!! 現在、ここは緊急封鎖しています!」
「緊急封鎖?」
「は、はい……どうやら冒険者が指定数を超えて立ち入ったようで……」
「……違法侵入、ですか?」
その言葉に受付嬢はこくりと頷く。
違法侵入、言わずもがな、意味はそのままだ。
許可も取らずにダンジョンに立ち入る人間がたまにいるのだ。
その危険性をよく理解しているはずなのに。
こうなってしまっては、ダンジョンそのものを支配する『王』を倒さなくてはどうにもならない。
「わかりました。ありがとうございます」
俺は軽く礼を言ってからヴィレットのとこに戻る。
ヴィレットはうさ耳を触りながら暇そうに待っていた。
と言うか、なんで俺が受付しに行ったんだろうか。
こいつがやるべきなのでは?
「ヴィレット、入れねぇわ」
「どしたの」
「違法侵入だとよ。A級冒険者辺りが派遣されてくるだろうから、攻略が終わるまで待機だな」
「え〜……帰らない?」
「帰らねぇよ。どうせ、二、三時間もすりゃ終わるだろ」
「もう夜になるよぉ〜……」
なんて泣き言を言うヴィレットを連れて、周辺に唯一ある飲食店に入る。
冒険者たちはみんな受付の方にいるのかそれなりに席は空いていた。
俺たちは適当に外のテラス席に行き、適当なものを頼んで終わるのを待つことにした。
「ね。なんかないの?」
「なんかつってもなぁ……」
ポケットとか適当に探ってみるが、これと行ってものは見つからない。
今あるのは武器ぐらいだ。
軽く武器を一瞥してヴィレットの方に視線を向ける。
何が言いたいのかわかったようで、少し驚いたような顔をする。
「手合わせすんの?」
「したいなら」
「やなんだけど。前の付の時、何が起きたか忘れたわけじゃないよね?」
「あー……いや、あれは。事故みたいなんもんだろ」
「事故で二千万」
「うっ……か、金は払ったろ」
俺たちはいつもこんなばかりだ。
金が出て行くばかりで貯まることがない。
しょうがないと言えばしょうがないのかもしれない。
はぁ、ため息をついて、ヴィレットはダンジョンにの入り口の方を見る。
そして小さく呟いた。
「懐かしいなぁ……」
「懐かしい? 何が」
「アタシと出会った時のこと、覚えてるよね」
「覚えてるが……ああ。そういえば、そうだったな。あの時も違法侵入があったな。しかも俺たちがダンジョンに入ってる時に」
「そそ、運悪く『王』に遭遇しちゃって、死にかけながら戦ったやつ」
随分と懐かしい話だ。
あれももう五年前、こことはまた別のダンジョンでのことだ。
▼▲▼▲▼▲▼
冒険者になりたてで仮登録段階のGから上がってEになったばかりの頃だ。
家から追い出された矢先で宿住まいだった俺は、明日の生活費を稼ぐべくダンジョンに潜ることにしていた。
ダンジョンはモンスターを倒し、その素材を剥ぎ取ることで換金することができるからだ。
と言っても、この頃はそう言った技術も何もなかったのだが。
「んー……予約なしで入れるのはいいんだけど、一人かぁ……」
その日はギルドも人が少なく、ダンジョンに予約なしで入れるような日だったのを覚えている。
俺は受付前で唸ってクレセアさんからダンジョンについて聞いていた。
「一応指定ランクはG級ですけど、流石に初心者が一人というのもキツイと思います」
「ですよね……はぁ」
そういやこの頃はまだタメ口じゃなかったな。
そこまで親しい仲ってわけでもなかったし。
ともかく、そんなことで悩んでため息をついていたわけだが。
そこに後ろから声をかけてくる奴が一人。
「あの、ダンジョンに行くんですか?」
「え?」
濃い赤色の髪にうさ耳、そして背中には片刃の双剣を帯刀している。
これがヴィレットとの出会いだった。
まだこの頃は初々しかったな。
「それアタシと行きませんか!?」
初めて出会ったばかりだったのに、彼女はそう言ってきたのだ。
ここから数年と続く長い関係になるだなんて、思いもしなかっただろう。
俺は二つ返事で了承し、共にダンジョンへ向かうことにしたのだった。