この世界において最近、古代文明やアーティファクトもであるが様々な分野の研究をし、今では幾つもの成果を世界に公表している大きな研究所が建築された。
そのスポンサーは『ミツゴシ商会』であり、研究所の所長とは『シャドウガーデン』のイータである。他にも研究者としての素質を持つ構成員や『ディアボロス・チルドレン』として狙われそうなために保護した者が所員だ。
その目的は無論、『ディアボロス教団』の技術に対抗するため、そんな『シャドウガーデン』の研究所へと見習い所員としてシドはシェリーを入れるように準備をした。
将来的には勿論、正式な所員として働いてもらうが一番の目的は彼女自身を守るためである。
「ふわぁ、ここが最近有名な……それにしても驚きました。この研究所の人たちとシド君が知り合いだったなんて。だからあんなに研究者としても優秀だったんですね」
「ああ、まあな」
学園が休みの日である今日、シェリーは最初の見習い所員としての仕事をするのでシドは付き添いとなって、ともに研究所内へと入った。
「いらっしゃい、シェリーさん。所長のイータだよ、早速ついてきて」
「はい、よろしくお願いします。イータさん……それじゃあ、シド君、頑張ってきますね」
「ああ、シェリー先輩なら大丈夫だ。イータさん、シェリーの事、よろしくお願いします」
「ん」
シドの頼みにイータは頷き、こうしてシェリーは学業を行いつつ、学園より更に優れた研究機関で古代文明にアーティファクトの研究をするようになっていく。
シェリー自身の純粋で明るい性格によって、すぐに研究所の者たちと更にはマイペースなイータとも打ち解け、可愛がられながら研究所の一員として働いていくのだった……。
2
活気に溢れたミドガル王国王都の街中を寄り添い合いながら、歩いている10代の男女、どちらも鞘に納めた剣を帯剣している事からミドガル魔剣士学園の生徒だと分かる。
それに男に寄り添っている女は有名人過ぎる程に有名だ。何故ならこの国の王女の一人であるアレクシア・ミドガルなのだから……。
彼女に対し同じく寄り添い合っているのはシド・カゲノーだ。
誰がどう見ようと愛し合っているとしか思えないが二人からすれば『友人として仲良くしている』、『居心地の良い関係』というだけである。
「……」
「どうしたのよ、えらく機嫌が良いじゃない」
穏やかに日々を生きている市民たちの様子を見たシドが笑みを浮かべたのを見て、アレクシアは問いかけた。
「平穏な日々というのは良い物だと思ってな。勿論、そんな日々を仲の良い友人と一緒に楽しむのはもっと良いとそう、実感したんだ」
「ふふ、なにしみじみとしてんのよ。まあ、平穏な日常が一番ってのは同意するけどね」
「だから、俺はそれを守りたいと思っている。誰かの平穏を奪おうとする『悪』からな」
「正義の味方になりたいの?」
「いや、そんな資格は俺には無い。『悪の敵』が精々だ」
「……貴方は大分自己評価が低いわよね」
「いや、そうでもないさ……っと、辛気臭くなったな。悪い、ともかく今日は平穏を楽しもう」
「そうね」
ついつい、先日のルスランの事や『ディアボロス教団』の事を考えて意見を言ってしまい、雰囲気が暗くなってしまったのをシドはアレクシアに謝る。
アレクシアも頷きながら、軽食でも摂ろうとしたのだが……。
『あ』
シドとアレクシアは現在、魔剣騎士団に体験入団しているクレアと彼女の隣にいるのは見た目は赤い長髪に凛々しく美麗な女性だが名前はアイリス・ミドガルであり、この国の第一王女と出会った。
アイリスはアレクシアの姉であり、そんな彼女とクレアは自身の凄まじい能力による大活躍、魔剣士学園の生徒でもあったアイリスにとってはクレアが後輩でもある事やアイリスは妹を、クレアはシドを愛していると姉としての共通点があるなど、そうした事から仲良くなり、今日は個人的な交流を深めるため、街の見回りという名目で出歩いていたのだ。
「えっと、お初にお目にかかりますアイリス王女……其処に居るクレアの弟のシド・カゲノーです。姉がお世話になっています」
「いえ、こちらこそ……アレクシアと仲良くして頂いているようで……」
ひとまずシドはアイリスと自己紹介し、アイリスもシドに対応した。
「シードー!! 貴方ねぇ、私が居ない間に他の女性とおぉぉぉぉっ!!」
「待って、姉さん。せめて誤解しか生まない言い方は止めよう……うぶおおおお……」
しかし、シドに対してクレアは嫉妬と怒りのままに詰め寄り、首を絞めつつ、揺さぶり始め、シドは甘んじて受けながらも指摘はした。
「ま、まあ折角あったんだし姉弟の親睦を温め直そうよ。アイリス王女、それにアレクシア……二人も親睦を温め直してはどうでしょう」
そうして、クレアへと意見を言いながらも彼女に意見を言いながらもその手を取るとアイリスとアレクシアにも提案をした。勿論、アレクシアにアイリスと仲直りをさせるためである。
「ちょっ!?、も、もうシドったら強引なんだから……」
「偶然、姉さんに会えたのが嬉しくてね」
「私も偶然、会えたのは嬉しいわ」
クレアはシドが積極的に自分を誘導するように歩き始めた事で先ほどまでの怒りは吹き飛んでいるし、シドの言葉にご機嫌である。
そうして、シドとクレアが居なくなると……。
「その……姉様、すみませんでした。今まで避けたりして……でも、姉様の事は嫌いじゃない、大好きです」
「そう、それなら良かったわ。私もアレクシアの事が大好きよ」
アレクシアは深呼吸するとアイリスへと歩みより、そうして二人は抱き締め合い、姉妹の絆を取り戻し始めたのであった。
そうして、夕方になりシドとアレクシアは別々であるが、それぞれ学園寮へ、クレアとアイリスは王城へと戻り始める。
アレクシアは学園寮の近くまで歩いていると……。
「仲直りは成功したか?」
「ええ、おかげ様で……結局、シドに助けられちゃったわね」
待っていたシドの言葉にアレクシアは苦笑しながら言う。
「今回は姉さんのおかげでもあるけどな……ともかく、おめでとう」
「ありがとう……ねぇ、シド……」
アレクシアはシドの祝いに微笑みながらも彼へと近づき……。
「ん、どうした?」
シドの間近まで近づくと一旦停止したのでシドは訝しみ……。
「……ちゅ」
アレクシアは瞬間的な動きでシドの唇に自分の唇を重ねてそして、離れる。
「これは今までの分も含めてのお礼よ」
顔を赤く染め、瞳を潤ませながらも挑戦的に微笑んだ。
「そういう事なら、俺もお返ししないとな」
シドも受けて立つと言わんばかりの表情を浮かべてアレクシアに近づき、顎を軽く掴んで逃げられないようにすると……。
「……ん」
自分の唇をアレクシアに重ね、そうして離れた。
『……』
後は言葉は無粋とばかりに微笑み合い、そうして近づき合いながら学園寮へと入っていったのだった……。