死灰を纏う旅人 作:灰の旅路
東の海、近海。
世間では最弱と呼ばれし海であるが、かの海軍の英雄や海賊王を生み出した海でもある。その海を一艘の小舟が揺蕩っていた。
その小舟の上で一人の男が寝転びながら、賞金首のリストを見ていた。
「知らない賞金首が増えたな…まぁ自分には関係ないが」
そう言うと男は気怠げに、小舟に付けられた謎の機械に手を翳す。
手を翳された謎の機械は煙を吐き、重低音を出して動き出す。
それと同時に小舟がゆっくりと進み始め、徐々に加速して行く。
その小舟の進む先は乗っている男すら分からない。
何せ行き当たりばったりで旅を続けているのだ
これまで行ったのは荒れた無人島や、海賊の根城となった島、海軍基地にも行ったりした。
無人島ではサバイバルを、海賊の根城では賞金首を拘束して海軍を呼び引き渡し、海軍基地では新米海兵の面倒を見たりもした。
そんな男は、小舟の上で寝転がりながら進む先を見る。
遠い水平線に、ポツンと船があるのを発見する。
「ちょうど良い、少し食料か何かを恵んで貰うとするか」
無論、恵まないのならきっぱりと諦めるが
男は欠伸をしながら小舟の行き先をその船への進行方向先へと向ける。
かち合っても平気だしな、と呟きながら男は機械の吐き出す煙と騒音を聴きながらうたた寝を始めた。
◆
「お?船長!小舟が近づいて来やすぜ!」
「あぁん?小舟だぁ?」
髭を蓄えた柄の悪い男が双眼鏡を水平線に向ける。
そこには、黒い外套で身を包んだ男が、小舟に寝っ転がっていた。
「ちっ、顔が見えやしねぇ」
顔さえ判別できるなら、賞金首かどうかも分かる。
しかし顔が分からないのなら、下手に殺したりは出来ない。
何せ賞金首によっては
「まぁ、顔が見えねぇなら大砲ぶち込めばいいだろうよ、お前ら!構えろ!」
『うぃっす!』
男達は大砲を小舟に向ける。
「放てぇ!」
ドンドンと、複数の大砲から砲弾が小さな小舟に向けて発射される。
その数秒後に爆発が起き、黒煙に包まれる。
船長はそのまま双眼鏡で黒煙を見つめる。
しかし、黒煙は一向に晴れない。
「なんだぁ?お前ら火薬でも詰め過ぎたか?」
船長が双眼鏡から顔を離して振り返る。
それと同時に、手すりの上に何かが立つ音がした。
「あ?…っ…!てめぇは!?」
外套に身を包んだ男を見た船長はその顔を見て驚くも、その姿は『黒い嵐』に隠される
「なんでこんな所に居るんだよ!?」
「くそ、逃げるぞ!」
船員達が男の顔を見て逃げ出そうとするもその姿は『黒い嵐』に呑まれる。
そうして船の上は黒い半球状の何かで包まれた。
◆
「食料あり、賞金首に手頃な船、良いもんだな…小舟も上げておこう」
男はそう言って海上に置いていた小舟を船へと引き上げる。
「あ…が…」
「いでぇ…いでぇよ…」
元々この船に乗っていた船員や船長は、顔から身体全身に至るまで切り傷だらけになっており、立つ事すらできなかった。
男は食糧庫の食べ物を適当に食べながら、船にあった地図を見る。
「幸いにも海軍基地が近いな、楽で良い」
そのまま男は手をクイッと動かす。
たったそれだけで船の進行方向は変更された。
「ぐ…なんでてめぇがこんな所に居るんだ…!"灰害"!」
船長は男を睨みつける。
「人の旅にケチを付けるな、お前らは引き渡して終わりだ」
欠伸をこぼしながら、男は甲板で寝転がる。
船はゆっくりと海軍基地に向けて進んでいた。
男は自分の懐に入れてある、自分の手配書を見る。
"灰害"クラウン
懸賞金:600万ベリー
「……偽名だと楽なもんだ」
そう言って男…クラウンは手配書を丸めて海に投げ捨てた。