DPの時代へ戻りたい。
そんなことを考えながら書きました
野草が青々とした地に腰を据える。青空の下、生命の気配がそこかしこからうかがえる。
ここはとある郊外の自然公園。丘の上にある一際めだつ大木のすぐ側にある枯れた倒木に腰かけ、麓を見下ろす。
ポツポツと散見するトレーナー帽は駆け出し冒険者のもの。手塩にかけて仕上げた相棒と腕試しにやってくるのだ。
ここは自然公園。当然野生のポケモンも現れる。とはいえそこまで強い訳では無い。軒並み進化前の状態で、強力な進化後ポケモンであっても『元気の良い新人だな』というふうに、怯えるトレーナーを横目にその場を立ち去ってくれる。
私はトレーナーではないが、1度散歩した際、静かで腰を落ち着けるにはおあつらえ向きな場所を見つけた。レジ袋に入れていた缶コーヒーを啜るにはちょうど良かったので腰掛けたのだが、これまた良かったのだ。
手持ちのポケモンを連れずにこの自然公園を散歩するのはいささか不用心ではあるのだが、ちょっとした緊張感はどこか病みつきになる。
そんな私でも見知った顔がいたりする。
「──」
「やぁ」
ふくらはぎを鼻先でぐりぐりと押してくる。腰掛けた倒木の下にあるウロに巣穴を作り住み着いているのだろう。揃えた私の足をこじ開け、その身を日の下に晒してこちらを見つめる。
「──!」
「はは、わからん」
何かしら訴えてくるが、生憎ポケ語は理解できない。元気がいいことは分かる。会う度に元気を貰えるので木の実を放ってその芸に酬いる。
「いつも元気だな君は」
「──?」
口元を桃色に染めながら小首を傾げる。
私はポケモントレーナーでもなければ研究員でもないので、図鑑を持っていない。このポケモンがなんという名前なのか、進化前か後かも分からない。
毛の模様がジグザグに並んでいるのが特徴的だ。
「いつも”君”呼びじゃ他人行儀すぎるね。むむ、そうだ"バラン"と呼ぼう」
「──?」
「ふふ、いいね。バラン」
「──!」
なにか察したのか、不規則に走っては戻り、楽しそうだ。
仮名を覚えたのだろうか。この意外にも知性がある感じにはいつも舌を巻く。
駆け回る小動物を愛でながら缶コーヒーを舐める。残念ながらもう底をついたらしい。ふちに残ったコーヒーを軽く啜って腰をあげる。
「さて、それじゃまた来るよ」
「──!」
ばいびー、と言っている気がした。多分。知らんけど。
自然公園を横切り、出口に灯る街頭へ向かう。その出口で新人トレーナー達によって手負いになった野生ポケモンがよく並んでいる。彼らを雑に手当するのもこの公園でのルーチンのようなものだ。
そしていつも先頭に顔見知りがいる。
「また君かぁ?ここはそれなりに長いだろうに、その体たらくでいいのかー?」
「──」
目が隠れてその表情は窺えしれないが、瀕死寸前まで闘って来たことが身体の節々から推察できる。
もうこの子に手当するのも慣れたもので、ものの数分で処置は完了する。だがいつからか全てのポケモンの手当を終えるまでそばに居続けるようになった。
「──よし、君で最後だな。簡易診療所閉店だ」
「──」
「まだ居たのか?とにかく、お大事にな。喧嘩を売るも買うも相手見てから決めろよ?」
じゃあなと低い頭をひとなでしてその場を後にした。
公園を後にして帰路に着く。日も随分傾いて夕闇とのコントラストが出来ている。
今日の夕飯は何にしようか
「ところで」
「──」
「なぜ着いてくる」
「──」
地面からおよそ数cm浮き上がったまま、私の影を踏まないようにつけてくる。西日に照らされたその姿は、先程別れの挨拶をしたばかりのポケモンだ。
先程までの怪我人猛々しい様相はどこへやら、しずしずと着いてくるもので少し調子が狂う。
「どうしたんだ」
「『な』」
「な?」
「『わたしをなでたな』」
「そうだな」
「『ならわたしのぱーとなーだ』」
「ちがうな?」
どうやらエスパータイプのポケモンだそうで、テレパシーを飛ばしてきた。些か理屈がおかしいが、野生のポケモンに触れた自分も悪いと思い直す。
「『たま、だせ』」
「ボールのことか」
「『しらん、いつもわたしがぶつけられてるやつだ』」
「あいにく手持ちがない」
「『しかたないな』」
そう言うとおもむろに懐をまさぐりだす。そんなところにふところがあるのかと若干興味を持ちながらも様子を見守る。
桃色でどこかラブリーなボールがでてきた。
恐らくヒールボールと呼ばれるボールではなかろうか。
突き出されたそのボールを受け取らずにいると、プリプリと怒りながら何度も突き出される。
「それをどうしろと?」
「『しらない。わたしにぶつけるんじゃないの』」
「いやまぁ、そうなんだろうけど」
「『ほら、はやくぶちあてなさい』」
「口悪っ」
恐らくこのポケモンを狙って投げられたボールだろう。使い方も少々暴力的な表現ではあるが、知っているらしかった。
数多くのトレーナーから狙われたと言うならば、確かに目の前のポケモンはその他を見た事がなく、希少性が高いのかもしれない。
「あいにくだけどほんとにトレーナーになる気は無いんだ。友情、努力、勝利そして絆。私には重い」
「『わたしそんなのどうでもいい。ばとるなんてきょーみない。つよくなりたいわけでもない。しずかにすごしたいだけ』」
「そうなの?」
あの場所にいてあれほど瀕死になり続けるということは、生粋の戦闘狂なのかと思っていたが、その実反対だったらしい。
「ならなんで毎回ボロボロなんだ」
「『まいかいいどんでくるおんながいるから』」
「なるほど」
まぁおそらくこの子を捕まえたいトレーナーだろう。でなければあそこまで心身を削る必要は無いだろうし、なによりボールの存在が大きい。
「『ごたくはいい、はよ』」
そう言って再度ボールを突き出してくる。
しかし、目の前のポケモンは分かっているのだろうか。
ボールに入ることが、どういうことなのか
「まぁまぁ、そう急かなくてもいいだろう?多少期間を設けようじゃないか」
「『おためしってやつか?つまらんにんげんだなおまえも』」
「既出の誘い文句だったか」
「『なんどもそうさそわれた。さいごはさきっちょだけとか言いってた。よくわからなかったが』」
「同類がすまんな」
さすがに申し訳なくなって頭を下げる。
とはいえ、ボールに入れてしまえば彼らはほとんど一心同体のような関係になる。
それですら重い
「私はモンスターボールの仕組みがひどく嫌いなんだ」
「『しったことじゃない。なんならそのまましまいこんでしまったっていい』」
「いいわけあるかたわけ」
ボールの中がどんな環境なのかは知らないが、生きとし生けるもの、無機質な世界に閉じ込められていいやつがいるわけない。
「とにかく、着いてくるならボールはなしだ。それが嫌ならこれまで」
「『がんこもの』」
「なんとでも言え」
話は終わりだとそのまま踵を返して帰路に着く。西日に照らされて伸びる影がひとつ増えたことにため息をつくも、歩調を少し遅らせるのだ。
「来るんかい」
「『おためしってやつだ』」
「つまらん奴だな」
「『だまれ』」
「口が悪ぃんだよなぁ」
ふいとそっぽを向いて私の後に続く。
どうやら話は終わりらしい。
飯はおなじでいいんだろうか。