異世界で生きたくて   作:自堕落無力

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二十一話

 

 

 本日、ミドガル魔剣士学園及び学術学園の学業は全て休みである。何故なら、それは二年に一度、ミドガル王国王都で開催される魔剣士による大会、『ブシン祭』。

 

 その学園枠を決めるためにミドガル魔剣士学園の生徒たちによる選抜大会が学園内の特製の会場で開催される日だからだ。

 

 

 

『勝者、クレア・カゲノー!!』

 

『うおおおおおっ!!』

 

 そして実際に行われた試合、その勝者へと観客である生徒が歓声を送る。

 

『勝者、アレクシア・ミドガル!!』

 

『わぁぁぁぁっ!!』

 

 シドより先に一回戦の試合を行ったクレアにアレクシアはそれぞれ、日頃の鍛錬の成果を発揮して勝利を納める。

 

「(シド、待ってなさいよ)」

 

「(シド、見ててね)」

 

 

 

 クレアもアレクシアもそれぞれ、シドとの試合に向けて意気込んでいる。

 

 クレアは姉として『勝つため』であり、アレクシアはシドから剣を教わっている者として『自分の頑張りを見せるため』である。

 

「(シド君の試合、まだかな……)」

 

「(シド様、アルファ様たちの分まで精一杯、応援しますね)」

 

 

 観客席に居るシェリーはシドの試合を応援するために待ち構えており、観客席に生徒たちが大勢集まるため、これ幸いと変装して潜入したニューも又、今か今かとシドの試合を心待ちにする。

 

 

 そうして……。

 

 

『次の試合を始めます』

 

 シドの一回戦の試合が始まろうとしている。シドと彼の対戦相手であるローズ・オリアナがそれぞれ、会場内へと姿を現す。

 

 シドの戦闘服はクレアにアレクシアと同じ、王都ブシン流の道着であり、武器は刃を潰した模擬剣だ。

 

 対して対戦相手のローズ・オリアナは芸術の国であるオリアナ出身らしく、ファッショナブルな戦闘服であり、武器は刃を潰した模擬の細剣だ。

 

「貴女の事を知った時は本当に驚きましたよ。ローズ王女」

 

 

「何がでしょう?」

 

 シドは向かい合いながらもローズを見て、呟きローズは戸惑い、問いかける。

 

「あの時、盗賊から助けた少女が貴女だったなんて……それに本当に魔剣士を目指してくれていて嬉しいです」

 

「っ!?」

 

 そのシドからの言葉にローズは驚愕し、そして激しく感動しながら涙が溢れ、心が高鳴り続ける。

 

「(ぁぁ、確かに彼だ……)」

 

 ローズ・オリアナは当時の記憶から比べても彼女が魔剣士の道を志した相手がシドである事を確信する。

 

 そう、シド・カゲノーこそローズが魔剣士の道を選ぶに至った切っ掛けの人であり、そして自分の恩人であり、再会を願っていた人物だったのだ……。

 

 

 

 

 

 

 まだまだ幼い少女であったオリアナ王国の王女であるローズはその日、父の公務でミドガル王国王都を訪問した際、滞在先から密かに抜け出して平民の子供たちに交じって遊んでいた。

 

「きゃっ!?」

 

 突如、視界が暗くなり気を失ってしまった。

 

 

「ん、んんぅぅぅっ!?」

 

 そして、彼女が目を覚ますと薄暗い小屋の中であり、手足は荒縄で縛られ、口には猿轡をはめられた状態で転がされていた。

 

 不運な事に盗賊の集団に誘拐されてしまったのである。

 

「身なりの良いガキが居たと思ったら、まさかオリアナ王国の王女様だったとはな!!」

 

 隣の部屋から聞こえる盗賊たちの声、所持品を調べられた事で身分までバレてしまった。

 

「(いや、いやぁぁぁぁっ!!)」

 

 自分はきっと盗賊たちに売られ、オリアナ王国の敵に利用されるのだと察した彼女は恐怖し、絶望する。

 

「(誰か、助けてぇぇぇぇっ!!)」

 

 自分を探しているだろう父やオリアナ王国の誰か、あるいは誰でも良いから、とにかく自分を盗賊から助けてくれる者かが現れないかと彼女は祈りを捧げる。

 

 しかし、空想の世界ならいざ知らず、彼女が居るのは現実の世界。

 

 ご都合主義が、あるいは奇跡が簡単に起ころう筈も無い。彼女もそれは分かっていて、内心では諦めの境地ではあったが……。

 

 しかし、今此処でご都合主義であり、奇跡は確かに訪れた。

 

 

 

 

『っ!?』

 

 突如、響く破壊音に盗賊たちはその方向を見るが彼らの視界には誰も居なかった。

 

 しかし、彼らが驚愕と混乱、戸惑いによって意識に間隙が生まれている間に俊敏に動いている者は居て……。

 

 

 

 

「今、助ける」

 

 部屋の扉が開けられたのでその人物を見れば、剣を帯剣した黒髪の少年が安心させるための笑顔を浮かべ、暖かい言葉をかけてくれた。

 

「(本当に来てくれた)」

 

 そして、ローズはその少年こそ、自分を助けてくれる者だと少年が放つ雰囲気から感じ取った。

 

少年はローズに一言だけ告げると盗賊たちの方へと向き直り……。

 

 

 

「お前たちの罪は俺が裁く」

 

 剣を鞘から抜きながら少年は盗賊たちへ義憤に燃えながら、告げ……。

 

『やってみろよ、クソガキがぁぁぁぁぁっ!!』

 

 盗賊たちも怒りながら、少年へと向かっていく。

 

 そうして……。

 

 

 

『ぎゃあああああっ!!』

 

 少年の剣舞により、盗賊たちは為す術無く、斬断されていく。

 

 盗賊にとっては少年の剣舞は自分たちを絶対的な死へと誘う舞踏であった。

 

 

 

 しかし、ローズにとっては少年の剣舞は……。

 

 

「(綺麗……)」

 

 ローズにとって少年の剣舞は今まで見てきた芸術のどれよりも美しかった。

 

 彼はひたすらに自らの全てを捧げて剣舞を磨き抜いてきたのだという事も感じ取り、その事も含めて圧倒され、魅了される。

 

 更に……。

 

「(あの人は本気なんだ)」

 

 少年の勇姿から発露される意思――絶対に盗賊たちを倒し、ローズを救うというそれに『本気』という熱が込められていた。

 

 一つの物事に全てを懸けて打ち込むのはこれ程に素晴らしいのかとローズは感動さえしてしまう。

 

 そして……。

 

 

 

 

「(私もあんな風に……)」

 

 ローズは少年の勇姿、剣舞に魅了される中で自分も少年のように誰かを悪から助ける事が出来るようになりたいと思った。

 

 そんな事を思っている間に少年は盗賊を全滅させ、剣を振るって血と脂を飛ばすと鞘に納める。

 

 その行動さえも美しかった。

 

 

 

「ごめんな、もっと早く助けに来る事が出来なくて……怖い思いをさせてしまった」

 

「うぅん……助けてくれてありがとう」

 

 そうして、少年は盗賊たちを全滅させるとローズへと近づき、荒縄と猿轡を外すと謝りながら、抱き締める。ローズはその温かさに身を委ねながら助けてくれた事へ礼を言う。

 

「貴方の名前は?」

 

「名乗るほどの者じゃない。俺は通りすがりの魔剣士だ。まだまだ、見習いだが……」

 

 ローズは少年に名前を問うと、少年はそう苦笑して言った。その後は安全な場所まで送るとローズは彼に連れられ……。

 

「ねぇ、私も貴方みたいな魔剣士になれますか?」

 

「すべては自分次第だ。諦めず、頑張り続ければいずれは必ず、目標は達成できると俺は思っている」

 

「じゃあ、ローズも頑張ります」

 

「なら、応援させてもらおう」

 

「はい」

 

 

 そうして、その日、魔剣士の少年にローズは自分も魔剣士になる事を誓い、オリアナ王国では剣は野蛮とされているため、父も含めて皆から反対されてきたがそれに負けず、魔剣士になるため努力を続け、本気で魔剣士を目指しミドガル魔剣士学園に留学さえしたのだ。

 

 全ては自分があの日、そうされた様に……助けを求める者を救う事の出来る魔剣士になるため。

 

 そんな日々の中で今……。

 

 

 

 

「……覚えててくれたんですね……」

 

 自分を助けてくれた魔剣士の少年であるシドが自分の事を覚えててくれた事に大きく感動し、感謝しながら言う。

 

「勿論です」

 

『ローズ・オリアナ対シド・カゲノー』

 

 

 

「それじゃあ、後は剣で語りましょう」

 

「はい、喜んで」

 

 アナウンスが聞こえたのでシドもローズも剣を構え……。

 

 

 

『試合開始!!』

 

「(私の全てをぶつけます、シド君っ!!)」

 

 試合開始の合図と共にローズは最初から全力全霊を持って、シドへと向かっていくと細剣を踊らせた。

 

 それに対し、シドはローズを待ち受け……ローズが繰り出した細剣による剣閃を見ながら……。

 

「美しい剣ですね、ローズ王女」

 

「っ、ありがとうございます。シド君も流石ですね」

 

 シドが自分の剣を踊らせ、ローズの剣閃に添えた瞬間、二人の剣が完全に噛み合い、ローズの剣閃の輝きは消え、踊りも止まり、停止する。

 

 そして、シドが感想を言うとローズは嬉しくなりながらもシドの剣捌きに対して感想を言う。

 

 彼女が初めて見た時よりもシドの剣舞は限界など無いとばかりに流麗であり、研ぎ澄まされた美しさを放っていた。

 

 

「光栄です」

 

 ローズの賞賛に礼を言った次の瞬間にはローズの剣に噛み合わせた自分の剣を剣閃へと変え、ローズの首筋に擦り抜けさせながら寸止めした。

 

 

 

「参りました。私の負けです」

 

「ええ、俺の勝ちです」

 

『勝者、シド・カゲノー!!』

 

 こうして、シドはローズとの試合に勝った。

 

「ありがとうございました。ローズ王女……貴方に再会できて嬉しかったです」

 

「私の事はローズと……そして、どうか同じ学生として、気軽に仲良くしてもらえませんか?」

 

 握手を交わすシドに対し、ローズは照れながら、胸を高鳴らせながら願う。

 

「ローズがそれで良ければ……」

 

「はい、ぜひお願いします。シド君」

 

 ローズは自分の願いが通った事を喜び、微笑んだ。

 

「(貴方に救われたこの命、貴方に捧げますからね。シド君)」

 

 ローズはシドにまた新たな誓いを掲げたのだった……。

 

 

 

 

 

 


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